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屈するか
逃げるか
農と自由と民の物語。
武士と悶着を起こして村を出奔した
若者・杜宇が迷い込んだのは、不思議な地。
自由経済で成り立ち、誰の支配も受けない
「青姫」の郷だった。
頭領・満姫のもと、生死を分つ選択さえも
籤で決められる。それが天意だからだが、
満姫はとんでもない気まま娘、
口も意地も悪い。
杜宇は命拾いするも米作りを命じられ、
田を墾くことから始めねばならなくなった。
生きるために「農」の芸を磨き、
民にも馴染んでゆくが、
郷には秘密の井戸がある。
そしてある日、若い武士が現れた――
「米を作れ!
わらわは姫飯が食べたい」
【著者からのコメント】
連載時はちょうどコロナ禍でした。
むしょうに土に触れたくて、田植えの匂いや
稲刈りの景色が慕わしく、それで主人公に
米作りをさせることにしました。
舞台は、「青姫の郷」という秘境です。
とはいえすべてが幻想(ファンタジー)ではなく、
まだ幕府の支配体制が固まっていない
江戸時代初期の様相を背景にしています。
青姫の郷は中央政権の支配がまだ及んでいない、
いわば自由都市。民による自治が行なわれ、ですが
人々がなにより重んじるのは「天意」です。
主人公の杜宇はその天意によって生かされ、
といおうか振り回されるのです。
郷の人々は姫をはじめ、クセが強い曲者揃い。
どの人物も書くのが楽しく、
今も愛着のある人々です。
ですが郷は、ある危機を迎えます。
土地は、領土は、いったい誰のものか。
攻め込まれたとき、屈するのか逃げるのか、
それとも? −−自らに問いながら書きました。
自分ならどうするか、と。連載終了後まもなく、
ウクライナ侵攻が始まりました。
この小説のラストは、
かの侵攻を予見できていない頃に書いた、
一つの願いでした。
このちょっと不思議な物語、
どうぞお楽しみください。
朝井まかて
一 玉結び
二 農の芸
三 田神祀り
四 赤影
五 旱(ひでり)
六 蝶
七 姫飯(ひめいい)
八 上々
九 月
十 籤(くじ)
十一 心願成就
十二 燃ゆる水
十三 杜宇
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
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