加藤典洋のレビュー一覧

  • 「戦後再発見」双書8 9条入門

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    敗戦後、日本は「国民主権」と「戦争放棄」、「基本的人権」を新憲法に盛り込む。
    そこには連合国やアメリカ政府の思惑を他所に、次期大統領を狙うマッカーサーが戦前の「国体」である昭和天皇の戦争犯罪を問う代わりにその「空白」を埋めさせるかのように「9条」をはじめとする徹底した平和主義を日本政府や憲法学者に作らせていく。
    この本は「9条」誕生の最初期の歴史を詳細な資料に基づいて批評した著者存命中の遺作となった。
    著者の言葉で印象に残った一文がある。

    「われわれは明治維新後の近代化の過程で、なぜ西欧中心の近代国際社会に軟着陸するのに失敗したのか。なぜ天皇制の神権政治化を許したのか。なぜ天皇制をテコにした

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    2025年09月20日
  • 9条の戦後史

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    前作の「9条入門」が生前の著者の遺作となったが、その続編として書き溜めていた遺稿をまとめ上げたもの。
    9条と天皇制、日米安保を軸に敗戦後の日本の政治史を著者が鬼籍に入る直前の安倍内閣まで、時代によって変節していく護憲と改憲の両論を追っていく。
    著者がマッカーサーを「地獄の黙示録」のカーツ大佐になぞらえて日本に彼の理想を具現化させようとした件は興味を惹く。
    「9条」は戦前の国体としての天皇は戦争犯罪者としての処罰を免れ象徴として生かされる。戦後の日本はアメリカもしくは日米安保を新たな国体としてその精神的ジレンマから自己欺瞞に陥る。
    「9条」という背負わされた十字架の原罪に向き合うことのないまま、

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    2025年09月20日
  • 戦後入門

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    著者がヨシモト先生(吉本隆明)系の人ということで本書を敬遠していたが、評判が気になって、ついに読む気になった。
    本書を敬遠していたもう一つの理由は、著者が文芸評論家であることが引っかかるから。やはり、戦後日本論は、文学系の視点よりは、社会科学系(特に政治思想)の視点のほうが、私の好みに合う。文学系の視点はしなやかで、美的で、繊細で、個性的であるのはよいが、その分だけ現実性、客観性、普遍性から遠ざかると思う。
    まあ、こういう屁理屈を言うヒマがあったら、本書を処分するか読むかのどちらかにしろ、と言われそうだ。そこでザッと本書を見ると、「あとがき」の次の箇所に目が留まった。以下はその概要である。

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    2025年08月18日
  • 戦後入門

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    新書にして600頁越えのボリューム感に怯み、早く読みたいと思いながら、長らく積読状態に置かれていたもの。やっと読めました。しかしこれ、どうせ読むなら早く読んどくべきだな。新たな戦前なんて言われちゃうような今日に読んだからこそ、相当に響くところがあったのかもしらんけど。
    まず、枢軸国側と連合国側の争いであった大戦が、終戦後にいつの間にか、民主対共産に置き換えられたとの指摘から始まる。その原因として、根底には原爆投下の責任回避的側面が垣間見え、結果的に、現在まで続くところのアメリカ従属体質が維持され続ける問題にまで論が及ぶ。必然的に憲法第九条に言及される訳だけど、どう改正を声高に叫びつつ、一方で対

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    2025年04月30日
  • 言語表現法講義

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     巻末の基本参考文献のリストを読むだけでも価値がある。
     著者が参考にした文章家たちと著書が挙げられている。ここから、読書を広げられる。

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    2025年03月17日
  • 戦時期日本の精神史 1931~1945年

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    鶴見俊輔さんの著作に触れるたびに
    自分の無知を自覚する
    本書は
    カナダの大学で学生たちに向けて
    語られた講義である
    生身の人間が生身の人間に
    向けて語られることには
    大きな意義が生まれる
    鶴見さんもあとがきで
    ーこれほど手ごたえのある聴取を前にしたことは、それまでの大学の経験にはなかった、この手ごたえを、話に生かそうと努力をした
    その場(講義)の緊張感と浸透度が伝わってくる素晴らしい一冊です。

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    2025年02月15日
  • 新旧論 三つの「新しさ」と「古さ」の共存

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    面白い、古さや新しさは、単に時系列的な直線上に並んでいるものではなく、それぞれの関係を構造化した上で、それらを橋渡しするような営みが、それ自体として新しさとなることがある。

    新しさは、古さに対するただのアンチテーゼとして打ち出されるものではない。

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    2025年02月11日
  • 転換期を生きるきみたちへ

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    (2016/10/15)
    中高生に、とあるが、我々大人が読んでも十分学べる内容。
    物事の考え方を、平易なことばでみごとに説明してくれている。

    小田嶋さんの成功者村上龍への食いつきは面白い。「会社員」という仕事がないと。
    村上龍は成功しているから会社員をはずしていると。
    確かに、13歳のハローワークに上がっている仕事で食っていける人はごくわずか。
    みな「会社員」として何とか生きている。

    白井さんの「意味」には際限はない、というのはなるほど。
    本能的欲求は限度があるが、誰も持っていないものを持つ、という欲求には切りがない。
    そこにはまったら最後だな。

    戦争中における「国」とは、国民でなく国体

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    2024年05月28日
  • 村上春樹の世界

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    村上春樹の小説が、表面上は粋で欧米風な言い回しを使いながらオチのない話が繰り広げられる、時代から切り離された独立したものとして見える一方で、実は日本の時代感を繊細に、形而上的に表現している、というその矛盾に、人は惹きつけられることが分かった。

