朝井まかてのレビュー一覧

  • ボタニカ

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    牧野富太郎のような生き方は楽しいだろう。自由奔放に生き、自分の追求したい探究したい物事を率先して、暮らしも人間関係もそこそこにしていく。おそらく、「何かを手にする者は捨てる覚悟がある者」という言葉があるならば、牧野富太郎は、生活と人間を捨てたのだと思う。

    話は明るかった。牧野富太郎自身も、周りの人間たちも。翳りなどにわかにも感じさせない。ただそこにあるのは、違和感だった。牧野富太郎から見た社会への違和感と、社会から見た牧野富太郎への違和感。積み上げられるだけ積み上げた違和感は、発展途上国に捨てられた先進国の産業廃棄物のように、往々に横たわる。やがて、それをついばむ輩が現れる。牧野富太郎を引き

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    2024年12月29日
  • 青姫

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    読み初めから、朝井まかての繰り出す言葉の巧みさに引き込まれてしまった。手に取るようにその絵が浮かんでくる。緊張感も伝わってくる。声に出したら講談の語りのようだろうか、いや、文学を語る言葉だなどと思い巡らしながら、言葉の間や、リズムも楽しんだ。

    設定は架空の里であるが、江戸時代の初期頃にリアルに存在する。そう思わせるのは、そこに住む人々や、暮らしの描写が豊かだからだ。暮らしが満たされているからこそ、人間臭く、好奇心旺盛で、金勘定もしっかりしている。各自がいろいろな「芸」を持ってこの里で暮らし、外部と交易して経済生活をしている。彼らは自由に外に行くことができるが、自分たちの暮らしを守るため、決し

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    2024年12月11日
  • 銀の猫

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     江戸の介護を描いた時代小説。帯によると「隠れた逸品」とあるが、そのとおり。江戸時代は平均寿命こそ短かったが、これは乳幼児死亡率が高かったためで、60才まで生き延びれば70才、あるいそれ以上生きたらしい。

     お咲は嫁ぎ先から離縁され、「介抱人」として働いていた。お咲は母親の借金を返済するため、通常の女中奉公より給金のよい介抱人をしていた。口入屋を介しての今でいう派遣労働者である。

     現代も江戸時代も介護の状況は変わらない。日常生活の介助や食事の世話、そして下の世話である。現代ならば介護保険もあり、要介護認定によっては施設入所も可能だ、しかし江戸時代では、儒教思想から親の介護は子の「孝」とし

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    2024年12月05日
  • すかたん

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    ネタバレ

    びっくりするような展開はないけれど、読後にやにやしちゃう様な、最高な終わり方だった。

    清太郎の「江戸のお人っ」とか言っちゃう感じや、知里が清太郎にしっしと思わず雀を追う手つきをした。ってとことか本当好き。

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    2024年11月20日
  • 落花狼藉

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    江戸の傾城屋が結集し御免色里の元吉原を造り、大火を経て新吉原に移るという吉原の生い立ちを、一人の女将の視点で描いた大河作品。
    他の時代小説では流行の発信源としての華やかさや、男女の感情に迫る舞台として扱われる吉原を、ここまで風情をもって描写した作品を他に知りません。
    流石は朝井さんというべき素晴らしい一冊でした。

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    2024年11月16日
  • 青姫

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    税金も忖度も無い自由のある自身の選択と責任で神を敬い暮らす自治区に住む紆余曲折ある住民。朝井まかてさんの日本の色や模様や植物や古の言葉の表現が素敵

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    2024年11月12日
  • 銀の猫

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    ネタバレ

    お咲が何もかもできるヒロインでないところがいい。実の母との確執、それを乗り越えその先の介護まで覚悟を持つラストに読者の心もやっと緊張がほぐれる

    介護は今この令和の時代も大きな関心事。今現実的ではない人々も必ず向き合わねばならない問題。個人も国も試行錯誤している現状

    高齢者を“老害”の言葉だけで片付けようとする風潮は高齢者だけでなく若者たちにも明るい未来がない。誰もが向かう先に一人一人咲のように真摯に向き合う心を持たないといけないと痛感した

