あらすじ
直木賞作家の新たな到達点! 江戸時代に九度蝦夷地に渡った実在の冒険家・最上徳内を描いた、壮大な歴史小説。本当のアイヌの姿を、世に知らしめたい――時は江戸中期、老中・田沼意次が実権を握り、改革を進めていた頃。幕府ではロシアの南下に対する備えや交易の促進などを目的に、蝦夷地開発が計画されていた。出羽国の貧しい農家に生まれながら、算学の才能に恵まれた最上徳内は、師の本多利明の計らいで蝦夷地見分隊に随行する。そこで徳内が目にしたのは厳しくも美しい北の大地と、和人とは異なる文化の中で逞しく生きるアイヌの姿だった。イタクニップ、少年フルウらとの出会いを通して、いつしか徳内の胸にはアイヌへの尊敬と友愛が生まれていく……。松前藩との確執、幕府の思惑、自然の脅威、様々な困難にぶつかりながら、それでも北の大地へと向かった男を描いた著者渾身の長編小説!
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Posted by ブクログ
感動で胸が震える作品。
この本に出会えて良かった。
微妙だと思っていたタイトルも、後半で効果的に深い感慨を抱かせた。
最上徳内は、江戸時代に蝦夷地を見分した実在の人物。
見分隊や算学塾の恩師たちなど、理解がある仲間に支えられていることに温かい気持ちになるし、徳内の強い探究心と敬愛の心が必然的に彼らとの出会いへ導いたのだと思う。
松平定信の寛政の改革により直面した苦労や、容赦ない自然の脅威など、何度も降りかかる困難はあんまりで胸が痛んだ。
しかし、思いがけないところで報われることもあり、何度も読みながら一喜一憂して没入した。
悔しくて仕方ないこともあるけど、仲間の志を背負って何度も蝦夷地へ渡り、アイヌ文化が後世へと伝わったことに感無量。
Posted by ブクログ
江戸時代中期、時の老中 田沼意次は蝦夷地の開発を計画していた。 出羽国の貧しい農家に生まれた最上徳内は、師の本多利明の計らいで蝦夷地見分隊に随行する。
蝦夷地の雄大で厳しい自然、アイヌの少年や長たちと交流するうち、徳内の中に北方とアイヌへの愛情が育まれていく。 アイヌを虐げ、搾取する松前藩に怒りを覚えた徳内は………。
北海道の名付け親こと松浦武四郎よりも、
半世紀早く、蝦夷地を探検した男の半生を、
直木賞作家が描く!!
Posted by ブクログ
最上徳内、正直まったく名前知らなかった。西條奈加の新刊と言う事と蝦夷が舞台と言う事で手に取ったが、読み進めるうち徳内の人間性とアイヌに対する愛情。探検家としての能力に感銘。蝦夷地に対する松前藩、江戸幕府の間に挟まれ苦悩する徳内。
ドキュメンタリーとして読んでも素晴らしい物語
Posted by ブクログ
蝦夷地の研究者であったと思っていた。
最上徳内の話。
江戸時代、田沼意次が老中のころ。赤蝦夷風説考あたりは試験にも出たから知っている。ロシアの南下を危惧するのは昔も今も同じ。
江戸時代はまだ北海道にはアイヌの人々が多く暮らしていた。一応松前藩が蝦夷を管理していたが、それはもう奄美の島津家のごとく、隷属させ重労働を課していた。このやりくちは実に醜い。松前藩がひどい、和人がひどい。自然と共に精神性豊かに生きるアイヌを虐げた日本人が本当に情けない。
えどかを鎖国の時代、とは令和ではもう言わないかと。徳川が強い制限をかけ、オランダや清国を相手として貿易を独占していたというのが新しい見方かな?
