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3・11による福島原発事故が引き起こしたのは、本質的には誰にも「責任をとりきれない」という新しい事態だ。科学技術の、地球環境の、そして種としての人類の限界が露わになったいま、ポストモダンとエコロジー、双方の思想が見落としてきた「有限性」を足場に、生きることへの肯定をスリリングかつ緻密に語る決定的論考。
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Posted by ブクログ
p78「歓喜と欲望は、必要よりも、本源的なものである」 p217「〜自由への欲求、真理の追求といった人間の無限性は、それだけで先験的に存在しているのではない、ということである。〜人間のばあい、その関係(引用者注:自然(大地)との関係)はほかの存在、動植物におけるようには安定していない。なぜなら、ほか...続きを読むの動植物は自然との関係において自分に「可能なもの」の圏域に安らっているが、人間ばかりは、そこを踏み出しだし、無限に不可能なものを欲するからである」
3.11の原発事故を契機として現代社会のリスクを根源的に問い直す内容。ここでも、彼は原発事故のもつ思想的な意味を問うため、現代産業論、リスクと保険の関係、科学技術史などを改めて勉強し直す。この誠実さが、結論に関わらず、読み手の納得感を生むのだろう。 まず、著者の心を強く揺さぶったのは、原発にかけら...続きを読むれるはずの保険が更新できなかった、という小さい記事だ。これが、産業の発展があるリスクの許容限度を超えたのではとの危機感を著者にもたらす。 レイチェル・カーソンの「沈黙の春」や、「成長の限界」論など「地球の資源はもはや無限ではない、有限だ」という警告は繰り返されてきた。しかしそれらが力を持ちきれなかったのは、結局解決策が「禁欲、我慢」だったからだ、というのが著者の考えだ。つまり、「我慢」で成長を止めるのは無理があるのでは、ということだろう。著者は見田宗介の社会学の論考を引きながら、「青空を見てふと美しいと感動するような」人生の喜び、あるいは欲望を否定するような社会の存続は無意味、という考えに共感している。 従来の「地球が危ない」論というのは平たく言えば「有限だ、それを無駄遣いしている(たぶん)資本家とか政治家とかいった悪い奴がいる、止めるのは市民だ、なぜなら市民は我慢ができるからだ」という主張のバリエーションに過ぎなかった。加藤氏は、欲望を抑圧する社会では人生の喜びは得られない、とする立場から成長への衝動を肯定する。 ただ、ここから先、彼の議論は(再び、私の考えでは)迷走しているように見える。人類の欲望、自由を肯定的に捉えながら、ある産業(例えば原発)については「それ以上拡大させない」ロジックを見つけようとして思索を重ねている。ところが、前半のような論旨の切れ味はない。科学技術史やヴィリリオの現代思想などを逍遥した結果彼がたどり着いたのは「することもしないこともできる」コンティンジェントな意思、という概念だが、これは産業の膨張を自発的に止める思想としては機能していない。つまり彼は、結果的に見田の理論を乗り越えられないことを自ら証明してしまっているように見える(そしてそれは同時に、加藤氏自身が批判している吉本隆明の「技術革新への自然な衝動を抑えようとする反原発に反対」という意見を結局肯定することにもなっている)。 つまりこういうことだ。加藤氏は従来の左翼イデオロギーから一線を画し、自由な意志による資本、産業の拡大を「生きる意味の根源としての欲望」、という形で認めている。一方で、20世紀後半から加速度的に増大する産業事故の危険性を(何らかの)有限性の現れとみて危機感を抱き、これまた従来の「悪いのは資本家と政治家」という以外の理屈で制御しようと試みる。が、結果としてそれは人間にとって最も重要な自由(あるいは欲望)を人工的に制御することになってしまう、というジレンマを解決できず「やらないことも自由」という価値観に「期待」する形で論を終えている。 加藤氏の言う「『豊かな社会』で大義にもからめ捕られず、欲望にも依存せずに生きる意味」を見つけられるか、彼の本の中に少なくとも私は解を見つけられなかった。だが、その問いの切実さ、その向き合い方の誠実さにおいて加藤氏への信頼は一層高まった、そんな読書であった。
無限性と有限性についての問いは、自身の今後のテーマにもなり得る。 充分に読みこなすことが出来なかったので、再読を予定。
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加藤典洋
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