加藤典洋のレビュー一覧

  • 村上春樹は、むずかしい

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    タイトルだけ読むと、本書の主題は「村上作品が何故難しいのかを解き明かす」と思ってしまうが、本当の主題は「日本文学の延長線上に村上作品があることを示す」である。この主題は、村上作品が日本文学の伝統に基づいておらず、日本文学界から評価されていないという前提に基づいている。この前提を私は知らなかったので非常に驚いたが、長年の謎が少し解けた気がする。その謎とは、村上作品の文体は翻訳調、内容は抽象的なため、純文学読者層にしか届かなそうなのに、何故こんなにも売れているのかという謎である。

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    2019年06月30日
  • 村上春樹は、むずかしい

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    仮定することと殺し直すこと
     村上春樹の作品を発表時期で区切って論じている。初期は1979〜82年。前期は1982〜87年。作品の特性としては点(個の世界)であり、デタッチメントである。中期は1987〜99年。横軸(対の世界)であり、コミットメントが作品の根幹をなす。後期は1999〜2010年。縦軸(父との対峙)が作品に見られる。2011年以降が現在とされており、3.11以降に書かれる作品についても言及する。
     著者の本は「村上春樹イエローページ2」などを読んだこともあるし、有名な文学批評家だと思うが、作家論的な言及はあまり好きになれない。村上自身が文壇から離れていたことと作品世界はあまり関係

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    2018年03月24日
  • 転換期を生きるきみたちへ

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    もうこういった言説にほとんど共感を感じなくなってしまったなー。「現状は危機的だ」「政府はこんなにあくどい」みたいなのって、「ほんとにそうなの?それを示す証拠は?」とまず思ってしまう。

    まあ内田センセイの七色のロジックを楽しめるという点では面白い。

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    2017年09月08日
  • 転換期を生きるきみたちへ

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    これからを生きていく人へ贈るメッセージ。

    日本の現状に危機感を抱いた内田樹が,中高生へとメッセージを送るために様々な人へ文章を書いてくれるよう依頼をした。統一感はあるような,ないような。しかし,皆,日本の現状に(というか,現政権に)危機感を覚えている人たちである。出版されたのは2016年7月なので,書かれたのはその少し前とすると,その後,イギリスEU離脱が国民投票で決まり,トランプ大統領が誕生し,また日本は重要法案を急いで通そうとしている。危機は加速しているのでは。

    戦後の,戦後すぐの平和主義がそろそろ機能しなくなっている,そう感じる。軍隊を持たない,平和を守る国でありたい,でも,他国に攻

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    2017年05月28日
  • 戦後入門

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    新書と思えない分厚さだが内容も非常に充実。
    戦後の「ねじれ」と対米従属に至る過程と問題点や提案について世界大戦・原爆・憲法・安保など様々な内容を多くの資料を基に丁寧に解説されており、また、タブー視されている事案もしっかり取り上げられている。
    自分を含め戦後の時代を肌で感じたことのない世代にはお勧めの良書。

    ※第三部で引用されているSF作家G・オーウェルの新聞への寄稿文はかなり衝撃的。1945年時点でその後の冷戦構造や核兵器をめぐる世界の動きを予言するような内容。

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    2018年02月24日
  • 転換期を生きるきみたちへ

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    目もくらむようなスーパー秀才エリートだった人たちが、声をそろえてもはや反対することができない空気があったと言っている。ドイツ語で日記を書けるような、言葉を自由自在にあやつることができるエリートたちが、一億人の運命を左右するような決めごとを、最後には言葉でなく空気を読んで身を委ねたと語っている。

    福島の原発事故直後の危機を回避するための政府首脳の重大会議、40年以上も続いた政府の憲法解釈を内閣の形式的合議だけで大きく変えてしまった経緯、いずれも議事録が残っていない。それが僕たちの国の致命的な欠陥だ。これはもう病気と呼んでもさしつかえないと思う。かつて有名な政治学者はこれを壮大なる無責任体制と呼

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    2016年10月11日
  • 天皇の戦争責任

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    日の丸・君が代から始まった加藤・橋爪の毎日新聞の論争が、司会の竹田を交えた鼎談である本著を生みました。左からの主張ともいうべき国際関係論の加藤は「もし責任があるとすれば、戦後真実を語らなかった責任だとして、家永三郎・井上清・丸山真男ではなく、三島由紀夫こそ、その責任を正しく追及した人だ」と展開する。また、死んだ300万人の日本人たちへの責任はまずアジアで死んだ2000万人への責任に真直ぐに向かうことから始まると。これに対して右からの主張ともいうべき社会学の橋爪はむしろ天皇機関説的な立場から「天皇という場に選択の余地がなく座らされた個人の責任を追及したくない、それは主権者である日本国民としてのプ

