佐藤優のレビュー一覧
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ネタバレ本書の目的は「現下の国際情勢を正確に把握する力を身につける」ことにある。そのためには国際情勢を規定している「歴史」と「地理」を掛け合わせて思考する必要があるという観点から、英米、ドイツ、ロシア、中東、中国といった「大国の掟」を分析している。
第1章(英米)
トランプ大統領への支持は、新自由主義がもたらした経済格差の拡大、社会的流動性の低下、庶民生活レベルの低下という土壌から生まれたもので、かつてのアメリカ外交の基調であった「孤立主義」への回帰を主張している。
アメリカは、太平洋戦争まで「孤立主義」を基調としていた(モンロー主義)。太平洋戦争開始後はラインホールド・ニーバーによる「光の子」と「闇の子」の二分法がアメリカの世界戦略の基本となる。つまり、敵対国(集団)を「闇の子」と捉えることで、海外での軍事行動を正当化するようになったのだ。しかしトランプ大統領は、アメリカに直接的かつ死活的な問題をもたらさない限り干渉しないという、戦前の「孤立主義」への回帰に過ぎない。
「人種的差別は、米国の民主主義がよって立つ基礎のひとつ」というエマニュエル・トッド氏の説は興味深い。アメリカ民主主義は常に「内部」(白人)に対する「外部」を必要とするという。「外部」は、ピューリタンにとってのネイティブ・アメリカンや奴隷である黒人であり(『United States Declaration of Independence』の「all men are created equal」は、白人のみ対象)、それが時代によって、カトリック、ユダヤ、イタリア系、アジア系、ヒスパニック系、イスラム教徒と変遷して来た。このような「外部」を持たないと、アメリカの民主主義は成立しないのだ。トランプ大統領の「アメリカ(白人)・ファースト」の主張は、アメリカ的伝統の反復現象なのである。
イギリスのEU離脱も、かつての「栄光ある孤立(1896-1902)」(Splendid Isolation)への回帰と読み取れる。海洋国家であるイギリスとアメリカは、必要があるときだけ大陸と関係を結べばよく、必要がないと判断すると「孤立主義」を取ることができる。これが、フランスやドイツとの大きな違いである。
シーパワーを制するとは、世界的なネットワークを維持できることにほかならない。だからそこ、イギリスもアメリカも覇権国家になることができた。ひとたび覇権国家になると、その国は一方的な自由貿易を強要する。自由主義の背後には常にシーパワーを持った覇権国家の存在があるのである。
(第2~5章 略)
終章(日本)
海洋国家の「孤立する」選択肢として、日本の鎖国政策があるが、この間でも、長崎の出島以外に、松前口、対馬口、琉球口という四つの外交窓口があった。つまり、当時の世界最強国オランダやその他の国とのネットワークを有していたのだ。従って、「鎖国」(そもそも幕府は鎖国という言葉は使っていない)というよりは、日本の安全保障上問題のある外国との貿易や宣教活動を遮断していたというほうが適切である。問題のある国としてキリスト教の国が考えられるが、「キリシタン」禁止令の名称から分かるように、幕府はカトリック国との交易を禁止したという方が正しい。現にプロテスタンティズムの「カルヴァン派」だったオランダとの交易は継続している。カルヴァニズムは、人間は生まれる前から「救われる人」が決まっていて(予定説)、人間はそれについて知ることはできない。せいぜい、世俗的な仕事で成功することを通して、神様に選ばれていることを確信するだけであると考える。従って、強引に他人に宗教を強制しようとしない。一方で、カトリシズムは、全世界にキリスト教を布教することを使命とし、場合によっては力で普遍的な価値観を押し付けようとする(南米の例)。そんな宗教が日本に入ってきたら、日本の文化は崩れ、植民地になってしまうかもしれないと、秀吉、家康、家光は考えたのである。
