朝井まかてのレビュー一覧
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明治天皇崩御に際し、渋沢栄一ら政財界人は神宮を帝都に創建すべしと主張するが、林学者の本郷高徳らは風土の適さぬ土地に森を造るのは不可能と反論し、大激論となる。
大衆紙の記者瀬尾亮一は神宮造営を調べる同僚に助力するうち、取材にのめり込んでいく・・・。
明治神宮造営という観点から明治時代がどのような時代だったかを紐解いていく物語。
かなり堅苦しい主題ですが、さすがは朝井まかてさん。
一般市民の記者という神宮造営の「外」の視点から専門的なことも噛み砕いてやわらかく語られていくので、読み手も興味をつないでどんどん読み進めていくことができます。
しかもこの主人公の亮一という男、記者という立場を利用して -
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うだつのあがらない東都タイムス記者の瀬尾亮一から始まる明治天皇崩御から明治神宮建設の時代を描く。
なかなか中盤あたりまでは、非常に読み進めづらく何度も読むのをやめようかと思ったが、読後は心に残る一冊になった。
瀬尾亮一が、明治神宮建立に直接関わったわけではない。が、中盤から徐々に湾曲的に明治天皇の生き様、また関わってきた国民の気持ちの移り変わりの
さりげない描写が明治天皇のための人工林造営と重なりふわっとした優しい輪郭で“その時代”が描写されてあった。
人工林がゆっくりと150年後、自然林となるように明治天皇の存在も作中では、序盤から中盤、終盤に至るなかで自然に存在感を増していった。
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朝井まかてのデビュー2作目。
江戸時代の植木職人の世界を描くという点では、1作目と共通しています。
大名屋敷が集まっている江戸では、庭園づくりに熱が入り、庭園都市になっていたというのが面白く、言われてみればなるほど、と。
江戸は千駄木町の「植辰」の親方に拾われた浮浪児のちゃら。名前もなかったが、ふとしたいきさつで「ちゃら」に。
高いところを飛び回って逃げる浮浪児に辰蔵親方が笑いかけ、植木屋の仕事は空に近い「空仕事」だと言ったのだ。
ひょうひょうとしているが、腕はいい親方と、兄弟子たち。
親方の娘のお百合はまだ15だけど、男所帯をしっかり取り仕切っていて、ぽんぽんと威勢がいい。年齢の近いちゃら -
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Tさんのお勧め。
江戸を舞台としていても、
どったんばったん捕り物だったり、
おどろおどろした、またひょろひょろした妖し物だったり。
それはそれで良い話だったりするのだが、
やはり人情物を忘れるわけにはいかない。
ちょっと大人の江戸物。
貧乏くさいお贔屓がついた役者、
神田祭を差配することになった家主、
やたらと大喰いの出戻り女、
看板の文字を書く筆。
一番好きだったのは「莫連あやめ」かな。
流行らない古着屋の娘。
着物やその着方を見ただけで、人となりがわかってしまうが、
近頃兄に嫁できて、よく出来た義姉にちょっとひねている。
そんなあやめが思いついた莫連流は、
若い女の子が男物を粋に着 -
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徳川幕府の将軍で、評判の悪い筆頭に挙げられるのが「犬公方」と称される五代将軍綱吉だろう。
その綱吉を主人公にした歴史長編。
心ならずも将軍となった綱吉は、己の理想を実現せんと、「武」ではなく「文」で治める世の中にと、改革を断行する。
赤穂浪士の討ち入りも、彼にしてみれば暴挙としか見做しえない。
時代は大地震や富士山の噴火が相次ぎ、綱吉は民の安寧を一身に祈る。
正室の信子は、「断じて、最悪の将軍にあらず」と断言する。彼女との仲睦まじい関係は、良き家庭人として、現代の理想の夫婦像にも匹敵。
そんな綱吉の姿勢は、「我に邪無」という言葉に集約される。
綱吉の死後、彼の政の評価について問う信子に対して、 -
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上方言葉がぽんぽん飛び出て、でっちや商人が出てきて、上方落語みたいだった。風景描写や年中行事、野菜のことなど、大阪通になれるくらい詳しく書いてあって、面白い。
大阪に来たばっかりの他所の人とか、詳しくなりたい人とか、これを読んだらいいと思う。
大阪の風情を書きたかったのかな、というところで、思っていたより恋愛要素は薄かった。商人としての生き方とか、主人公の自分を励ます言葉とか、さりげない言葉にはっとする、胸に刺さる書き味があって、この人の魅力だなあと思う。
たんかきるところとか、主人公の亡き夫への気持ちとか、ここぞ、というところの聞かせ方がうまい。江戸時代の話だけど、夫婦や子ども、独り身