中山七里のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『さよならドビュッシー』に続き手にとった中山七里の『連続殺人鬼カエル男』。単なるエンタメ・サスペンスにとどまらず、人間の暗部と法律の限界を鋭く突きつける重厚な一冊だった。
マンションの13階から吊るされた全裸死体と稚拙な犯行声明文。
圧倒的な絶望感とグロテスクな描写で幕を開ける本作だが、何より心に重く刻まれるのは、死体の凄惨さ以上に「ナツオ」の記憶に漂う生々しい匂いや、父親からの虐待という逃れられない凄惨なトラウマだ。人間の内面にある「生理的な拒絶感」を描く筆力には、息をのむものがあった。
そして、刑法39条という重いテーマをめぐり、実在の痛ましい事件を想起させるモチーフが投げかける倫理的な問いは、読者の心を強く揺さぶる。
おどろおどろしい惨劇の合間に奏でられるベートーヴェンの『悲愴』の美しさと、そこに潜むわずかな違和感。カタカナ名「ナツオ」という異様な存在。
そして、アガサ・クリスティの金字塔『ABC殺人事件』を思わせる「見立てとカムフラージュ」の構図が一気に立ち現れる。
描かれる本筋のあまりの重さと痛切さに、ただただ言葉がない。読後も消えることのない余韻が深く心に残り続ける。 -
Posted by ブクログ
地方銀行に勤めている友人が自殺。
彼には多額の横領の罪が背負わされ、納得のいかない司法書士の東雲は悪徳銀行相手に復讐を決意する。
亡くなった燎原が勤めていた箱銀こと箱根銀行は親族経営の地銀だが、小田原や箱根などで地元に根付いた運営を続けていた。
しかし、その裏側は200億円もの粉飾決算を隠していた。
燎原が死んだ事で彼に濡れ衣を着させて、特別損失を計上して粉飾決算を見掛け上無くしたことにした箱銀だったが、それでもまだ赤字経営は続き、その弱みに漬け込み、東雲が仕掛ける。
不動産担保融資、インサイダー取引、上層部の不倫など、次々に詐欺を仕掛け、最終的に箱銀を経営破綻に追い込んでいくストーリーは今までの作者の作品ではあまり読んだ事なく、痛快の一言。
こんな展開の話であれば、どんでん返しがないんだろうと思ったら、ちゃんとどんでん返しもあって、最後まで面白かった。 -
Posted by ブクログ
あの天才ピアニスト岬洋介の司法修習時代の物語。司法の道で発揮される実力と周りからの期待がどれだけ存分にあったとしても、岬洋介の欲しいもの、願うものはそれではなかった。
自分にとって不利で険しいと分かっていても、本心から願い、歩んでいきたい道を選び取ることの熱意が伝わってくる。この先の岬洋介がどこに行き着くかが分かっているから、その選択を見守れる安心感があった。
一方、現実ではどうだろうかと思う。
端から見れば将来が約束された安泰な道を蹴ってまで、心の底から願う夢を追いかけることを祝福できるだろうか。親の立場なら否、きっと素直に応援できないかもしれない。そんな葛藤に対して、自分で選んだ道を祝福し応援することの意義を説いているとも感じられた。