日本の国土は全方向が海で実は閉ざせない土地でもある。ロシア船はひょいひょいと日本に現れていた。田沼意次が舵を取る幕府では、その備えに蝦夷の開発を企図し、まずは蝦夷を知るための見聞隊を送り込む。そこに最上徳内も加わる。
冒頭から徳内の人となりや能力、性格を描いたあと、蝦夷へ赴く事態が続く。勤勉で朴訥な人柄そのままにアイヌの人々と関わっていく姿をつづる。徳内とアイヌの少年フルゥの温かな交流はこの作品の柱。
同行する幕府の役人たちも冒険心に富んだ好漢が多く、旅の間は特に爽快で楽しかった。
田沼意次が失脚したあとの皆の不遇がどうしようもなく悲しく、政治を執る松平定信のケチくさい生真面目さが憎くなった。
Posted by ブクログ
最上徳内という人がどんな人物であったのか、この作品で初めて知ることができた。創作ではあるけれど、魅力的に描かれていた。徳内はいろいろな人との縁を得るが、善人ゆえの運がついて回ったようだ。
そして、徳内が出会うアイヌたちの、なんと魅力的なことだろう。この小説を読んで一番に感じたのは、じつはそのことだった。松前で出会うイタクニップ、アッケシで出会う少年フルウとその家族。古老のムシウカ。厚岸アイヌの惣乙名イコトイ。勇ましいツキノエ。
徳内が果てしない景色の広がる蝦夷地に足を踏み入れてまず感じたのも、自然の厳しさと、そこに暮らすアイヌたちの素晴らしさだった。彼らは家族を大切にし、礼儀を重んじ、知恵もユーモアも兼ね備え、決して野蛮な夷人などではなかった。徳内が言葉を学び、アイヌの懐に入っていくと、彼らの知恵なしに、蝦夷地で暮らすことは不可能と悟る。
徳内を連れてきた武士たちも、クナシリへゆきたい徳内をアッケシに留め置いて、アイヌ語の習得を勧めた。松前藩の通史では都合よく訳されて、アイヌの真意が伝わらないためだったからだが、徳内もアイヌ語の習得を強く望んだ。チーム大石逸平が協力して、松前藩の浅利幸兵衛や、守役の小者をうまく巻いて、連携プレー。竿持ちの徳内と武士の身分の隔てを感じさせない、ユーモラスな描写が心地よかった。
松前藩はアイヌを過酷な使役につかせる労役者、交易と言いながら略奪の対象として都合よく利用し、アイヌの文化と人権を蔑ろにしてきた。このために和人にも、幕府の武士たちにも、アイヌにも悲劇が生まれたのだ。シャクシャインの戦いが何故起きたかが、こんなにもよくわかる物語。
徳内はのちに、皮肉にも、慕う青島俊蔵を不遇の死に追いやった定信の命で、見分隊としてアイヌへの御救(おすくい)交易のための調査に蝦夷地へ向かう事になる。
その後のアイヌたちのことは語られないが、徳内はのちに何度も繰り返される悲劇を知ったらなんと思っただろうか。
Posted by ブクログ
ついに「時代小説」から「歴史小説」に。しかも満を持してアイヌと北方開拓。それでも西條さんらしい心温まる登場人物たち。たまたまだけどロシアのウクライナ侵攻が重なり、セリフが深く突き刺さる。「国というものは厄介なもの。内乱も外乱も戦が起きるのは必ず国境だ」「優劣の軛をつけることでしか人は安堵を得られないのか。人の業の深さ」「御上の代が替わるだけで手のひらを返すように言質を翻す」「信じようとしない者には、真実も嘘に化ける」「言葉とは本来、気持ちを伝えるもの。意味が分からずとも発することで互いの感情のありようが分かる」しかしアイヌの人たちからすれば、日本はロシアだよ…。
Posted by ブクログ
最上徳内は悪名イメージでした。なぜかはわかりませんが・・・。
このお話の徳内は、素晴らしい人でした。
アイヌの少年との交流は感動ものです。
これは面白い!
