朝井まかてのレビュー一覧
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『豆は煮えたか』を符牒を合図にちょいと不思議な力で家業の傍ら卜占者をする深川佐賀町の水茶屋「ささげや」の女将・お玉。
看板メニューの豆大福はいつまでたってもうまくはつくれない。
そんな彼女の下に集まってくる人々の織りなす人間模様と縁。
豆は煮えたか
身のほど知らず
いつ咲く
雲隠れ
宝引き
くらぶ者なき
の全6遍の連作短編になっていて『ささげや』に訪れた人にそれぞれクローズアップして展開。
最後、全てがつながるような構成になってます。
不器用だけど優しい人情に癒され、ちょいとドキドキする場面ありつつもほっこりする好きな部類のお話達。
カバー外すと表紙に見返しもついていて柄が豆絞りになっているのもなんとも粋でたまらない。
2編目に占いの仕方がでてくるので、あれはそうやって占うんだと勉強にもなる。
とにもかくにも豆大福が食べたくなる素敵な一冊でした。
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時は大正時代。
柳宗悦は、陶芸家の河井寛次郎、濱田庄司らと共に日常の生活品を「民藝」と名付けて、美術品に負けない美があると提唱する。そんな彼らの生活や交わりを、柳宗悦の家で女中をはじめた17歳のサチの目線で描かれた物語。
最初は、どうにも退屈な話しだなと思って渋々読み進めていた。それが半分を超えたあたりから途端におもしろくなって後は夢中。
民藝が好きなので、黒田辰秋や芹沢銈介などがちらっと登場したことにもテンションが上がった!
サチと、声楽家の奥様、ばあやの3人の作る料理がどれも美味しそうなのもいい。それらが柳宗悦の選んだ器に盛り付けられている様子は、想像しただけで豊かで美しい。
渋々読んでいた前半部分は、後でもう一度読み返したら、伏線がいろいろと隠れていたことも発見できてとてとおもしろかったー! -
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朝井まかての本は読んでいて駆け上がるような不思議な感覚がある。そして人情の浮き沈みが読む手を惹きつける。職人気質の花師新次と支えるおりん。最後に染井吉野の名前が出てきて、丁度桜が咲き始めたこの時期にこの本に出会った事が奇跡の様に感じた。
デビュー作とは恐るべし。
この本は時代物が苦手な人にも勧めたい。テレビドラマになっても評判になるだろう。配役は誰がいいかなぁw
ここからはネタバレの好きなフレーズ
・「花火を取ってきたよ」と掌にそっと置いたのは赤い金平糖だった。
・「実さえ花さえ、その葉さえ、今生を限りと生きてこそ美しい」
・「どんな土地にも誰にでも、分け隔てなく春は巡ってくる」
・吉野桜(吉原の桜見、吉野花魁の為に植えた)
・ただ、人のために咲く、なればこそ美しく
・今では染井の地にちなんで染井吉野と呼ばれ、江戸っ子の憧れとなっている。
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娘のおあいから見た父西鶴の話。娘は父を嫌っていたので、最初はビックマウスの声のデカい嫌なジジイにしか見えないが、段々父が娘を愛していることがわかってきて、娘も愛されていることを自覚していく。
井原西鶴は刀剣を商う商家の生まれだったが、完全な放蕩息子で家業は継がず、年いくらかを実家からもらって暮らしている。俳諧師をやっているが、声ばかり大きく、仕掛けの上手なだけで、上席にいけない。
妻があったが亡くした。娘のおあいは目が見えない。弟たちは養子に行って、女中のお玉と3人で暮らしている。
その西鶴がめっきり句を作らなくなった。何やら長い物を書いているらしい。父が急に淡路に行くと言い出した。おあいも同行した。父は15日間ずっと書いていた。面白い草子になったと言った。「好色一代男」である。しかし版元が見つからない。
西鶴は下戸なのだとおあいは思い込んでいたが、弟を養子にだしてからお酒を絶っていたと知る。おあいが大きくなるまで死なれんと言っていたらしい。
そうして昔馴染みの荒砥屋さんが出版してくれることになった。荒砥屋さんはもともと出版などしたこたとはないけど、引き受けてくれたのだ。西鶴は自分で挿絵を描く。草子は売れに売れた。続編も出した。
西鶴は松尾芭蕉を毛嫌いしている。今度は住吉さんで大矢数俳諧二万三千五百句を興行する。
西鶴が浄瑠璃を書くようになって、しばらくして近松門左衛門が訪ねてきた。好色五人女を浄瑠璃にしていいか、わざわざ聞きにきたのだ。
綱吉が自分の娘と同じ鶴の字を名前に使ってはいけないと触れを出した。仕方なく西鵬と名を変える。
しばらくして西鶴は書けなくなるが、最後に「世間胸算用」を出版する。 -
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「下手物(げてもの)」として軽んじられてきたふだん使いの品々に美を見出し、「民藝」と名づけて世に出した柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司の交わりを、柳家の女中サチの視線を通して描いた作品。
