あらすじ
前職の人間関係や職場環境に疲れ果て退職した茉子は、親戚の伸吾が社長を務める小さな製菓会社「吉成製菓」に転職する。
父の跡を継いで社長に就任した頼りない伸吾、誰よりも業務を知っているのに訳あってパートとして働く亀田さん。やたらと声が大きく態度も大きい江島さん、その部下でいつも怒られてばかりの正置さん、畑違いの有名企業から転職してきた千葉さん……。
それぞれの人生を歩んできた面々と働き始めた茉子は、サービス残業や女性スタッフによるお茶くみなど、会社の中の「見えないルール」が見過ごせず、声をあげていくが――。
一人一人違う〈私たち〉が関わり合い、働いて、生きていくことのかけがえのなさが胸に響く感動長編!
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Posted by ブクログ
言わなきゃわからない、伝わらないよ、みたいなアドバイスをする人って、恵まれている人なんですよ、結局。対話ってね。言葉の通じる人同士しか無理なんです。p205
大丈夫って聞くときは、相手の返事をあんまり信用したらアカンし、大丈夫って答えるときはほんまに大丈夫な時にだけにせなアカンらしいです。p206
相変わらず寺地はるな氏の言葉は、心に響きます。
身近な世界を描いた優しい物語、この作品も大好きです。
Posted by ブクログ
途中まで苦しくてくるしくて、仕方なかったです……。後半は、苦しさはありつつも、自分の視野が狭かったのだと実感して反省しました。
当時、このことばを知っていたら、心が軽くなっていたかもしれないと感じることばがたくさんありました。
2024/10/11 p.5-36
p.5
“相手の名は吉成伸吾(よしなりしんご)という。親同士がいとこで、ずっと「伸吾くん」と呼んできたのだが、今日からは「社長」と呼ばなければならない。”
わぁ。友人と同じ職場で同僚として働くのもそわそわしますけれど、トップならなおさらですね……。
p.6-7
“四歳の頃にユウヒからリカちゃん人形を奪われて首をもがれたことを、八歳の茉子は忘れていなかった。”
嗚呼……そういう嫌なことほど覚えてしまうのですよね……。
p.7
“上から読んでも下から読んでもコマツマコです、と説明するとたいていの人は一度で覚えてくれる。”
確かに覚えやすいです。
p.8
“伸吾は記憶より背が高かった。身長百五十五センチの茉子は、顎をぐっと持ち上げなければ目線が合わない。”
かわいい。小さめの女性ってきゅんとします。
p.19
“会社を経営する人には茉子には想像もできないような苦労があり、泣いている子どもに話しかけるようなやさしさがごりごりと削(そ)ぎ落とされていくのかもしれない。ということは伸吾もこれから修一おじさんのようになってしまう可能性がある、ということなのだろうか。”
それは、嫌です……。
p.22
“理解していない部分はきっとたくさんあったのだろうが、自分がどこを理解していないのかということがわからない。”
はい、わたしも。「とりあえず大丈夫です」と言ってしまいます……。
p.24
“「あ、うちは残業はタイムカードを押してから、って決まっているので」”
無給……? あり得ないです。ダメです。
p.24
“「たぶん、この会社では嫌われる」”
……つまり、もうすでに嫌っているということですか?
