主人公の鷺の介(さぎのすけ)は11歳。
日本橋の廻船問屋『飛鷹屋(ひだかや)』の末っ子である。
父親の鳶右衛門(とびえもん)は行商人から成り上がり、一代で身代を築いた。
うなるほど金がある。
さて、鷺之介は三人の姉たちに振り回される毎日にうんざりし、早々に三人とも嫁に出して、静かな生活を送りたいと
...続きを読む望んでいる。
彼が尊敬するのは、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」を商人の心得と教えてくれた、長兄の鵜之介(うのすけ)だ。
姉たちに反感を抱くのは、11歳という年齢になって、鷺之介が自分の頭で考えることに目覚めたためかもしれない。
たとえば、金持ちの家に生まれた自分と比べ、そうでない同年代の少年たちが働いていることへの申し訳ないような思い。
十把一絡げに同じ名前で呼ばれる奉公人たちにもそれぞれ1個人として名があるということへの気付き。
姉たちへの反発は自我の目覚めである。
しかし、まだまだ青いなあ〜と感じる。
姉たちは金にあかせてやりたい放題、というふうに鷺之介の目には映るかもしれないが・・・
金で買えないものの一つに男女の性別がある。
彼女らは自分たちが女であるゆえに、思い通りにならないことへの不満を抱えているのだ。
そして抗おうとしている。
時々伝法口調になる、人情に篤い長姉のお瀬己(せき)
おっとりと毒舌を吐く、次姉のお日和(ひわ)
頭の回転が早い三姉のお喜路(きじ)
鷺之介は彼女たちの言動に心の中でいちいちツッコミを入れているが、三人の姉たちは、個性的で魅力的である。
特に、お日和とお喜路が探偵のように事件を解決に導くのが面白い。
驚くべきは、母・お七の行動だった。
女は怖い、と鷺之介が実感するのは何年後のことだろうか。