アメリカがメキシコとの戦争に勝って、カリフォルニアを手に入れると(1848年)、清との貿易のため太平洋を航海する船舶や捕鯨船の寄港地として日本に開国を強く求めるようになった(1853年)。ほぼ同時期にロシアの使節プチャーチンも長崎に来て、開国と国境策定を要求する(1853年)。ペリーは、砲艦外交と呼ばれる高圧的な態度で開国を求めたが、プチャーチンはそのような態度を取らなかった。ペリーは、幕府のたらい回し・問題先送りの外交姿勢を事前に学んでいたので、高圧的に交渉するしかないと考えた。一方のプチャーチンは、日本人の気質を考慮して、力づくの説得よりも時間をかけて交渉する方が得策と考えた。もし、日本がロシアに巧妙に取り込まれたとすれば、フィンランドのようにロシア帝国に取り込まれていくというシナリオは否定できないだろう。
しかもアメリカの植民地化を免れた理由に、開国と明治維新との間に南北戦争(1861-65年)が起きたことは、極めて重要である。つまりアメリカは、帝国主義の仲間入りをする1870年代まで、対外的な政策をとる余裕がなかった。1870年代には、富国強兵のもと徴兵制など日本の防衛体制が整いつつあったのだ。
南北戦争で余った大量の新型銃が、明治政府軍に流れたことを考えると(亀山社中、薩長同盟)、日本近代史のうえで、南北戦争が開国と明治維新の間に起きたことは、決定的な重要性を持つ。
歴史に地理と宗教を掛け合わせるだけでも、平面的に感じていた歴史が立体的に見えてくる。「地政学」は、なかなか面白そうな学問だ。 -
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『交渉に絶対勝利することができる確実な技法を身につけることはできないが、交渉術のある種の原則と具体的な事例を研究すれば、交渉に勝利する可能性はかなり高くなる。
この点について、これからアルコール、セックス、カネ、ポストなど人間がもつ欲望を分析して、交渉能力を強化する方策について考えてみたい。』
交渉術を「交渉をしないための交渉術」、「暴力で相手を押さえつける交渉術」、「取り引きによる交渉術」に分類して、特に取り引きによる交渉術について分かりやすく説明している。綺麗事やロジカルな話ではなく、人間の感性に働きかける視点での説明は興味深く面白い。 -
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[源の村]外務省を退官後、様々な著作を発表している著者が、50歳を境に「若者に読んでほしい本を書こう」と考え著した自叙伝的作品。無神論を学習するために同志社大学の神学部へ進み、数々の出会いを経てキリスト教の洗礼も受けることに。自身の宗教的・知的な変遷の流れをたどった一冊です。著者は、『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞された佐藤優。
佐藤氏の「筆力」とでもいうのでしょうか、とにかく読む者を知的興奮の直中にぐいぐいと引き込んでいく様はお見事。大学時代の濃密な時間がびしびしと伝わってきますし、噛み砕きつつ説明してくれる神学に関する記述も興味深いことこの上なしです。
〜信仰というのは、現実の生活と分離できないという思いがわたしの心の中で強くなった。そうなるとともにわたしは神学部だけでなく、キリスト教の世界から外に出て行きたくなったのである。〜
本の内容とは少し離れますが、京都を久しぶりに訪れたくなりました☆5つ -
Posted by ブクログ
「21世紀に入ってから16年になるが、国際情勢は年を追うごとに複雑になっている。その最大の理由は1991年12月のソ連崩壊だ」との書き出しで始まる、元外務省主任分析官・佐藤優氏の評論集。
ここ数年の雑誌SAPIOの連載をまとめた。
外務省時代、英国とロシア(ソ連)に赴任していた筆者はソ連崩壊を現場で体験してきた。
あの鈴木宗男事件にからみ2002年に逮捕されて、獄中闘争を潜り抜けて作家となった。
自分の努力と知恵と人脈とで練り上げられたネットワークから得られた情報をもとに、多様化し複雑化する世界情勢を分析していく。
筆者は一貫して、相手の立場を理解しようとした上で、複眼的に物事の本質を捉えていく。