船戸与一の「蝦夷地別件」と同じ時代、同じ騒乱を描いていますが、こちらのほうが血の匂いがしません。
Posted by ブクログ
大きな歴史や偉人の陰にはこういう無名の誠実な人が居る。年月を越えて史実を掘り起こして歴史を再認識させてくれる作家さんには心から感謝します。ポロトコタンにもう一回行ってみたい。
Posted by ブクログ
江戸時代に、東北の貧農の身から幕臣まで登りつめた、蝦夷のエキスパート、最上徳内の物語。異文化好きなので好きなジャンルの本だった。
題名については、何この長ったらしい題名は、と思っていたのだが、そういう意味だったのか。
歴史には本当に疎いのだが、松前藩の横暴については、いろんな本やドラマなどで知っていたが、なぜ改易にならないのか不思議でならない。松平定信という人物についても、これを読む限り、反感しか覚えない。
『夷酋列像』という、松前藩がアイヌを手懐けるため作った肖像画は、江戸時代のものとは思えない精緻さ、色鮮やかさだが、ほとんどフランスにあるのだろうか?残念。
本はきちんと読むのが好きなので、地図や相関図など作って読めばよかったかも。たくさん出てくる侍の名前と、蝦夷での場所が今ひとつ混乱してしまったので(たぶん加齢のせい?)。(巻頭に蝦夷の地図があって助かったがもう少し詳しかったほうがよかったかも)
Posted by ブクログ
蝦夷地に行った人ぐらいの認識しかなかった最上徳内、とても魅力的に描かれていた。そして同時にアイヌの人々が虐げられていたことがよく分かった。悪いことをしていたばかりじゃない田沼意次の功績も伺い知れる。
おふでが最後会いに来るのは無理がありすぎじゃない?と思うけど。
Posted by ブクログ
江戸時代中期から後期にして、蝦夷地に9度渡り、蝦夷地のエキスパートとして人生を全うした最上徳内の半生記を描く。
この時代に極寒の未開の地である蝦夷地とその地に住むアイヌの人達に真摯に向き合い、これほどまでに彼の地や彼らを愛した人物がいたのだなぁと深く感銘した。幕府や松前藩の身勝手な思惑に翻弄され、有らぬ仕打ちを受けつつも諦めずに蝦夷地に向かおうとする彼の不屈の精神は凄い。フルウをはじめ、彼を慕うアイヌの人たちも魅力的に描かれ、彼の蝦夷地行きを陰ながらに援助する周りの人たちも皆、魅力的で、ただ半生記を綴っているだけなのに、1冊丸ごと面白く読めた。本書では4度目の蝦夷地行きが決まるところで終わるが、wikiによればこの後もなかなかの波乱万丈な様子(何たって9度も渡っているから)。晩年、シーボルト事件にかかわったり、82歳で生涯を閉じているところからして、彼が無事に長寿人生を終えているのが素直に嬉しく思った。
Posted by ブクログ
最上徳内の半生を描いた歴史小説。
最上徳内を知ったのは故みなもと太郎の「風雲児たち」でした。
華々しい名声は得ないものの地道な蝦夷の活動は後の近藤重蔵、間宮林蔵につながれていきますが、本作としては徳内が普請下役に取り上げられたところまでがメインでした。
しかし、みなもとさんの「風雲児たち」は枝葉まで詳細に描いたため未完になってしまったのは残念でした。
Posted by ブクログ
学生時代、歴史が大嫌いでした。人の名前も年号も、全然頭に入りませんでした。松前藩が津軽海峡の上と下、どっちにあるのか知らなかったし。
もっと向き合って勉強すればよかった。全ての人が平らに生きるために知っておくべき出来事が、歴史の中にはたくさんあるのですね。
Posted by ブクログ
3.8。一日で一気読みしたのは久しぶりだった。エンタメ的には地味かもしれないが確かな面白さ。アイヌ系の参考文献の少なさと新しさが話の中のアレやコレやに反映されちゃってるようでやや気にはなるが、あくまで最上徳内がメインで彼から見た範疇で、という解釈だからかなとも思え。ともあれ満足。
Posted by ブクログ
読み始めはアイヌの言葉が難しくて中々頭に入ってこなかったが途中からグッと引き込まれた。
言葉も通じず字を持たないアイヌの人々がいかに虐げられ、奴隷のように労働を強いられたか…
それでも誇りを失わず極寒の蝦夷で生きる様
そしてそのアイヌ達を愛し、守る為に尽くした男
百姓から武士にまでなった「最上徳内」は凄い!