民藝が大好きなわたしにとって、柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司の3人はまさに神。プラス、女中さんモノも好きなので、読む前から面白いと確信していました。柳宗悦というと、やはり『手仕事の日本』のイメージなので、日本全国津々浦々の、土地に根づいた品々、顧みられることのなかったなんということのない日用品、あるいはもうすでに廃れてしまった工芸品なんかを発掘し、熱い思いを持ちながらも淡々と紹介する、というフラットな印象の人だったけど、フィクションとはいえこれを読む限り激ヤバの人じゃないですか!結婚当初から「借金がある」「稼がない」と宣言し、声楽家である妻の収入も朝市での「下手物買い」に全振りする。漬物を切らした、みたいなちょっとしたことでもすぐに癇癪をおこして家族をピリつかせる。ただ、ありふれたもののなかに隠れた美を見つける目だけはたしか。そして、そういった美を解する者には当たりも比較的柔らかい。サチは女学校出で学があって(それゆえ先輩女中の”ばあや”に謎の女中マウントをとられたりするんだけど)、芸術や文学の知識もあるし、感じる心も持っている。そのせいもあってか、サチが旦那さまから大目玉を喰らうことはない。この、女中として従順で、口に出していうわけではないけれど内心ではめちゃくちゃ柳家での暮らしに魅せられているサチの目から見た柳家の日常が、ほんとうに魅力的なんです。新鮮なバタを使ったハットケーキや、鶏のクリイムスチウにポテトサラド。盛りつけるのは朝市で見つけた古伊万里や古い九谷焼。湯呑がわりの蕎麦猪口。オーブンがないからと、いちかばちか直火で挑戦するスリップウェアでのペッパーライス。この物語に描かれてあったのはほかでもない、大正から昭和を生きたふつうの日本人のふつうの日常でした。日々のなかで山あり谷あり事件あり、嵐のときもあれば凪のときもあって、さまざまなことを経験しながら、毎日季節の物を手際よく工夫して料理して、お気に入りのふだん使いの食器に盛りつけて、気づけば一年、また一年と時が経っていく。特別でもなんでもないけれど、時が経つほどに味わい深さを増していく、この物語自体が「民藝」でした。サチの青春や、思いも寄らない彼女の出自が描かれていたり、この時代に女性として生きること、母親として生きることの息苦しさや不自由さなんかも描かれていて、あまりのもどかしさや不条理さにウッとなる場面もあるけれど、とにかく結末まですべてがすばらしかった。現時点での2026年ベスト本です。 -
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将軍家綱の綱吉。館林の藩主で、館林宰相と呼ばれている。兄の家綱は病床にあるが、甲府宰相と呼ばれる兄の綱重は既になく、子供の綱豊の代になっている。いよいよ家綱が危なくなった時、大老の酒井は宮家から将軍をいただく案を出す。堀田や水戸光圀の声により、綱吉が次代の将軍と決まる。徳川幕府始まって以来、初めての直系ではない将軍である。
家綱は治世最後のあたりはもうほとんど幕政に関わっていなかった。まず綱吉は将軍の手に政治が戻るように頑張った。越前松平家を改易し、酒井を大老から罷免し、旧勢力を追い払った。安宅丸も廃した。
5歳の嫡男徳松が世をさった。7歳の女の子鶴が残ってはいるが、後継がいなくなった。地震が起きた。代替わりの武家諸法度を制定したが、武より文を基本としたものになった。そんな中、大老の堀田が若年寄の稲葉正休に斬りつけられて亡くなる。稲葉はその場で老中らに斬り殺された。淀川治水工事に稲葉は4万両かかるといい、河村瑞賢に訊いたら2万両で済むと答えられたので、職から外したことが原因らしい。鶴が紀州徳川家に入輿する。
鷹狩に用いるために犬を大名屋敷で飼っているのが、逃げだして野良犬になっていたりして市中に犬が多い。子を捨て、老親を捨て、犬を殺す。慈しみの心が世に広がらないと、命を大事にする風習が育たないように綱吉は思う。食犬を禁じる。生類を憐れむべし。犬小屋などで犬を匿う一方、店の売り物を奪った犬を打ち殺した店主が、入牢のうえ死んだりして、奉行のアホさ加減に腹が立ってくる。
松の廊下事件が起きる。浅野内匠頭が吉良上野介を討とうとした事件だ。なぜ刀を抜く。綱吉は浅野に切腹を申しつける。それが意外な事件を引き起こす。討ち入りだ。結果、吉良は改易、浪士たちは切腹で収まる。
地震が起き、津波が襲い、小田原城が崩れて、大火も起き、浅間山まで噴火した。その後出羽と陸奥で地震。余震も続いている。紀伊に嫁した鶴が亡くなった。綱豊がなつかない。気性にもよるから仕方ない。江戸城に入れて家宣と改名させる。
富士山の宝暦の大噴火。京では大火で仙洞御所と御所が焼けた。麻疹が流行り、綱吉と御台所信子は亡くなる。 -
