あらすじ
「主人公が少しだけ他人と心を通わす様が、
わざとらしくなく無理がなくて、好きです。」
――沖田修一(映画監督)
できないことは、できません。
やりたくないことも、やりません。
他人に感情移入できない26歳の三葉雨音は、
それを長所と見込まれ、お年寄りの病院送迎や
お見舞い代行の「しごと」をはじめる。
聞き上手な80代セツ子、
手術の付き添いを希望する40代の好美など
依頼人は様々。空気を読まない三葉だが、
行動に変化がみられていく――。
めんどうだけど気になる三葉から
目が離せない。
解説:沖田修一
【著者からのコメント】
「雨夜の星」は目に見えません。
でもたしかにそこにあります。
空気を読むという言葉があります。
空気は目に見えません。
見えないけれどそこにあるものは、
良いものとはかぎりません。
その場の空気を読むことばかりに心を砕き、
いつのまにか決定的に間違った方向へ
進んでいくことだってあるのです。
空気は読むって、そんなに良いことなんでしょうか?
そんなことを思いながら書きました。
【主な登場人物】
◆三葉雨音 26歳。職業はお見舞い代行。
他人に興味がない。
◆霧島開 三葉の雇い主。
喫茶店の店主で、ホットケーキが苦手。
◆リルカ スナックで働く、
感情豊かで共感能力が高い霧島の彼女。
◆星崎聡司 三葉の元同僚。
湯気の立つ食べものが苦手。失踪中。
【依頼人たち】
◆田島セツ子 病院への送迎。聞き上手な80代。
◆権藤 肝臓の病気で入院中の70代。
因縁の相手。
◆清川好美 手術の付き添い。
配偶者なしの42歳。
日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞、
SPURほか各メディアで紹介されました!
(2021年単行本刊行時)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
背表紙の帯の「合わせないとダメですか?」に惹かれて買った本。
三葉は私の根っこの部分でいつも燻っている気持ちを揺さぶる主人公だった。
人はみんな違う。感じ方も受け取り方も、違う。
環境が違えば常識も違う。でも、共感や言わなくてもわかる、を求めてしまう人のなんと多いことか。
それができない人や自分が欲しい返事をしてくれない人を、冷たい(クールというと聞こえは少しは良いような気はするけど)とか人の気持ちがわからないとか言うのは、あまりに短絡的だと。
心はあります、と三葉も言っていた。
うんうん、と心の中で頷きながら読んだ。
三葉や星崎くんの様に、集団からなんとなく浮いてしまう人間(わたしもここに入るな)には、分かり合えない関係はあっても、どこかに合う場所はあるよ、そんな優しさを感じる終わり方が良かった。
いい本に出会えて良かった。
またいつか読み返したくなると思う。
作者の他の本も読んでみたい。
Posted by ブクログ
三葉雨音は、本当に空気が読めないのだろうか。常識や暗黙の了解が分からないのだろうか。途中からそんなことを考えながら読んだ。
三葉の生き方を「楽をしている」と言った人もいたけれど、三葉は三葉でお酒を飲むことで“いろんなものの輪郭を曖昧に”することで保っている。それは「楽」ではないからではないのか。
逆に、空気を読む人、常識や暗黙の了解が分かる人たちだって、そうすることが「楽」だからじゃないのかな…。そもそも、空気とか常識とか、暗黙の了解って何だ?
