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「すみれがぼくにとってどれほど大事な、かけがえのない存在であったかということが、あらためて理解できた。すみれは彼女にしかできないやりかたで、ぼくをこの世につなぎ止めていたのだ」 「旅の連れ」という皮肉な名を持つ孤独な人工衛星のように、誰もが皆それぞれの軌道を描き続ける。 この広大な世界で、かわす言葉も結ぶ約束もなくすれ違い、別れ、そしてまたふとめぐりあうスプートニクの末裔たちの物語。
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Posted by ブクログ
語り手の「ぼく」を通して、彼が生きていくうえで必要な存在としてのスミレ、そしてスミレが愛するミュウという二人の女性が描かれる物語だった。 スミレは性欲を含めた全存在としてミュウを求めるが、ミュウは過去に身体的欲望を自らから切り離す選択をしており、その思いに応えることができない。 ミュウはそうして自...続きを読む分の一部を封印することで生き延びてきたが、その代償として内的な人生の道標を失っている。 一方で「ぼく」は、スミレから性的対象として見られることはなく、痛みを抱え続けながらも、その痛みを含めてスミレとの関係を大切にし続けることで、人生を前へ進めている。 自分の一部を失ったミュウと、そんなミュウを愛するスミレにはさまれながら、変わらずスミレを大事にし続ける「ぼく」は幸福なのか、不幸なのかを考えさせられる。 少なくとも、誰かを大切にし続けることで自分を見失わずにいられるという点では、これは大きな幸福の物語でもあるように思えた。
久しぶりに読み直したら、刺さるフレーズや比喩表現がたくさん。 1Q84に繋がるような象徴的なモチーフ(月など)やあちら側・こちら側の概念、ねちっこい警備員、喪失感・孤独感(国境の南~にも似た感じ)などが感じられて胸熱! ちょっとしたことであちら側に行ってしまうきっかけは転がってそう。。 面白かった!
村上春樹の中で、一番好きな小説。 ロマンチック。 読んでいる時、付き合いたての恋人と 誰もいない自然の中でくっついて過ごしているような不思議な安らぎに包まれた。 読み終わりたくないのに、読み進めてしまう。
本作にはこんな節がある。 東京のことを考えてみる。ぼくのアパートの部屋と、ぼくの勤めている学校と、こっそりと駅のごみ箱に捨ててきた台所の生ゴミのことを。 この生ゴミについては少し前のページでちらりと描かれており、それがここで拾われるかと驚嘆した。
村上春樹再読 初読はいつだったか。1999年に単行本が出版されていて、おそらくはすぐ読んでいるはずだから20代半ばか。ほかの村上作品についても書いたが、この本についても「またこのパターンかよ、もういいよこのタイプの、洗練されて、自分のスタイルがあって、群れなくて、ぐいぐいくる女の子がいて、みたいな...続きを読むのは」と感じた記憶がある。 村上春樹の気に入った作品はそれこそ10回単位で読み返す私だが、これは多分一度も再読しなかった。そのまま30年近くが過ぎ、そしてふとしたきっかけで再読した。 「わたしは子供の頃から、まわりとは関係なく自分の中に個人的な規律を作って、それを守っていくことを好んだ。自立心が強く、きまじめな性格だったの。 、、、 強くなることじたいは悪いことじゃないわね。もちろん。でも今にして思えば、わたしは自分が強いことに慣れすぎていて、弱い人々について理解しようとしなかった。幸運であることに慣れすぎていて、たまたま幸運じゃない人たちについて理解しようとしなかった。健康であることに慣れすぎていて、たまたま健康ではない人たちの痛みについて理解しようとしなかった。わたしは、いろんなことがうまくいかなくて困ったり、立ちすくんでいたりする人たちを見ると、それは本人の努力が足りないだけだと考えた。不平をよく口にする人たちを、基本的には怠けものだと考えた。