朝井まかてのレビュー一覧
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秋ですね。
茸のおいしい季節となりましたが、高級食材の松茸を庶民が口にするには、相当な覚悟が必要です。
江戸中期の尾張藩でも事情は同じようで、藩の特産品として方々のお偉いさんにご進物するのですが、近年は不作続きで、全く足りません。足りない分はどうすのかといいますと、商人から買いつけます。ただであげるものを商人から買うのですから、お金はすべて持ち出し。ただの見栄のためだけに、莫大なお金をつぎ込むます。名古屋らしいといえばらしいのですが、藩の財政は悪化の一途。今の世なら財政破綻自治体入り確実です。さあ、ここで御松茸同心の出番です。
その任についたのは江戸詰めの若き藩士、小四郎。優秀だが融通のきかぬ頑固者。上司も同期もみんなバカにみえる。その優秀さを買われての任かというとその逆で、生意気すぎて左遷させられた。要するに都落ち。
だいたい、御松茸同心なんて役職、ほんとにあったのか?
天才的に作り話のうまい朝井まかてさんなので、すべてありそうな感じで読んでしまったけど、どこまでほんとなのだろう。尾張藩の特産品が松茸だってことは合っているのかな?
それはさておき、松茸の不作豊作は人が介入してどうこうできる問題ではないというのが、その当時の常識。当たり年もあればハズレもある。しかし、それでは己のプライドが許さぬ小四郎は、年月をかけて、書物にあたり、人に頭を下げて、とうとう松茸生育の謎を解き明かしてしまう。
なかなかの熱血漢じゃないか。
その過程で見えてくる人間模様は、じんわり人情物語が満載だ。
朝井まかてさんの時代小説、女性が主人公だと生き生きと描くんだけど、男だとそうでもないのが多かった。でも今作品は男が主人公でも生き生きとしていた。
聞いたこともない変わり種の松茸料理も出てくるので、生唾がでてくる。
ああ、松茸たべたい。 -
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大坂豪商 辰巳屋の跡目争いが、大岡越前守、吉宗公を巻き込む騒動になっていく。
さすが朝井まかて、一気に読んでしまった。
時代小説の好きなところは、ストーリーも楽しめながら当時の文化や風習、経済など知らなかったことがわかるところ。
主人公は木津屋吉兵衛の視点で進んでいくが、知らず知らず応援していたほどキャラクターが魅力的に描かれている。
残り50ページになったとき、ここからどうやって挽回できるのか、するのか、とハラハラしてしまった。
誰が悪玉なのか、捉え方によって異なる。
大阪大学教授 高島先生の解説は本編を読んだ後に読むとよい。
当時の金銀貨の価値、経済、裁きなどなど着目点がわかりやすくまさに“解説”。
また読みたくなった。
朝井まかての作品は、読後が本当に良い。
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朝井まかての本を初めて読んだ。心地よい。次はデビュー作から順に読んでみたいなと思った。
「季節の中で風がいちばんうまいのは、夏の初めだ。」という文章で物語は始まる。これは題名にあるちゃんちゃらが口癖のちゃらの言葉。浮浪児だった彼は庭師辰蔵に声かけられ、庭師としての修行、腕をあげていく。序章から第一章に入り心惹かれる施主の娘の言葉としても「風がいちばんおいしいのは夏なのよ。」があり、終章 ちゃらが亡き後、辰蔵の娘お百合が「季節の中で風がいちばんうまいのは、夏の初めだ。」と石積みの階段を駆け上がるという情景描写がある。
