朝井まかてのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
読みごたえのある一冊だった。
それにしても、その頃の女性の立場のないことに驚く。自分からなにかを希望して行うということが、できなかった時代なのだろうか。登世はひたすら見合いを断っていたら理想の男性が向こうから結婚を申し込んでくれて、水戸に行ったあとは家事もできずに家で待つばかり、政変によって妻子まで牢につながれる経験は凄惨だが常に受け身で…いや、牢に同じくつながれた他の妻女は気丈に息子たちに論語を教えたりしていたのだから、すべての女性が無為だったわけではない。それでも、読んでいるともうなんだかもう少し何とかならないのか!と思ってくる。
最後まで読むことで、この小説の本当の良さがわかると思う。 -
Posted by ブクログ
江戸時代は、家族内(自宅)での看護・介護が主流で、職業としての介護はなかったそうですが、本作では、主人公のお咲が口入屋に斡旋され、「介抱人」として仕事をする設定です。この構成と展開が味わい深い作品でした。
8編からなる連作短編集で、様々な老人たちが登場します。この一人一人の老人を始め、登場人物の個性が際立っていて、人物造形が素晴らしいです。
各話が進む中で、お咲の離縁や毒親による借金などが明かされ、物語の深みも増していきます。
介護の陰鬱印象は薄く、けれども軽過ぎず…。人同士の交流が小気味よいです。過酷な介護の困難を超越して、お咲の誠実さ、人の心を推し量る共感力が素晴らしい! お咲 -
Posted by ブクログ
時は天下が揺れる幕末の動乱期。時代物の単なる恋物語などという生優しいものでなく、過酷な歴史の荒波に飲み込まれた、(樋口一葉の師でもある)歌人・中島歌子の壮絶な人生を描いた物語です。本屋が選ぶ時代小説大賞・直木賞受賞作品。
主人公の登世(歌子の幼名)は、江戸の商家の娘でしたが、一途な恋を成就させ水戸藩の藩士に嫁ぎます。夫は尊王攘夷を主張する天狗党の志士でした。
水戸藩では、天狗党と保守派の諸生党の対立が激化し、殺戮と拷問を繰り返す内乱へ突き進みます。
賊徒の妻として捕らわれ、女や子どもが次々処刑されてゆく中、登世は夫との再会を願い、命懸けで詠む歌だけが心身の拠り所なのでした。
地獄 -
Posted by ブクログ
以前NHKで観たことがあり、おもしろかったことを覚えている。
もう一度観たかったが、思いがけず本に出会えてラッキーだった。
はじめはお以乃も、お蝶も、自分本位でとても嫌な女だ。
それが旅を続けていくうちに、それが個性となり、いきいきと動きだし、魅力的にすら見えてくるのだからおもしろい。
道中たくさんの人と出会い、いろいろな出来事とぶつかりながら、自分自身の葛藤と向き合いガス抜きができた。
江戸で燻っていた時とは見違えるほど元気になった姿は、こちらにも元気を分けてもらえたと思う。
江戸に戻ってからの3人の続編も読んでみたかった。
2025/05/22 20:13 -
Posted by ブクログ
植物学者として唯一無二の存在という牧野富太郎の生涯を描いたストーリー。話を読み進めるうちに、小説の感想というより富太郎の人生に色々と言いたくなるのは、文章のうまさか表現の巧みさか、いずれせよ丁寧に彼の性格、思考、思想なりを書き込んもので、牧野ワールドに引き込まれていった。
あまりに好き勝手、学歴も、お金にも無頓着というか全ては自分の植物に対する愛情と探究心を優先する生き方に腹立たしくなる。どれほどすごい研究成果を出したとしても人間としてどうなんだ、とか思う気持ちもストーリー展開そのもの、いや富太郎の人生そのものか。
朝ドラのらんまんで神木隆之介が演じた優しい人の良さそうな雰囲気とはかなり違って -
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第150回直木三十五賞
第3回本屋が選ぶ時代小説大賞
