【感想・ネタバレ】他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学のレビュー

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Posted by ブクログ 2022年10月30日

この本の素晴らしさは後書きにあると思う。本書を購入された際に後書きを見てほしいが、ここでは簡単なサマリを備忘録的に残しておく。

人は相互理解をスムーズにするために共通規範を導入し、お互いの意思疎通で齟齬が生じないように調整している。例えば、ビジネスメールでは「いつもお世話になっております」と冒頭に...続きを読む書くのがマナーになっているが、この一文があるだけで「私はちゃんとビジネスマナーを分かってますよ」と相手に伝えるシグナルになり、相互理解を円滑にするきっかけになっている。そして、共通規範はコミュニケーションの予測可能性を与える。ビジネスメールのフォーマットが決まっているから、読み手は簡単に内容を理解できる。もし、自由なフォーマットで全員がビジネスメールを書けば、コミュニケーションのコストは膨大になる。
一方で、共通規範だけではコミュニケーションは取れないし、相互理解を深めることができない。なぜなら、共通規範にない偶然の出来事は必ず起き、その時の最善マニュアルは存在しないからだ。例えば、受験に失敗した浪人生に掛ける最適な励ましは、浪人生ごとに違うはずだ。
だからこそ、相互理解の根幹にあるのは、愛と信頼に基づく投射である。投射とは、過去・現在・未来を線形に予測するのではなく、偶然性に自ら足を踏み入れ、相手に伝えることだ。偶然性は不確実性を持つので、自分の考えを伝えることは相手を傷付けるリスクを背負う。それでも、精一杯の愛と信頼をベースに、相手を傷つけてしまうかもしれない畏れを持ちながら、自分からの投げかけが相互関係を変えるかも知れないと思いコミュニケーションを取る。

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Posted by ブクログ 2022年08月16日

物事を簡単に語って済ませてしまわない知性。
何度も読み返してみたい。そんな本との出逢いに感謝します。

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Posted by ブクログ 2022年03月02日

良書。ターニングポイントで読み返したい一冊。「自分らしさ」の考察は、先日読んだ『ダイエット幻想』の内容から発展したもの。日本人の遺体に対する考えに関する項では、原爆で亡くなった曽祖父と大叔母を「火葬できた」事に感謝していた曾祖母の言葉を思い出した。

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Posted by ブクログ 2022年01月27日

優しくて、丁寧な内容だった。「正しく考える」「正しく生きる」ということを少しでも窮屈に感じたことがある人であれば、読むことで少し自由になる(これまで立脚していた点が、さまざまある点のうちの一つに過ぎず、他にも立脚できる点があることがわかる)のでないかと思った。

情報経験だけでなく直接経験を多く持ち...続きを読むたくなった。また、内心怯えながらでも、多くのものや人に出会い続けて、ラインを積極的に引き続けていきたいと感じた。

個人的な備忘のために以下少し要約を記載。
味わい深い内容なので、また読み直したい。

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「自分らしさ」と聞くと一般的には、自らの内部にある考えや思いをピュアに表明することを想像することが多い。また、現代だと「自分らしく」あることが称揚される。

しかし著者は、「自分らしさ」がこのような内発的な動機や、その他大勢の意見への反抗だけでは成立せず、他者からの承認を必要とするものであり(例えば「自分らしい殺人」というのは他者から承認されにくいため成立しない)、すなわち実は「私たちらしさ」なのではないかと主張する。

その上で、実のところ「私たちらしさ」と呼ぶべきものが「自分らしさ」という呼称に隠蔽される背景には、戦後日本の個人主義的人間観(一つの身体の中に一つの個人が宿っており、それは世界からも歴史からも分離が可能であるという人についての理解)と、個人主義的人間観と(実は)相性の良い統計学的人間観(統計的に立ち現れるが実際には存在しない「平均人」を想定する人間観)があるとする。
また、統計学的人間観は、生物的な命が存続することが何よりも素晴らしいとする倫理を纏っており、それはこの人間観が、個人主義的人間観に基づいているからであるとする。

このような人間観に対して筆者が主張するのは関係論的人間観と呼ばれるもので、身体があるから個人があるという前提に立たず、自己と他者との関わりによってはじめて「私」が生じるとするものだ。

