あらすじ
大正十三年、宗教哲学者の柳宗悦が住む京都の家で女中奉公をはじめた少女サチ。ある日、河井寛次郎という陶芸家が柳家に来訪する。英国帰りの陶芸家・濱田庄司も同席し、男たちはすぐに意気投合した。彼らは共に小道具市を巡り、「下手物」すなわち日用の品に自由な美を見出し、それらを「民藝」と名付けた。薄汚れた古布や、埃にまみれた陶磁器に感嘆し、その美を世に提唱する三人の姿に驚かされるサチ。佳き品々に満ちた柳家での暮らしと、美を愛する人々との出会いを経て、彼女自身もやがて「民藝」に魅せられていく。百年前の京都で、新たな美「民藝」の世界を切り開いた人々の情熱と輝きの日々を描く歴史長編。
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「下手物(げてもの)」として軽んじられてきたふだん使いの品々に美を見出し、「民藝」と名づけて世に出した柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司の交わりを、柳家の女中サチの視線を通して描いた作品。
民藝が大好きなわたしにとって、柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司の3人はまさに神。プラス、女中さんモノも好きなので、読む前から面白いと確信していました。柳宗悦というと、やはり『手仕事の日本』のイメージなので、日本全国津々浦々の、土地に根づいた品々、顧みられることのなかったなんということのない日用品、あるいはもうすでに廃れてしまった工芸品なんかを発掘し、熱い思いを持ちながらも淡々と紹介する、というフラットな印象の人だったけど、フィクションとはいえこれを読む限り激ヤバの人じゃないですか!結婚当初から「借金がある」「稼がない」と宣言し、声楽家である妻の収入も朝市での「下手物買い」に全振りする。漬物を切らした、みたいなちょっとしたことでもすぐに癇癪をおこして家族をピリつかせる。ただ、ありふれたもののなかに隠れた美を見つける目だけはたしか。そして、そういった美を解する者には当たりも比較的柔らかい。サチは女学校出で学があって(それゆえ先輩女中の”ばあや”に謎の女中マウントをとられたりするんだけど)、芸術や文学の知識もあるし、感じる心も持っている。そのせいもあってか、サチが旦那さまから大目玉を喰らうことはない。この、女中として従順で、口に出していうわけではないけれど内心ではめちゃくちゃ柳家での暮らしに魅せられているサチの目から見た柳家の日常が、ほんとうに魅力的なんです。新鮮なバタを使ったハットケーキや、鶏のクリイムスチウにポテトサラド。盛りつけるのは朝市で見つけた古伊万里や古い九谷焼。湯呑がわりの蕎麦猪口。オーブンがないからと、いちかばちか直火で挑戦するスリップウェアでのペッパーライス。この物語に描かれてあったのはほかでもない、大正から昭和を生きたふつうの日本人のふつうの日常でした。日々のなかで山あり谷あり事件あり、嵐のときもあれば凪のときもあって、さまざまなことを経験しながら、毎日季節の物を手際よく工夫して料理して、お気に入りのふだん使いの食器に盛りつけて、気づけば一年、また一年と時が経っていく。特別でもなんでもないけれど、時が経つほどに味わい深さを増していく、この物語自体が「民藝」でした。サチの青春や、思いも寄らない彼女の出自が描かれていたり、この時代に女性として生きること、母親として生きることの息苦しさや不自由さなんかも描かれていて、あまりのもどかしさや不条理さにウッとなる場面もあるけれど、とにかく結末まですべてがすばらしかった。現時点での2026年ベスト本です。
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【民藝】を主催した柳宗悦の家に「ねえや」として奉公したさっちゃんの目を通して語られる、柳宗悦家族と民藝を取り巻く人々の昭和初期までのお話。
去年だったかな…民藝の美術館で展示会があって、民の中から生まれる美を楽しんだので、その精神が生きている世界での暮らしが楽しめた。
経済的な事は与り知らない…と公言する柳宗悦に振り回されながらもきっちり自分を貫く奥様が素敵だ。