物事に対する視点が深くて広い。そして奇をてらっていない。
「外交は人である」--6000人の命のビザで世界的に知られる杉原千畝への見方も、筆者ならでは。
外交ジャーナリストの手嶋龍一氏との対談で、「単なるヒューマニズムでけでなく、インテリジェンス(重要な事項に属する知識・情報)の面でも重要だ」と語る。
知の巨人がわかりやすく語りかける、新聞、ニュース、そして世界の見方が広く深くなる一書。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ皆さん、おひさ~。今日の書評は私も久しぶりの佐藤優先生です。題名が「国境のインテリジェンス」といい、佐藤先生の本質がギュギュっと詰まった一冊です。その中から、第一章のさわりだけをピックアップして取り上げたいと思います。
少し古い本なのでしょうがないが、まずはアベノミクスについて警告を発しています。
佐藤先生はアベノミクスの生みの親である、浜田宏一内閣官房参与(イエール大学教授)の取る立場に反対しておられます。
浜田教授の説を引用すると<囲碁では、打つ手の順序が重要になる。手順が前後してしまうと、勝てるはずの勝負も勝てなくなってしまう。経済も同じだ。財務省の好む消費税率引き上げを金融緩和の前に行ったら、(中略)デフレと円高に苦しむ日本経済が、需要増を伴わない消費財の価格高騰で、一層苦しむことになる。すなわち、デフレ下で増税して国民経済が回復した例は他にない。>
しかし、もともとマルクス経済学を学んできた佐藤先生には、上記の説は強い違和感があるという。
仮に名目賃金(物価を加味した賃金)が上がっても、それ以上に物価が上がれば、労働者の実質賃金(物価を加味しない賃金)は低下する。浜田氏のようなケインズ政策の本質は、実質賃金を低下させることにより、資本の力を一層強くすることであると断じ、アベノミクスに批判的な野口悠紀雄・一橋大学名誉教授の説を紹介する。
<(アベノミクスにより)インフレが進行すれば、国債の残高の実質価値は低下する。(筆者註:借金は物価が上昇すると、実質的に減ずる)他方で家計が保有する定期預金の実質価値は下落する。(筆者註:貨幣(ここでは定期預金)はインフレで価値が減る)このようなメカニズムを通じて、家計から政府への所得移転が起こる。(筆者註:つまり、物価上昇により、定期預金の価値が減り、国債の実質段高が減る。すなわち政府が得をする)
つまりインフレは税と同じ経済効果を発揮するのだ。これはしばしば「インフレ税」という表現が用いられる。
「インフレ税」は国民が国会の議決を通じて拒否できないという意味で、財政民主主義に反する財源調達法だ。憲法に定める「租税法律主義」の精神に反するものである。
(中略)インフレ税は、きわめて過酷で不公平な税である。負担の公平の原則とは無関係に生ずるからだ。まず低所得者に対して情け容赦なく襲いかかる。裕福な人は贅沢を我慢すればすむが、最低所得水準の家計は生存を脅かされる。
また定期預金のような名目資産に重くかかり、不動産のような実物資産にはかからない。このような事態が予測されると、資産の海外逃避が起こる可能性がある。それは円安をもたらし、輸入インフレをもたらす。(筆者註:日本の経済が弱くなると、日本円の価値が下がる=円安、そうなると日本の輸入品の実質価格が上昇する)つまり、事態が前倒しで(筆者註:日本の経済を強くする前段階として、日本が円安となり、景気に悪影響を与える)発生する可能性もあるわけだ。
どうです。皆さん。ウンウンと納得しますよね~しかし、日銀の金融緩和によっても物価が上昇しなかったのは事実。経済って面白いでしょう?みんな理屈は合ってますが、予言は外してますよね~皆さんも投資や貯蓄をする際は自己責任で行いましょう。マスコミ・識者のいうことをうのみにしないように。今回のブログはこれにて終了。なんでかって?取れ高が微妙なんだよん。 -
Posted by ブクログ
2017.6.20
面白い。外交官としての人脈作り、仕事への姿勢もさることながら、その人脈を駆使して、ソ連崩壊を正確に読み解く力は圧巻。