チタタプ、ニシパ、オハウ、カムイetc…知ったアイヌ語もありました(ゴールデンカムイより)笑笑
もうちょっとアイヌ勉強しようかな_φ(・_・
Posted by ブクログ
武士もアイヌも、人々が時代に翻弄されながらも前へと進み続ける姿が生き生きと描かれていました。
先が気になり一気に読みました。
恥ずかしながら、最上徳内という人物を全く知らなかったけどこの本をきっかけに興味を持ちました。
Posted by ブクログ
徳内の蝦夷への思い、そしてそのいきざまに、心が奪われた1冊でした。没頭しました。
読み終えた今、最上徳内のファンになったような気分です。
この時代に蝦夷へ赴き周遊するのは相当な困難があったと思いますが、アイヌ語の習得など大変な努力と信念、純粋な思いで貫いたその生き方に、今のこの自由な時代に、いろんな所に行きたいのに、私は何をしてるんだろう?なんて気持ちにもなりました。
また、徳内は、素敵な伴侶にも恵まれましたね。
1冊の本の中に引き込まれました。
Posted by ブクログ
最上徳内の一代記。彼の朴訥で純粋な性格と名籍な頭脳、そして何よりアイヌの人々に寄せる心情が心に残る。
田沼意次から松平定信への治世の影響を受け、蝦夷地探索は不幸な結果になる。それでも彼の思いは後世に残ってその志は受け継がれて来たのだ。
Posted by ブクログ
江戸中期、蝦夷と呼ばれていた北海道に渡り、アイヌ文化を後世に伝えた最上徳内の半生記。ほんとに前半生しか描かれていないので(晩年もチラと触れられてはいますが)、これこそ大河ドラマでじっくり見てみたいなぁと思うわけです。上下2巻でもいいから後半生も読んでみたい!にしても、「里芋に黒豆の目を付けたような顔」て…キャスティングが難しいかしら(笑)近年、アイヌ文化を見直す機運も高まってると思うので、ぜひ映像化して欲しいです。⭐4.5
Posted by ブクログ
教科書にも出てくる蝦夷探検家・最上徳内の前半生を描いた物語です。
出羽の百姓の子に生まれ、学問好きが高じて江戸に登り、経世家的蘭学者・本多利明の内弟子となった徳内が、本多の代理として幕府の蝦夷地見分隊に小物として参加し、様々な労苦を重ねながら遂には士分の取り上げられるまでが描かれます。徳内は全部で9回蝦夷地に赴きますが、そのうちの最初の三回、近藤重蔵と共に建てた有名な「大日本恵登呂府」の標柱よりも前の話です。
蝦夷地開発を目指した田沼意次と松平定信の政争を背景に、アイヌを搾取する松前藩と見分隊の軋轢が描かれます。善は善、悪は悪と白黒が明快で、善の中に潜む悪と言ったグレーのグラデーションは感じられません。かといってあからさまな勧善懲悪でもなく、白と黒が上手く編み込まれ、やや深みに欠けるきらいはありますが、そのぶん頭に入って来やすく読みやすい。
朴訥で誠実な徳内とアイヌの人々との友情を主題にした非常に気持ち良い歴史長編小説でした。
Posted by ブクログ
江戸中期,再三に渡り,蝦夷の見分に派遣され,アイヌ民族と親しく交わった最上徳内の波乱の前半生を描いた物語。
最上徳内のことは本書で初めて知った。歴史上こんなに興味深い物語が眠っていたとは(私が無知なだけかもしれないが)。こういうのを掘り起こしてくる西條奈加氏には,今回も脱帽である。読み応え十分だった。
蝦夷から樺太へ渡った人の話では昨年,間宮林蔵の話を読んだが,あんなものではない過酷さと奥深さがある。
しかし,先住民族たるアイヌと日本人との断絶の元凶が松前藩の手前勝手な都合であったとは,まったくもって腹立たしい限りだ。しかも寛政の改革で歴史に名を残す松平定信がかように愚昧であったとはな。寛政の改革の評判が悪かったことは知っているが,それでももう少し賢い人間かと思っていた。江戸幕府の権力構造の欠陥なのであろう。どんなに暗愚であろうと一旦権力を掌握してしまうと,誰も意見することすらできない。それじゃ一旦歯車が噛み合わなくなると破綻するわな。
最上徳内が取り立てられた後に蝦夷でどういうことをしたのか後半生についても俄然興味が湧く。
Posted by ブクログ
最上徳内は、生涯で九度も蝦夷に渡海しアイヌ文化を後世に伝えた。
アイヌの人々を知れば知るほど「夷人」と称される不条理に怒りがわいてくる。
道半ばで果てた者たちの志を受け継ぎ、尊敬と友愛を持ち蝦夷地を踏査した。
壮大な歴史小説。
あっというまに読み終えた。
勉強不足で最上徳内さんのことは知らなかったけれど、参考文献も掲載されているから読んでみるのもいいかな。
アイヌのことも深掘りしたい。
Posted by ブクログ
見分隊の面々、心根が優しく上司部下分け隔てなく目標達成しようと努力できる素晴らしい人ばかり
だからこそ評価されずに終わるのがとても悔しい(特に青島さん…)