私自身そういうのが、全くわからないタイプではないと思っているけれど、誰かに「常識でしょ」と言われると、なんだよそれ、と思うし、自分の常識は人にとっては非常識だと思うことも多々ある。
自分を自分として受け入れることも、自分とは違う他人を否定せず認めることも難しいよなぁと思う。
三葉の周りの人たちは、三葉を受入れたり受け入れられなかったり、三葉自身も他人を受け入れたりうけいれられなかったり。
みんな、そうやって生きているんだと思う。
Posted by ブクログ
作者さんの作品を読むのは初めてではないですが、大好きになりました。
ちょっと人の嫌な部分を皮肉った感じで見ることが出来るお話です。
主人公は「できないなことは、できません。やりたくないことも、やりません」と言い、他人に感情移入出来ない、空気、常識、暗黙の了解が分かりません。それを自分は出来てるいると思っている人から主人公に投げかけられる非難めいた言葉に、よっぽどあなた達の方が非常識で不幸じゃない?と思ってしまいました。何故か自分は頑張っているのに上手くいかないと思って生きている人の中に主人公のような生き方を非難する人はいるよなーと。
こんなに面白く読めた本は久しぶりな気がしました。
Posted by ブクログ
主人公の基本的なスタンスがぶれず、その強さになんだか救われる。
作中では彼女の生き方を絶対的な是とするのではなく、批判を含め様々な意見が出てくるところのバランス感覚が絶妙だし、フェアだと感じた。
中でも、一見良好な関係に見えていたお姉さんが、三葉に対して今まで堪えてきた想いをぶちまける場面が印象的。
色んな捉え方ができるし、悪く言えば自分を想ってくれる人の気持ちを蔑ろにして成り立つ在り方を自覚しながら、それでも自分の姿勢を変えないのは覚悟が決まっている。
それでも、そんな三葉だから必要としている人がいる、というラストはとても優しい。
Posted by ブクログ
他人に干渉しない、されたくない主人公がお見舞い代行などの仕事をしてかわっていくのかぁと思ったけどそうでもなく、最初は無機質な主人公と思ったけどそうでもなく、普段読む話しと少し違った感性だと思った
Posted by ブクログ
素晴らしかった!親子を中心に人間関係に悩む、今の自分を取り巻く環境や状態に、凄いマッチしたとの要素はある。
他人のことは簡単には分からない。主人公の「他人の気持ちをいつも考えなさい、という母の言葉が嫌いだった。一度わかった気になると、それ以上わかろうとしなくなる。」→それはわかった気になっただけで、決めつけているだけ。
序盤は淡々と進むが怒涛の後半。人間関係に悩む人には寄り添う言葉が見つかるかもです。
- 家族だからすべてを自分たちで解決する必要などないのに。
- ~と思うのはその人自身である。だったら「男は」ではなく「俺は」、と言うべきか。むやみに主語を大きくするべきではない。
- 「あなたが私に与えたがっていたものは私が欲しがっているものとは違うのだ」と母に訴え続けた人生であった。そして母のような人にそれを納得させるのはとても難しいことだった。
- 「聞き流す」とは真剣に耳を傾けつつも自分の中に留め置かない、ということだ。
- 私はこれまで「友だち」が「恋人」に劣る存在と考えたことがない。他人に元気でいてほしいというこの思いが恋愛感情であってもなくても、何かに影響を及ぼすとは思えない。
- 正直かつ誠実に話そうと思えば思うほど相手は腹を立てる。それが分かっていても、相手の望む答えを返すことはできなかった。
- どうして人間関係に金銭が介在することをこれほどまでに厭うのだろう。どうして金銭で得た繋がりを、そうでないものより一段下のように決めつけるのだろう。
- いや、感謝はしてもいい。でもあたなは、あの人から生まれたって時点で既に立場にかなり差がついています。どうしたって、向こう(母)の方が有利。その上「傷つけずに伝えたい」とまで気を揉む必要はないです。
- この世に毒にならない親など一人もいないのではないだろうか。毒の濃度は様々だろう。でも運悪く毒が濃いめの親のものに生まれてしまったからといって、そこで全ての人生の勝負が決まる訳では無い、と思いたい。
- 「よくある話」が身に降りかかった際に、よくある話なので明るく乗り越えろと強制することは暴力だ。「よくある話」は自分の身に降りかかればすべて個人的で特異な事情となるのだから。
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Posted by ブクログ
寺地はるなさんの本を読むのは初めてです。
最初はあまり面白くないかなと思いましたが、話が進むにつれて、淡々とした話の中にも主人公の変化が少しずつあり、読み終えたときは面白かったと感じました。
相手の気持ちを考えて発言・行動する、空気を読む…当たり前のように求められているけれど、主人公のような考え方もあっていいのだと目から鱗でした。
「一度わかった気になると、それ以上のことをわかろうとしなくなる。だから相手がどうしてほしいとか、どう思っているかとか、決めつけるのは嫌だ」
わたしも相手の言葉の裏を読んでしまうことが多いのだけれど、素直に受け止める強さもほしいと思いました。
次は「ほたるいしマジカルランド」読みます!