2024/10/12 p.36-226
p.42
“初日に「この会社では嫌われる」と予言された。それはすなわち亀田が茉子を嫌いだという意味に受け取ったが、”
そりゃそうですよね。わたしもそう思いました。
p.69
“「ああいう人ってさ、あんまりうまくいってないんやろな、人生」”
(中略)
“「まあ、だからなに? って話やけどな。わたしら、べつに理解してあげる必要ないよな」”
そっか。わたし、こういうことばが欲しかったのですね。
p.84
“「あのその『考えさせられる』って言い方も、ちょっとなあ。考えさせられますって言いながら実際にそのテーマについて考えてる人、ほとんどおらんような気がする」”
わたしも、そう感じます。本でも映画でも、その感想を言う人に対して、「具体的には? 何を考えたのですか?」と聞きたくなります。
p.101
“「たとえ関係が終わっちゃっても、大切なわたしの歴史だから」”
わたしはそこまで強くなれないです……。すべてを抱えて先に進むことはできません。多くのものを手放してしまいました。
p.153
“みんな、勝手に他人に期待する。そのすべてをいちいち抱えていたら、いつかはその重さに耐えきれなくなる時が来る。他人の期待を自分の義務にしてはいけない。”
嗚呼……そうか。そうですね。
他人の期待が苦しかったです。
p.167
“いや、だってもうええ大人やん。”
それはそう。本当にそう。
いい大人が甘えないでほしいです……と思いつつ、自分自身甘えまくってしまっているので、なんとも言えないです。
p.205
“要求や要望はすべて「わがまま」と片付けられ、無視されること。ずっとそういう環境にいた、そのうち誰に何を言っても無駄だと思うようになった、口を開く前からあきらめるようになった”
……苦しかったです。過去、そのような環境に居て……。
全然、ことばが届きませんでした。
p.219
“「でも、相手の全部が好きではなくても、『好き』は成立するで」”
えぇ。本当に。そうですね。
苦しくなるほど、好きです。
p.223
“なんの理由もなかった可能性だってあると思わへん?”
はい、そうですね……。本人にとっては理由なく生まれ、理由なく死亡するものなのかもしれないです。
Posted by ブクログ
うーむ
しみじみする〜。
なんて素敵な小説なんでしょう…
あたしも主人公と一緒に、満智花ちゃんのことイラッとしてたけど、引越し前日のご挨拶で、ものすごくうるっと来た。
江島のことは、オバタリアン(死語?)通り越した今のあたしなら、主人公よりももっとギャンギャン言うと思う…と、共感できるところもたくさんあって、なんか普通の日常の悩みとか、考え方とか、とてもとても理解できて、そして最後はしみじみできた。
寺地はるなさん、偉大だ‼️‼️
Posted by ブクログ
ストーリーとは関係ないが、普段無自覚にやってしまいがちな考え方を言語化してくれる表現に多く出会えた。
・人になにかを尋ねる時には、無意識に自分がほしい返答を期待してしまうことが多い。
他人は基本自分がしてほしい話はしてくれないもの。綺麗なストーリーを期待しない方が良い。
・規模の大きい会社だから良い就職先で、小さな会社だから高学歴の人間が入ると人生の失敗だという発想。
魅力ある人間がどんどん出世していって、その会社を大きくしていく可能性も大いにある。
・だいじょうぶかと訊く時は、あまり相手の返事を信用してはいけないし、だいじょうぶと答える時は本当にだいじょうぶな時だけにしなくてはいけない。
Posted by ブクログ
大丈夫って聞くときは、相手の答えを信じない。大丈夫って答える時は、本当に大丈夫なときだけにする。何かに対して、物語を期待しない。自分に期待して、相手に期待すると疲れる。結局、茉子と善哉は付き合ったのかな、付き合ったんだろうな
Posted by ブクログ
【あらすじ】
前職の人間関係や職場環境に疲れ果て退職した茉子は、親戚の伸吾が社長を務める小さな製菓会社「吉成製菓」に転職する。
父の跡を継いで社長に就任した頼りない伸吾、誰よりも業務を知っているのに訳あってパートとして働く亀田さん。やたらと声が大きく態度も大きい江島さん、その部下でいつも怒られてばかりの正置さん、畑違いの有名企業から転職してきた千葉さん……。
それぞれの人生を歩んできた面々と働き始めた茉子は、サービス残業や女性スタッフによるお茶くみなど、会社の中の「見えないルール」が見過ごせず、声をあげていくが――。
一人一人違う”私たち”が関わり合い、働いて、生きていくことのかけがえのなさが胸に響く感動長編!