ソ連崩壊の過程。バルト三国の独立。血の日曜日事件。共産党にかわるイデオロギーとして、ロシア正教会との連携。かの有名なKGBの存在。実はそれを操る政治が重要。まさに権力闘争。ただ、最終的には、民意が勝つ。ゴルバチョフは民意の流れを作り、要は一度欲望をしってしまうと、後戻り出来ない。最後はエリツィンがゴールを決める。こういう権力闘争の中、ポリシーをもって人と付き合うことで、人脈が出来、外交交渉も有利に進める事が出来る。世界の最前線で、まさに命がけで戦う外交官に敬意を表したい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの本は日本が大きな変化に飲み込まれる時に一人ひとりが生き残るにはどうすればいいのかというノウハウが書かれている。
1つ目は自分の中の怒りの出所をはっきりさせることである。
怒りとは非生産的なものであり感情的な行動です。
だからこそこれを理性で抑えることが肝要です。だからこの怒りという感情が出てきた際はできる限り合理的に説明し、自分の感情を書き出し、図解し分析するといい。
2つ目は世の中はビビらせることで成り立っていると知ることである。
経済はビビらせることで購買意欲を刺激し成り立っています。
だからこそ必要以上にビビらないために相手を知ることが大事です。
また映画や小説で代理経験することも良い手である。
3つ目は自分の力を見極めることである。
人は普通自分を大きく見せたがり、その結果取り返しのつかない失敗をすることがある。
こうならないために「内省ノート」で人の忠告や批判をしっかりと落とし込むことが大変重要である。
4つ目は目標は「終わり」がイメージできるものにする事である。
超えられない壁を設定し、何年もかけて乗り越えようとするのは無駄である。
だからこそ期限を決め、頑張るべきものに頑張ることをするといい。
5つ目はできる人は「仕事の遠近感」を持っているという事である。
仕事にはそれぞれ期限があり、目の前にあるものからしゃかりきにやるのは思考が硬直化してしまう。
順位をつけ、効率化を図ることができる柔軟性を養う必要がある。
以上のことを踏まえ
思考の硬さを意識的に柔らかくすることがこれからの社会を生き抜くためには重要と著者は述べている。 -
Posted by ブクログ
インテリジェンスに通暁しているお二方による、最近の国際情勢や政治に対する現状分析と今後の見通しを述べた対談式の書です。
お二人の書は、毎年一冊くらいで新書化されており、いつも楽しみにしています。
一般的なメディアからは味わうことが出来ない、様々な情報を統合しての見解は、たいへん読み応えがあり、知的興奮を味わうことができます。
今回は、一国の代表者として、アメリカ オバマ大統領と、安倍総理に対する、バックグラウンドから観た、今の政策運営の考察が、たいへん勉強になりました。
我が国では、政治やビジネスの場において、インテリジェンスリテラシーに通じる人材の育成・輩出が、重要だと感じた次第です。 -
Posted by ブクログ
メディア出身の手嶋さんと、外務官僚出身の佐藤優さんの、実務派インテリジェンスの両巨頭による対談形式での、時事の安全保障問題に対する論評集です。
両氏の対談書はこれで3冊目ですが、どの書を読んでも両氏の深い洞察による本質的な議論には、圧倒されます。最もインテリジェンスという性質上、まだまだ真因の部分は秘匿されているかもしれませんが。
今回も、東京オリンピック招致成功による東アジアの安全保障情勢に対する考察や、スノーデン事件の問題の本質とアメリカやロシアの考え・行動に対する考察、安部政権に対する各国の評価など、かなり参考になりました。
国家インテリジェンスに関する職業に就くことは、国家への忠誠心は必須であること、そして裏切りはけして許されるものではない。国家転覆につながる思想犯は、国家にとって最も悪であるということを再認識しました。
特に安部政権に関する考察については、他のどんな政治評論家の所見よりも、かなり精度の高い論評ではないかと、感じました。
この対談書は、ぜひ今後もシリーズ化して継続していただきたいです。できれば、今後の予測をしていただきたいところです。