Posted by ブクログ
寺地さんの描く世界は日常。そこらに埋もれている日常に光を当てて掘り出すことで、読者にとって、日常がなんと愛おしく、刹那的なものであるかに気付く。三葉も、「特殊」なようでいて、実は普通の人。大勢の側ではないだけで、普通にいる。誰しもが自分を抑えつけて大勢の中に紛れて 生きている。その加減がうまくいくかいかないかなんだろうな、生きやすさ、生きにくさって…と思った。
Posted by ブクログ
主人公の三葉は勤めていた会社を辞めて、現在は病院の付き添いやお見舞いなどを家族などに代わって行う『しごと』をしている。
三葉が淡々としていて冷たい印象に感じることもあったし、はっきりとしているところには憧れた。この本を読んで感じたのは、人の気持ちを感じ取るのって難しすぎるし、やらなくてもいいのかも。もっと正直に生きよう!だった。三葉は『しごと』を通して、頑固なお爺さんやおしゃべりな女性たちと出会い、変わっていないけどきっと変わってる。普段は『言われたことはやりますが、必要がないことはやらないし、やりたくないこともやりません』という雰囲気の三葉が、家族との思い出の遊園地に行きたいという頑固爺さんの願いを叶えるために病院の屋上でビニール傘に絵を描いてメリーゴーランド風にしたりとか、何度も付き合って話をしているうちにきっと三葉にも優しい気持ちが芽生えたんじゃないかなと思う。
人に感情移入する、しない。何も言ってないけど察することの難しさと煩わしさ。確かに私もはっきり言わないで察してくれよーってことあるな…。相手に無言で期待しちゃってることもある。でも逆の立場だとハッキリ言ってよ!ってこともあるよね。
こんなに自分の気持ちに正直に生きられたら楽なのかな。でもここまで正直だと、周りから浮いてしまって行きにくくなってしまうのかも、とも思った。本当に自由に生きていくのって強くないと難しい。
Posted by ブクログ
生きづらさをもつ主人公の考え方、何故か親近感をわきつつ、親の立場で見れば心配でもあり。誰の視点で読むかで感情が揺さぶられる場面が変わりますが、ここまで正直に人間の有り様を書いてもらえると自分の異常性も当たり前に感じられました。
Posted by ブクログ
自分と重なる姿少々ありあり。
感情移入しないでいて、感情表現しないでいて、
それは裏切られること、勘違いされることが怖かったりして。でもそれは逃げなのか、楽だからやっちゃってるのか。
"他人の気持ちを大事にしすぎるとかえって冷酷に見えるで"
響く!!!!
Posted by ブクログ
やっと読み終えました!
読みたい本を、何回にも分けて読まないと、いけない忙しさに、嫌気がさします
友人は、欲しいし、一緒にでかけたりもしたいけど、人に対しての言葉選びが、気を使ってしまって、結局、人と絡みたくなくなってしまいます
何気に話した言葉に、過剰に反応する世の中では、本音も、言えず、遠ざかるのが、楽になってしまって
この主人公の、真っ直ぐ自分を曲げない姿が、こうなりたいなと思わせてくれます
人と、割り切って関わる中で、ちょっと変化を持つところも、主人公の発想も、共感したり、笑わせてもらったり、とても、よかったです!
Posted by ブクログ
お世辞を言わない三葉、察する事をしない三葉、強いんだか、弱いんだかわからないが、とにかくフラットな三葉の「しごと」はお見舞い代行。大事件は起こらないけどなかなか面白く読めました。
Posted by ブクログ
共感、感情移入が苦手な主人公三葉。霧島も言ってる通りそれは長所でもあるし、何より自分を貫ける三葉かっこいい。「必要以上の感傷は人生の荷物になる」「どうしてみんながそこまで他人に恋愛をさせたがるのか」。常識に対する寺地さんの問いかけが心地いい。
Posted by ブクログ
基本的には、あなたがやってくれと言ったことだけやります。
わたしがあなたがしてほしいことを察して行動することはありません。普通はそうするでしょと言う曖昧なルールに従って行動することもありません。エトセトラエトセトラ
って言いたい。ただのめんどくさがりだから言いたい。だけど、めんどくさがりだから言わない。
あと、二木苦手やわ。最初から嫌。
愛の話やったんかも。
会話多いしわかりやすかった。
読んでよかったです。
Posted by ブクログ
他人に興味をもたず感情移入できない主人公「三葉雨音」が、お見舞い代行業を通していろんな人物と関わっていく物語。
空気を読むことや察すること、暗黙の了解などの面倒ごとは人間関係であるよなぁ…と改めて感じられた。
