前川ほまれのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
医療刑務所で治療に当たる医師が、「受刑者に(国民の税金を使って)医療を提供することは正しいのか?」という悩みを抱きつつ、刑務所での勤務を始めるところから物語は始まります。
半年という限られた期間だから、という理由で勤務を引き受けた工藤医師でしたが、通常の病院と同じように治療をしたり緩和ケアをしたりする同僚に不信感を抱いたり、精神疾患からくる症状も相まって被害者への悔恨の情を抱かない受刑者に嫌悪感を抱いたりと、精神的に負担を感じながらの勤務が続く中、幼なじみが収監されてきます。
幼なじみとの再会を通して、悩みはさらに深まり、工藤医師自身の過去の「キズ」も明かされることになります。
幼なじみに会い、揺れ動く工藤医師は医者として未熟であるのかもしれません。実際の刑務医官としは不適切なのでしょう。こんなに、登場人物全員がつらい過去を秘めている、という事も現実にはないかもしれません。
それでも、読後には人間の「崇高さ」のようなものを感じさせてくれます。 -
Posted by ブクログ
スカイツリーを見上げる下町の片隅にある商店街の物語、第4弾。
戦後の焼跡に24軒集まって始まった商店街ということだったけれど、今では80軒近くの店があるという。
毎回、冒頭に地図が載っているけれど、その本に載っている短編のタイトルのお店だけなので、これは・・・あの物語のお店の場所なのだが・・・と迷ってしまう。
今回の桜さんのように、お店を出て歩きながら紹介してくれると、ふむふむ、川平金物店は、水沢文具店の向かって左隣なのだな?とわかって嬉しい。
今までに登場した、全部のお店が載った大きな地図が見たいなあ〜
老朽化した二階建てで、一階がお店で二階が住居という作りが多い。
看板も古い言葉で、若い子には読めないようなものもある。
かといえば、おしゃれで新しいお店もあり。
ずらりと並ぶ入り口の奥には、それぞれの深い物語があるのである。
今までも、老いと若きの交流のお話が多く描かれてきた。
今ではおばあちゃんたちも商店街のグループLINEで連絡を取り合っているという。
20代30代の若者たちで作る青年会の活動も活発になりそうだ。
デパートがオワコンになった今、商店街って、逆に新しいのでは?と思い始めた。
一軒目『サクマ手芸店』寺地はるな
糸子と康恵はアラ還の従姉妹同志で、康恵の母から受け継いだ手芸店を二人で営む。
見た目と名前がまるで逆の、二人の「女の人生」は・・・
二軒目『ツルマキ履物店』蛭田亜沙子
23歳の小嶌以都(こじま いと)は、店主の鶴巻勲(つるまき いさお)に靴の修理を習っている。
老靴職人と以都の交流。
赤い靴にまつわる数奇な物語も。
三軒目『川平金物店』彩瀬まる
狭い小屋の中では一番弱い者がつつかれる。
命の恩人・茂さんを慕うチャボの桜さん。
四軒目『〜中古楽器・中古レコードの買取・販売〜しゑなん堂』芦原すなお
ロック好きの女子大生と、ロック好き中年の店主・レノンさんの交流。
名曲は色褪せない。
五軒目『インドカレーマーマレード』
絵美と岳(がく)の若夫婦で営む、本格スパイスのカレー店。
仲良し夫婦に危機が。
六軒目『カフェ スルス〜コアラちゃんの巻〜』大島真寿美
昔の演劇仲間のアラ還女子たちで始めたお店も、三年持った。
そして、彼女たち自身も驚くような変貌と成長を遂げるのであった。
お店は生き物。
七軒目『おもちゃ屋「うさぎや」』山本幸久
一冊の締めくくりのお話。
ほぼ全てのお店の名前と女性たちの名前が登場すると言っても過言ではない。
女性が元気な商店街、男子も頑張らなくっちゃ!
商店街に未来はある。 -
Posted by ブクログ
病院からの指示で、期間限定で医療刑務所の配属となった精神科医の工藤。そこでは、受刑者ながらも、民間と同等の医療行為を受けている光景に工藤は複雑な感情を持っていた。
さらにそこには、かつての友達だった滝沢が受刑者としていた。蘇ってくる昔の記憶、工藤が抱える「ある罪」に対する罪悪感。工藤は、様々な受刑者とどう向き合っていくのか?
