寺地はるなのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ寺地さんの小説で、初めて暴力的なシーンや詐欺という反社会的な描写に出会った。暗くて救いようのない主人公かと思いきや、最後は大切なことに気づかせてくれる、やっぱり寺地さんの小説だと思った。
幼い頃から貧困にあえぎ、10代で詐欺に手を染め、お金のためなら他者への共感力や思いやりとは無縁になってしまえた青年が、相棒やその認知書の母を通して、慈しみの情が芽生えていたことに気づいてゆく。
こどもをないがしろにして他者へ貢献してしまう母親、理想を押し付けてしまう母親。こどもは親の関心が得られない寂しさや、呪縛から逃れられず大人になってから苦しむ。
誰かに見守られながら泣きたい日もある。解説の原田ひかさんも書かれているが、若くもなく老いには遠い30歳代の登場人物はむずかしい。
寺地さんの作品は、むずかしい年代の葛藤に焦点を当て、どうしようもない闇にすら一筋の光を与えられる力がある。もっと好きになってしまった。 -
Posted by ブクログ
ブラックほどではない会社でも、当たり前のようにある好ましくない暗黙の了解事項。なくならないパワハラ・セクハラ。おかしいと声を上げても無視されたり報復されたりするダークな空気漂う職場。
それでも声を上げようと決めて臨んだ転職先の小さな製菓会社を舞台に、孤軍奮闘する1人の女性を描くヒューマンドラマ。
◇
小松茉子は、目の前に座る男を見た。
男は名を吉成伸吾といい、茉子のはとこに当たる。現在27歳の茉子より5つか6つ年上だが、幼い頃からよく知る相手だけに、今日から「社長」と呼ぶことに違和感がある。
ついそんなことを考えつつぼんやりしていると、「話聞いてる?」と伸吾から声がかかった。ハッと我に返った茉子に「会社では小松さんと呼ぶから」と伸吾は言って、社内を案内するため立ち上がった。
茉子は今日から、伸吾が社長を務める吉成製菓という、社員35名の小さな会社で働くのである。
事務所内には机が5つあって、事務員用と営業員用が2つずつ、向かい合わせに並んでいる。入口にもっとも近いいわゆる下座が茉子の席だ。そして上座に当たるいちばん奥の入口に向いた机が伸吾の席のようだ。
茉子の向かいがベテラン事務員の亀田の席だと言ったあと伸吾は、「亀田さんはパートさんやから、話題は慎重に選ばなあかんで」と心配そうに付け加えたのだった。
( 第1章「春の風」) ※全6章。
* * * * *
作品の魅力は主人公の茉子です。
前の職場での劣悪な人間関係に嫌気が差して退職した茉子は、はとこの伸吾が社長を務める製菓会社「吉成製菓」に就職しました。
茉子がこの会社に勤める気になった理由は2つあります。
1つ目は、伸吾に懇願されたことです。
急な心臓の病で引退した父親に替わり、いきなり社長に就任した伸吾は、ベテラン揃いの社員たちに言いたいことも言えません。折よく事務に1人欠員ができたので、気心の知れた茉子に来てもらうことにしたのでした。
2つ目は、「吉成製菓」に対する思い入れです。
茉子の保育園時代のこと。祖父の葬儀に参列した茉子は、焼かれて出てきたお骨を見て泣き出してしまいます。「死」というものを認識したからなのですが、祖父の死を悲しんでいると勘違いした1人のおじさんが、持っていた小鳥の形をしたお饅頭をくれました。
その美味しさに思わず泣き止んだ茉子にとって、おじさんがつぶやいた「涙はしょっぱい、お菓子は甘い」ということばと、そのとき食べた「こまどりのうた」は特別な存在になったのでした。
でも本作は、若社長の期待と和菓子への熱い想いに支えられて奮闘する若い女性を描いた爽やか系の物語ではありません。
社会や世間に根強く残っている理不尽な慣行や、パワハラ・セクハラ・モラハラ等の人権無視の言動に、いちいち異を唱えては跳ね返されイライラモヤモヤしつつも挫けずに行動する女性の姿を描く物語です。
そして、茉子が鉄の女のような闘士タイプでないところが物語のミソになっています。
小鳥にすぎないこまどりですが、その鳴き声はとても大きくて、まるで自分の存在や主張をアピールするかのように聞こえるそうです。
茉子の主張や抗議もこまどりのさえずりに似ています。これが設定としておもしろい。
社会に影響を及ぼすだけの力は若い茉子にはありませんが、言わなければ何も始まらない。
そんな茉子のさえずりもなかなか功を奏さず、中盤まではイライラモヤモヤし通しで少し疲れます。
でも、寺地はるなさんらしいカラッとした文章と展開のテンポのよさで気づけば終盤を迎えていました。
勧善懲悪・万事解決とならずに、少しずつ事態が好転していくところが却って心地よかった。
前途はまだまだ多難ではあるのですが、それでも現状を改善していこうとする茉子のしぶとさに希望を感じる、とてもいいエンディングでした。 -
Posted by ブクログ
寺地さん作品ですー
定期的に読み進めてます!