『みんな、勝手に他人に期待する。そのすべてをいちいち抱えていたら、いつかはその重さに耐えきれなくなる時がくる。他人の期待を自分の義務にしてはいけない。』
『「あきらかに素質がない」のに「夢にしがみつく」時間は、無駄に過ごしたことになってしまうのだろうか。なりたかったものになれなかった人生には、全く意味がないのだろうか。』
『許されると楽になるが、許してもらうために謝ったのではないことを、忘れてはいけない。』
【個人的な感想】
ぼんやりとしていたことを明確に言葉にしてくれる寺地さんの作品が好きです。
最後にはみんなで会社をよくしていこうという方向にまとまってよかった。
Posted by ブクログ
最近、和菓子の美味しさにようやく気づけた私にとって、カバーからしても買わずにはいられない本だった。
職場での様々な人、そして職場での、その様々な人たちの対人関係のお話。
社員一人一人にストーリーがあって、みんなそれぞれ違うものを抱えながら、同じ職場で関わっている。
主人公は正しいことを言うけど、「いや、その言い方。もう少しスマートに言いたいこと言えないかな?」と終始思った。
主人公も、他の登場人物と一緒で不完全なところが、あえて描かれているのだと思う。主人公は自分のダメなところにも気づきつつ、少しずつ成長を遂げていく姿が良かった。
私も全て自分軸で考えて、自分が正しいと思うように行動したり、発言したりしているけれど、他者からしたらダメなところが沢山あるのだと思う。でもそれに普段気が付けていない。
Posted by ブクログ
従兄弟が社長を勤める和菓子の会社へ事務員として入社した茉子は、昔ながらの社風にそれはおかしいと意義をとなえていく。皆んなそれぞれ違うから口を挟まない。という風潮に風穴をあけていくけれどその分茉子も傷つき悩む事になる。こんな風に仕事をするのは難しい事かもしれないけれど、羨ましく思う。
Posted by ブクログ
みんなそれぞれの事情を抱えながら必死に生きているだなぁとしみじみ。お仕事が大好きすぎる人ほど思い入れが強くなってぶつかることも多いのかな。一面だけを見て人を判断してはいけないことはわかっているけれど、ボタンの掛け違いでお互いに苦しんでしまう様は他人事とはとても思えず。察するとか本音を語り合うことの難しさを改めて痛感した。こまどりと和菓子の組み合わせはほっこりしたなぁ。やはり寺地さんの作品はいいなぁ。
Posted by ブクログ
がつんとくるフレーズがてんこ盛りでした。
勝手に他人のことを、やんごとない事情があるに違いない、と決めつけていないか?
大丈夫そうじゃない人に、「だいじょうぶ?」って声をかける時、自分の体裁だけを気にして発言していないか?
本や映画を大量に摂取して、人より感性や想像力が高い人間になっていると思っていないか?
主人公の茉子は、自分がおかしいと思ったことは、「おかしい」と言える、いわば強い人。
それは、今まで茉子の周りの人たちが、彼女の声に耳を傾けてくれたから。
そんな茉子とは対照的に、声を上げることを諦めた人たちが、この本にはたくさん出てくる。
茉子を羨ましくも疎ましくも思う人たち。
そんな人たちを、茉子も快く思わない時がある。
でも、完全に分かり合えなくても、少しでも「いいな」と思えるところがあれば、必要な時に手を貸し合える。
唯一無二の親友にはなれなくても、仕事では支え合える仲間になれる。
ほっこり心温まるストーリーを期待するなと釘を刺された一方で、でもこんな関係性も悪くないじゃない?と別の方向から光を提示してもらえた気がした。
Posted by ブクログ
好きな作家さんの1人。読み慣れているせいもあるけど その文章や言い回しにストレスを感じないので 物語に没入出来た。
