朝井まかてのレビュー一覧
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ネタバレ学校で習った歴史上の人物で、その後大きく評価が変わったのが田沼意次とこの徳川綱吉だと思う。
人間より犬の方を大事にする法律を作った暗愚な将軍、と習いましたが、それは当時の江戸の庶民レベルの評価だったようです。
戦国時代はすでに過去のものとなり、太平の時代を迎えているはずなのに、武士の意識だけが変わらずにいる。
そんな世の中を変えようと、武よりも文(法律)で世の中を統べようとする綱吉。
しかし、世間はそんな綱吉の思いを一向に理解することはなかった。
学校で習ったのは暗愚な将軍。
その後、将軍になった当初は善政を布いたが、その後民衆を顧みることなく「生類憐みの令」を発して庶民を苦しめた、とした説も聞いたことがある。
けれど、この本に書かれる綱吉は最後まで誠実で、最後まで清廉で、最後まで公正だった。
堀田正俊や柳沢吉保のように、綱吉を理解し支えてくれる家臣がいなかったわけではない。
けれど、前将軍の直系ではなく、将軍就任直後の強権的な治世の方針転換に反発するものも多く、在位が長かったにもかかわらず逝去後にあっという間に綱吉の政策は撤回または停止となった。
つまり全然浸透していなかったということだ。
将軍として無能だったわけではないと思う。
しかし綱吉の時代、地震が頻発し、富士山が噴火するなどの自然災害が多発したというのは、当時、将軍の治世に問題があるからだとみられてしまったのはしょうがない。
にしても、だ。
元禄文化を謳歌できたのは、綱吉が太平の世を創り維持してきたからではないの?
確かに極端な政策は庶民を混乱させただろう。
命は等しく大事であるというのは理想だけど、人間と野良犬が飢えていたら、野良犬を見捨てるのはしょうがない、くらいの余裕がなかったのが敗因なのではないかとも思う。
だけど将軍と身近に接する幕臣たちの多くが、綱吉の政策を支持しなかった理由は、今後の研究をもう少し待ちたいと思う。
「我に邪無し」
最期にそう言ったのは、自身を誇っていたのか無念だったのか。
ほかの作家が綱吉を書いたら、また読んでみたいと思う、興味深い人物。 -
Posted by ブクログ
「草どん」と呼ばれる一本の草が子狐に話をせがまれ、次々と昔懐かしい民話や昔話を語る。
浦島太郎やおむすびころりんとか傘地蔵、かぐや姫や桃太郎も。童話本などで記憶にある話とは少し違い、朝井まかて風昔話集。
かと思っていたら、章の三で、雲上と雲下が交錯し、俄然様相が一変する。
この小説は、お伽噺を題材に、それらの話が現代では歪められたり、忘れ去られていくことへの著者の危機感を著したものだった。
作中人物に語らせる。
「今どき、薪割りや草履編みなんぞと言うても通じねえもの。年寄りも結局、子らの喜ぶ新しいもんを与えて機嫌を取る。若い者らに合わせるので、精一杯だ」
さらに、現代の精神的に余裕のない世情を、現状の雲下の雑音として挙げている。
「サッサト、シテヨ」「ボヤボヤスルナ」「モット効率ヲ考エロ」等々。
「物語こそが、雲上と雲下をつなぐものであったのに」
登場人物の悔いは、作者の悔いでもある。 -
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大阪商人の跡目争い。
大阪東町奉行の裁きで一件落着した…はずだったが・・。
何故か将軍・吉宗直々の声がかりで、江戸にて再審の運びとなる。
背後で蠢く大きな力、
そして、
それぞれの思惑とは…
大阪、京を股にかけ、湯水の如く銀子を使い放蕩の限りを尽くし、己の身代を食いつぶす主人公・木津屋吉兵衛は、生家である薪問屋・辰巳屋を継いだ実兄・久座衛門の急死の知らせを受け駆けつけるが、かねてより反りの合わない辰巳屋大番頭・与兵衛が全てを取り仕切り、吉兵衛を蚊帳の外へ追いやる。
兄の娘・伊波の婿にと養子に迎えていた乙之助を操り、辰巳屋の身代を我が物にすべく策を弄する与兵衛だったが、吉兵衛によって全て封じられ、乙之助は行方を晦まし与兵衛は辰巳屋を追放される。
辰巳屋の跡目を継いだ吉兵衛は心を入れ替え、遊ぶ間も惜しんで兄亡き後の始末に奔走するが、実は莫大な武家への貸し付けで辰巳屋の身代も傾いている事が判明する。
そして、
ある日突然、大阪東町奉行に訴状が出され、吉兵衛は辰巳屋乗っ取りの嫌疑で裁かれる事になる。
訴人は、あの乙之助だった。
兼ねてから、同好の士として深く関わってきた馬場源四郎(大阪東町奉行・稲垣淡路守の用人)との関係もあり、無事お咎めなしの裁定が下るが、この事が後々想像を絶する大きな禍根となる。
社会の、理不尽極まりない力に翻弄される一人の男の凄まじい意地…矜持
◯木津屋(辰巳屋)吉兵衛…辰巳屋の次男坊。十三歳で木津屋に養子に入る。放蕩三昧で木津屋の身代は潰える寸前。
◯三郎太…吉兵衛の二十歳の頃からの遊び仲間。道頓堀の格式高い芝居茶屋・升屋の主人。異国の珍しい食べ物や、酒、品物にら通じている。武家と商人との「お手つなぎ」で小遣い稼ぎ。
◯大和屋惣右衛門…同じく吉兵衛の遊び仲間。中之島指折りの両替商。
◯馬場源四郎…大阪東町奉行・稲垣淡路守の用人。吉兵衛の文人仲間。
◯唐金屋与茂作(右衛門佐政則)…泉州佐野浦の廻船問屋の主人。乙之助の父親。
諸国大名への貸付を始め、岸和田藩の財政まで握り、将軍・吉宗とも昵懇。
◯大岡忠相…江戸町奉行から寺社奉行へ出世し大名格となった。大岡越前。
◯伊波…吉兵衛の姪。乙之助とは反りが合わず、吉兵衛の次男・綱次郎に想いを寄せるが…
◯乙之助…伊波の婿として辰巳屋に養子に入った唐金屋与茂作の息子。実は男色。
◯辰三…吉兵衛が江戸で勾留された牢の添役。切れ者で何かと吉兵衛にアドバイスをくれる。
◯お瑠璃…親娘ほど歳の離れた後妻。島原の遊郭で禿をしていたのを一目惚れし、前代未聞の額で落籍た。
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Posted by ブクログ
大奥最後の日に残った5人の奥女中の会話で彩られる本作。
一人称である「りつ」の目線で物語が描かれるが、1つの会話から枝が広がり話題がコロコロと転がっていく。テンポは良くないのだが、この感じが「りつ」の控えめでありながらも思慮深く武家ならではの芯の強い性格を色濃く反映しており、また話の流れを崩さずに史実を読者に伝えていく形式が非常に上手い。
大奥でしか生きてこなかった人が急に外の世界に出される。加えて逆賊の一味という刻印を背負っていく。歴史を学ぶ際に彼女らの立場に立って考えたことはなかったが、非常に残酷で恐怖の状況である。それでも前に進まなければならない、皆同じ立場なのだから、と対局的に場を観察し、行動できる「りつ」は本作の主人公たる理由があると感じた。