    肩肘張らずにそんなことを考えさせられる物語

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    2024年11月08日
  • 白光

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    幕末に生まれ、絵を描くことに大いなる情熱を燃やし、単身故郷を飛び出した山下りん。
    維新により回天成ったとは言え先例のない女性洋画家を目指し、あらゆる可能性に挑み険しい道を切り開いて行った先にあったのは、自らが求めた光溢れる西洋画とは似ても似つかない陰鬱な宗教画。

    後に日本正教会でただひたすらにイコン画を描き続けた彼女が果たして本当に望んでいたものが何だったのか、想像すると何だかとても切なくなった。

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    2024年11月06日
  • 銀の猫

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    舞台は江戸時代、年寄の介抱を仕事としている主人公お咲と、彼女に関わる人々との物語です。
    作中に出てくる解放される人達の振る舞いは、一見すると身勝手なように捉えられます。しかしお咲との関わりと通してその人達の背景が見えてくると、なぜこの振る舞いとなったのか分かるようになります。ーこの振る舞いとなったのは、その人が今まで生きてきた過程の中で根底に残る事柄があるのではないか?これは現代の介護の世界でも見受けられる光景や理解をする際に必要な視点なのではないかと感じました。

    よく参考書や教科書などでは、行動の背景に何があるのか知ることが、その人らしさを尊重しつつ適切な援助が行えるようになる…といった事

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    2024年11月06日
  • ボタニカ

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    牧野富太郎の学問、植物学に対する熱意は並々ならない。
    まだ教育体制が確立されず、学歴といってもピンとこない時代に、ただただ植物学を極めようとする。
    彼を支える女性たちも強くしなやかだ。
    先人たちは彼を導き、教授たちや同僚たちは彼を認めながらも戸惑いもある。
    一緒に植物採集しようと人々が集い、経済的に支援する人たちもいる。
    牧野富太郎と彼らによって、日本の植物学の礎が築かれていったんだろう。

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    2024年10月26日
  • 朝星夜星

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    朝井まかてさんの小説は、最初の1文を読み始めた(聴き始め)途端、登場人物たちや景色が色彩を持って立ち上がってくる。長い話だったが面白かった。
    日本で最初に洋食屋「自由亭」を長崎で開業し、その後大阪でホテル業を始めた草野丈吉とその妻ゆきさんのお話。
    まだ駆け出しの料理人であった丈吉が小さな食堂を始めたころから、近所の亀山社中の志士たちへ出前をしたり、五代友厚さんが食事に来たり、その時代の様子が生き生きと描かれていた。私も小説の中に入り込んで坂本龍馬を見かけた気がして、なんだかワクワクとした。
    これは妻のゆきさんの物語で、ゆきさんの目線を通して丈吉の姿が描かれる。丈吉が亡くなった後、ゆきさんが亡く

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    2024年10月19日
  • 落陽(祥伝社文庫)

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    大正時代の日本人の心情を明治神宮建立プロジェクトを通して描いた作品。国として自立し始めるための国際化の風潮と、幕府の支配から解放された喜びより戸惑いと、古来から受け継がれてきた日本人としての価値観が入り乱れた混乱がとても上手く表現されています。
    加えて明治天皇の新たな天皇像を作り上げる途轍もない努力と、その天皇を本能的に敬う日本人の心も素晴らしく、日本人としての原点に触れた気がします。
    改めて明治神宮を訪れてみようと思いました。

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    2024年09月12日
  • 秘密の花園

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    ネタバレ

    私の中の滝沢馬琴のイメージは小学生の頃読んだ山田風太郎の『八犬傳』に出てくる馬琴で固定されているため、他の作家が描く馬琴は「ふーん、こういう馬琴像もあるのか」という感想になることが多いのだが、今回のまかてさんの馬琴は山田風太郎の馬琴を更に豊かにした感じで、違和感がない。作中で馬琴と北斎のやりとりするシーンは「『八犬傳』には出てこなかったけどきっとこんな感じだったのだろうなぁ」と地続きで想像させるものがあり、なんだかとても嬉しかった。悪妻とされるお百さんの描かれ方も本作では救いがあっていいエンディングだったと思う。