昭和のパワハラ?とか 情けない社長 時代錯誤な会長とかいろいろあるけど みんな 和菓子を本当に愛してる 会社 社員が1つの家族のよう。
そんな中 芙子は 悩みながらも自分の意見をハッキリ言えるしっかり者。
「他人に認めて貰たい でも他人に求めるのはキリがない 自分で自分を認めてあげる」とか
何気なく口にしてしまう「大丈夫?」とか「話してくれなきゃわからないよ」ってセリフ 考えさせられました。
「こまどり庵」で和菓子買いたい〜。
検索:コマドリってこんな鳥でこんな鳴き方するんですね。
Posted by ブクログ
全六章から成り立つ、ヒューマン・ビジネス小説。
登場人物それぞれの人生や、職場での人間関係の複雑さが、とても細かく描かれていて面白い。
主人公の小松茉子(こまつまこ)(27)は、前職での人間関係や環境に疲れ、親戚が社長を勤める製菓会社に転職。
彼女が、そこで成長していく様子には、共感できる部分が多く、思わず考えさせられた。
茉子は新しい会社での見えないルールや慣習に対して、ある行動をとるのだが、そんな彼女の姿に、勇気をもらう。
そして、同時に職場の複雑さや、人間関係の厳しさも感じさせられた。
茉子が、前職でのある出来事に心を痛め続け、新しい職場で奮闘する姿は印象的だ。
茉子の頑張る姿勢はヒヤヒヤもするが、思わず応援したくもなる。
しかし、その一方で周りからは、彼女に対して否定的な意見も多く…
この微妙な人間関係の描写はとてもリアルで、共感を呼び起こすだろう。
さらに、作中に出てくる和菓子の美味しそうな描写が、物語に温かさをプラスしていた。
読み進めるうちに、思わずあんこやお団子が食べたくなり、実際に買いに行って、それを味わいながら読書を楽しんだ。
和菓子は、物語の人たちの絆を象徴する要素にもなっていて、その点も特に心に残った。
読後は、他の人の気持ちを理解することがどれだけ大事か、より深く感じられるようになった。
そして、互いに支え合って成長することの大切さが、こういう人間関係の中で、見えてくるものがあった。
全力で頑張る中で、時には自分の限界をちゃんと理解することも大切で、そうしたバランスの取り方を学べる、そんな貴重な一冊だと思う。
職場でのリアルな人間関係に共感できて、成長する勇気をもらえる作品だ。
特に職場の人間関係で悩んでる人にはオススメ。
きっと共感できることや気づきがあるはず。
実際に和菓子を食べながら、この物語の世界観を楽しむのもありですね。
Posted by ブクログ
素朴で愛らしい和菓子の装丁に癒される。物語もその世界観を保ったまま、複雑な人間関係の心の機微を描いたとても面白い作品だった。ブラック企業とまではいかなくても、その会社オリジナルの悪しき慣習はある。親戚が経営する和菓子会社に入社することになった茉子はそんな長いものには巻かれない。結構ドライな感覚の茉子に個人的には非常に共感できたし、ある界隈では「残酷な人」と思われるのを自分の事のように胸が痛くなった。しかし関西弁の会話には茶目っ気があり、空気を重たくせずストーリーを進めてくれて温かい気持ちで読み終われた。
Posted by ブクログ
ダヴィンチ・プラチナ本から。舞台は、こじんまりとした街のお菓子屋さん。そこにそれぞれの家庭事情とか、ハラスメントとかが絡んできてッていう、仕事小説にはありがちな結構。とはいえ、最終章でのカタルシスが抜群で、読後感は素晴らしい。
Posted by ブクログ
お仕事小説。
登場人物みんなそれぞれが不器用で、その人なりに必死で日々を生きている。「○○すべき」が万人に当てはまるわけないって頭でわかっているはずなのに、決めつけたり、押し付けたり。自分に該当する部分を見付けてはうう…と恥ずかしくなる。