序章 緑摘み、第一章 千両の庭、第二章 南蛮好みの庭、第三章 古里の庭、第四章 祈りの庭、第五章 名残りの庭、終章 空仕事で構成。「空に近い場所で働くから、庭師の仕事は空仕事だ。お前ぇ、空仕事してみろ。」と物語早々親方辰蔵が、茶店の握り飯を掠め取り神社の高い樟の木に駆け上ったちゃらに声かけるのだが、空仕事ということばで、まずその世界がパッと広がり、しっかり基礎工事ができてる感ある章区切りで、ぐいぐい読み進める。話は前後するが、そもそもちゃんちゃらという題名が魅力的で、題字の間を自在に飛び跳ねる感ある赤毛に印半纏の挿絵が、また魅力を増幅している。
流行り病に、アヘンの流入という江戸末期の舞台、辰蔵の弟子玄林、福助、アヘンをも扱う妖しげな作庭の文人白楊など登場人物たちを鮮明に描写。そのつながり、絡め方もわかりやすく魅力的。
参考文献として、「穴太の石積」「江戸の病」「実録アヘン戦争」「築山庭造伝」「禅僧とめぐる京の名庭」「夢窓疎石の庭と人生」など19冊があげられているが、これらを練り込み素敵な時代小説。名庭を見に行きたいと思わせる作庭、木と共に生きる世界の魅力も活写。映画にしても面白いだろうなと思った作品。 -
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朝井まかてデビュー三作目。
江戸時代の大阪が舞台の、笑えて威勢のいい商家物です。描かれる業界は、植木屋から離れて、青物屋へ。
大坂城へ赴任した武士の夫と共に、知里は生まれ育った江戸から大坂へやってきました。
ところが、頼みの夫が急死。
食い詰めかけたが~ひょんなことから、青物問屋の老舗「河内屋」で働くことになります。
それも、お家さん(女主人)の志乃に仕える上女中として、びしびししごかれることに。
仕事を紹介してくれた若だんな・清太郎は、家にろくに寄り付きもしない道楽息子という噂。
しかし、野菜にかけては真剣で、農家にも熱心に顔を出している。
さまざまなトラブルに一緒になって奔走し、河内屋の事情も知っていく知里。
最初は不慣れで頼りなかったが、ちゃきちゃきの江戸っ子の知里は頑張り屋で、いざとなれば啖呵を切ることもある。
いつしか、清太郎と惹かれあうようになりますが…?
周りにはバレバレになっても、黙って身を引こうとしているじれったさ(笑)
恋愛描写は多くはないけれど、展開がわかりやすくてストレート。
1作目2作目よりも快適な印象で、楽しく読めました。 -
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たまーに、上方落語の番組を観ます。流れるようなしゃべりと、様々な人を一瞬で演じ分ける演技は毎回すごいな、と思うのですが、その落語の演目にこの『すかたん』の冒頭を入れてもいいのではないかなあと、思ってしまいます。
夫に共に江戸から大阪に移り住んだ智里ですが、その夫が急死。智里は子どもたちに手習いを教えることで、糊口をしのいでいます。
しかし、大阪の子どもたちに言葉遣いをからかわれ職を失い、その上空き巣に入られ、家賃が払えないという状況に。そこに現われたのが青物問屋の若旦那である清太郎。ただ、この清太郎がなかなかのくせ者で。
智里と大阪人たちとの小気味の良いやり取りと語り口、江戸から来た智里の見る大阪人たちの特性の表現、何より智里の啖呵と開き直りが素晴らしい!
