朝井まかてのレビュー一覧
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ネタバレ星6つにしたいほどの面白さ。
自分の境遇と重なる部分もあり、言語化できずにいた気持ちをふわりと示してくれる巧みさにも唸る。
25歳の介護人お咲は所謂シゴデキで、雇用主にひっきりなしに頼りにされる。自宅に於いても休む暇はなく働き詰めだ。別れた亭主に借金を返さねばならず、気持ちも沈むし時に苛立つ。妙な達観を見せず、自分事はぐずぐずと同じところに留まっているが、人の事となると心の機微に聡く核心をつく。そこがリアルで魅力だ。
今だと35歳位の感覚だろうか。中堅どころ。
傍から見れば仕事をそつなくこなせる頼れる人材だが、本人は時に「私は玄人」と自分を鼓舞しながら必死に仕事に食らいつく。その内面がとてもリアルで自分の若かりし頃も思い出した。
登場人物は皆魅力に溢れ、町の活気が隠居生活の暗さと共に鮮やかに目に浮かぶ。
何度も読み返したくなる一冊だった。 -
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森鴎外の末子、森類が大正から昭和、平成を生き抜く物語。
偉人の息子として生まれた森類の煌びやかな少年時代と、偉大すぎる親を持った故の懊悩を描いている。
類は森鴎外の事をパッパと呼ぶ。
それだけで、当時の森類の生活レベルが分かるようだ。
大正時代に海外文化を生活に積極的に取り入れ、食事や芸術を楽しんでいる森家の雰囲気がなんともモダンで、読んでいるとなんだか羨ましくなる。
現代のように日本の生活と海外の文化が混ざり合っておらず、それぞれを大事にし、意識を持って向き合い大切にしている空気に、この時代特有の豊かさを感じた。
誰もが名前を知っている森鴎外という作家の人間像も温かく描かれる。
妻と子供達を愛し、死の間際までプライドをもって仕事に励む森鴎外の熱い生き様が、物語序盤に関わらず明治の男の姿を心に読者に焼き付ける。
独特な感性と文章力を持ち、自分のペースで人生を謳歌する長女、森茉莉。
一家を支える精神的な強さと優しさに溢れ、絵や文学にも才能を発揮する、森杏奴。
二人の姉も個性豊かに描かれており、長編の小説にも関わらず、飽きずに読めた。
作品を通して、実在する人の一生を追体験すると、いつも言葉にできない感慨を覚える。
朝井まかて作品の中では、1、2を争うレベルで好きだった。 -
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森鴎外の末子、明治時代のお坊ちゃんである森類の生涯。
550頁超の読み応えだが、類さんの名前も知らなかったくらいなので、どのような展開になるのかがわからなくて、ずっと面白い。こういう人の小説こそ読みたい。
甘ったれで勉強ができず、社会に出て苦労したことがなく、パッパのような何者かになろうとするが、画家としても作家としてもなかなか芽が出ない。贅沢をして煙草ばかり喫んでいる。
森家の財産を食いつぶしていく様子、特に鴎外の版権が切れた後、戦後は読んでいて恐い。それでも、お坊ちゃん特有のおおらかさ、無邪気さ、善良さのため、どこか話が深刻にならないのがおかしい。
「役に立つ立たないじゃないんですよ。あなたのような人が生きること自体が、現代では無理なんです」(40過ぎで初めて働いた出版社の編集部員)
「威張るんじゃない」「いいか、肝に銘じておきたまえ。鴎外が偉いんであって、君が偉いんじゃない」(小林勇)
「僕にはこれしかない、死んででもやり抜くという決意、あなたにはそれがないのよ」(妻)
彼らの言い分は正しい。子どもが4人もいるなら尚更だ。
しかし、正しいと感じる分だけ、姉森茉莉が体現していた「底抜けの善良さ」や戦前の東京にあった社会の余裕が失われてしまったことが悲しい。
森茉莉、杏奴との姉弟関係が変化していく様子、当時のその場所に居合わせたような感覚になれるのも楽しい。 -
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明治神宮外苑内苑は人工の杜である。この事業のとてつもない苦労は想像できました。それだけでも、興味深いのですが、更に明治天皇の人柄にもスポットライトが当てられ、あっと言う間に読み進んでしまいました。明治から大正、昭和と時代は移り変わり、杜も豊かに育っている。そして、現代は令和、明治天皇のお人柄と今上天皇のお人柄、共通する所が多く、変わらない皇室の姿勢に胸が熱くなりました。世界一歴史のある天皇と言う存在を守り続ける日本。私はなんと素晴らしい国に生まれて来たのか、今、とても感動しています。日本人の在り方を今一度考え、忘れてはいけないと思いました。
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ネタバレ実在の人物をあつかう物語にはそれなりの制約がある。事実を歪めての展開はできない。にもかかわらず、これだけの広がりを物語に持たせる朝井まかてさんはさすがと思う。
綺羅星の如く、幕末明治の歴史をを作ってきた人々が次々と表れるが、彼らはこの物語の中では、時代の背景にすぎないとさえ思われる。事実の隙をつくように、いきいきと描かれた庶民たちが、時代の中で精一杯生き、次の時代へと命を繋ぐ物語だ。
草野丈吉の妻であるゆきについても、どれだけの資料があったのか。色白で大柄ということくらいしかわかっていないようだ。そこからこんなにも個性的な人物に仕立てられて、見事というほかない。
引田屋の女将の凛とした佇まい、松竹梅の芸姑たちは、物語のそこここでコミカルな役割を演じるし、豆腐屋の親父も狂言回しとして上等だ。
ゆきと、姑のふじが丈吉に珈琲を淹れさせる場面など秀逸でユーモアに溢れているし、義妹の相手が浮気しているのではと確かめようとしたらそれが・・・というところも展開が見事で思わず膝を打つ。
丈吉は、事業には成功したが、家族は幸福なことばかりではなかった。それでも時代が進み、ゆきは精一杯生きる。市井の人としての姿には引き込まれ、ほぼ一気読みだった。 -
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朝井まかての大奥もの、というか、幕末ものでしょうか。
仕事に生きてきた女性たちの、江戸城最後の日を描きます。
江戸城の無血開城が決まった後。
天璋院篤姫が出立前に一同を集め、粛々と城を出ていくように諭します。
荷物はすべて後から送ってくれるはずだからと。
天璋院が去った後、奥勤めの女中たちは皆右往左往して、出来る限り荷物を持って我先に出ていくのでした。
呉服之間に勤めるお針子だったりつは、もう一度部屋を確かめたくなり、戻ります。
お蛸という女中が天璋院の猫を追いかけているのに出くわし、一緒に捜し歩きます。
すると、ちかという女中もまだ残っていました。
さらには御中臈のふきと、和宮のほうの呉服之間に仕えていたもみぢがいました。
御中臈のふきは、りつなど顔を見たこともないほど雲の上の女性。憧れの存在です。
もみぢは、会ったことこそないけれど、呉服之間には腕利きがいると聞き及んでいました。
5人の女性が残った理由。
まだすぐには去ろうとしない理由は。
大奥というと、美しい女性が豪華な衣装で上様に侍るイメージですが。そういう女性は数限られていて、実際はその世話をする組織で働いている女性が多い。
キャリアウーマンの集まりでもあったのでした。
その職場が失われるとき。
無念さやこだわり、別れを惜しむ気持ち。
突っ張っていたのが、しだいに打ち解けて語り合い、2日目を迎え‥
荒々しく乗り込んできた武士たちを物陰から見る。
後の世にまた再会するエピローグが、とても素敵です。
お気に入りの作品になりました。