当時のわたしの人生観は確固として実際的なものではあったけれど、温かい心の広がりを欠いていた」(p241-242) うん、まあまさにそういうことだったのだろう。 そして歳を重ねると考えるようになる。 「どうしてみんなこれほどまで孤独にならなくてはならないのだろう、ぼくはそう思った。どうしてそんなに孤独になる必要があるのだ。これだけ多くの人々がこの世界に生きていて、それぞれに他者の中になにかを求めあっていて、なのになぜ我々はここまで孤絶しなくてはならないのだ」(p272)、と。 スプートニク、人工衛星。米ソの熾烈な宇宙競争でソ連は最初の人工衛星打ち上げで先んじた。そこには決して地表に戻ることのない一匹の犬が実験として乗せられていた。 子供の頃読んだ「宇宙のひみつ」みたいな本での記憶では、たしか数日後に毒の入った餌だか注射だかを投与され、衛星の中で安楽死させられたというようなことだったと思う。その衛星の残骸がどうなっているのかはわからない。 そんなことを思い出しながら読んでいる間、暗黒の宇宙空間で誰とも交わらずに公転し続ける人工衛星のイメージが幾度か鮮烈に浮かび上がってきた。「さえぎるものもない宇宙の暗黒の中でふとめぐり会い、すれ違い、そして永遠に別れていく」(p273)、スプートニクの恋人たち。 物語後半の舞台になるギリシャは私も訪れたことがある。ギリシャ南部、アトス方面を語った村上春樹の別の紀行文も秀逸だった。この小説からも、旅先、とくに島で感じる潮風や宵闇の生暖かい空気が伝わってきた。 そうです、再読して感動したのです。ではごきげんよう。
短編とは(そのボリュームゆえか)すこし違う流麗な文体と微妙なナイーヴさ 友だちが村上春樹の小説を「(気持ち悪さを除いて)完成されてる」と言うのもなんとなく頷ける 「..とすみれは言った。とてもクールに。とてもリアルに。」p.315
恋愛小説で第三者からの目線で語られるという構成が斬新で面白かった 体と精神の分離をドッペルゲンガーや影分身のように物理的?視覚的に表現してしまうところがいかにも春樹って感じでとても良かった
終わり方があまりにも潔い。 すみれはどこへ行っていたのか、どうやって行ったのか、どう帰ってきたのか等々……謎の答えは何も語られないまま終わってしまい呆然。そこも含めて、「らしさ」があって好きな終わり方でもある。 私なら問いただすであろう状況に、ただすみれを迎えに行く主人公。この2人故の信頼感が感じら...続きを読むれてとても好き。 登場人物は「すみれ」「ミュウ」「ぼく」の3人。今までの傾向的には、The.大人の女性が好きな私でも、本作ではすみれ派。初恋に必死な女の子が全面に出ていてとても可愛い。設定的には私と同じ22歳であるけども、全体を通してどことなく幼い?少女的?な印象があった。でも(元)ヘビースモーカーであるギャップ。 ストーリーに大きく関わる文言ではないけど、『ギリシャ文字で書かれた煙草やウゾーの派手な広告板が、飛行場から町までの沿道を非神話的に埋めつくし、そこが間違いなくギリシャであることを教えていた。』(p.133)が頭に残った。非神話的。ギリシャの町並みが、主人公の(私たちの)イメージより、意外と現実的な喧騒を持っていたんだと想像できる。個人的に好きな表現。 300ページと少しで、村上春樹作品の中ではライトに読めた。
冒頭の文章がとても印象的だった。すみれの失踪やミュウの心情など、どういう意図なのかよく分からない部分が多いが、こうした抽象的な世界観にすごく惹かれる。また僕がガールフレンドの子ども(にんじん)が万引きしてスーパーに呼び出されるくだりが面白かった。先生でもある僕が万引きに対して叱る訳でもなく、放任する...続きを読む訳でもない信頼関係みたいなものを感じ取れた。
10年ぶりの再読 読後感は最高でした。 これ単体でも十分楽しめるのですが、村上氏のエッセイ「遠い太鼓」を読んでからだとより楽しめるかもしれません。
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