朝井まかてのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
四月から続いた大きな仕事が一区切りした。
ようやく楽しみのために本が読めるようになった。
というわけで、お盆休みのおともの一冊に本書を選ぶ。
葛飾北斎の娘で、絵師となった栄の物語。
偉大な父であり師を持ったお栄。
現代なら、プレッシャーに押しつぶされそうな環境だ。
ところが、彼女はただ、絵の上達に励む。
いわゆる朝ドラ的な前向きさとは違う。
自分が自分になるために、どんなに苦しくても、そうするのだ。
そのためには、女性としての生き方の規範などに拘泥しない。
その振り切り方には、羨望をこめて、かっこいいという言葉しか出てこない。
彼女がそのような人生を歩めるのは、父北斎自身、晩年に至るまで、もっとうまくなりたいともがき続けたからだろう。
親子の葛藤は、意外なほどない。
そのあたりが、若干不思議。
親方の名前で世に出る作品を、工房の弟子たちで作っていくような関係がベースにあるからか?
むしろ、家族の葛藤は、甥の時次郎をめぐって展開される。
何年か前のお正月、NHKのドラマになった本だと思う。
主演は宮崎あおいさん。
映像として美しいドラマだったと思う。
でも、善次郎役は誰だっけ?
ちっとも記憶に残っていないが、こんなに物語にとって重要な役回りを担っていたとは…。 -
Posted by ブクログ
これは恐れ入った。
吉宗の時代、大疑獄事件になった、辰巳屋の相続のもつれ。
主人公の吉兵衛は、辰巳屋に生まれたが別家に養子に出された次男。辰巳屋の主人だった長男が亡くなり、養子がまだ若く不甲斐ないために、辰巳屋の跡を継いだ。
これが不当として奉行所に訴えられ、一旦は治ったものの、今度は江戸の目安箱に訴えが及び、江戸での訴訟となる。
吉兵衛の人となりが今ひとつ好きになれず、前半はとてもダラダラ読んでしまった。
訴訟となり、牢に吉兵衛が入ってからは、俄然面白くなり、一気に読み終えた。
彼が訴えられたために、確かに辰巳屋を潰したと言えるから、悪玉なのだろう。しかしながら、本当にダメだったのは彼なのか?そんな疑問がじわじわ。
制度の悪、慣習の悪、辰巳屋がいないほうが都合がいい者の悪、与えられた役割から逃げた悪、ちょっといろいろあって書ききれない。
養子が抱いた外聞の悪い恥を、訴訟の場でずっと黙っていた吉兵衛が、何とも粋だと思った。
この疑獄のおかげで多数の刑死者も出たわけだが、本当に悪かったのは吉兵衛なのかどうか。
作品中の敵役はたぶん唐金屋になるが、この唐金屋もなかなか曲者。
最後はそうきたか!とまた清々しくしてやられたので、読んで満足した。
正直なところ、辰巳屋の養子だった乙之介が、きちんと仁義をわきまえていれば、刑死者が出ることもなくおさまっただろうに、と思った。
吉兵衛は事件に連なって死んだ人にも思いを馳せたが、乙之介はどうだったのだろう。
何も感じずにただ被害者意識でいるなら、本当の悪は愚かな頭脳と覚悟の甘いこいつだわ、と感じた。
馬鹿は罪。 -
Posted by ブクログ
大坂商人の木津屋吉兵衛は優雅な生活を送っていたが、実家の辰巳屋久佐衛門の急逝で物語が展開する.大番頭の与兵衛に牛耳られていた辰巳屋の跡目争いで本命の乙乃助が与兵衛と組んで良からぬ企みを企ていることを察知した吉兵衛が動き始める.久佐衛門の満中陰は無事に終えたが、乙之助が訴訟を起こし最終的に吉兵衛は江戸送りとなる.牢名主らとうまく立ち回る吉兵衛は、自白はせず事件の拡大を横目で見ながら、最終的に黒幕の唐金屋与茂作との交渉で、遠島の沙汰を減じてもらうことになる.大坂商人の辛抱強い気質と多くの人を巻き込む人柄が最終的な勝利につながる物語だが、江戸時代の風景が滲み出てくるような記述には、著者の力量を感じた.
-
Posted by ブクログ
江戸を舞台の、人情溢れる庶民の生活を描く、8つの短編。
ぞっこん・・・お互いがぞっこんになった“筆”と文字職人の歩み。
お上の動向に左右されながらも強かに生きる、人々の姿。
千両役者・・・大部屋役者の花六と、贔屓で通う辛子屋の太之助。
迎えるのは大どんでん返し。そして、一か八かの大博奕へ。
晴れ湯・・・湯屋の娘・お晴。好きな稼業を手伝う中、知るのは、
客の皆に愛される湯屋の事。父母の関係と自分への想い。
莫連あやめ・・・出来の良い兄嫁に心乱される古着屋のあやめだが、
親友を貶めた高慢な娘たちとの諍いが。それを救ったのは・・・。
福袋・・・大食漢で離縁された乾物屋・濱屋のお壱与。
弟の佐平は姉を大食い大会に出場させて、賞金をせしめる。
それは己の目論見のため。が、福袋。福が去ったら、空袋。
暮れ花火・・・羽裏の絵師・おようは、辰巳芸者の美代次から笑絵を
注文されるが・・・フラッシュバックの如きの過去の出来事。
後の祭・・・神田明神の「お祭掛」になってしまった家主・徳兵衛。
番狂わせはあれど奮闘する。町の衆も。神様も?
そう、祭りってのは楽しむもんだ、あたしらの天下祭だ!
ひってん・・・生業の無い卯吉と寅次が、人助けで貰った櫛を売る。
商いの思案に目覚める卯吉。時が過ぎ、商人として
歩む彼の心に浮かぶのは、ひってん長屋の想い出。
江戸には様々な生業がある。
それらに携わる人々の喜怒哀楽と生活を描く、人情溢れる短編集。
江戸の庶民の生活には生業があります。
順風満帆もあるし、努力を重ねるものもある。
だが、何かをきっかけにして、多大な変化が訪れることもある。
大御所・家斉、老中・水野の質素倹約、北町奉行・遠山の登場。
時代の風潮の変化もさることながら、人の関わりや縁も同様。
その変化の中での、喜怒哀楽溢れる人々の生き方が描かれています。
場所は江戸。江戸っ子の胸をすく鯔背な言葉は心地よく響き、
変化に対峙する心根には、粋を感じることも。
そして江戸の情緒溢れる詳細な、暮らしの情景描写の見事さ。
神田祭の熱量の凄さは行間から迸るほどの熱さでした。