言葉にならないけど心にもやっと陰をかける出来事や感情を文章になっていて、「そう!!それなんよ!」と霧が晴れたような気持ちになった。
●「言わなきゃわからない、伝わらないよ、みたいなアドバイスする人って、恵まれてる人なん ですよ、結局。『対話』ってね、言葉の通じる人同士でしか、無理なんです」
●「だいじょうぶって訊く時は相手の返事をあんまり信用したらあかんし、だいじょうぶって答える時は、ほんまにだいじょうぶな時だけにせなあかんらしいです」
この先ずっと忘れないようにしたい言葉。
Posted by ブクログ
寺地はるなさんは大好きな作家さんのひとり。
今回の作品は11作品目。
表紙の美味しそうな和菓子は、主人公小松茉子の転職先、吉成製菓を連想させる。
茉子が親戚が社長をしている会社の古い体制に疑問をいだきながら奮闘していく小説。
茉子 「大丈夫?」
伸吾 「頼りないと言ってるのと同じだ」
茉子 「大丈夫?」
虎谷 「大丈夫です」と答えつづける。でも大丈夫ではなかった。
私も職場でよく「大丈夫?」と声をかけるが、ダメなのかな!と考えこんでしまう。
他にも「考えること」を投げかけてくれる深い小説だった。
茉子の職場の感じが悪い人も……それだけでは終わらない寺地さんの優しさを感じた作品でもあった。
Posted by ブクログ
無性に和菓子が食べたくなる。言うことは言って主張しないと相手には伝わらないよね。言い方は気をつけた方がいいと思うけど。言いたいことを言える、相手の話を聞ける状態でありたい。
Posted by ブクログ
登場人物が、だいたい不器用だけれど懸命に生きてる人。みんなの行動にはそれぞれ理由がある。人の想いを知ることも想像することも難しいけれど、知ろうとすることを諦めてはいけないと思った。主人公の両親が素敵。
Posted by ブクログ
日常の中で、今まで気づかなった大切なことに気づかせてくれる…
寺地はるなさん、この本でもたくさんのメッセージを込めているなぁと思う。
大きな事件も起きないし、どこにでもあるような日常生活を綴っているような小説。でも登場人物一人一人がなんとも素敵な言葉を残してくれる。
ちょっと苦手だなと思う人でも、それぞれに抱えるものがあって、彼らなりにそれに対峙しているという現実を知ると、その人に対する見方がまるで変わってしまう。
ほとんどの登場人物がそんな感じで、愛おしく思えてしまうのだから、寺地マジックはすごい。
私が印象に残った言葉は、
「言わなきゃわからない、伝わらないよ、みたいなアドバイスする人って、恵まれてる人なんですよ、結局。『対話』ってね、言葉の通じる人同士でしか、無理なんです」
「だいじょうぶって訊く時は相手の返事をあんまり信用したらあかんし、だいじょうぶって答える時は、ほんまにだいじょうぶな時だけにせなあかんらしいです」
という虎谷のセリフ。
苦しい時、ちゃんと話し合いするようにアドバイスされることは多いけど、それができないから苦しい事がほとんどだ。
そして、苦しんでいる隣人に対して、私自身も安易にだいじょうぶ?と声をかけていることがなんと多かったか!
話し合いをすることは難しい。
でも、茉子が虎谷にも会長にも勇気をだして、想いを伝えたことは相手にキチンと伝わっている。
話し合いができなくても、伝えるべき時に想いを伝えるその勇気こそが尊いのだ。
茉子は『ここにいる』と声を高らかに歌うこまどりのように自分の声も力強くありたいと願う。
私も、茉子のように、こまどりのように、声をあげられたら…と願う。
Posted by ブクログ
「関係が終わっちゃっても、大切なわたしの歴史」
そうだよね、無理に忘れなくてもいいよね。
「他人なので、自分がして欲しい話はしてくれないものだと思ったほうがいい」
他人に期待せず自分がどうしたいのか考えます!
