この心地よい集まりはいつまでも続くものではないんやろうとまず思う。満たされた人は自然に離れていくやろうし満たされなくても細い絆の集まりなんでちょっとしたことで切れてしまうやろう。そんなせつなさを内包しながらも補完し合っているうちにそれぞれの夜道に月が出たらええなという話。
自己の価値観を正しいとして押しつけてくる人々は実はそれこそが究極の「悪」やとは気づかないまま他者に澱を溜めさせるので深夜の散歩はその掃除でもあるんやろう。実のところ自己の価値観と他者の価値観は常に違うということさえ皆が理解しようと努力すればだいたいは改善できるんやろうけどそれが人には難しい。この話もスカッと終わるわけではないけれど少し満たされた感はあります。
■深夜の散歩についての簡単な単語集
【亜子】實成に懐いている姪。秋穂の娘。
【伊吹さん】實成の元恋人。会社の二年先輩だった。後に深夜の散歩グループに参加することになった。表紙カバー絵の右から二人目の白い服の女性かと思われる。《二度と行けない場所があるって、なんかよくない?》p.186。
【えび】アルゼンチン産のえびの生涯に思いを馳せていた實成の好物だがうっかり「よく見たら虫みたいだな」と思ってしまった。僕はずっとそう思ってます。生物としても節足動物やから類縁やし。関係ないけど、吉行淳之介さんがどこかで、虎も海老も見たことがなかったら海老を見てこれが虎やと思うやろうと言うてはった記憶があります。實成の今年の目標はえびの背わたを上手に取ることになったらしい。
【奥本幾太郎】實成が今暮らしているアパートの大家さん。父の知人で紹介された。
【奥本真翔/まなと】實成の小学生の頃のクラスメートだった。わりと完璧な少年だった。奥本家は新興宗教にハマっていて彼の母と祖母は「見える人」だったのでいろいろ相談を受けたりして裕福だった。
【お隣さん】實成の部屋のお隣さん。男性。顔を見たこともないがベランダでときおりコミュニケーションをとっている。猫の「センザイ」を飼っているのかもしれない。寒いベランダでシーフードヌードルに黒コショウをゴリゴリかけて食べるのが好き。
【熊】塩田さんと同居している中学二年生の少女。一緒に深夜の散歩をしてる。何か事情はあるのだろう。名前を聞いたらエリザベート・ネコスキー一世だというのでいろいろあって「ザベ子さん」になったが本人がさん付けを嫌がるのでザベ子となった。その後さらに「熊」という名前になった。かつて塩田さんが交際していて別れた檜山という男の娘。ドクターペッパーが好き。大阪ではあんまり見かけへんけどなあ。コーラっぽく見えるけど違うらしいというのは聞いたことがある。表紙カバー絵の右手前にいてる黒髪ロングの人物が熊やと思われる。
【ザベ子】→熊
【塩田さん】塩田有希子(うきこ)。伊吹さんの後任。四十代か五十代の女性。スーパーで糸で編んだ青い花をたくさん落としていた。ザベ子とともに深夜の散歩をしていた。實成くんのことを「いつもちょっと悲しそう」と言った。《すべての物事にたいして一定の精神的な距離を保っている印象がある。》p.39。表紙カバー絵のいちばん左にいてる人物やと思われる。
【自由】塩田さん《もう何者にもならなくていいって、自由だね》p.229
【深夜の散歩】ゆるいが「チーム深夜の散歩」みたいなグループができた。實成、塩田さん、熊、伊吹さん、松江さん。昔、『深夜の散歩』というミステリ案内した出版されました。福永武彦、中村眞一郎、丸谷才一さんが著者でした。参考にしてけっこう読みました。
【説明】熊《みんな、すごい説明をほしがる。わたしを理解しようとする。でも頼んでないし。理解してくれとも寄り添ってくれとも言うてないし。》p.92。實成《なんか違う、と思う。でもなにがどう違うのか、うまく説明できない。「説明できなさ」は澱のようにたまっていくもので、ほうっておくと確実に心を汚す。》p.124。この二つの「説明」はちょっと違うかもしれない。他者を自分の理解できる枠内に嵌め込んでしまおうとする指向と、自己を見定めようとする指向とモヤモヤがそのまま残っていることの危険と。
【センザイ】お隣さんの飼っているかもしれない猫。實成は当初「洗剤」かと思ったが「千載一遇」の「千載」らしい。
【旅】もっちゃん《どこにも移動せずに、旅をする人もいるんだよ》p.235。
【永瀬さん】無口な女性社員。毎年二月十四日に男性社員全員にチョコレートを配っている。ホリゾンタル印刷の社員は八十四名、うち女性は社長と社長の妹である専務を入れて十名なので男性社員数は七十四名。なんぼ小さいチョコであってもけっこう大変やわ。
【謎スペース】ホリゾンタル印刷の正面玄関から食堂にかけての長い廊下の途中にある無駄に広い空間。かつては卓球台が置かれていた。
【ビジネス】《「ビジネス」の現場というものは自分が思っていた以上にウェットで、さまざまなことが個人の感情や思惑で動くものらしい》p.18
【檜原】ザベ子の実父。かつて塩田さんと交際していたが他に好きな女ができて別れた。
【変質者】夜一人で歩いている女性に近づいてきて「髪の毛をくれ」と言う。自治会による自警団ができたりしたので深夜の散歩族にとっては邪魔。
【へんな人】《へんな人は、時間に関係なくいる。》p.115
【ホリゾンタル印刷】實成が勤めている。副業禁止だが給料が安く守られてはいない。
【まじめ】《「まじめ」が悪口になる世界は間違っていると思う。》p.154。
【松江さん】塩田さんとこの管理人さん。困っている人を見過ごせないタイプ。頭に傷がある。表紙カバー絵の左から二番目の男性かなと思う。
【みけねこ洋菓子店】見逃すような小さい看板、21:00〜4:00という不可思議な営業時間。
【實成冬至/みなり・とうじ】主人公。大阪在住。上に春香、夏生、秋穂がいる末っ子。秋穂の娘の亜子に懐かれている。母は健在だが父は肝臓を病んで今年の五月に亡くなった。実家は滋賀の大津にある。父の口癖だった影響か「善く生きたい」という願いを抱いている。モヤヤンの勢力が強くなると深夜の散歩をすることにしている。表紙カバー絵の真ん中の空を見上げてる人物やと思われる。最初女性かと思ったが消去法で。
【飯もり子】SNSでひたすら知育菓子をつくる工程を撮影した動画を投稿している謎の人物。實成はよく見てるようだ。實成は伊吹さんではないかと疑っている。根拠は指輪が似てること。
【望月ピアノ教室】實成が子供の頃通っていた。なぜか楳図かずおと日野日出志の漫画が豊富に揃っていた。
【もっちゃん】望月ゆうな。望月先生の孫。實成は恋愛関係に発展させたいと思っているが難しそう。なんかとても忙しいらしい。
【モヤヤン】父の死後、實成につきまとってるあれ。實成がじっとしていると存在が大きくなり部屋いっぱいに広がることもある。古い服を捨てようとしたら気配が遠ざかった。名前をつけたら正体不明でなくなるという理由でもっちゃんが「モヤヤン」と名づけた。その瞬間、實成はもっちゃんに恋した。
【理解】《でも理解できないからと否定するのも違う。》p.190。