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第50回直木賞受賞作。本屋が選ぶ時代小説大賞も受賞している。水戸藩は内ゲバをやっていたので、明治政府が出来た頃には死に体だったのだ。人材が残っていなかった。だから明治政府に人材を送り込めなかった。あまり水戸藩のことを考えたことがなかったな。
お宿池田屋の娘のお登世は水戸藩のお侍に恋をしている。そこに桜田門外ノ変が起こった。現場に向かって探すが、参加していなかったのか想い人は見つからない。
一年後愛しい林さまとお登世は再会した。水戸で怪我を負っているうちに、仲間が討ち入りしてしまったらしく、叔父、弟、知人が桜田門に散ったという。林は既に脱藩していた。林が水戸へ去った後、晴れて許されて中士の身分に戻り、お登世を娶った。その頃水戸の家中はふたつに割れていた。昔ながらの諸世党vs天狗党である。
林以徳の妹てつは家政に優れ、よく働く。お登世は着ているものにまで注意を受ける始末。侍の妻は木綿を着るものだそうだ。妹との仲は悪くなるばかり。
お登世はたまたま行き合った貞芳院と釣りを楽しむ。その頃夫の以徳は江戸の御藩邸に押し込めになっていた。薩摩と会合を持ったことが原因らしい。今は水戸に送還されて沙汰を待っていたが、一転して解放された。家茂公の上洛に従って護衛隊の命を受ける。4月の半ばに帰ってきた。
天狗党が筑波山で蜂起した。江戸からついてきてくれていた爺やも筑波山に向かう。家の前に諸世党らの手で汚物がまかれるようになる。以徳は天狗党の収束に向けて奔走している。猫の死体まで投げ込まれる。京では禁門の変が起きている。水戸では天狗党と諸世党の戦いが始まった。大砲まで出てくる。お登世とてつは牢獄に連行される。牢獄の中では日々誰かが死んでいった。諸世党の勝ちであった。
牢の者たちの処刑が始まった。やがて穴がいっぱいになったので、男児だけが処刑された。子を連れて行かれた女たちは餓死するなり、舌を噛み切るなどした。ある日突然釈放されて親戚預けになった。9ヶ月ほど経っていた。母のもとに転がり込む。
明治。お登世は中島歌子と名をかえ、萩の舎という私塾を営んでいた。貞芳院からお招きがあって、お会いした。薩長と水戸の違いは何かと問われ、
1. 幕府を倒す意思
2. 老獪さ と答えたが、貞芳院は
3. 貧しさ
を付け加えられた。
水戸に戻って婿を取らないか訊かれたが、適当に答えた。諸世党は最終的に処刑された。どうやら貞芳院はお登世を覚えていたようだった。
明治36年。お登世は肺炎で世を去る。61歳。
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ネタバレ『おーい、応為』を見ていつか読みたいなと思ってた
朝井まかてさんの『眩(くらら)』
北斎の三女で弟子のお栄こと葛飾 応為の生涯。
絵に魅入られ、父を支え、時に悩みながらも技を磨き後に江戸のレンブラントと言われる。
表紙絵は紙本著色一幅 26.3×39.4㎝ 文政~安政(1818~1860)頃描かれた代表作の吉原格子先之図
北斎の手伝いをしていたので、北斎に代わって描いている事もたくさんあっただろうが、実際は史実も作品もあまり現存していない。
それなのに、こんなに素敵に鮮明に書かれていて、さすがまかてさんと思った。
他の応為を題材にした作品の中でも抜群に読みやすいし面白い。
最後まで時太郎にはもやもやされっぱなしだったけど…
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おびのりさんのご紹介本です。
おびのりさんありがとうございます!
第34回柴田錬三郎賞受賞作
明治の終わりから森鴎外の末子の類の視点で類の生涯と家族関係を主軸に描かれていました。
鴎外の志げ夫人の前妻の子で長男の於菟、百日咳で亡くなった次男不律、長女の茉莉、次女の杏奴、そして三男の類。
七光りという言葉が作中に出てきますが、志げ夫人は元々鴎外の小説のファンで自分でも小説を書いています。
長女の森茉莉は有名ですので語るまでもないですね。
次女の杏奴も若い頃、文筆にいそしみ、類も晩年には画の道から文学の道に方向を変えて
『鴎外の子供たち』
『森家の人びと』
など自分の家族についての本を出版します。
類は「類ちゃん、本当に私たちを売るのね。そうまでして世に出たいのね」と家族に言われますが、本屋と父の印税収入では食べられない類は出版します。
この家族の中で、もちろん一番才能があったのは鴎外、あとはやっぱり『甘い蜜の部屋』で泉鏡花文学賞を受賞した茉莉でした。
子供たちに「パッパ」と呼ばれ愛された鴎外ですが、妻の志げは子供たちのしつけ役で、書いていた作品も鴎外の添削が入っているといわれて日の目をみることができず亡くなったというのは森家の家族の立ち位置を表しているように思いました。
男尊女卑的な家庭でしたが、類は画や文筆で成功できず変わり者の茉莉だけが特別でした。
文学者や画家ががたくさん出てくることは出てくるのですが、名前だけで森家の人びととの交流はそんなに描かれていなかったのが、ちょっと残念でした。