知り合いの中学生が受けた高校入試で、この作品の一部が出題されました。
「おばちゃん、現代文は誰の作品が出ると思う?」
と尋ねられたので、過去問題集を見ながら、
「そうねぇ、この人の小説とか、読んでおく?」
と、したり顔で何人かの作家の名をあげておきました。去年の夏の話です。
けど、、
時代小説は、ノーマークでした!
Yちゃん、ごめんよぉ。。。
見事、空振りしました。
フルスイングで空振りして、勢いあまってヘルメットを飛ばした上に、もんどりうって、地面にひざまずいてしまった気持ちです。バッターボックスの土が、ユニフォームの膝を汚します。あ~ぁ、お母さんに叱られる。。。w
(こんな書き方をするのは、センバツ高校野球の影響です。)(今も、エンモユカリモナイ学校の試合を眺めながら、これを書いています。)
ずっとバッターボックスにうずくまっていてもしかたがないので(邪魔なので)、出典の小説を読んでみることにしました。
わたしの出題予想も甘かったですが、この作品も、甘い和菓子屋さんのお話です。書名は『まるまるの毬』。毬は(いが)と読みます。連作短編小説です。
このお話の舞台は、お江戸麹町にある菓子屋「南星屋(なんぼしや)」です。
半蔵門から西に向かって、ゆるい弧を描く蛇のように長く伸びている麹町。その中ほど、六丁目の裏通りにあります。
少し引用しますね。
『間口一間(いっけん)のささやかな構えの店は、屋号の珍しさより他は、とりたてて目立つところもない。この辺りは北に番町、南に外桜田と、武家屋敷ばかりが軒をつらね、自ずと武家相手の店が多い。』
五七調に似たキレの良い文体。眼前に見ているような江戸の町の描写。きっと、作者の西條奈加(さいじょう なか)さんの頭の中には、VRのように江戸の町並みがあって、そこを歩きながら小説を描いているのでしょうね。
南星屋の店主は、治兵衛(じへえ)。十歳で五百石の旗本家の身分を捨てて、上野の菓子職人に弟子入りして修行を積み、その後は渡り職人として各地の菓子を学んだ人です。
今日も、昼の鐘とともに、中から板戸が外されて南星屋が開店します。表には、多くのお客が、滅多に江戸では食べられないお目当ての菓子を待っています。
さて、
知り合いの子の高校入試問題は、2作目の「若みどり」から出題されました。
ある日、武家の嫡男 十歳の、稲川翠之介(いながわ すいのすけ)が、治兵衛を訪ねてきて「弟子にしてください!」と頼みます。
治兵衛は弟子入り許可はしませんが、次の日から翠之介は、毎日、南星屋の菓子作りを見に来るようになりました。
半月ほどした頃の夕刻、翠之介の父親 崎十郎(さきじゅうろう)が南星屋に怒鳴り込んできます。
入試問題文は、「治兵衛を前にして、崎十郎が翠之介に対して、弟子入りをやめるよう説得する場面」をもとに作られていました。
祖父の頃は羽振りが良かった稲川家は、崎十郎の代になって窮乏しています。
崎十郎は、翠之介が貧乏暮らしを嫌がって、菓子屋に弟子入りしたいのだと思っています。
ところが、翠之介は、崎十郎が毎日、愚痴ばかり言っている姿が嫌で南星屋に逃れたのでした。
二人の話を聞いていた治兵衛は、翠之介が本当は崎十郎を強く慕い心配していることを見抜き、翠之介に遠国への修業を命じて動揺させ、弟子入りを思いとどまらせます。
説得の最後に、治兵衛は翠之介対し、「己のすべきことを修めて、それでも菓子屋になりてえなら、相談に乗りやしょう。それまでは、決してここへ来てはなりやせん。」と言います。
「それまでは、決してここへ来てはなりやせん。」と述べたのは、なぜか? 八十字以内で書きなさい。
が、問題でした。みなさんも原作を読んで、解答を試みてはいかがでしょうか。
「みどり」というお菓子の作り方(砂糖を幾度もかけて縁取る)を例えに、翠之介に身を縁取ることを説く治兵衛。素敵なお話でした。読みやすい表現に、美しいリズムの名文でもあります。15歳の受験生に読んでもらうのにぴったりな文章だと思いました。
ま、この出題ならイイかな(負け惜しみ)、と心のいがを収めて、まるまるの心を取り戻したわたし(みのり)なのでした。
よぉし、来年こそは、出題予想をジャストミートするぞぉ!
と、思ってみたものの、来年はもう予想する必要はないんだった。。。
あぁ、見逃し三振の気持ち。。。
でも、Yちゃんは、合格ホームランでした!⭐︎
良かった良かった♡
カキーン!⭐︎