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    2024年09月08日
  • 秘密の花園

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    朝井まかて氏の作品は何冊も読んでいるしファンの一人でもある。今回も素晴らしい作品だった!南総里見八犬伝の著者の曲亭馬琴の半生を描いた作品だった。馬琴の半生は実に苦難の道だ江戸時代の本の出版は想像を絶するものがある。長年かかって人生の終末まで両眼の視力を失いながらも完結したなんてビックリだ!一つ一つの言葉の意味を理解出来ない部分もあったが楽しく読み終えた。

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    2024年09月07日
  • 銀の猫

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    江戸時代も介護問題ってあったんだなぁ。
    江戸時代は今よりもっと親の介護は子供が何をおいてもしなければならないという世間体に縛られていて大変だったんだなぁ。
    介護問題って、先には死しかなく暗く辛くなりがちだし、この物語の主人公は母親が毒親という悲惨な状況なのに、読み進めていくうちに、人は誰しもゆっくり老い弱っていくのは当たり前で、それとどう向き合っていくかという、ヒント、光を見せてくれてよかった。

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    2024年08月26日
  • グッドバイ

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    序盤は少し読みにくさを感じたものの、100ページ目をこえたあたりからは圧巻。
    人の想い、信念、つながりが伝わる良本。
    出会えて良かった1冊。

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    2024年08月22日
  • 先生のお庭番

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    初めての朝井まかてさんの作品でしたがハマりました。他も片っ端から読んでみたい。

    お庭の風景が描写が心地よく、幸せな時間が共に過ごせたような気分です。この長崎弁もとても可愛くて、響とリズムが心地よかった。

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    2024年08月19日
  • 銀の猫

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    ネタバレ

    星6つにしたいほどの面白さ。

    自分の境遇と重なる部分もあり、言語化できずにいた気持ちをふわりと示してくれる巧みさにも唸る。

    25歳の介護人お咲は所謂シゴデキで、雇用主にひっきりなしに頼りにされる。自宅に於いても休む暇はなく働き詰めだ。別れた亭主に借金を返さねばならず、気持ちも沈むし時に苛立つ。妙な達観を見せず、自分事はぐずぐずと同じところに留まっているが、人の事となると心の機微に聡く核心をつく。そこがリアルで魅力だ。 
    今だと35歳位の感覚だろうか。中堅どころ。
    傍から見れば仕事をそつなくこなせる頼れる人材だが、本人は時に「私は玄人」と自分を鼓舞しながら必死に仕事に食らいつく。その内面がと

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    2024年07月09日
  • 白光

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    序章 紅茶と酒とタマ―トゥ/開化いたしたく候/
    工部美術学校/絵筆を持つ尼僧たち/分かれ道/
    名も無き者は/ニコライ堂の鐘の音/終章 復活祭

    絵師になりたい りんの眼鏡に適う師匠はなかなかいない
    西洋画を極めようとするも 留学先ではイコンしか学べない
    彼女のじりじりと焦りに似た気持ちが伝わってくる。
    絵を学ぶための手段に見えた信仰が少しずつ心になっていくようにも見える。
    そんな事をしてもいいの?と思う時もあったけれど、絵画への望みを見つめ続ける彼女がまぶしい

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    2024年06月25日
  • 銀の猫

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    よかった。ほんとによかった。
    お咲も佐和も庄助もおぶんも、みんなほんとによかった。
    登場人物が全員魅力的。

    江戸東京博物に行きたくなったので、調べてみたら2025年まで(予定)長期休館中でした…

    好きな人が老いて弱っていくのは悲しい。
    そんなとき私は笑って介抱できるだろうか。優しい声を掛けられるだろうか。
    そのときになってみないとわからないけれど、もし思い詰めたときは『銀の猫』を再読したいと思います。

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    2024年06月22日