「好きなことしかしない日」
そういう日をつくって自分で自分を認めてあげよーっと。
いくつかのフレーズがささりました。
覚えておきたいなーっていうフレーズが
Posted by ブクログ
ブラックほどではない会社でも、当たり前のようにある好ましくない暗黙の了解事項。なくならないパワハラ・セクハラ。おかしいと声を上げても無視されたり報復されたりするダークな空気漂う職場。
それでも声を上げようと決めて臨んだ転職先の小さな製菓会社を舞台に、孤軍奮闘する1人の女性を描くヒューマンドラマ。
◇
小松茉子は、目の前に座る男を見た。
男は名を吉成伸吾といい、茉子のはとこに当たる。現在27歳の茉子より5つか6つ年上だが、幼い頃からよく知る相手だけに、今日から「社長」と呼ぶことに違和感がある。
ついそんなことを考えつつぼんやりしていると、「話聞いてる?」と伸吾から声がかかった。ハッと我に返った茉子に「会社では小松さんと呼ぶから」と伸吾は言って、社内を案内するため立ち上がった。
茉子は今日から、伸吾が社長を務める吉成製菓という、社員35名の小さな会社で働くのである。
事務所内には机が5つあって、事務員用と営業員用が2つずつ、向かい合わせに並んでいる。入口にもっとも近いいわゆる下座が茉子の席だ。そして上座に当たるいちばん奥の入口に向いた机が伸吾の席のようだ。
茉子の向かいがベテラン事務員の亀田の席だと言ったあと伸吾は、「亀田さんはパートさんやから、話題は慎重に選ばなあかんで」と心配そうに付け加えたのだった。
( 第1章「春の風」) 全6章。
* * * * *
作品の魅力は主人公の茉子です。
前の職場での劣悪な人間関係に嫌気が差して退職した茉子は、はとこの伸吾が社長を務める製菓会社「吉成製菓」に就職しました。
茉子がこの会社に勤める気になった理由は2つあります。
1つ目は、伸吾に懇願されたことです。
急な心臓の病で引退した父親に替わり、いきなり社長に就任した伸吾は、ベテラン揃いの社員たちに言いたいことも言えません。折よく事務に1人欠員ができたので、気心の知れた茉子に来てもらうことにしたのでした。
2つ目は、「吉成製菓」に対する思い入れです。
茉子の保育園時代のこと。祖父の葬儀に参列した茉子は、焼かれて出てきたお骨を見て泣き出してしまいます。「死」というものを認識したからなのですが、祖父の死を悲しんでいると勘違いした1人のおじさんが、持っていた小鳥の形をしたお饅頭をくれました。
その美味しさに思わず泣き止んだ茉子にとって、おじさんがつぶやいた「涙はしょっぱい、お菓子は甘い」ということばと、そのとき食べた「こまどりのうた」は特別な存在になったのでした。
でも本作は、若社長の期待と和菓子への熱い想いに支えられて奮闘する若い女性を描いた爽やか系の物語ではありません。
社会や世間に根強く残っている理不尽な慣行や、パワハラ・セクハラ・モラハラ等の人権無視の言動に、いちいち異を唱えては跳ね返されイライラモヤモヤしつつも挫けずに行動する女性の姿を描く物語です。
そして、茉子が鉄の女のような闘士タイプでないところが物語のミソになっています。
小鳥にすぎないこまどりですが、その鳴き声はとても大きく、まるで自分の存在や主張をアピールするかのようです。
茉子の主張や抗議もこまどりのさえずりに似ています。これが設定としておもしろい。
社会に影響を及ぼすだけの力は若い茉子にはありませんが、言わなければ何も始まらない。
そんな茉子のさえずりもなかなか功を奏さず、中盤まではイライラモヤモヤし通しで少し疲れます。
でも、寺地はるなさんらしいカラッとした文章と展開のテンポのよさで気づけば終盤を迎えていました。
勧善懲悪・万事解決とならずに、少しずつ事態が好転していくところが却って心地よかった。
前途はまだまだ多難ではあるのですが、それでも現状を改善していこうとする茉子のしぶとさに希望を感じる、とてもいいエンディングでした。
Posted by ブクログ
好きなことばは二つ。
ここでなにかごちそうになる時も、なんか映画でも見ようかってなった時も、どれがいい?って訊いえくれましたよね。私はいつも選べなかった。でもどれがいいかって何度でも訊いてくれた。私も自分自身に訊ね続けるうちに、すこしずつ分かってきたんです。自分がもともとなにが好きだったか。どんなものに憧れて、どんなことに興味をもっていたか。すこしずつ思い出していったんです。
