加藤典洋のレビュー一覧
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村上春樹の文学が、時代と自分にとっていかに切実だったか、痛感した。一貫性のある、また、真っ当な評論である。一気に読んだ。
・どのような近代的な文学も、必ず、社会がゆたかになっていくある時点で、否定性が従来のかたちのままでは文学を生き生きと生かし続けられない転換点が来る。
・現実のもつ現実性が時の経過の中でリアルな意味をすり減らしてしまう。そういう場合、その現実性は、いまやフィクションを通じてしか、リアルな意味を回復できない。
・麻原の物語の力はむしろ稚拙であったからこそもたらされたのではないか。
・戦争が終わるということはないある意味で正義という魔法が解けること。その後、青豆の運命は私たちか -
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よかった。今まで恥ずかしながら吉本隆明氏の著作を
読んだことがなかったのですが。
彼の言葉、詩、思想のかっこよさを初めて感じた
気がします。深くまでは理解できていないのでしょうが
かっこいいと思える言葉や思想だと思いました。
彼の著作を今後読む機会があれば、読んでいきたいと
思います。
”世界と自分との両端性”
”先端と始原への同時的かつ両方向的な追尋の姿勢”
”みんなが言っていることは正しいが腑に落ちない感覚”
”無限性と有限性”
”ヨブ記においての解釈とキリスト教の誕生”
”西洋社会とキリスト教・アフリカ的段階”
”原生的疎外感”
”指示表出と自己表出・無意識内臓系と意識感覚系”
”歴史は -
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著者は、日本をはじめ敗戦を経験した国にとって、戦後とは「ねじれた時間」だとする。今まで真だったものがひっくり返るからだ。戦勝国の論理が通るようになり、敗れた自国のこれまでの「真」は「虚」になる。いわば「ねじれ」を中核に抱えて在立する社会となる。おそらくそれが、復興や成熟の原動力にもなるのだろうけど、日本にいたっては「ねじれ」がありながらも、「ねじれ」として認めていない国だとする。たとえば、ついさっきまで「鬼畜米英!」と叫んでいたのが、あっという間に「民主主義万歳!」となり、アメリカを慕うようになった変わり身の速さなどをいっているのだろう。
こうした浅薄な日本がいま進んでいる道が危惧される。本書 -
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ルポから思想まで豪華布陣だが、宮台さんの激憤しながらの筆致が鮮やか。『「ファストフードからスローフードへ」と同じく「原子力から自然エネルギーへ」も日本的に勘違いされるでしょう。〈食の共同体自治〉の問題が、食材選択の問題に短絡したように、〈エネルギーの共同体自治〉の問題が、電源選択の問題に短絡するでしょう。(略)原発災害からの学びがその程度で終わってしまうのですか。』pp.384-385. まさにそこなのだ。設計の悪い世論調査と内閣支持率に翻弄されて愚昧な二択に落とし込んではいけない。そこで一般意志2.0の登場なんだろうな。東さんと宮台さんと津田さんは全く方法論が違うけど、震災をきっかけに議論が
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いかめしい名前だけれど、その中身はタイトルから想像されるよりもずっと和かい。不自由な言葉の自由さを感じることができて、もっと自分の頭にあることを言葉にしてみたいなと感じた。
七歳の男の子が書いたとという日記の言葉
ぼく かえる みつけた。
しみそう。
くさのところへ いきました。
これを正しくすると、
ぼくはかえるをみつけました。
しにそうでした。
くさのところへいきました。
となるけれど、途端に最初にあった言葉が持つ余韻が消えてしまっている。最初の文章は書いた男の子の姿までをも想像させるものだったのだろう。明らかに不完全な文章なのだろうけれど、完全である必要なんて -
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『敗戦後論』で良くも悪くも著名な筆者だが(高橋哲哉に代表的な「良心的」知識人からの批判等)、個人的には以前かなり救われた一冊。あくまでも個人的だけど、かけがえのない感動した本、マイ・ベスト10――あるいは、ベスト5でも入れるだろうなあ、と思う。数年来、どうも思ったような言葉にならず、我ながら腑に落ちない日々…。勇気を振り絞って(?)痛み苦しみながら、最初からゆるゆると読み直している。が、ああ、やっぱりどの講義(章)も切実で真摯だなあという印象。自分の足場(デカルトの「格率」論も出てくる)がわからなくなってしまった…そんな思いを感じている人には、文章表現にかかわらずとも、救われるところがあるよう
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『13歳のハードワーク』がいちばん興味深くわかりやすい内容。これを最初の章に持ってくるべきでした。本当に中学生に読んでほしいと思うなら、まず読みやすい文章から載せるのがいいと思います。「こんな難しいこと書いてるオレってすごいでしょ、みんなついてこれる?」って思ってる大人の文章から始められると読もうとする気持ちがなくなります。
中学生は小説以外の文章を読む機会が少ないし、意外とまじめなので本は常に最初から読もうとします。興味のあるところから読もうとは思いません。
そしてこれを書いているおじさんたち、子どもがいるなら精一杯育児に関わったでしょうか?中学生、高校生の息子、娘にしっかり向き合ったとい -
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昭和天皇とマッカーサーを中心として、憲法9条の成立背景、安保条約以後の変容について論じた本。かなり面白い
#創元社 #加藤典洋 #9条入門
マッカーサーの政治的野心が見え隠れし、昭和天皇の免罪を勝ち取り、天皇象徴化による国民の空白を埋めた憲法という位置づけ
憲法に相互主義の規定がないことについての論考は、一読の価値がある。相互主義とは 他の国が従うなら、自国の交戦権を制限して国連に委譲すること。9条について、改正議論が出るとしたら、相互主義の部分であろうと思う
「1条(天皇の民主化)によって生じた日本国民の空虚が、9条(戦争放棄)の理想の輝きによって 埋められた」という結論は -
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「敗者の想像力とは、敗者が敗者であり続けているうちに、彼のなかに生まれてくるだろう想像力のことである。自分が敗者だというような経験と自覚をもっていないと、なかなか手に入らないものの見方、感じ方、考え方、視力のようなものがあるはずだが、そういうものをまとめて、ここでは「敗者の想像力」と呼んでおく。」23
「敗戦国に特有のものではない。それは普遍的な拡がりをもつ。」25
「敗者の想像力と敗者への想像力。
この二つはたしかに違っている。自分たちが敗者である。その自覚の底に下りていく。そしてそこから世界をもう一度見上げてみる。見下ろす想像力と、見上げる想像力。想像力にも天地があるのである。」27 -