村上春樹のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
地下鉄サリン事件で被害に遭った3800人の中から村上春樹氏が62名の方にインタビューを行い、1年かけてまとめた本です。筆者は「一九九五年三月二〇日の朝に、東京の地下でほんとうに何がおこったのか?」(687P)を知るためにこの本を書いたということでした。
私が特に感銘を受けたのは、被害に遭った明石志津子さんが入院している病院で筆者がインタビューを行った場面です。
お兄さんが付き添ってくれていたのですが「重度の障害に悩む妹の姿を赤の他人に見せるのが、肉親としてどれほど切ないことか、僭越ながらおおよその想像はつく。(略)私はこの文章を書くことに、一人の作家として大きな責任を感じている。(略)私は誰かを傷つけたりすることなくこの取材を行うことができるのだろうか?」(203P)という筆者の苦悩もありました。
インタビューが終わり、筆者は志津子さんの手をもう一度握らせてもらう様子が描かれています。
『「最後にもう一回握手をしていいですか?」と彼女に尋ねた。「いい」と彼女はきっぱりと言った。車椅子のとなりに立って手を差し出すと、彼女は前よりももっと強く、私の手を握ってくれた。前よりももっとしっかり何かを伝えようとするかのように、長いあいだ彼女は私の手を握っていた。そんなに強く誰かに手を握られたのはほんとうに久しぶりのことだった。その感触は、病院からの帰り道にも、家に帰りついてからも、私の手にずっと長く残っていた。まるで冬の午後の、日溜まりの温かみの記憶みたいに。実をいえばそれは今でもまだかすかに残っている。あるいはこれからも残り続けるかもしれない。今こうして机に向かって文章を書きながら、その温もりによってずいぶん助けられているように感じる。」(217P)
という部分です。私は握手についてここまで深く書かれた文章というのは見たことがありませんでした。
なお、志津子さんはサリンによって「食事を口からとることはまだできない。水も飲めない。舌と顎がまだうまく動かせない」(207P)という状態です。
現在「彼女の脳の機能の一部が損なわれている」「それが将来回復可能なのかどうかはまだわからない」(206P)ともあります。志津子さんはディズニーランドに行くことを楽しみしているようです。(215P)私は一刻も早く回復して志津子さんに日常が戻って来て欲しいと思っています。
「一九九五年三月二〇日、月曜日。気持ちよく晴れ上がった初春の朝だ。まだ風は冷たく、道を行く人々はみんなコートを着ている。昨日は日曜日、明日は春分の日でおやすみ―つまり連休の谷間だ。あるいはあなたは「できたら今日くらいは休みたかったな」と考えているかもしれない。でも残念ながらいろんな事情で、あなたは休みをとることはできなかった」(29P)という部分に、深く共感します。
休みの前後にある一日というのは、休みたいという方が多いのではないかと思っています。たまたまその日にその電車に乗り合わせたために被害に遭った方もいます。すべて巡り合わせがあったということになるのでしょうか。この本は、被害に遭った方の心境、そして前に向いて進んでいこうということの大切さが分かる本です。
素晴らしい本を書かれた筆者と出版社の方に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。 -
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面白かった!!!