河井寛次郎や浜田庄司等々、みんな魅力的。
そして最後に語られるさっちゃんの事。
沢山の悲しみや差別の中から、民藝を探し出す事の意義を思う。
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『青姫』に続いて2冊目の朝井まかてさん。
『青姫』で心をわしづかみにされた記憶も新しい。
こちらも素晴らしい作品だった。
大正から昭和へ。今の私たちからみれば女性は窮屈な時代と思われるが、奥様もサチ子も優しくしたたかに生き、魅力に溢れている。
「ごまかさないで生きるのよ。」
信念を貫くことはいつの時代も難しい。
「とるに足らぬと見過ごされがちな、ごく普通のものにも、一筋の価値はあるのだ、と。」
戦争の影が忍び寄り、読者に不安を残して物語は終わる。サチ子、奥様、生き延びて幸せになってほしいと願う。
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民藝の作品そのもののように
健やかで、伸びやかで、ほのぼのとあたたかい気持ちになれる
登場人物。
柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司、
民藝に興味があり、その名は知っていたけれど、
より深く、立体的に、この人たちのことを
知ることができた。
その妻たちも、強く、明るく、たのもしい。
人生という地図を、自ら明るい色合いにして
冒険を楽しむ、そんな気概が感じられて
憧れた。
何より、その登場人物の魅力を
たっぷりと伝えてくれる主人公サチの目線。
いじらしい恋心。
心地よい風に吹かれているような読書時間。
最後のページは、潮風を感じて、
いつまでも、そこにいたくなるような思いになった。
大好きな作品が、また一つ増えた。
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民藝の世界になぜこんなにも惹かれるのか、この小説を読んでほんの少しわかったような気がしてくる
錚々たる面々が生きて、会話している!3人はこんな関係だったのか、大原孫三郎もここでこんなふうに絡み、志賀直哉!棟方志功まで登場する
河井寛次郎記念館を数年前に訪ねて感動し、何枚も写真に収めてきた、その写真を眺めながらサチが訪問した夏の様子を思い浮かべながら読んだ
そしてなんと言っても幸太郎との淡い淡い恋
串団子のくだりで泣かされ、どうかどうか結ばれてほしいと願いながら読み、結末に安堵した。
それにしても兼子さんの魅力といったらとてつもない。映像化するなら宮沢りえ一択(笑)
この人のセリフで感極まった
「ごまかさないで生きるのよ」
朝井まかてさん、参りました!の瞬間
サチが立派な芭蕉布の職人になり、幸太郎と幸せに暮らしながら民藝の人たちと関わっていくフィクションも書いてほしいと思わされる作品でした
心打たれたぜ
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「民藝」という言葉は知っていても、実際にどういったものかは考えた事がなかった。
民衆の工藝。
とてもいい呼び方だ。
奥さまの人柄とパワフルさに元気をもらえる。
Posted by ブクログ
鑑賞するために造られた工芸品ではなく、
普段使いのために、日常生活のために造られた
品々を民藝品と呼びます。
明治、大正の頃は、これらの民藝品はそれこそ
日常で使われていましたが、昭和に入ってから
電化や自動化、そして大量生産によって瞬く間に
消えゆく運命にありました。
しかしその民藝品に価値を見出し、今日我々も
その一部に触れることができるのは、100年前に
「後世に残すべし」と蒐集に情熱を燃やした人たち
のおかげなのです。
それまでは見向きもされなかったモノに新たな
価値観を与える・・・、
これは現代でも必要とされる考え方です。
この本は「次の世代へ想いを引き継ぐ」という、
人としての大切な営みを気づかせてくれる一冊です。
Posted by ブクログ