税理士事務所で働く万智子が
ウェディングドレスのサロンの手伝いもすることになり、
そこでの出会いで少しずつ成長していく話
この主人公の万智子、
なかなか面倒くさい人物で、、、
どことなく自分に似ているところがありまして。笑
会話の瞬発力が圧倒的にないところ、
あとから脳内反省会してわーってなるところなど、ちょっと私?ってなりました。
前はポンポン、なんなら何も考えずに話してたのに
大人になって友達と会う機会が減ってきたからか
会話の瞬発力の低下がすごくて、、
後からああ言えばよかったのか、とかよく考えるんですよね。。
でもこの万智子の脳内の
絶妙な表現が好きでした
例えば
『自分のことを棚どころか屋上くらいに上げてしまっている』
とか
『タケオ、
もうこの際呼び捨てにしてしまうが、タケオは』
とか。
細かい表現が好みで
読んでいて楽しかったです
万智子の全部に共感!ではなくて
面倒くさいーって思う部分もあれば
あーわかるーって部分もあって
ふんふん言いながら読んでました
その万智子の周りにいる人たちが
とても素敵!!!!
まず了さん、美華さん、冬さん
もぅ素敵!かっこいい!!
あつまりに参加したい
憧れるー
こんな生き方、考え方をしたい
本庄先生も好き
ポロッと溢れる言葉が好き
あとは万智子のお父さんも好き!!
うぅお父さん!!!
ありのままの自分でいること
自分を好きになること
そのままの自分を見せること
そのままの相手を受け入れること
そんなことを教えてもらった一冊でした
なんか女友達と会っているような気持ちになる作品でした(^^)
-
Posted by ブクログ
ネタバレ連作短編集のタイトルでもある「彼女が天使でなくなる日」。
彼女というのが宿泊客だったのが違和感だったけど、ラストで「神は絶対であり、その神に仕える天使は善であり、対抗しうる力を持つものは悪とされる」ということを踏まえて「天使になどならせてはいけない。誰ひとり」になるんだな。すごい仕掛けだ。
理津子が民宿えとうみたいな場所を作る話も読みたいな。
途中で出てきた蜂蜜は「今日のハチミツ、あしたの私」の蜂蜜かな?他は気付けなかったけど、こんな仕掛けがあるなら理津子さんの話もある気がしてしまう。
「倦怠期真っ最中の恋人に抱かれながら昔の恋人を想う女のように、からあげを咀嚼しながら寿司と刺身のことを考え続ける。からあげのことは好きだし長い付き合いだが、今いちばん会いたいのは寿司と刺身なのだ」
やはり寺地さんの文章は素晴らしい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ『いつも心に棺桶を』が社訓のビオレタ。
店主の菫さんの名前をイタリア語にして、
ビオレタ。
なかったことにはしたくないけれど、ひっそりと埋葬したいなにかを、手作りの棺桶に入れようとする人たち。そうやって心にけじめをつけて、また新たな一歩を踏み出す人たち。
ビオレタのようなお店がある、という存在だけでも心の支えになりそうな気がした。
「誰かの庭になる」という発想は面白いと思った。私は誰かの庭になれているだろうか。誰にでも開かれた、陽の光が燦々と差し込み、植物が生き生きと育まれている、風通しの良い庭。わたしも誰かのそんな庭になりたい。
少しファンタジーも入るのかな。紆余曲折ありながら年上の彼氏とうまくいって良かった。
・ノートに書けば現実化する
という先生の言葉もよかった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ寺地はるなさん3作目。
その中で1番良かった。
ずけずけ常識や普通に異を唱える千尋の心に刺さる言葉や、見事だなと思う表現がいくつもあった。
特に心に残ったのは
「多くの人は友達を良いものだと思い過ぎなんじゃないでしょうか。そうでもないことをあなたが身をもって証明してくれています。」
私も破綻したけど、ずっと引っかかる友達関係があって、麻奈のようにその子を親友と思い続けてきた長い期間が過去にあったからすごくモヤモヤしていたが、それを客観的な視点で見れてなんだか少しスッキリした。
もう一つは、
「願うだけなら誰でもできる。願いは全ての種子だ。種子がなければそこから芽を伸ばし、葉を広げることもできない。枝を沿うようにして、世界は広がっていく。そこでふたたび蒔かれた種子が、また新たな誰かの世界を広げていく。」
という表現。
タイトルの意味について考察してみた。私なりの解釈では、千尋が言っている彼女が天使でなくなるというのは、子供が自分で自分のためになる道を考え、その考えを行動に移して自立することではないかと思う。
-
Posted by ブクログ
家を出て道路の向こうを眺めれば、少し先の丘の上には大きな観覧車(スカイウォーカー)が見える。丘の手前には2種類のコースター(レッドファルコン/エルフ)の雄大なコースに、風向きによっては乗っている人の絶叫が聞こえるドロップタワー(メテオ)の姿も。
そこは「ひらかたパーク」(通称:ひらパー)。一度も取り壊されずに現存するものでは日本最古の遊園地(by Wikipedia)。