    例えば映画でもそうだけど、読者や観客に向けてあえて語らない、見せないことが、逆に魅力になりうる場合がある。その塩梅はよく分かってないけど、

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    2023年10月15日
  • 戦時期日本の精神史 1931~1945年

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    戦前から戦後に至るまでの日本の歴史を、まさしくその時代を生きてきた当事者が、自分の実感と、それをきちんといろんな文献で検証した結果を、何も知らない外国人のために英語で講義した、その記録。現代の日本人は、もうその外国人と知識においては変わりないわけだから、まずはとっかかりとしてこの本を読むといいと思う。やはり、事実の把握と、失敗はそれと認めて反省する勇気を日本人は持つべきだと思う。

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    2021年12月13日
  • 転換期を生きるきみたちへ

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    数年前に1度読んだが、内容を忘れてしまったので再読。
    様々な立場の方々が、先の見えない転換期にあたり、中高生に向けて「根元的に物事を考える」ために書かれた本。

    刺さるメッセージはたくさんあったが、特に刺さったのは「13歳のハードワーク」だった。
    たしかに「夢=職業」にしてる人が圧倒的だなー、と思った。

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    2021年12月11日
  • 村上春樹の世界

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    無茶苦茶楽しい読書だった。こんないろんなこと考えて読むの久しぶりかもというくらいのめり込んだ。感動するくらい面白い読みもあれば、それは違うんじゃないかという読みもけっこうある。完璧な本じゃない。だけどそれがまた良い。好きだった。

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    2021年12月06日
  • 僕が批評家になったわけ

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    批評と哲学はどう違うのか、批評と学問はどう違うのか、私たちが今生きているこの場所に立脚して、学問的にも哲学的にも羽ばたくことなく、地を這うような営為として「批評」は存在しているのかなと感じた。
    「思考する」ということへの意欲がみなぎる一冊。

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    2021年10月27日
  • 村上春樹の世界

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    加藤典洋さんが、村上春樹さんに関して著された評論を集めたものです。いくつかの長編の分析、長編短編を通して読むことで見えてくるもの。そこから、村上春樹さんが、どのように小説家として進化してこられたかが、加藤さんの愛情とも見える心のこもった分析から見えてきます。キーワードといいますか、象徴ともいいますか、その言葉、単語が意味するもの。そこに注目し、他の作品との繋がりやその意味。そういったものから、何を書こうとされたのか。その成功と失敗。村上春樹さんの小説の読み方が変わる、そういう読み方を教えていただきました。もう一度、村上さんの小説を読み返したいと思わされました。

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    2020年10月02日
  • オレの東大物語 1966――1972

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    加藤氏の大学生時代のことがテーマなのだが、実際には文芸評論家として本格始動する直前までの半生記となっている。加藤ファンとしては。彼がどのようにもの心つくようになっていたのかが垣間見えて面白い。
    闘病は凄まじかったようだ。喪失感は大きいが、改めてご冥福をお祈りする。

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    2020年09月07日
  • 戦後入門

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    対米従属と半独立の現実が未だに日本の現状であることの、歴史的背景と数多くの論考をベースに著者が明快な結論を導き出す過程をたどることができる好著だ.p63にある"戦争の死者たちを、間違った、国の戦争にしたがった人々と見て、自分の価値観とは異なる人々だからと、心の中で切り捨てる" という戦後しばらくの期間、スタンダードとされた革新派の人々と、"戦前の死者たちを称揚したい.否定したくない、という一心から、歴史的な現実のほうをねじまげて、日本は正しかったのだ" と考える人々があり、後者が次第に増えてきた現実を直視している.これらの発想は未だに根強く残っている.ポ

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    2020年01月28日
  • 戦後入門

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    ポストモダン思想やポストモダニズムもそうでしたが、本書の「戦後」というテーマも、自分が生きている「今」を含むテーマであるにもかかわらず(含むがゆえに、かもしれないけれど)理解しにくいと感じていました。先日読んだ宮台真司氏の『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』で、戦後の社会の移ろいについては大きな理解を得ました。しかし、社会学の立場からの論考であり、あまり政治的な話には(当然でしょうが)踏み込んでいません。
    そこで、国際関係や政治的な動き、そしてそこに横たわる考え方(イデオロギー的なもの)はどうなのかを知りたくて、新書としてはいささか厚い本書を手にとりました。
    未だ日本は米国の従属支配から脱

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    2019年12月27日
  • 戦後入門

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    第二次世界大戦をイデオロギーの戦争とし、原爆投下を正当化したアメリカの思惑は、現在のパワーバランスを作り出す一助となっている。

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    2019年09月03日
  • 「戦後再発見」双書8 9条入門

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    9条成文化の歴史的経緯を中心に検証されているが、それが集団的自衛権や、沖縄の米軍基地の問題とどのように関わっているのかということについても、まるでもつれた糸を解きほぐすかのように精密な考察がなされている。
    自国の憲法なのに、それがどのように成立したかということについて、自分があまりにも無知であったということを思い知らされた。

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    2019年07月24日
  • 村上春樹は、むずかしい

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    まずはご冥福をお祈りいたします。亡くなられたからという訳じゃないけど、このタイミングで読んでみることに。先だって読んだ内田樹作・春樹評の中でも触れられていたしね。おおむね好意を寄せながら、褒めの一辺倒じゃないってところは好感。未読作品も、早く読んでしまいたくなりました。ただ、春樹特別って訳じゃなく、あくまで他の作家と同列に、普通に面白い作品として味わっている自分としては、まあ時が来れば読みましょう、くらいの感じではあるんだけどね。

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    2019年06月14日