大好きな一冊となった!「民藝」が生まれた瞬間にはじーんとしたし、柳宗悦をはじめとした民藝活動の中心人物たちによる「グロリアソサエテ」に心を打たれた。それ以上に惹きつけられたのは、妻兼子の生き方。良妻と声楽家(専門家)の間で揺れ動く。どちらをとるか捨てるかではない。どちらも大切。どちらも捨てられない。でも女性は否応なしに、家庭を優先させられる。そんな理不尽てある?それに対して、柳の自由奔放な(経済を顧みない)生き様を、腹立たしく感じる私⋯時代的には、むしろ柳が兼子の留学や仕事を許したことは、革新的なことなんだろうけど。そして、サチの出生の秘密。出身地や生まれによる差別についても描かれていて、なんだか私の興味のあることが物語に詰め込まれた、出会って本当に良かった本でした。
Posted by ブクログ
民藝の名付け親といえば柳宗悦さんと仲間たち
彼の家に女中奉公することになったサチ目線で描かれている。
大正から昭和にかけての時代背景、美味しいごはんと柳家の日常がありありと描かれていてすごく良かった。
特にごはんがほんとに美味しそうに書かれていてお腹がすく(笑)
デザイナーである長男の宗理さんのシンプルで実用的かつ美しいデザインも父の民藝に対する見方の影響を受けてるように思う。
が、次男の美術史家である宗玄さん、三男の園芸家である宗民さんと宗悦の関わり方がかなり希薄に感じる。
当時の子供と父親の関わり方はそんなものなのかな。
現代だったら確実に奥さんに怒られそうなところ。
奥さんの兼子さんは家庭の大蔵大臣として、旦那さんを支え、子供を大切に思いつつも、自身のやりたい事も叶えていてかっこいい女性という印象。
奥さんを主人公にした物語も読んでみたい。
そして、サチの幸せは…
Posted by ブクログ
大正時代、柳宗悦の家で奉公をしていたサチが主人公。「民藝」についてのストーリーかと思いきや、それだけではなく柳宗悦や奥様、そこでの生活が話の主。京都の風景も良し、サチがばあやや奥様と作る食事も美味しそう。今で言う丁寧な暮らしとはこのことだと思った。幸太郎さんとの関係も少し寂しくはあったけれどほっこりした。これから先のサチのハッピーエンドを願う。
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大正から昭和初期に「日用の美」「下手ものの美」を提唱する民藝運動を立ち上げた柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司(作者は彼らを「奇跡の3人」の呼ぶ)らの交わりと宗悦一家の生活をねえやサチの目を通して描く。
それまでの美術界からは見向きもされなかった朝鮮の陶磁器や木喰仏、無名の職人によって作られた下手物に日用の美を見出した宗悦。
河井、濱田たちも宗悦の影響を受け、自ら作陶に打ち込む。
美を追求しながら邪念を持てば台無しになる、無我無欲の境地を得ることの難しさ。
既に高名を得ながらも納得できる作品群を作るのに、河井は数年を要した。
一家の大黒柱で、自ら傑出した声楽家でもあった、宗悦の妻兼子。
収集と執筆、民藝美術館設立に奔走し家計を顧みない宗悦に対し、育児、家政、生活費調達を一手に引き受ける兼子の献身は感心するに余りある。
あまつさえ育児の傍ら自ら段取りしてドイツに声楽留学し現地のリサイタルで絶賛された兼子も、戦後も1984年に92歳で没するまで歌手として歌い続けた傑物だった。
本書に書かれた、共通の目的を追求し支え合う仲間たちの姿は、ある意味作者の理想か。
ねえや、ばあや、大ばあやの存在など、当時の知識階級の暮らしが生き生きとユーモラスに描かれているのも本書の魅力。
最終盤、サチは真鶴という名で沖縄出身であることが明かされる。
宗悦らが朝鮮と並び沖縄にも深い関心を持ち、度々訪れていたことの反映だろうか。
全編で語り手となった本書のヒロイン、サチの行く末はその恋も含めて気になるが、2・26事件、支那事変が起き、徐々にきな臭くなる世情の中で沖縄に暮らすサチの将来には近づく暗雲の存在を感じてしまう。
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「民藝」を生み出した柳宗悦とその仲間、生活ぶりを、女中のサッちゃんが語る物語。当時の日本の空気が伝わってくる情景描写はまかて氏ならでは。サラダを「サラド」等、より実際の発音に近いカタカナ表記がモダンさを一層感じさせる。あるものでサッとこしらえる料理の描写も素晴らしい。
