中島岳志のレビュー一覧
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試し読み
Posted by ブクログ
近代日本思想史のうち、いわゆる「アジア主義」と言われる系譜の概観を理解するのに大変便利です。人物誌的に書かれているので、読み物的興味もそそられるようになっています。そういう意味で大変良い本だと思います。
ただし、批判的視点がやや弱いので、そこを注意しながら読み進めていく必要があるでしょう。同時代の、社会主義、共産主義、アナキズム、また、白樺派やモダニズムとの比較検討も、読者各自が自分なりに留意すべきです。
ここで取り上げられたアジア主義者達についての私の感想は、彼らの発想が近代国民国家を前提とした国権主義的なものでしかなく、権力の奪取までしか考えておらず、その先に構築する新たな社会をどのよう -
Posted by ブクログ
太平洋戦争における東京裁判で連合国側判事にありながら日本の無罪を主著したインド代表のラダ・ビノード・パール判事。靖国神社に併設されている遊就館にも同博士の顕彰碑が建てられている。極東軍事裁判唯一の国際法専門家で、絶対悪とされた日本の戦争犯罪を無罪と言い切った勇気ある裁判官として、保守派から大きく尊敬される存在だ。書籍も多く出ており、私も幾つか読んだが、その都度パールの言葉に感動した事を覚えている。だがふと、Youtubeの動画なんかを見ていて保守系の大東亜戦争肯定論者にうまく利用されているのではないかと不安に感じたことがある。実際に動画の内容は、日本の戦争は正しかったとしており、アジアの解放の
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Posted by ブクログ
オルテガの名著を、大衆、リベラル、生きている死者、保守という4つのキーワードで語る。
未読の書物を、原著に当たらせたくさせる好著だ。
オルテガのいう大衆とは、自分と異なる他者と共存しようとする冷静さ、寛容さという意味でのリベラリズムを欠くもののことである。その対極が貴族だ。
そして大衆の原型が、専門家だという。
保守とは、人間の理性には限界があり、理性と知性によって社会を設計するなどということは不可能だという認識を持ち、過去の人々、死者たちの叡智とともに生きようとする姿勢のことである。
自我、私、自己責任などという観念が肥大した近代という時代の根源的な誤謬、近代が失ったものの本質を見事に -
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Posted by ブクログ
4人がそれぞれ一冊ずつ紹介するスタイル。
アンダーソンという人の想像の共同体が面白かった。
過去と正しく決別できていないからこそ、未来の日本人に対する無関心がある。
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第二に、歴史家の客観的な目には国民(ネーション)は近代的現象に見えるのに、ナショナリストの主観的な目にはそれは古い存在と見える。要するに、新しいのに当事者には古く見える。これこそ、ナショナリズムの最もふしぎなところです。
逆に、ヨーロッパのいずれかの国に植民地化され、まとまった行政単位として扱われたという事実が、結果的に、植民地の人々に「我々 ○ ○人」という意識を植え付ける結果となった、と考えるほかありません。 -
Posted by ブクログ
現在2023年4月末。先日、まもなく新型コロナが5類になることが正式決定されたとニュースで流れた。
この本に掲載されているインタビューや手記は2020年。コロナ禍がいよいよ始まり、おそらく世界中の誰もが、今まで非日常と思ってきたことを日常的なものとしなくてはならないという不安に覆われはじめてきた、そんな時期の発言だ。そのような意味では、更に数年後、コロナ禍を振り返るための格好の史料となりうると思った。
この本の中で多くの識者たちが言及していたと思うが、人間にとって一番厄介なのは、人間の心の中に生じる差別、偏見、批判なのだ。どのような状況下にあっても生じるこの心の動きに、私たちはどのように打ち勝 -
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中3生の模試の国語で、伊藤亜紗さんの『「うつわ」的利他』の一部が題材として出題されていて、興味をもったので読んでみました。
「利他」は「偽善」「自己満足」「押しつけ」と紙一重で、特にネットではそんな言葉で全く関係のない赤の他人から揶揄されたり非難されたりする可能性もあって、最近はうっかり親切な行動もとれないような雰囲気があったりもします。だいたい、「偽善」「自己満足」「押しつけ」をすり抜ける「利他」ってどんなものなんだろう。そんな思いがありました。
伊藤亜紗さんの章は読みやすく分かりやすかったですが、いちばん面白く興味深く読めたのは中島岳志さんの『利他はどこからやってくるのか』でした。志賀直哉 -
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政治は最近というか前から興味があったけど手に付け難かったジャンルだった。
いつかはちゃんと向き合わなければいけない内容であり、自分に深く関係していることは分かっていても、なかなか簡単に理解できるものではないと思い、遠ざけていた。
でも、この本はすごく基本的なことが、分かりやすく書かれていて、しかも読者のニーズの的を射た内容だ思った。
個人的には、ガンディーの政治に対しての考え方になるほどと思った。
政治とは本来どうあるべきなのかを深く考えさせてくれる人だと感じた。
基礎的な内容(右翼左翼とは何なのか、保守主義とは、また「リスク、お金とリベラル」を軸としてできる象限など)も分かりやすく、理 -
Posted by ブクログ
本書を読んでいくつも気にかかることがあった。個人的なこともあり、また、もう少し大きな問題もある。
個人的なことといえば、父のことである。父は10数年前に病没したのだが、入院中にせん妄状態になり、「天皇陛下に申し訳ない」と言い出した。かれは、旧職業軍人で、終戦時には連隊長で、日本に生還したのはかれの部隊の5%ほどであったという。戦後すぐは主だった部下の家族のもとを訪ねてその戦死の様子を伝えていたという。私がそのことを知ったのは、最晩年のことで、かれは戦争体験のことはごくわずかしか語らなかった。
しかし、そのかれが、死の間際に申し訳ないといったのは、陛下から預かった部下や武器を失ったことであっ