加藤典洋のレビュー一覧
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『村上春樹は、むずかしい』というタイトルであるが、ここまで読み込むのであれば、むずかしいというのも頷ける。
例えば、初期短編『中国行きのスローボート』については、初編からの細かな改変部分に目配せされていてその意図についての解釈が解説される。これまで、村上春樹の父と中国に対する一種の集合的な罪の意識についてはほとんど意識することもなかったのだが、言われてみるとノモンハン事件をひとつのテーマとして含む長編『ねじまき鳥クロニクル』など、村上春樹が、中国との過去の戦争に対して特別な思いを抱えていることは確かなのだと思う。中国との関係においては『アフターダーク』で描かれた中国人女性への暴力にもその流れ -
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ネタバレ伝統的な日本の純文学の系譜と対比的に捉えがちな村上春樹を、日本の近現代の文学の伝統の上に位置づけるという批評的企ての書。村上作品の変遷を主要な作品を通して見ていく。
『風の歌を聴け』
近代の原動力となってきた否定性を否定しながらも、その没落を悲哀に満ちたまなざしで見送るという斬新さ。
初期短編3部作
・従来の否定性から遠く離れ(ディタッチメント)、それにいま手も触れられず何も言えない。そういう躊躇いの場所になお新しい否定性が見出されようとしている(コミットメント)
・否定性がもはやほとんど空転し、自壊し、意味を失い、誰からも見捨てられたなかで、その没落の奈落までつき合うこと、寄り添うこと、 -
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この本を読むきっかけとなったのは、2017年6月9日、大阪朝日カルチャーセンター中之島教室主催の、内田樹先生と高橋源一郎先生による対談である。
その中で、高橋先生はこの著作の内容に触れながら、権力に立ち向かう「敗者としての立ち向かい方」についての示唆をされていた。
それは、この本の第2部で詳しく述べられている。一例を挙げれば以下のようなところである。
“この世にはさまざまな不正がある。すぐにはただせない「悪」もある。けれども、この世の不正をただすことができないままに果たされる、それと同じだけ大きく、深い「正しさ」もある。あるはずだ。”
今、日本では多数派政党による悲惨な政治状況が現出している。 -
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第一部では、前作の敗戦後論を振り返るとともに、改めて戦後日本が抱えた死者の分裂と対外的な二重人格性の指摘がなされます。他国より自国の死者を先に意味付けることを批判されたことに対する応答が多めです。第二部では、吉本隆明や吉田満ら戦中派の戦争への没入という誤りに、戦後社会が立脚することの意義が述べられます。そして丸山真男ら進歩的知識人たちでは自らのうちに内外に発信するべき強度のある理論を構築できない理由が説明されます。第三部では矛先が逆に保守派の佐伯啓思の言説に向かい、主体が自然的共同体でなく近代主義的であるべき説明がなされます。私利私欲が近代社会で位置付けられてきた経緯や、そこからはみ出したドス
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[村上さん、引きずり出してみました]人によって好き嫌いが大きく分かれ、文芸界での評判も分裂する傾向にある村上春樹とその著作。デビュー作となった『風の歌を聴け』から直近の『女のいない男たち』までを時系列的に眺めながら、村上春樹の文学史的評価に新たな光を当てようと試みた作品です。著者は、文芸評論家として活躍し、早稲田大学の名誉教授を務める加藤典洋。
村上春樹論なのか、はたまた村上春樹を借りた加藤典洋論なのかがぼやけるところが散見されましたが、「難解」とされる村上春樹の歩みそのものの中に物語を見出している点で評価でき、そして興味深い作品。村上春樹の作品をかなり読んだ人でないと「?」という状態にな -
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内田樹『身体に訊く』-言葉を伝えるということはどういういことか
加藤典洋『僕の夢』-中高生のための「戦後入門」
高橋源一郎『表と裏と表』-政治の言葉について考える
平川克美『人口減少社会について根源的に考えてみる』
小田嶋隆『13歳のハードワーク』
岡田憲治『空気ではなく言葉を読み、書き残すことについて』
仲野徹『科学者の考え方』-生命科学からの私見
白井聡『消費社会とは何か』-「お買い物」の論理を超えて
山崎雅弘『「国を愛する」ってなんだろう?』
想田和弘『「中年の危機」にある国で生き延びるために』
鷲田清一『社会に力がついたと言えるとき』
以上11人の寄稿文
内田樹氏の以下の呼びかけに対応 -
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ノーベル賞候補にも名があげられ、日本を代表するといっても過言ではない村上春樹さんについて、あまりに強いそういったフィルターを取り除いた本当の凄さというものについて書かれています。大衆的な人気を得ているからといって、そんなに軽い作家ではないと。村上春樹さんとして、文学に対する壮絶な戦いを闘われているということ。初期から最近に至るまでの、村上春樹さんの著書の分析、周囲の反響などを詳細に分析されています。多数の著作がありますが、それらを読む読み方が変わってしまうと思いました。
読み終わってから、読み直して、「はじめに」の最後に書かれている著者の言葉「見くびってはならぬ。「村上春樹はむずかしい」のであ -
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600頁を超える大部な新書。
扱うテーマは濃いが、語り口は平易で、大変読みやすい。
世界戦争の持つ意味(本来の、「もたざる国、ならず者国家v.s.国際秩序の擁護者」の構図から、「全体主義、ファシズムv.s.自由民主主義」という物語の「再成形」)、原爆が持った大きな歴史的意味や、米国による原爆投下を批判できない日本の問題(原爆慰霊碑に見られるような「絶対的(理念的)平和主義」が現実に即していないこと)、吉田ドクトリンを基軸とした戦後日本の歩み(親米・軽武装・経済中心主義による、対米従属の意識の緩和策)、未だくすぶり続ける駐留米軍基地や核兵器の問題など、第一次世界大戦以降から現代に至るまで、緻密