そんなひらパーをモデルにした遊園地が舞台のこの本、そこに働く人たちの日々の屈託が描かれる。
ありがちなところから少しずらした登場人物の造形で、美点も欠点もそれぞれに描き分けられているところが良い。
好きな職場でなくても好きな仕事でなくても、開かれているイベントについては内容を把握しておくために初日に確認しておく紗英の、インフォメーションの仕事に対する姿勢が好き。
過度の思い入れは仕事の邪魔になると喝破する市子社長の、社員を見る目と配置に対する考え方が面白い。
園の植物を管理する山田さんとその奥さんの関係が羨ましく、清掃スタッフの八重子さんと別れた夫に託した息子との関係が切ない。
八重子さんが通う近所の食堂店主の、月1回、ようやってる、と自分で自分に言う生き方にもじんわりくる。
畑野智美さんの解説にも好感。
周辺の住民としては、読み始めてしばらくは、遊園地のことについて書かれてあることの元ネタが気になって(ほたランは駅から529歩だがひらパーは何歩だったけとか)、本筋が頭に入ってこずやや困った。(答は485歩(ピピン調べ))
温かくて佳い話になったので、ひらパーの関係者でも何でもないがちょっと嬉しく、久し振りに行ってみたくなった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ飛鳥井千砂さんの作品が読める!ということでご本を見つけて即買いしました。
飛鳥井千砂さんのお話もちろんサイコーだった!そしてほかの作家さんのお話も面白かった。
飛鳥井千砂さんの書く主人公の女性がとっても好きで、今回のもうすぐ十八歳も夢中になりながら読んだ。
後半の展開に、主人公の気持ちになってえ!?え!?となった。主人公に起こったことを知っているから、締め方に納得した。ぜひ読んでほしい!
お話が進むにつれてページを捲る手が止まらなくなったのは雪舟えまさんの二人という旅。
最初は設定の読み込みに苦戦したんだけれど、読み込めた後には、どうなるんだろう??どこにお話しが着くのだろう??と興味津々で読んだ。
初めましての作家さんだけど面白かった!他の作品も読みたい!
展開が面白くて心に残っているのは寺地はるなさんのありふれた特別。
めっちゃ勘違いしながら読んでて、終盤ずっこけた。
勘違いしたのわたしだけじゃないはず。こちらもぜひ読んでほしい!
嶋津輝さんの漂白の道は、読んでてするすると頭に入ってきた!状況が映像で浮かんで、ドラマを見てるみたいで、こちらも夢中になりながら読んだ。こちらも展開にええ!?ってなりながら読んだ。まさかの展開すぎる。。
高山羽根子さんの祀りの生きものを読んで思ったのは、風景?周りで起きていること?の描写がとても丁寧だということ。
お姉さんが出たところでテンション上がった。
町田そのこさんの六年目の弔いは…これもぜひ読んでほしいなー!
締めがほんとうにすき。え!?終わり!?終わり!?ってなる!読んだ人絶対なる!(誇大広告)
今回も出会えてよかったご本でした。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ飛鳥井千砂さんのもうすぐ十八歳【冠】
18歳で子供を持つという事
寺地はるなさんのありふれた特別【冠】
幼馴染のこどもと自らの成人式。予想外。
雪舟えまさんの二人という旅【婚】
宇宙ものはそもそも苦手なので、読み始めは理解できなかったが、途中から、どうなるのかなに変わった。読まず嫌いはいけない。
二人とはシガとナガノの『旅』についてだと思っていたが、シガの発した一言で『二人』が別のものだと気付いた。
「結婚生活も、人生そのものもー向き合うべきものを直視せずに時間だけ過ぎていくんじゃ、本質的には何も始まらないまま終わるってことさえ、あるのかもしれないね」
嶋津輝さんの漂泊の道【葬】
希和子のカナさんへの想いが経年とともに移ろい、関係性も予想外の方向へ。
初めての嶋津さんの作品で他の本も読んでみたくなった。
高山羽根子さんの祀りの生きもの【祭】
最初に登場した生きもの「南洋の妖精」と「お姉さん」のインパクトの強さよ。
町田そのこさんの六年目の弔い【(葬)祭】
なんてひどい祖母! -
Posted by ブクログ
忙しさを理由に伝えないことか積み重ならないように。
相手の感情は相手のもの、私の感情は私のもの。
それぞれの感情をどのように受け止めるのかはそれぞれのもの。
それぞれに伝えるしかない。
辛い時、心を遠くに飛ばす…など、傷つかないように蓋をしている感情やもやもやして表せなかったことを言葉にして寄り添ってもらえてる感覚にしてくれる作家さん。
下記は心に響いた箇所。
『自分の都合の良い素敵な人生の物語の展開を夢見るのは自由だけど、感情も事情もある他人に都合の良い役柄を押しつける人は、僕は大嫌いだな』
『多くの人は「友達」を良いものだと思いすぎなんじゃないでしょうか』
『励ましのつもりでそう言ったのかもしれないけど、誰かのたった一言が引き金になって取り返しがつかないことがおこることだってあるんだよ』