時代小説とはいえ「おたんこなすの唐変木」なんて言葉を自然に読ませる、朝井まかてさんの文章の技量、そしてキャラクターと会話の妙にあっという間に引き込まれます。これを上手い落語家さんがやったら、たぶん一つの演目として通用すると思うのです。
そして清太郎の問屋に女中奉公することになった智里。そこに待っていたのは、清太郎の母親で家の女将である志乃。この志乃の上品でいて、厳しさが随所ににじみ出る関西弁がまた良い味を出してます。そして何より彼女に一本気が通っているのが良い。
立場的に下手すれば嫌味なキャラになりかねないのに、それを感じさせません。そんな志乃にビシバシ鍛えられつつも、徐々に日々の生活に馴染んでいく智里の様子は、時代は違えど上質な朝ドラを見ているよう。
そして、食べ物の描写も良い。青物問屋なので出てくる料理に肉は全くないのに、それでもお腹がすいてくるような気がします。ある意味これは飯テロ小説だ(笑)
若旦那の清太郎は始終フラフラしながらも、野菜に関しては純粋で熱い。青物問屋という自身の立場を省みることなく、一心に行動します。しかし、それが大阪の青物業界を騒がせる事態となり……
そんな清太郎に振り回されながらも、どこか放っておけなくなる智里。そんな折りに頭に浮かぶのが智里の亡夫への思い。この思いがまた切ない……
話の前半はユーモア・ポップ路線だったのに、シリアスにしんみりとも、朝井まかてさんは読ませてくるのです。
そして、そんな智里の恋のライバルはもう一人。清太郎がひいきにしている芸者の小万。志乃の関西弁も好きだけど、この志乃の関西弁も魅力的。柔らかさと可愛さ、でもどこか抜け目無さも感じさせるしゃべりです。
そして物語のラストに魅せる彼女の芸者としての矜持も読ませます。志乃にしろ、この小万にしろ脇役なのが勿体ない……
魅力的な作品だと、その世界に入りこみたくなるときがあるのですが、この小説のラストは特にそれを強く感じました。自分も市場の商人たちと一緒に叫び、その場の空気を感じたくなります。最後の場面にずっととどまっていたい、そんな風に思ってしまいました。
『すかたん』は登場人物たちそれぞれの個性と矜持が連鎖に連鎖を重ね、そして素敵で"おもろい"作品に導かれた作品のように感じました。
朝井まかてさんの小説は久々に読んだけど、面白かったなあ。これからも定期的に、お世話になる作家さんになりそうです。 -
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江戸幕府の5代将軍であった徳川綱吉の物語である。
“最悪の将軍”という題名が酷く目立って、同時に強く好奇心を刺激されたので当初は然程気に掛からなかったが、表紙イラストに犬が描かれている。徳川綱吉と言えば、“犬公方”なる綽名を賜った人物で、平和になった時代に君臨して、「犬を大事にする」というような、何やら不思議な政策を採っていたというイメージが在るかもしれない。そしてそんなイメージがふわふわと漂う他方に、「どういう人物だったのか?」ということを正面から捉えて描き出そうとするような小説や映画やテレビドラマのようなモノが思い浮かぶのでもない。
そういう中、本作『最悪の将軍』は、徳川綱吉という人物が将軍に就任することになる辺りから物語が起こり、逝去するまでの生涯に起こった様々な出来事、徳川綱吉によるそれらとの向き合い方が綴られている。なかなかに興味深い。そして本作の徳川綱吉の「在りたい…」というような想いには、少なからず「惹かれる」というような感さえ否定出来ない。そういうことを丁寧に、同時に読み易い分量の中で描いた本作は、なかなかの秀作であると思う。
徳川綱吉は「大きな戦乱から免れている=平和な時代なりの人や社会の在り方」を模索し続けていたような面が在る。その故に「平和で華やいだ時代に君臨」というようなイメージが生まれたかもしれない。しかし…徳川綱吉の治世の下では、自然災害や都市での大規模火災、天候不順等のための飢饉という事態が少なくなく、江戸城内での大老暗殺や「赤穂浪士の討入」という不穏な事態も発生している。本作では、そういう事態に懸命に向き合う徳川綱吉の姿も描写されている。
本作の徳川綱吉は「邪無し」という言を座右の銘のようにしているようだ。「邪無し」とは、“考え”に留まらず、公務から私生活に至るまでの“あらゆる行動”について「正しい」を追い求めようという姿勢のことであるようだ。時代や場所を問わず、こういうことはなかなか言えるものでもない筈だと考える…
申し訳ないが、徳川綱吉は「古い時代の妙な指導者」とでも言うような、変なイメージが漠然と在るだけの史上の人名ということになるのかもしれない。対して本作は、この人物の「漠然としたイメージ以外の部分」に踏み込んでいる。そしてそこに浮かび上がる人物像は、「一定以上の敬意が払われて然るべき人物」というように思える。
様々な自然災害が続くような状況下で自身の理想の体現を願う為政者…古い時代の話しながら、“現代”に通じるテーマが潜んでいる…本作はそんな作品で、広く薦めたい。