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吉岡一門との決闘を切り抜け、武蔵は多大の自信とそれ以上の自省を与えられた。そしてまた、大勝負の後に訪れたゆくりなき邂逅。それはお通であり、又八であり、お杉婆であり、宿命の人・小次郎であった。その人々が、今後の武蔵の運命を微妙に織りなしてゆく。山ならば三合目を過ぎて、いま武蔵の行く木曽路、遥かな剣聖を思い、お通を案じる道中は、四合目の急坂にかかる。
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Posted by ブクログ
[再読] 人は、出会いと別れを繰り返し成長してゆく。 いい出会い、悪い出会い、偶然的な出会い、必然的な出会い。 それらを全て含めて、己の人生ということなのだ。 その出会いが自らの師になっていく。 師を求めなくても、我々の師は、すぐ隣にいるのだ。
「志賀寺の上人でさえ、同じ血をもっていた。法然の弟子親鸞も、同じ煩みを持っていた。古来、事を成す人間ほど、生きる力の強い人間ほど、同時に、この生まれながら負って来る苦しみも強く大きい。」 「『ああ、富士山か』 武蔵は少年のように驚異の声を放った。絵に見ていた富士、胸に描いていた富士を、眼のあた...続きを読むりに見たのは、今が生れて初めてなのだった。 しかも寝起きの唐突に、それを自分と同じ高さに見出して、対い合ったのであるから、彼はしばらくわれを忘れ、ただ、 『――ああ』 というため息を胸の中に曳いて、瞬ぎもせず眺め入っていた。 何を感じたのであろうか、そのうちに武蔵の面には涙の玉が転びはしっている。拭こうともしないで、その顔は朝の陽に灼かれて涙のすじまで紅く光って見えた。 ――人間の小ささ! 武蔵は衝たれたのである。。広大な宇宙の下にある小なる自己が悲しくなったのであった。 (中略) 畢竟、人間は人間の限度にしか生きられない。自然の悠久は真似ようとて真似られない。自己より偉大なるものが厳然と自己の上にある。それ以下のものが人間なのだ。武蔵は、富士と対等に立っていることが恐くなった。 (中略) ――ばか、なぜ人間が小さい。 と、いう声がした。 ――人間の眼に映って初めて自然は偉大なのである。人間の心に通じ得て初めて神の存在はあるのだ。だから、人間こそは、最も巨きな顕現と行動をする。――しかも生きたる霊物ではないか。 ――おまえという人間と、神、また宇宙というものとは、決して遠くない。お前のさしている三尺の刀を通してすら届きうるほど近くにあるのだ。いや、そんな差別のあるうちはまだだめで、達人、名人の域にも遠い者といわなければなるまい。」 「――剣術。 それではいけないのだ。 ――剣道。 飽くまで剣は、道でなければならない。謙信や政宗が唱えた士道には、多分に、軍律的なものがある。自分は、それを、人間的な内容に、深く、高く、突き極めてゆこう。小なる一個の人間というものがどうすれば、その声明を託す自然と融合調和して、天地の宇宙大と共に呼吸し、安心と立命の境地へ達し得るか、得ないか。行ける所まで行ってみよう。その完成を志して行こう。剣を『道』とよぶところまで、この一身に、徹してみることだ。」
吉岡一門との闘争のはて十代の少年に手をかけたという悪夢を振り払う一方、やっと道連れになったお通女史とまさかの痴話喧嘩の武さん。又八アンドお杉婆や小次郎、朱美に城太に半瓦の親分と、新旧登場人物入り乱れてのチューチュートレイン状態。まだ未開の地という江戸の描写が面白かった第五巻。そして物語は大団円へ。
『「……自分のしたことを、共々欣んでくれる者があるのは大きな張り合いというものじゃないか。――それのある者には、陳腐な道義の受け売りをしているように聞えるだろうが、こういう漂白の空にある身でも、アアいい景色だなあと感じた時のような場合、側にもどこにもそれを語る者がいないということはその一瞬、実にさび...続きを読むしい心地の身になるものだぞ」』p51 『人中の賑やかな中にいると、彼のたましいはなぜか独り淋しくなる。淋しい暗夜を独り行く時は、その反対に、彼の心は、いつも賑わしい。 なぜならば、そこでは、人中では心の表に現れないさまざまな実相が泛んでくるからであった。世俗のあらゆるものが冷静に考えられると共に、自分の姿までが、自分から離れて、赤の他人を見るように、冷静に観ることができた。』p239
吉岡一門との死闘の続き 武蔵・お通・城太郎の旅路 江戸での邂逅 が描かれています。 武蔵が出てくるのは前半で、後は朱美・城太郎・お杉婆達の物語です。武蔵とお通の、甘酸っぱい遣り取りはニヤニヤせずにはいられませんでしたw 又八がどうしようもなさすぎて呆れます。何をやっているんだお前は・・・。...続きを読むあと朱美の運命が悲惨すぎて・・・報われて欲しいです。 武蔵、お通、又八達はどうなっているのでしょうか。次巻が楽しみです。
5巻は武蔵の成長よりも、苦悩や葛藤を乗り越えようともがく人間らしさが印象的。 多感な青年期に、生きる意味を模索し、高い志を立てながらも恋愛に翻弄される姿は時代は違えど多くの人が通る成長過程ではないかと思った。 女性(お通)に対する抑え難い本能と情熱に困惑し、遠ざけてきた武蔵だったが、自分さえ乱れな...続きを読むければ剣を鈍らせることはないと気づく。流されない自分でさえいれば安心して人を愛することができるのだと。
『ああ富士山か』(中略)『人間の小ささ!』武蔵はうたれたのである。 (中略) ばか、なぜ人間が小さい。人間に目に映って初めて自然は偉大なのである。 人間の心を通じ得て、初めて神の存在はあるのだ。 だから、人間こそは最も大きな顕現と行動をする。 上記は本書からの一節。哲学的である。 第5巻の武...続きを読む蔵の心情を表すもの。この後も武蔵の心情から成長を追っていきたい。
再会してまたすれ違う第五巻。 吉岡一門との決闘に勝利し、 お通と再会し、又八と和解する武蔵。 めでたしめでたし…と思いきや、 お通とは再会してもすれ違い、 又八は相変わらず周囲に流される。 朱美は相変わらず運命に翻弄される。 そして裏で糸を引く佐々木小次郎。 ヒーローヒロインである武蔵とお通より...続きを読むも 人間らしい又八や朱美に共感を覚えてしまい、 本当の悪である佐々木小次郎には腹が立たず、 流されるだけの又八にイライラしてしまうのは、 悪に惹かれて弱きを憎む人の業なのだろうか。 今更ながら、見事な人間模様が描き方である。
吉岡一門との死闘という山場を越えたせいか、微妙に一休み的な感じがする巻。 ただ又八のどうしようもない小市民さと小次郎の何処となく子供っぽい描写が続き、特に後者は武蔵の成長の描写との対照性後半への布石含めて活劇ものには必須の要素。 ちなみの「活劇もの」にネガティヴな意味は全くなく、むしろ最高の賛辞と言...続きを読むっても過言ではなく。
又八のための助言や、剣術でなく剣道を志すことを悟る姿を通して、武蔵の人格に益々惚れ込む。自分のためでなく人のために何故剣を使わないのかー石田母記の言葉がすごく心に響いた巻。誰のために頑張るのか。自分のためだけであれば勿体無い。人のために力をつけるのだ。
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