自分も人間関係なくして生きてはいけない。価値観の押し付けや自身の望み通りに動かない人を排斥しようとするのは恥ずべきことだ…と肝に銘じて仕事しようとおもう。
「他人に関心がないのは、相手のことをわかった気になりたくないからじゃない?」主人公に投げかけられる言葉が印象に残った。
ほたるいしマジカルランドを直近に読んでで、それが登場したのは思いがけないことだった笑
色々考えさせられるけど、結局前向きな読後感を味わえるので、寺地はるなさんは素晴らしい。
Posted by ブクログ
世の中の見えないもの。
空気、常識、暗黙の了解
そういうものは不得意分野で、察する、ということは基本的にしないという主人公が、お見舞い代行をする。
淡々と進み、淡々と終わる。
親子の話であったり、「建前を言えるのが大人」だとか、いろいろ出てくるが、大人の振る舞いと見せかけて「心配する雰囲気だけ出した単なる優越感の確認」とかもあり、いろいろ引っかかりが生まれる物語。
察する、とは「通常こう考えるはずであるの押し付け」の可能性もある。だから、しないんだ。とも思われる主人公雨音。
簡単に薄い共感はしないし、わからないものはわからないと言い、言葉が違えば違うという。
そういう雨音に対してめんどくさいと言われる雨音。
いや、わかるよ。たしかにめんどくさいかもしれない。
でも簡単に分かるとか信じるとか薄い共感をするより、よっぽど冷静に観察して分析して、冷たく見えるかもしれないけれど、ありがた迷惑な、いらない押しつけよりよっぽど、その反応が心地よい人はいると思う。
『あなたがわたしに与えたがっているものはわたしが欲しがっているものとは違うのだ、と母に訴え続けた人生だった。そして母のような人にそれを納得させるのは、とても難しいことだった。』
この一文が雨音を凝縮させているような気がする。
Posted by ブクログ
「嘘や建前ば言わんとは、ただ自分が楽したかだけのこつやろうもん。他人にはいっさい 気遣いとうなかて、そらただの怠慢たい」
嘘や建前を言わず、やりたくないことはしない、そんな雨音に向けられた言葉。
私もずっと「嘘や建前」「察する」ことは善だと、大人の嗜みなんだと思ってきた。
読み始め、雨音の言動がいまいち理解できないというか、「うーん…?」という気持ちだったのはそこから来ているのかもしれない。
読み終わった今、過剰に他人に気を遣うことってはたして本当に必要なんだろうかと思う。それって本当に「気遣い」なのかな。人間って疲れる。
表紙のイラストの傘はあのシーンだったのか、と気付いた。
●よくある話だ。話を聞いた時、まずそう思った。日本全国にたくさんあるようなよくある話で、でもだからセツ子さんは我慢すべきであった、と言いたいわけではない。「よくある話」が身に降りかかった際に、よくある話なので明るく乗り越えろと強制することは、暴力だ。「よくある話」は自分の身に降りかかればすべて個人的で特異な事情となるのだから。
Posted by ブクログ
家族って難しいものなのかもしれない。
近い間柄だけれど、考え方や生き方も違うのに家族だからという言葉に縛られているようにも感じる。
一緒にいて、居心地の悪さや疎外感を感じるなら距離をおいて暮らす方が生きやすいはず。
仲良し家族なら、それは幸せな事だと思う。
Posted by ブクログ
主人公のドライさに驚きましたが、逆に人間らしくて好きだと思いました。
お見舞い代行等の仕事が実際にあるのか分かりませんが、これから必要とさせるかもと感じました。
Posted by ブクログ
空気を読まない、面倒な人と言われる女性、三葉雨音が主人公。
「お見舞い代行」という仕事を通しての人との関わりが描かれていました。
空気を読む
察する
建前
人と関わる時にすることのある行為。
でも、その事が辛いことや疲れることもあります。
楽しい時を過ごしたはずだけど、一人になったらどっと疲れが出たということもあります。
なので、私は近頃は一人のほうが気が楽でよいなと思っています。
でも、人との関わりは無くなりません。
この作品は、空気を読まない三葉を中心に様々な人が出てきます。
「こういう人は良いな」
「ちょっとこの人は苦手かも」などなど。
考えながら読むことが出来ました。
Posted by ブクログ
色んな考えの人がいて、出会って、悩んで、ぶつかり合って、少しづつ変わっていく。
人生の難しくて楽しいところがギュッと描かれているなと感じました。
それぞれの考え方や生き方を、無理に歩み寄らせない。けれど確かに繋がって影響しあっている…という寺地さんの描き方がとても好きです。