加藤典洋のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
敗戦後、日本は「国民主権」と「戦争放棄」、「基本的人権」を新憲法に盛り込む。
そこには連合国やアメリカ政府の思惑を他所に、次期大統領を狙うマッカーサーが戦前の「国体」である昭和天皇の戦争犯罪を問う代わりにその「空白」を埋めさせるかのように「9条」をはじめとする徹底した平和主義を日本政府や憲法学者に作らせていく。
この本は「9条」誕生の最初期の歴史を詳細な資料に基づいて批評した著者存命中の遺作となった。
著者の言葉で印象に残った一文がある。
「われわれは明治維新後の近代化の過程で、なぜ西欧中心の近代国際社会に軟着陸するのに失敗したのか。なぜ天皇制の神権政治化を許したのか。なぜ天皇制をテコにした -
Posted by ブクログ
前作の「9条入門」が生前の著者の遺作となったが、その続編として書き溜めていた遺稿をまとめ上げたもの。
9条と天皇制、日米安保を軸に敗戦後の日本の政治史を著者が鬼籍に入る直前の安倍内閣まで、時代によって変節していく護憲と改憲の両論を追っていく。
著者がマッカーサーを「地獄の黙示録」のカーツ大佐になぞらえて日本に彼の理想を具現化させようとした件は興味を惹く。
「9条」は戦前の国体としての天皇は戦争犯罪者としての処罰を免れ象徴として生かされる。戦後の日本はアメリカもしくは日米安保を新たな国体としてその精神的ジレンマから自己欺瞞に陥る。
「9条」という背負わされた十字架の原罪に向き合うことのないまま、 -
Posted by ブクログ
著者がヨシモト先生(吉本隆明)系の人ということで本書を敬遠していたが、評判が気になって、ついに読む気になった。
本書を敬遠していたもう一つの理由は、著者が文芸評論家であることが引っかかるから。やはり、戦後日本論は、文学系の視点よりは、社会科学系(特に政治思想)の視点のほうが、私の好みに合う。文学系の視点はしなやかで、美的で、繊細で、個性的であるのはよいが、その分だけ現実性、客観性、普遍性から遠ざかると思う。
まあ、こういう屁理屈を言うヒマがあったら、本書を処分するか読むかのどちらかにしろ、と言われそうだ。そこでザッと本書を見ると、「あとがき」の次の箇所に目が留まった。以下はその概要である。
-
Posted by ブクログ
新書にして600頁越えのボリューム感に怯み、早く読みたいと思いながら、長らく積読状態に置かれていたもの。やっと読めました。しかしこれ、どうせ読むなら早く読んどくべきだな。新たな戦前なんて言われちゃうような今日に読んだからこそ、相当に響くところがあったのかもしらんけど。
まず、枢軸国側と連合国側の争いであった大戦が、終戦後にいつの間にか、民主対共産に置き換えられたとの指摘から始まる。その原因として、根底には原爆投下の責任回避的側面が垣間見え、結果的に、現在まで続くところのアメリカ従属体質が維持され続ける問題にまで論が及ぶ。必然的に憲法第九条に言及される訳だけど、どう改正を声高に叫びつつ、一方で対 -
Posted by ブクログ
(2016/10/15)
中高生に、とあるが、我々大人が読んでも十分学べる内容。
物事の考え方を、平易なことばでみごとに説明してくれている。
小田嶋さんの成功者村上龍への食いつきは面白い。「会社員」という仕事がないと。
村上龍は成功しているから会社員をはずしていると。
確かに、13歳のハローワークに上がっている仕事で食っていける人はごくわずか。
みな「会社員」として何とか生きている。
白井さんの「意味」には際限はない、というのはなるほど。
本能的欲求は限度があるが、誰も持っていないものを持つ、という欲求には切りがない。
そこにはまったら最後だな。
戦争中における「国」とは、国民でなく国体 -
-
Posted by ブクログ
加藤典洋さんが、村上春樹さんに関して著された評論を集めたものです。いくつかの長編の分析、長編短編を通して読むことで見えてくるもの。そこから、村上春樹さんが、どのように小説家として進化してこられたかが、加藤さんの愛情とも見える心のこもった分析から見えてきます。キーワードといいますか、象徴ともいいますか、その言葉、単語が意味するもの。そこに注目し、他の作品との繋がりやその意味。そういったものから、何を書こうとされたのか。その成功と失敗。村上春樹さんの小説の読み方が変わる、そういう読み方を教えていただきました。もう一度、村上さんの小説を読み返したいと思わされました。
-
Posted by ブクログ
対米従属と半独立の現実が未だに日本の現状であることの、歴史的背景と数多くの論考をベースに著者が明快な結論を導き出す過程をたどることができる好著だ.p63にある"戦争の死者たちを、間違った、国の戦争にしたがった人々と見て、自分の価値観とは異なる人々だからと、心の中で切り捨てる" という戦後しばらくの期間、スタンダードとされた革新派の人々と、"戦前の死者たちを称揚したい.否定したくない、という一心から、歴史的な現実のほうをねじまげて、日本は正しかったのだ" と考える人々があり、後者が次第に増えてきた現実を直視している.これらの発想は未だに根強く残っている.ポ
-
Posted by ブクログ
ポストモダン思想やポストモダニズムもそうでしたが、本書の「戦後」というテーマも、自分が生きている「今」を含むテーマであるにもかかわらず(含むがゆえに、かもしれないけれど)理解しにくいと感じていました。先日読んだ宮台真司氏の『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』で、戦後の社会の移ろいについては大きな理解を得ました。しかし、社会学の立場からの論考であり、あまり政治的な話には(当然でしょうが)踏み込んでいません。
そこで、国際関係や政治的な動き、そしてそこに横たわる考え方(イデオロギー的なもの)はどうなのかを知りたくて、新書としてはいささか厚い本書を手にとりました。
未だ日本は米国の従属支配から脱