医療刑務所を舞台にした物語でしたが、医療刑務所自体あまり知らなかったので、その実態やそこでの事情などについて知らないことだらけでした。
民間と同等の医療行為を受刑者が受けるということについて、さらに税金が使われていることに複雑な気持ちがありましたが、それも含めて難しいテーマだなと思いました。
その状況の中で、工藤がどう成長していくのか。
前と後との心の成長が垣間見えて、作品として読み応えがありました。
その要素となるのが、友人だった滝沢との縁。最初は毛嫌いしていたのに工藤の中の心の氷が段々と溶けていく過程は、心を揺さぶられました。
病気になったとしても、受刑者である前に一人の人間です。そのあたりはなかなか難しいところですが、医師としての責務が発揮されていて、「医師」としては、輝いて見えました。
滝沢との縁だけでなく、工藤の過去も少しづつですが、明らかになっていきます。家族間で発生した「罪」、そこから派生する工藤の人生に壮絶ながらも、より良い人生を歩んで欲しいなと思いました。
サスペンスで見る犯人の「その先」。なかなか描くことはありませんが、罪と向き合っていく受刑者たちの姿に果たして自分はどう考えたらいいのか。
自分なりの答えはなかなか出しづらいですが、いずれにせよ、この作品を通じて、考えさせられたことに感謝したいと思いました。 -
Posted by ブクログ
アルコール、ギャンブル、薬物、万引き‥‥様々な依存症を抱える女性たちが共同で暮らしながら社会復帰を目指す場所「セゾン・サンカンシオン」。
そこで暮らす女たちがここに行き着くまでの経緯、依存を断ち切れず苦しむ今、そしてこれからへの小さな希望、彼女らが失ったものと彼女らを支え、または突き放す家族らの姿を描く5つの連作短編。
そして、章の合間に挟まれる一見関係なさそうなごく普通の家族の日常。ほんのちょっとした経緯で依存症に陥り家族が崩壊していく姿を見る時、依存症が決して特別なものではなく私たちの日常と地続きのところにある病なのだと認識させられる。
「だらしないから」「弱いから」「自己責任」と切り捨てる世間。依存症は並行して精神的な病も患うことが多く、意志の力だけで断ち切れるものではないというが、繰り返す依存、嘘、裏切りを目の当たりにした家族の苦悩も理解できる。
それでも、「依存症の根源にあるのは、寂しさなんじゃないかな」という言葉が胸に響く。快楽のためではなく、それなしでは生き延びることができなかった。人間って脆い。だけど、そうやってでも生きようとしてきたなら、きっと立ち直って生き直してて欲しい。
ラストの、主人公の空っぽの身体を満たしてくれたのが、お酒ではなく他人の温もりだったというくだりは泣けた。
厳しい現実を描きながら、ほんの少しの光を用意したそれぞれの短編は読後も爽やか。読んでよかった作品でした。 -
Posted by ブクログ
「サスペンスドラマや映画じゃ、犯人が逮捕されて終わりだ。それから彼らがどんな風に生きていくかなんて描かれていない。」ましてや、病気になった受刑者がどのような処遇を受けるかなんて情報が入ってくることもない。
主人公、精神科医の工藤守は医局人事により半年間の期限付で夜来医療刑務所に派遣される。そこで、幼なじみの滝沢真也と再会する事で物語は回り始める。滝沢は殺人罪で服役していたが自殺企図を繰り返し医療刑務所に収監されていた。
物語の興味は、医療刑務所に収監されている受刑者のプロフィールや医療刑務所が抱えるジレンマ。多大な公費=税金を使って受刑者に医療を提供する事の是非であるが、そんなテーマを背景にしつつ、工藤自身や滝沢、先輩医師の神崎、内科医で医療刑務所内にて緩和ケアを試みる愛内、処遇部の西川刑務官、登場人物達の過去が物語られていく。
登場人物達の物語りに興味を引かれながら、受刑者に医療が必要かというテーマを考えられさせる本である。本書の中では、受刑者の治療にかかる費用がひとり四百万円だとしている。手術などするとさらに経費は跳ね上がる。医療費の高額化、高齢者問題等の社会問題は塀の内側でも同じである。
「自分自身の身体の苦痛が酷ければ、本当の意味で被害者の痛みを考える余裕なんてないはずだ。だから・・・受刑者は健康じゃなければいけない。犯した罪のために、傷つけた被害者のために、そして長い時間を掛けてでも自分自身の人権を回復するために」と主人公は結論づけるが、自分もそのような結論になるのか、本書を読みつつ考えさせられるのである。