この本の素晴らしさは後書きにあると思う。本書を購入された際に後書きを見てほしいが、ここでは簡単なサマリを備忘録的に残しておく。
人は相互理解をスムーズにするために共通規範を導入し、お互いの意思疎通で齟齬が生じないように調整している。例えば、ビジネスメールでは「いつもお世話になっております」と冒頭に
...続きを読む書くのがマナーになっているが、この一文があるだけで「私はちゃんとビジネスマナーを分かってますよ」と相手に伝えるシグナルになり、相互理解を円滑にするきっかけになっている。そして、共通規範はコミュニケーションの予測可能性を与える。ビジネスメールのフォーマットが決まっているから、読み手は簡単に内容を理解できる。もし、自由なフォーマットで全員がビジネスメールを書けば、コミュニケーションのコストは膨大になる。
一方で、共通規範だけではコミュニケーションは取れないし、相互理解を深めることができない。なぜなら、共通規範にない偶然の出来事は必ず起き、その時の最善マニュアルは存在しないからだ。例えば、受験に失敗した浪人生に掛ける最適な励ましは、浪人生ごとに違うはずだ。
だからこそ、相互理解の根幹にあるのは、愛と信頼に基づく投射である。投射とは、過去・現在・未来を線形に予測するのではなく、偶然性に自ら足を踏み入れ、相手に伝えることだ。偶然性は不確実性を持つので、自分の考えを伝えることは相手を傷付けるリスクを背負う。それでも、精一杯の愛と信頼をベースに、相手を傷つけてしまうかもしれない畏れを持ちながら、自分からの投げかけが相互関係を変えるかも知れないと思いコミュニケーションを取る。