西條奈加のレビュー一覧
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ついつい手に取ってしまう西條奈加さん。今回は、今まで読んできたものとはやや趣きが異なる「漂流記」。実話に基づいていることを読後に知った。
「万に一つ」の生還につながる「理由」に納得感があり、特に、多様なメンバーをとりまとめ一つの方向に進めていく知恵には、目を見開かされた。究極の状況だからこそ、何がほころびとなり、何がよすがとなるのか、鮮明に見えてくるのだろう。
残酷なルールや振る舞いも、貧しく厳しい島の暮らしを成り立たせる視点では必須。そこに「未来への希望」が加わることで、変化が生まれていく。生還後の後日譚にはもの悲しさも漂うが、物語は清々しい笑顔で終わっていた。
逞しく生き抜いていきたい。
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Posted by ブクログ
前作「まるまるの毬」で江戸の菓子職人の人情話に心を温められ、引き続き本作を手に取りました。
人は人と出会うことによって、人として成長していくものなのだとあらためて実感しました。
特に、渡り職人の雲平の登場が、南星屋の人々の心を解きほぐし、前に進む力を与えていました。そして全話を通じて、南星屋のお菓子がいいタイミングで人々の五感に優しく染み込んで、心を癒していくのでした。
それを読んでいるこちらも言葉でお菓子を味わうことかできて、またまた心温まるのでした。
それから、自分の地元のお菓子が登場するとやはり嬉しくなるものですね。これは、三作目も読み味わわなくては…。
ところで、南星屋のお菓子に使わ -
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ネタバレ『首取物語』が面白かったので、こちらも読んでみた。やはり西條奈加作品はよい……!
解説にもあったが、これも厳しさと優しさの物語。お気に入りは「はじめましょ」。希望に満ちたラストは見ているこちらも嬉しくなる。一方で怖かったのは「冬虫夏草」。親離れできない子どもの話かと思ったら、子どもなしには生きられない母親の話だった……。なるほど冬虫夏草。そして、物語全体を通してでてくる差配がいい味出していて、最終話でその人となりがあばかれるのだが、この心町で生き直した茂十の過去がまあ壮絶で……。でも、こういう町というか共同体の距離感は羨ましくもある。淀みを抱えて生きててもいいんだーって。 -
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戸田家の庶子として生まれた垂水行之助は、あまりの利発さが災いしてか、義母と義兄から疎まれる。
行之助は我慢ができず、義母と義兄に暴力を振るったため、小菅村の西菅寺に預けられた。
住職から久斎と云う名を与えられ、小坊主として修行して13歳を迎えていた。
武家の出ということから兄僧から辛く当たられていたが、早朝に出掛ける水汲みの先で、村の娘のしのに会うことが唯一の楽しみだった。
しのの父親が亡くなり、葬儀代の代わりとしてしのは住職から陵辱され、それを苦に崖から身を投げて命を絶った。
絶望感に苛まれた久斎は寺を飛び出し、目的のない放浪者となる。
「もう自分の人生にもう朝は来ない」と考えた久斎は、無暁 -
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お君ちゃん、
今日のお菓子は何だい?
頬が落ちて、心も温まる口福な時代小説。
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西條さんはずっと気になっていた著者のお一人です。
「心淋し川」も気になっていましたが、
テーマ的に本作の方が読みやすそうで手に取りました。
親子三代で営む菓子屋「南星屋」。
お値段はお手頃で庶民味方だけど、味は天下一品。
みんなから愛される菓子屋です。
その南星屋を舞台に起こる様々な出来事。
短編になっていて、それぞれ -
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ネタバレ感想書くため再読完了。やっぱりいいです。
長屋の住人が自分を悪党と認識しながら、困っている人を助ける様、知恵や技を駆使する様に、玄人仕事のかっこよさがあって、爽快感があります。源平爺様、カッコ良すぎる。
魅力あるキャラたちの中で、異色なのが加助さん。いい人すぎて厄介ごとを持ち込んだり、みんなの「仕事」の邪魔をしたりと、ハラハラさせてくれますが、なんか憎めないお茶目なおっさん。
でも、彼にも後悔を伴う辛い過去があり、そこから逃れようと善行を強行してしまう歪みがあったことに、世の中ってグレーだなと感じます。
長屋のみんなが悪党ながら、明るく気持ちのいい人たちで、「善人長屋」の二つ名通りに、厄介事