幕末に悲しい物語がいくつもあるのは知っていたものの、水戸藩士にまつわる逸話は知らなかった。
当初の無邪気で一途な登世の描写からは、こんな悲劇に見舞われるとは思えない。
国のために思いを持っていてもそれを遂げられず、それだけではなく悲惨な最期を迎えた名もない人たちのことが悲しくて、切ない。
生き残
...続きを読むった中島歌子は、自分の愛する人たちがそんな運命を辿ったことがどんなに辛かったろう、思いを馳せるたびに無念で悔しかっただろう。
それなのに澄の素性を知りながら受け入れた。
なんという時代だろうと思う。わたしはなんて平和な日々を生きているのだろう。
争いの悲惨さというと世界大戦を思い浮かべてしまうけど、その前にもこんな争いがあったなんて。争いを繰り返してはならないというけれど、自分や、大切な人がこんな思いをするなんて絶対に嫌だ。わたしたちはこういう物語を語り続けて、少なくとも今の日本でこうした争いがないことについて「平和でよかった」と思うときに、この人たちに思いを馳せないといけないように感じた。理由はうまく言い表せない。でも思いを遂げられず、名前も残らなかった人たちや、大切な人がこんな運命を辿った中島歌子たち水戸藩士の家族にとって、それがせめてもの救いになるんじゃないか、そんな気持ちのような気がする。
新しい時代が来たときに、かつての内紛のせいで、その中枢に就くことのできる人材が誰もいなかったという記述に胸が締め付けられた。
母に勧められて読んだ。本を読んでこんなに胸が締め付けられ、読み終わった後も思いを馳せては目が潤んでしまうのは久しぶりだ。