朝井まかてのレビュー一覧
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草野丈吉、こんな名前の料理人がいたんだと初めて知った。長崎から出てオランダ船のボーイから始めて、艱難辛苦を耐えて西洋料理の味を覚えて、日本で最初の西洋料理の店を始めた人。この人の味が本物だったからこそ、維新から明治にかけての傑出した人たちがその味を楽しみに訪れ、陸奥宗光、五代友厚らと巡り会い、志を分かち合ったのだと思える。そしてこの話は実は丈吉のつまのゆきが主人公とされている。丈吉は「お前はほんに旨そうに、大事そうに食べとったとたい。頬や顎を動かすさまは、気持ちよかほど元気で」と食べっぷりに惚れて、いや食べっぷりからゆきの強さを見抜いて嫁にした。その目線で江戸から明治の世の人を一人一人丁寧に描ききることにつながっているのだと思う。浅井まかてにまたやられました。誰か映画かドラマにして映像化してほしいなと思った。
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樋口一葉の和歌の師・中島歌子。その雅な立ち姿の奥に秘められた壮絶な半生を描いた長編小説。
主人公・登世(のちの中島歌子)は、ただ過酷な運命に耐え忍ぶだけの女ではない。かといって、闇雲に反発するわけでもない。どんな苦難の中でも自分を見失わず、運命を静かに受け止めるたおやかで、柔軟な心を持った女性だ。
裕福な商家に育ちながら、水戸の志士・林以徳へ一途な恋を貫き嫁いだ登世。しかし待ち受けていたのは、水戸藩内における「尊王攘夷派」と「佐幕派」の凄惨な内乱だった。同じ藩の人間同士が殺し合いを繰り広げ、妻子まで斬首されるという理不尽な連座で牢獄に繋がれる登世。紙も筆すらない極寒の牢内で仲間が倒れていく過酷な環境に置かれても、彼女はそのしなやかさで地獄のような日々を生き延びる。
本作の核にあるのは、一人の女性の切ない物語にとどまらない、時代の大きなうねりとそこに巻き込まれる人間たちの姿だ。
維新が成り、命を懸けた志も、彼女たちが嗜んだ大和言葉の美徳すらも時代の変化とともに過去のものとなっていく中で、登世は過剰に固執することなく、新しい明治の世を柔軟に生き抜いていく。
弟子である三宅花圃が手記を開くまで秘められていた、歴史の影に埋もれた無数の記憶。それを胸に抱きながら、己の美学で時代を渡った一人の女の生き様が静かに心に残る一冊。 -
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植物学者として名高い牧野富太郎の伝記的な小説。
遺族の全面協力を得て、資料を駆使、存在感ありあり。
さすが、朝井まかてさん。読み応えがありました!
2023年前期の朝ドラ「らんまん」に取り上げられた牧野富太郎。
子供の頃から、その名は知っておりました。とにかく、牧野富太郎が名前をつけた植物が多くて図鑑に載っていたのでね。
ドラマを見終わってから読んだのは、一種の勘?(笑)
ドラマより、ヒドイやつ…とんでもない旦那だわ…!
…ま、天才ですから?
天才ぶりも、想像を超えてますね。
明治初期の土佐、佐川村。
老舗の造り酒屋に生まれ、頭は良かったが。
制度として始まったばかりの小学校は中退。ただ、それ以前に寺子屋や塾で教育は受けていたので、既に基礎は出来ていました。
家業には興味を示さず、木や花や草を見て歩いてばかり。その標本の数の多いこと。
絵は上手で緻密で正確。本は読んだにしても、ほぼ独学という。驚嘆に値するものでした。
帝国大学理学部植物学教室にも出入りを許され、どんどん学問にのめり込んでいく。
跡を継ぐために従姉妹と形ばかりの結婚をして、自分は研究の費用を送金してもらうのみ。
ついに、実家は倒産…
東京では、恋女房の壽衛(すえ)さんにやり繰りを任せ、植物の採集と本の出版に打ち込み、借金の取り立てから逃げて、引っ越しを繰り返す。
次々に子をもうけながら。
壽衛さんは夫を支えて頑張りますよ~すごい女性です!