徳内、辛いことも多かったけれど人に恵まれていたことで立ち直れたのかな
アイヌの人々のために邁進したのだろうか…フルウにもまた会えた?気になる
ゴールデンカムイで見た言葉たくさん!アイヌのイメージ掴むのによかった
そしておふでさんが本当に雄々しいお嫁さんで格好良い笑
Posted by ブクログ
最上徳内とアイヌの人々の歴史小説。
徳内がアイヌの文化を尊重しながら交流していた姿がえがかれていて良かった。
蝦夷の厳しい寒さの描写もあり、個人的に寒い雪降る夜に静かに読む本としてピッタリでした。
Posted by ブクログ
新聞連載小説だったからか、緻密な描写はあまりなく、あっさりした表現で話がどんどん進んでいく。そのせいか旅の過酷さがそれほど伝わってこない。
徳内の誠実な性格でアイヌの皆と交流していく過程が今作で一番心に残った部分だ。
Posted by ブクログ
以前読んだ梶よう子さんの「噂を売る男」のシーボルト事件でちらっと出てきた最上徳内。シーボルトに蝦夷地の地図を渡したにも関わらずお咎めなしだったという話に、何か黒い繋がりがある人なのかとイメージしていたが、全く違う人だった。
元々算術が得意で算術で身を立てるつもりだった徳内は、師の本多利明の影響で蝦夷地見分隊に加わる。その旅でその後の人生に大いなる影響を与えることになるアイヌの人々との出会いがある。
当時のアイヌの人々の置かれた状況には胸が痛む。松前藩と運上屋と呼ばれる一部の商人たちに徹底的に搾取され抑えつけられている。
アイヌの人々の訴えは、「農耕を行いたい」「和語(日本語)を覚えたい」「自由な民として独立したい」というごく当たり前のことだった。裏返せば、それすら許されない厳しい状況だった。
徳内は「本当のアイヌの姿を世に知らしめたい」「松前(藩)の軛(くびき)から放たれるよう手助けしたい」という思いで蝦夷地の各地を旅する。
だが彼の思いはなかなか実現しない。
松前藩の妨害もだが、将軍・家治の死による老中・田沼意次の失脚で彼らの文字通り命がけの蝦夷地見分は頓挫する。さらにはアイヌの人々の反乱(蜂起)後には上役の青島と共に入牢の憂き目にまで遭っている。
それにアイヌの人々と一口にいっても広い蝦夷地が様々なな顔を見せるのと同様、日本に近い者もいればロシア(赤人)に近い者もいて、一枚岩ではない。
徳内は士分でなかったためと師の本多らの助けにより釈放されたが、青島はついに帰らぬ人となった。
松前藩のように弾圧するのはもってのほかだが、では幕府が直轄地として蝦夷地を支配するのが良いことなのかとの葛藤も徳内にはある。
和語を教えることがアイヌの人々の言葉や文化を奪うことにならないのか、ロシア領となる方がアイヌの誇りが保たれるのではないかとすら考えたりしている。
現在のアイヌの人々の環境を考えれば、徳内のそうした葛藤も理解できる。
物語はこの辛い場面が山場となっているため、その後の徳内の働きについてはサラっと流される程度だったのが残念だった。出来れば松前藩によるアイヌの人々への弾圧がどうなったのか、アイヌの人々へ農耕を教えることが出来たのかなどを知りたかった。
アイヌ人の友人たちが魅力的だった。親友であり弟子であり弟のような存在であるフルウ、最初に出会った友・イタクニップ。
見た目こそ荒々しいが、中身はとても穏やかで争いを好まない優しい人々だった。文字は持たないが言葉は日本語にない発音がたくさんあるほど豊富だし、神話や昔話も多い。文明的だし知性もある。
それから徳内の妻ふでが豪快で素敵な人だった。師匠の本多始め算術仲間や青島始め見分隊の人々も役人らしからぬところもあって魅力的だった。
タイトルはイタクニップによる謎かけだった。それを知った瞬間が徳内がアイヌの人々や蝦夷地に掛ける思いが新たになった瞬間かも知れない。
なぜシーボルトに蝦夷の地図を見せてもお咎めがなかったのかという点についても分からないままだった。だが徳内がなぜ孫のような年齢のシーボルトに蝦夷地の話をしたのかは理解できた。蝦夷地やアイヌの人々の本当の姿を伝えたかったのだと思う。
蝦夷地探検というと間宮林蔵が有名過ぎて、最上徳内のことは知らなかったので、この作品で彼や見分隊に参加した沢山の役人たちのことを知ることが出来て良かった。
読書はこうしたきっかけや繋がりがあるから面白いし止められない。
Posted by ブクログ
天明5年2月(1785年)田沼意次肝煎の蝦夷地見分隊はロシアに対する海防と開拓の調査のため、江戸を立つ。その一員に加わった最上徳内は厚岸(アッケシ)到着後、アイヌの少年フルウと出会う。蝦夷での交易を独占する松前藩はアイヌを搾取する実態を知られないよう、見分隊の行動を監視し、徳内とアイヌの接触を禁じる。
田沼意次の失脚、松前藩との確執等の困難の中、アイヌとの信頼と友情を貫き通す徳内の生涯が描かれる。