だいじょうぶって訊く時は相手の返事をあんまり信用したらあかんし、だいじょうぶって答える時は、ほんまにだいじょうぶな時だけにせなあかん。
うーん、いい言葉。
Posted by ブクログ
ちょっと正義感が強くて正しいことにこだわる傾向がある女性会社員が主人公。
「正しいことだけがすべてではない」みたいなことが言いたいのかな?と思いつつ読み進めたが、そこまで重いメッセージ性のある小説ではなく、主人公がほんのり成長して終わり、ぐらいの感じだった。
Posted by ブクログ
*前職での環境に疲れ果て退職した茉子は、親戚の経営する「吉成製菓」に転職する。
頼りない二代目社長の伸吾、スキルが高いのに訳あってパートとして働く亀田、パワハラ系の江島と怒られてばかりの部下・正置たちと働く中、茉子はサービス残業や女性スタッフによるお茶くみなど、会社の中の「見えないルール」が見過ごせず、声をあげていくが――。
一人一人違う”私たち”が関わり合い、働いて、生きていくことのかけがえのなさが胸に響く感動長編!*
若い頃にこれを読んだら、旧世代的な親族会社の内情に一方的に怒っていただけだったかも。
ひと歳取った今は、小さな社会ならではの弊害も温情もわかるし、人は見えている一面だけではないともわかっているので、それぞれの立場からの視点で見てしまい、少し切なく思いつつ読みました。
違う立ち位置にいるとしても、少しずつ歩み寄って思いやれたらいいのにな…何事も。
Posted by ブクログ
親戚が経営する小さな和菓子会社でパワハラやワンマン経営と戦う女子社員茉子のお話。
戦うと言っても上司相手に喰って掛かるとか労基に訴えるとかではなく、人と交流し会話を重ねながらいろんな気づきがあり少しずつ変わっていく感じ。
少し物足りない気もするが、『こまどり庵』の季節限定や定番の和菓子の話を織り交ぜながら、こういう温かくてゆったりした展開もいい。
Posted by ブクログ
寺地はるなさん、やっぱりとてもいいなあ。
大団円できもちよく〜HAPPY END〜ってならないところに良さがある。
このひとの本は定期的に読みたくなる読み心地。
Posted by ブクログ
ほのぼの和菓子小説のはずが…働くことをテーマにしたシビアな内容でした。
パワハラやサービス残業など古い製菓会社にある暗黙のルール。おかしいと思ったらはっきり言う茉子は正しいんだけど、はっきり言う人って亀田さんが言うとおりこういう場所では嫌われちゃうよね。泣き寝入りするのはもちろんダメなんだけど、「言っちゃえ茉子!」と「茉子、今は黙っててー」が混じり合った複雑な読書時間でした。
会長は手強いし社長は優柔不断で弱気だし、まだまだ問題がある吉成製菓が変われるかどうかは前途多難ですが、期待できそうかな?という終わり方も寺地さんらしくて良かったです。
「だいじょうぶって訊く時は相手の返事をあんまり信用したらあかんし、だいじょうぶって答える時は、ほんまにだいじょうぶな時にせなあかんらしいです。」
↑この言葉、響きました。
Posted by ブクログ
前職の人間関係や職場環境に疲れ果て退職した茉子は、
親戚の伸吾が社長を務める小さな製菓会社「吉成製菓」に転職。
そこにはサービス残業や女性スタッフによるお茶くみなど、あたり前になっている見えないルールがあった−。
たくさん存在している見えないルール
それをおかしいと思いながらも
声に出さない、出せない人たち。
これを言ったら気まずくなる。嫌われる。
自分が我慢をすればいいと
気持ちを押し殺してしまう。
茉子みたいに、おかしいと思ったことをはっきり言葉にして言える人ばかりではない。
でも、茉子のような人に憧れるし、
いてほしいなとも思う。
みんな不器用で、言葉足らずで、
素直な気持ちはなかなか言えない。
そんな登場人物たちの言葉のひとつひとつが
私自身に刺さることがたくさんあり、
やっぱり寺地さんの本は
言葉にすることが難しい想いを
掬い取ってくれるな〜と思うのでした。