幕末の動乱を駆け抜けた登世(中島歌子)のドラマティックなノンフィクション小説。
江戸の裕福な商家で育ったお嬢様の登世は、水戸藩士の林忠左衛門に嫁ぎ、その半生はあまりにも過酷。
愛する夫と過ごした時間はどれだけあったんだろう。
賊徒の妻子として投獄されてからの様子は、あまりにも酷いと思ったけど、まかてさんは容赦なくじっくり描写されている。
先に処刑されていく婦人たちが残した辞世の句や、会えない夫を思って詠んだ登世の句がとても切ない。
「君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしえよ」
激しい恋心が伝わる印象的な句だと感じた。
貞 -
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時代小説は得意ではないけど、朝井まかてさんならと手に。
牧野富太郎を描いた「ボタニカ」が面白かったからな…。
久々のファンタジー小説。
学生の頃きちんと国語と歴史を勉強していなかったので、わからない単語や漢字ばかりでなかなか進まない。こういう時、もう少しちゃんと勉強すべきだったな…と思う。(でもルビが頻発するので大丈夫でした笑)
中盤までいけば後は勢いついてイッキ読み。
青姫の郷という隠れた山郷にいる姫とその郷の秘密を廻る物語。
「香君」や「レーエンデ国物語」がお好きな方は愉しめるはず。
弥生時代以降、日本人は稲作を中心として生きてきた訳で、戦は米を育むことの出来る土地の奪い合い。
青姫 -
Posted by ブクログ
現代日本へとつながる、幕末から明治、大正にかけて食で時代を開いた西洋料理店の隆盛を、主人の妻の目線から描いた一冊です。
時代は江戸の幕末。唯一の外国との貿易の窓口であった出島を抱える長崎で、西洋料理屋『良林亭』が暖簾を掲げた。主人の丈吉は幼き頃から苦労をし、オランダ商船で働きながら料理修行をし、ついに得た己の店だった。そこに訪れるのは時代に志して世に名を遺す名士の面々。主人公のゆきは、料理を通じて、また食とその在り方を通じて、なにか大きなことを成し遂げようとしている夫の丈吉を支え、時にともに働き、時に表から退くことで目まぐるしい時代の潮流をともに過ごしていく。初めは長崎の自宅の客間から始 -
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2012年の作品。昔から男女の組み合わせは東男と京女がよいといわれているが、この話は東女と難波男子の組み合わせ。文化の差異に本人の出自の違いも重なり、場面が次々と展開していき一気に読み進められた。江戸中期の設定でものの流通が問屋ー仲買で安定した供給を維持していた歴史が読み取れ、それに終盤で生産者と市場を結ぶ運搬業者「青田師」まで登場して、今につながる流通の仕組みを知ることができた。それにしても値上がりを期待して思惑買いをして流通が滞るところは今のコメ値上がりに通じるところだと思った。しっかりした時代考証とそんなことないでしょうというお話し部分と織り交ぜて朝井まかてさんのおもろい話でした。
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Posted by ブクログ
知らなかった。こんな女の人が日本にいたなんて。
朝井まかての本によく抱く感慨ではあるけれど、これは群を抜いていた。
前半は痛快だ。
ご一新直後の明治、「わたくしも開化致したく候」と書き置きを残して笠間から江戸まで歩き通す。連れ戻されても絵が描きたいという熱は冷めない。
東京ではできたばかりの芸術大学を試験だけでもと受けて合格し、ついには通うことになる。
やがて師を失い、友に誘われ教会に入り、ついにはそこからロシアへ留学する。
ロシアでの日々は読むこちらも苦しかった。冬の暗さや寒さ、押し込められたような空気がりんをますます追い詰める。彼女の姿は青ざめ彷徨う宗教画の登場人物そのものだ。
「聖