家中物で溢れようが、お金をどれだけ注ぎ込もうが、一般の民がつくり使った物の価値を広めようとする姿に、宗悦の一途さを感じる。併せて、宗悦らを応援しつつも自らの夢も貫き通す強さ、同時にセッちゃんに対する温かさも併せもった「奥様」がとても魅力的だった。
本書の記憶の新しいうちに「民藝美術館」に足を運びたい。
Posted by ブクログ
今回は、民藝という運動が多くの芸術家と関わっているためだろうか、経緯を登場人物の台詞で説明することが多いのが気になった。一人称ではないのだから、客観的に描かれてもよかったのではないかと思う。
それにしても、まかてさんの描く女性は相変わらず素敵だ。
男たちは物事を成し遂げてはいるが、なんとなく印象が薄い。時代の影響もあって、まだ女性の地位は低く、男性優位な社会にも関わらず。
中島兼子という声楽家の存在感が素晴らしい。彼女は、芸術家として自分を表現する欲求と、家庭の主婦のタスクの間で苦しむ。しかも、柳の活動を金銭面で支えなければならず、そのためには公演会を催して稼がなければならない。
芸術家として、表現者として学びたいという当たり前のことさえ、柳は許さない。半年のドイツ留学に至るまでの経緯は兼子の聡明で情熱的な描写が印象的だ。
民芸運動という芸術活動を推進しておきながら、妻の芸術活動を認められない宗悦は、ここではただのわがままで寂しがりやの夫でしかない。
サチは架空の人物だが、柳家には当然女中がいたであろう。
女学校出で、関東大震災後に京都に来て、柳家の女中となる。どこか訳ありの雰囲気な「ねえや」は、白樺も読んでおり、書物をジャンル別に書棚にしまうこともできる。民藝の品物を市で贖った後の荷物持ちや、家族や客人をもてなすための食材の買い出しなど、力もあるようだ。ただのお嬢さんではない。そして、西洋料理にも果敢に挑み、かなりの腕前で子供達のおやつに「ハットケーキ」を作ったり、客人をもてなす。他にも大ばあやや、ばあやがいて、威圧を感じたり、嫌味を言われたりするが、うまく切り抜けている。
彼女の視点で語られる、柳家や河井寛次郎や濱田庄司らとの交流は、穏やかで微笑ましい。最後にサチの出自が明かされるが、ネタバレになるのでここでは控える。
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日々の暮らしを飾る、美しい手仕事から稼業として生み出された民藝の品々。その目利きの親分が、こんなにわがままで銭勘定ができない、やりたい放題の家長だったとは。奥さんに同情してしまうが、余計なお世話だろうな。
「なぜ日本は、よその国を自分の国にしてしまったの?」「それは欲しかったからでしょう。」「なぜ、よその国が欲しいの?」「欲望は大きくなるの。大義名分を餌にして肥え太ってしまうの」「あんたたちを守ってやるとか、平和のためとか」ウクライナ侵攻から、明日で早4年…。
Posted by ブクログ
大正末期に勃興した「民藝運動」。提唱した柳宗悦、河井寬次郎、濱田庄司の三人が登場して、日本史の授業を思い出した。
物語は女中サチの目線で描かれていて、日常生活がベースとなっているので、その歴史上の人達に一気に親近感が増した。
そして、史実に基づいた部分と創作の部分がちょうどいいバランスで書かれていて、面白かった。
三人の出会いで脚光を浴びた「民藝」。長く愛用している柳宗理さんのキッチングッズを今日も使いながら、ちゃんと今の時代にも引き継がれているなと思った。
Posted by ブクログ
日常の美しさが描かれた小説です。
洗濯をして、料理をして、買い物に行き、掃除をする。働く。景色や、音楽、器や布を愛す。たくさんの色、匂い、音を感じられる作品でした。
芸術品ではない雑貨の美しさを賞賛することにより、市井の人々の素晴らしさに気付かされる、誇りがもてるように感じられました。(私はこんなきちんと暮らしてませんが)
ときどき、わずかに入る恋愛パートも良かったです。ほんとに僅かなので、逆に印象に残ります。