あらすじ
平家には、もう明日はなかった。さかまく渦潮におのれの影を見るごとく、壇ノ浦に一門の危機感がみなぎる。寿永4年3月24日の朝、敵味方のどよめきのうちに戦は始まった。単なる海戦ではない。海峡独特の潮相と風位の戦である。潮をあやつり、波に乗るもの、義経か知盛か――。その夜の星影も見ず、平家は波騒(なみさい)に消えた。波の底にも都の候う、との耽美的な一語を残して。
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壇ノ浦の戦いにのぞむ平家の人々、源義経。
一ノ谷に続いて屋島の戦いでも勝利を収めた義経も、憎むべき長年の宿敵と思っていた平家が女子どもも連れた大所帯であるのを見て、一人残さず討ち滅ぼすべきなのかと思うようになっていた。
平家の中にも、一門すべて運命を共にするべしと思う人、幼帝や女院だけでも生き延びてほしいと思う人がいて、どちらも平家を思えばこその思惑が交差する。
源氏勝利、平家一門の多くが海に沈んだ合戦の後、大勝利を収め凱旋した義経を襲った運命もまた、過酷なものだった。
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壇ノ浦の戦いに始まり、頼朝と義経の仲違いまでが書かれた巻。壇ノ浦では、教経や知盛らを筆頭によく戦ったが、阿波や筑紫集の寝返り等もあり、最期は水中にて果てる。義経や時忠の努力も虚しく、幼き帝を平家と共に滅ぼしてしまい、3種の神器のうち宝剣も失ってしまった。嘗ては「平家にあらずんば人に在らず」とまで謳われた平家も、時代と共にこうも虚しい最期を遂げたのかと思うと、栄枯盛衰の人の世を感じずにはいられない。
また、この戦いの殊勲者である義経にも、頼朝からの勘当を受ける等逆風が続く。彼自身は二心なき者であるが、梶原を始めとした周囲の嫉妬を買い、あらぬ悪評を立てられる。頼朝自身も、院に気に入られ大手柄を挙げた義経を警戒し、これ幸いと彼を排除する方向に動く。そんな頼朝の背後には、妻の政子であり時政がおり、虎視眈々と機会を狙う。悪の枢軸平家を滅ぼし平和になると言った単純な話ではなく、また新たな戦乱の種を撒き散らす様、そう言った戦乱に巻き込まれる宿命を持つ義経の哀れさを強く感じた。
次巻は義経討伐の話になるのだろうか。悲しい。
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ようやく壇ノ浦の戦いが終了し、源平合戦にピリオドが打たれた。と同時に、平家物語という題名にも関わらず、主役は平家一族から源義経にシフト。しかし、それは連戦連勝の大勝利を得た偉大な総大将というよりは、常に鎌倉の兄:頼朝の目を気にして萎縮する悲哀に満ちた男の姿である。最も気の毒に感じたセンテンスが、
「愚かな弟を平家追討の道具に用いられ、既に平家も亡んだ故、道具は無用というお考えか」
と言う義経の頼朝に対する声無き声。義経の悲哀が本巻を含む残り3巻のメインストーリーラインとなるのだろう。
そう言えば気付いたことがある。本作品の第1巻から本巻まで通して登場する唯一の人物の存在に。清盛の妻の弟、平時忠である。若い頃は聞かん坊のやんちゃキャラだったが、年を増すにつれて、平家一族を冷静に見つめる顧問のような役割を担っていく。かの檀ノ浦の戦いにおいても、義経と内応し、三種の神器返還や和平交渉に努めてきた。更に、その娘:夕花が義経に嫁ぐという展開も見せる。結局、平家物語における平家はまだ根絶やしになっていないということか。
残り2巻、どこまでの時代をどう描くのか分からないだけに、興味津々である。
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歴史には諸説が付きものだが、吉川作品には諸説を丁寧に紹介するという特徴がある。本巻では壇ノ浦の戦いにおける源義経と梶原景時の先陣争い、義経の腰越状がそれにあたる。
だが壇ノ浦の戦いで当初不利な戦いを強いられた義経が、平家方の船の漕ぎ手を射る場面は登場せず、諸説として言及もされていない。おそらく義経を高潔な人物としては描こうという吉川の意図だろう。
ここから先は義経の悲劇に多くの紙幅が割かれるのだろうが、本巻の描写を読むと、「情に棹させば流される」という『草枕』の一節が真であると思わざるを得ない。