朝井まかてのレビュー一覧
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江戸末期から明治の動乱の時代を生き抜いた歌人、中島歌子の半生と恋心を描く、骨太の時代小説です。
物語は、病に伏した師の見舞に訪れた弟子が、師が書いたものであろう手記を見つけたところから始まる。歌人である師のそれはただの書き付けなどではなく、目の前にまざまざと情景が浮かび上がるようなその半生を綴った長い物語だった。手記は若かりし頃の師――登世の娘時代の淡くも色鮮やかな恋から、水戸に嫁いで何かと苦労をしつつも夫を慕うささやかな日々を描いていたものが一変、水戸藩内の内紛から天狗党藩士の家人への苛烈な弾圧、投獄など時代の潮流に翻弄される妻子たちの姿を浮き彫りにしていく。激動の時代をなんとか生き抜 -
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初出 2020〜21「読楽」
面白かった!
鎖国直後の江戸初期、田畑のない北国の山あいゆえに支配者がなく、自治を行い籤で物事が決まる「青姫の郷」に、郷役の武士と悶着を起こして逃げ出した名主の弟で杜宇という青年が転がり込む。
彼は借金し、森を切り拓いて1反(1000㎡)の田を造成して米を作るが1石(180kl)の自己申告年貢に対して4合(720ml)しか取れなかったが、なぜか揉めた相手の武士(久四郎)も転がり込んできて一緒に頑張り、翌年は3石8斗の年貢を納めた。(上田でも標準収穫高は反当たり1石2斗とされ、年貢は5公5民で6斗、一般に新開田は3年無年貢なのでこれは法外)
籤によって郷の長を -
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「そうだ、京都へ行こう」のノリで
「そうだ、北斎美術館に行こう」と謎の閃きに突き動かされ、
あれよあれよと北斎に魅せられて結局、
こちらもコンプリート。
面白くて引き込まれて…娘の人生も味わい深い。
映画『おーい、応為』を鑑賞したけれど、
小説とは打って変わって凡庸な、というか
まぁ人1人の人生ってこんなもんだよな…
と思い出させるような、
人生において忘れられないような大きな出来事が起こった時でさえも現実の生活が続いていく(しかない)日々の儚さの方が強くが描かれていて。
小説ではもっと激動で、リズミカルで
まさに北斎の『The Great Waves 』のような
色彩豊かな応為の人生が描 -
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久しぶりの時代小説。久しぶりの朝井まかて。
「すかたん」をずいぶんまえに読んでとてもおもしろかったのでまちがいはないだろうと。
タイトルの雰囲気が似ていたし。
江戸徳川11代の時代の庭師の話。いいなあ。タイムスリップするならこれくらいの時代に行って、お百合のような町娘になってみたい。
登場人物がみんな生き生きしている。ちゃらはもちろんだけど、五郎太がかっこよすぎる。
お百合に惚れているのに、プロポーズまでしたのに、お百合のこころはちゃらに・・・すると、潔く身を引いて。
庭の描写や高野槙の仕立て方、石の組み方。ずいぶんと作者は勉強したことだろう、奥付の参考文献を見て納得。長兵衛が、「絵に描いたよ -
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恥ずかしながら、イコンというものの存在を初めて知りました。
わたしは絵は描けませんが、これまで漠然と「絵を描くということは芸術」なのだと思っていたので、主人公が思うように絵を描かせてもらえず苦しんでいる間、そのように仕向ける指導者の想いはまったく理解できませんでした。しかし主人公が突然「信仰」を理解するシーンは、それまでの価値観が剥ぎ取られるような、それでいてすべてが腑に落ち、憎しみが削げ落ちて愛の光に包まれるような、インパクトのあるものでした。
読後半年以上経ちましたが、あの表現し難い衝撃のようなものは胸に残っています。
中途半端でなく信仰に生きることを貫く人の、凄みのようなものを感じました