ドラマでは、富太郎がモデルの役(神木隆之介)を支える兄弟分の手代(志尊淳)の活躍もあり、実際にはその人は東京にはついて来なかったのだけど。
最初の妻で酒屋を継いだ従姉妹と、手代さんが後に結婚する運びになるのは史実通り。
従姉妹さんが幸せになっていて、良かったわ~!(笑)
牧野富太郎の写真は目がキラキラしていて、明るく人当たりがいい性格だったことは、現れてますね。でも、借金あるのに大盤振る舞いしたりしちゃうのね…それだけはやめて!(笑)
学歴がないため、楽な道のりではなかったが、才能と実績に感嘆する支援者も、少なくはなかった。
研究だけでも大量のものを書いているのに、手紙や日記も書いている。
生々しい肉声に「どの口が言うか」とか言ってやりたくなったりしますが。
壽衛さんの並々ならぬ苦労、内助を超えた貢献。
夫を心から尊敬し、また自分も店を経営する程に力を発揮出来たことで、充実していたのではないかな。
その愛に免じて?許してあげましょうか(笑) -
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朝井まかて、直木賞受賞作『恋歌』。
樋口一葉の師・中島歌子こと中島登世は、幕末の江戸で商家に生まれ育った。
水戸藩士に恋心を抱き、成就させることに。
夫となる林以徳は、尊王攘夷派の急先鋒である水戸藩・天狗党の志士だった。
やがて水戸藩で天狗党と諸生党の内乱が勃発。登世は、同じ天狗党の夫を持つ妻子と共に投獄される…
幕末の水戸藩。尊王攘夷の思想が溢れかえっていた。慶喜を擁しながらも幕末の表舞台には現れないのは⁇と思っていたが…
内乱が激しかったのか。
あまり歴史の表舞台には出てこない…
血気盛んな藤田小四郎の思いもわからないでもないが、以徳が言うように、水戸藩内で争っている時ではなかったはずだ。おかげで水戸藩は薩長に遅れをとってしまったのだから。
以徳を待ち続ける登世。その想いがせつない。
以徳も自らの立場を考え、登世を嫁として、届けていなかったとは…
わずかな間しか一緒にいれなかったにもかかわらず、ふたりの互いへの想いがせつない。
登世は何十年も以徳を思いつづけ、やっと以徳のもとへ。なんともせつない。
そして、以徳や小四郎をはじめ、天狗党にかかわるひとたちを亡きものとした、諸生党の首魁・市川三左衛門への想いを、娘・登世へと自らのあとを託すことで、幕末の水戸藩への鎮魂とした中島歌子に心を打たれた。
最初はなかなか進まない…
何なんだろう、この話は⁇という感じ。
天狗党の乱が始まってからはあっというま。
さすが『直木賞受賞作品』だった。
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大阪自由亭も順調に行くかと思いきや、波瀾万丈で草野丈吉も亡くなり、娘の錦が跡を継ぎ、自由亭は大阪ホテルとなる。錦を支えた星丘が亡くなると、大阪ホテルは売却された。
上下巻纏めて、
草野丈吉の妻ゆきの視点で自由亭の誕生から繁栄、自由亭が草野ファミリーから手放されていくまでが描かれている。
人の一生を思うに、つくづく人は1人で生きているのではないと思わされる。草野丈吉も五代友厚、陸奥宗光らの支えがあってこそ、自由亭を大きく出来た。丈吉自身も星丘が災難に会った時に助けている。その星丘も丈吉が亡くなったあと、娘の錦を支え続けた。
それにしても昔の人は早くに亡くなっている、人生50年の時代。今は人生100年と言われるが、
印象に残った文章
⒈天下の貨財は私すべきものにあらずと思っている。たとい失敗し、あるいは産を空しゅうすることがあったとしても、国家国民を幸福ならしむることを得れば、おれの望みはそこで成っている(五代友厚)
⒉雷は一度きり、失敗したその後どうするかが人間の分かれ目や(草野丈吉)
⒊己で稼いで己が費消するだけでは面白ないがな。商いは、かあっと胸の熱うなる大義こそが帆柱や(草野丈吉) -
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朝ドラを思い返しながら読む。学者馬鹿、凄まじいわ。ドラマは神木隆之介のどこか小動物っぽい可愛らしさで救われたけど、実際裕福な家の財産食い潰して、とんでもない借金何度もこさえて、物好きな金持ちに返してもらう人生、他にある?祖母から始まり先妻後妻と女運がよっぽど良かったのか。スエを送ったあとの猶との会話がとても好き。誇りをもってあなたを支えた。あなたに夢中だった。そんな風にスエを語る猶も素敵。先妻と後妻がなかよしってすごいよ。学者だの文人だの、何か大仕事した人ってその分他がポンコツなんだろうなあ。そして、生家で死ぬほど貧乏したのに、せっかく結婚して人並みに暮らせたのに、二人揃って離縁ってなんでなの、娘たち。母の苦労を引き継ぐの?この装丁可愛くていいなあ。