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    2013年08月25日
  • 吉本隆明がぼくたちに遺したもの

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    吉本隆明は『言語にとって美とは何か』と『共同幻想論』を読んで、それで終わってしまった。あまり熱心な読者であったわけではない。『言語にとって~』の方はさっぱり分からなかった印象がある。
    この本は、高橋源一郎が語っているということで購入。タカハシさんが吉本隆明にそれほど心酔していたとは知らなかった。どちらかというと批判的かと思っていたのだが。

    この本は、共著で講演を文字に起こしたもの+対談をまとめた形になっているが、やはりこの点のテーマでは対談ものは避けた方がいい。自分が吉本のことをあまり知らないこともあるが、何かの意図が成功しているようにもやはり思えなかった。

    タカハシさんは吉本を語るにして

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    2013年05月20日
  • 戦時期日本の精神史 1931~1945年

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    東大新人会や共産党のことをはじめ、「転向」の問題など、知識の不足が目立つ。

    鶴見はこれらの問題を説明しているのではなく、そうしたことをある程度は前提にしつつ語っているので、まず土台がぐらぐらだと彼の論を十分にわからないだろう。

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    2012年11月20日
  • IT時代の震災と核被害

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    東北の震災の際に関わったITのお話。パーソンファインダーとかUstとかポジティブな面と、人間のダイレクトな関係が支えたあの時期についての考察をさまざまな方がしています。今回ほどSNSが重要な役割を果たしたことはなかったと思う。でもいろいろと課題もあったのも実際です。私がもし使いこなせなかったらどうだったんだろう…気になったのは書き手の差かな?いろいろな人の観点から見れるのは面白いけど、明らかに当事者だった人と取材して他人事だった人の文章は違うと感じました。

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    2012年04月16日
  • IT時代の震災と核被害

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    今年気になったほぼ全ての方々が登場し、総括的に意見を述べられている感で、俯瞰的に、また各々方の比較をしながら読むことが出来ました。それによって、各々型の主張や活動の方向性をよりはっきり認識出来たように思います。
    新しい論はあまり無かったのですが、良書でした。いずれどの立場も論点も欠かされてはならないなと改めて痛感しました。

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    2011年12月31日
  • IT時代の震災と核被害

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    震災直後、俺達があたふたしてる間にGoogleのエンジニアがパーソンファインダーを公開するに至る経緯がメイン。膨大な行方不明者の情報をオンラインで可視化する為に、社内エンジニアが処理できない分はボランティアに任せる…と言った経緯は感心した。Googleらしいフットワークは好感が持てた。無料PDF版だったのでここまで。

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    2011年12月05日
  • 日本の無思想

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     この本は去年から読み続けている。私にとっては、「世間」の考察の一環から、この本にたどり着いたわけだが、彼のいう「ねじれ」、日本における「無思想性」を良しとするか悪とするかによって、この問題は「チャラ」になる。読者にはその決定によってこの人の言説向かう必要がある。著者は、このねじれを日本の初めての体験「敗戦」に原因を置こうとしている。しかし、そうであっても、その体験を受け入れた日本人自身の天然的体質には触れようとはしない。日本人が「文化」として古代から蓄積し、いわば体質的に無意識化するほどのわれわれの「要素」は強固で頑固だ。まさにこの要素こそ「世界の非常識」なのだが、これがしっかり日本的となっ

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    2010年04月22日
  • 敗戦後論

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     先生のおすすめからもう一つ。
    「現在の自分を肯定しようとすれば、敵であったもの、自分達を蹂躙した相手を寿がざるをえない、その『ねじれ』こそが敗戦国の国民に背負わされる構造なのだが、そのねじれをねじれとして意識すらしていないという、さらに二重のねじれの中に戦後の日本人はある」

     …ぷは!息きれそうな長文を書いた!がんばった!
     で、戦後の日本人は「ねじれ」の両極にあるものを、それぞれ別の人間を代表させて対立することで、内的な葛藤を避けている…と続きます。あ、これって岸田秀先生の言うところの「黒船来寇以来日本は分裂症である」って話だね?…と思ったら、文中にちゃんと触れられてました。やっぱり。

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    2009年10月07日
  • 日本の無思想

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    ホンネとタテマエからみえる戦後日本の思想についてをこれでもかと深く掘り下げた論考。『敗戦後論』の姉妹品とのこと。

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    2009年10月04日