上下巻ある作品のなかでは一番好きかも。
カフカの冒険、佐伯さん、さくら、謎の老人ナカタさん、星野さん等どの登場人物も良いキャラだった。
死と儚さ、若い頃の葛藤等がバランス良く配分されており、カーネル・サンダースや星野さん、ナカタさんのギャグのような言葉の掛け合いも滅茶苦茶良かった。
ねじまき鳥「井戸」のように、今回は森の中の倉庫が出てきて、孤独との向き合い方を描写していて良かった
読んで自分にも思い当たるところがあって…と共感するような作品が村上作品には多いのかなと思っていたが、カフカはもちろんそのように感じるところもあったが、奇妙な石、謎の老人ナカタやカーネル・サンダース、猫の喋り方、カフカの初々しさや心情の変化や、15歳から見たサクラの色っぽさなど、テーマや物語として面白い点がいっぱいあった。 -
Posted by ブクログ
イエスタデイが好きだった。
木樽のような人間になりたい
ドライブマイカーの
どれだけ理解し合っているはずの相手であれ、どれだけ愛し合っている相手であれ、他人の心をそっくり覗き込むなんて、それはできない相談です。
そんなことを求めても自分が切なくなるだけです。
しかしそれが自分自身の心であれば、努力さえすれば、努力しただけしっかり覗き込むことができるはずです。
ですから結局のところ僕らがやらなくちゃならないのは、自分の心と上手に正直に折り合いをつけていくことじゃないでしょうか。
本当に他人を見たいと望むなら、自分自身をまっすぐ見つめるしかないんです。
自分は理解するのは不可能でありだけど、相手を理解しようとする姿勢が大事だと考えていたけど、ベクトルを自分に向けるというのはなかった。
すごく今の自分に刺さる -
Posted by ブクログ
ネタバレ出だしから、ナカタさんによる骨の矯正が凄く面白かった笑
ナカタさんに振り回されつつも、刺激的な体験ができているホシノが少し羨ましい。
「いつか父を殺し、母と交わり、姉とも交わる」
という不吉な予言を残していた父親。
その言葉どおりになってしまうカフカ。
入り口の石を探すナカタ。
最後まで付き合うホシノ。
父であり猫殺しのジョニー・ウォーカー。
ホシノを導くカーネル・サンダーズ。
佐伯とナカタが出会ってからはあっという間だった。
正直、カフカの方は分かるようなわからないような、というかやっぱり強姦などの性表現が苦手。
ナカタとホシノの関係性が良く、今後は何か考える必要がある時はナカタさんならどうしたかな、と考えるようになるだろう〜と思ったり、今まで全く興味がなかったのに喫茶店でコーヒーを飲みながらクラシックを聴く楽しみを見出したり、ナカタさんのおかげで自由を得たという最後のホシノがとても良かった。
結局、カーネル・サンダーズはなんだったのか?
この世とあの世の話で、ナカタさんは事故の時に半分置いてきてしまったのか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレクリフハンガー
"作劇手法の一つで、劇中で盛り上がる場面、例えば主人公の絶体絶命のシーンや新展開をみせる場面などを迎えた段階で結末を示さないまま物語を終了とすることである。"
この小説の構成として、この言葉が一番似合うであろう
いくつかの物語が並行して進んでいく中、各章の最後にはクリフハンガーが訪れ、そして、それが回収される前にまた別の物語が進行し、そこでもまた別のクリフハンガーが訪れる。
常に新鮮な衝撃が脳髄を駆け巡るこの経験、あまりに心地よい!!!
世界で一番タフな15才の少年、君が幸せに生きれる保証はないが、タフに生きてくれ、と思いながらスピンを外す。
僕は気づいたんだけど、"52ヘルツのクジラたち"のあんさんに想いを馳せ、"海辺のカフカ"の大島さんや佐伯さんをはじめとする大人たちに心酔する。
僕は、あまりに救いを求めて本を読んでいる。
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Posted by ブクログ
過去の人に会うことは、過去の自分に会うことなのかもしれない。
島本さんは、単純に「忘れられない女性」というより、初が選ばなかったもう一つの人生や、過去への憧れそのものに見えた。
島本さんと一緒に現実を捨てることもできたはずだけど、結局は現実を捨てきれない。妻や子供、仕事、自分が現在まで積み重ねてきた人生を完全には手放せない。
要するに、現実が捨てきれない。
だから島本さんは消えた。
イズミの存在も、過去に自分が誰かを傷つけたこと、その記憶や罪悪感が現在の自分の中に残り続けることを象徴しているように感じた。
結局、人は「もし別の人生を選んでいたら」という可能性を完全に消すことはできない。でも、その可能性のために今の人生を捨てることもできない。
失ったものや選ばなかった人生を抱えながら、それでも今の人生を生きていくしかない。