朝井まかてのレビュー一覧
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介護(本作中では「介抱」)がテーマになる話を、現代を舞台にした小説で読んでいたら、実際に介護にかかわる日々を送っている読者にとっては、あまりにシビアで結構滅入ってしまったかもしれません。
本作を読んでみて、決して滅入ることはありませんでした。これは江戸の町人の暮らしの中での話…と割り切りながらも、老いるということの意味は昔も今も変わらないのだと思いました。
本作のよいところは、「こうあるべき」とか「こうあらねばならない」などと結論付けていないところなのかなと。むしろ本作そのものが、作中に登場する洒落の効いた『介抱指南』のようにも思えてきます。
他人さまの介抱にかけてはプロフェッショナルの -
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森鴎外の息子、類の人生を辿った物語。何か劇的なことが起こるわけでもなく、ただただ類を中心とした森家の70年を辿っているのだが、全く退屈することなく、この長編を最後までじっくりと味わいながら読むことができた。
大正モダン、鴎外の子煩悩ぶり、戦前の豪邸、芸術家が切磋琢磨するパリ、戦時中の庶民の暮らし、戦後のバラック、「もはや戦後ではない」と言われた昭和の暮らしぶりなどなどの描写が美しく、一つ一つの文から情景や当時の人々の雰囲気が伝わり、実に味わい深い。自分が生まれる前の日本の姿が目に浮かぶようで、このような時代を経て、今の日本があるのかとしみじみ思う。
「本当の夢は、何も望まず、何も達しようと -
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普段あまり時代物を読まないタイプだが一気に読み進めてしまった。
とにかく切なく、やり場のない思い。
と同時に武士の生き様を見たという感動。
どんな状況になろうが誇り高く生きている姿に心を打たれた。
私もこんなふうに真っ直ぐ生きたい。
歴史に名こそ残せなかったかもしれないが、その者たちの人生をかけた戦いにより今の私たちの暮らしがあると思う。今自分が立っている場所は昔誰かが流した血が染み込んだ大地、昔誰かが愛するものを信じ、歩き続けた道なのかもしれない、そう思うと今の、あまり不自由のない生活をできている事に感謝をしながら胸を張って歩きたい。
また、貧しさは人の心を狭くする、という言葉に、税金や物 -
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初めは日本橋にあった吉原が、新吉原として浅草に移転するまでの波瀾万丈な物語を、吉原一の大見世・西田屋の女将の花仍(かや)の視点から描く大作。
元吉原が始まったのが江戸時代初期、新吉原への移転が明暦の大火(1657年)以降なので、大河ドラマ『べらぼう』の舞台は新吉原ということになる。
花仍をはじめ、西田屋のトラ婆、清五郎、松葉屋の女将多可、三浦屋の女将久、若葉など、登場人物たちがなんとも魅力的で、そのどうにもならない運命に心が痛むが、惹かれてしまう。
江戸の大火は延宝から慶応のおよそ200 年間の間に22回も起きており、江戸はそのたび焼き尽くされた。それが吉原の運命も左右していく。 -
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素晴らしかった。
ほんとに素晴らしい本だった。
心にくるものがすごく深く、また大きすぎて、
【素晴らしい】という言葉しか思い浮かばない。
あの描写がよかった、あそこの表現に感動した、
などという、巧い文章にできない。
そういうところは、言葉より音楽を愛していた、
幼い頃の私が出てきてしまう。
文章で表したいのに、言葉にすると、いま感じていることの、とても細かい部分を取りこぼしてしまいそうになってしまい、どうしたらいいのか、私は分からなくなる。
そんなことを発しても、芸術をも愛していた森類氏は、わかってくれるだろうか?
想像してみるのも、また面白く、きっといつか、再度読みたい、森家の人間 -
Posted by ブクログ
朝井まかてさんの時代もの、400頁近くあるが、ほぼ一気読み。長崎に実在した油屋の豪商、大浦屋の女主人お希以(おけい、のちに慶と名乗る)の波瀾万丈の物語だったので、先へ先へと読まされた。
いつもながら、登場人物たちの個性が際立つ描き方が素晴らしく、名前があればすぐに「ああ、あの」と浮かぶので、長編の中でも迷子にならない。歴史に名を残した人たちよりも、友助やおよし、弥右衛門などの使用人たち、茶葉に関わるおみつや茂作たち、茶葉の輸出のきっかけを作ってくれるテキストル、市井の人たちの方が魅力的に描かれている。
それにしても、幕末にすごい商人がいたものだ。
朝井まかてさんの『朝星夜星』の自由軒もちょこ