この関係論的人間観に立脚すると、他者と接合されて生まれる「自分らしさ」(実のところは「私たちらしさ」)とは他者と生きる中で立ち現れるものだとしている。
その後、最終章で、統計学的時間と関係論的時間の差異について論じており、これもめちゃくちゃ面白い。
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長々と要約じみたことを書いてしまったが、以下が個人的に心に残った。
・現代医学が多くの場合、リスクの実感を醸成することを目的としてレトリックを駆使すること
・身体的な実感を伴わない情報経験は生命としての世界との関わりを希薄にすることにつながり、結果として想像力が権威によって勝手に想起させられることにつながること
・そのような想像力の操作に抵抗するために、情報の背景にある意図や歴史、政治的事情を把握するのが重要であること
・様々な病の原因として、誰も確かめようのない狩猟民族時代の人間の脳と現代の人間の脳との対比を引き合いに出すのは、全人類にとって納得しやすい「平均人」を用いた起源の語りだから
・選択というのは、それによって変わっていく自分がその後起こる出来事に対応していくことを許容することである、ということ

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Posted by ブクログ 2022年01月23日

他者と関わりながら生きるとは、どういうことなのか?
一見当たり前のような問いの本質は、人間とは?生きるとは?という人生観につながってる。
本書では様々な事例を元に、この哲学的な問いに丁寧な補助線が引かれていく。
医療における私たちが感じる選択の難しさや、様々な文化を持つ民族の考え方、コロナ禍で日々私...続きを読むたちを追い込んでいく数字など、読んでいて悲しくなったり驚いたりしながら、人との関わり方の多様な視座が示される。
他者と愛を持って関わりたくなる一冊。

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Posted by ブクログ 2022年01月18日

この本は、全体を通して「手ざわり」がテーマになっていると思います。
まず、ひとりの医師としてこの本を読んで、自分は目の前の患者の生活を過度に医療化してしまっていないだろうかと、振り返るきっかけになった。エビデンスや統計学的情報を絶対的「正しさ」として振りかざして、その人のもつ経験や物語、「手ざわり」...続きを読む感を、ないがしろにしてしまっていないだろうか。
後半で語られる「関係論的時間」の概念は、時間というある種無機質にも感じるものに、「手ざわり」感をもたせてくれるようで、新鮮に感じました。

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Posted by ブクログ 2024年01月14日

テーマが深く、集中して読まないと筆者の言いたいことがなかなか頭に入ってこない。が、それは単に読者の私の集中力のせいであり、すぐに頭に仕掛かり中や納期に迫られる仕事に神経がついてしまう様な私には合わなかった。だが、本書のテーマは冒頭申し上げた様に深く考えさせられるものだ。
もし私が何らかの病気を患い、...続きを読む明日死の宣告を受けたらこれまでの自分の人生を振り返り、良かった、充実した人生だったと納得がいくだろうか。まだやり足りないことが沢山あり、ここで死ぬのは嫌だと最後まで治療法を探し生に執着するだろうか。読み終わった瞬間に頭を過ったのはこの思いだった。私が生きている上で、仕事でもプライベートでも様々な人(他人)と関わり合いを持ち、必ずしも心地よい関係だけではなく、中には面倒だったり会うことに恐怖や嫌気がさす人もいるだろう。後者がパッと頭に思い浮かばないものの、恐らくはこれまでの経験から、特定の人を嫌いになったりしてしまうと、途端にどうしても会わなければならない状況に陥った場合に、自分の時間が無駄に感じられたり、心に負担になるのがわかっているから、敢えてそう思わない様な自己防衛策が働いている事を自分で理解している。少々周りくどい言い方ではあるが、多くの人が嫌な人に会っても顔では笑いながら挨拶できるのと同じことだ。
そうやって自分の人生は他者と共にあり、他者との関係性によって、幸せだったりそうで無かったりと価値が変わっている様に感じる。自分の未来はわからないことが多いが、就職や結婚など自分が選んだ道は少なくとも、そうした未来を決定づけるイベントとして、自己の責任の上に成り立っている。時には失敗と感じる方もいるだろうが、そこで人生が終わるわけではないので、その後の人生に深みを持たせられる人間関係を築くのは、またこれも自分次第である。
人が生きていく上で他者と共にあるのは当然だが(どんなに田舎に閉じこもっても、地球上の最後の1人になる事は考えられない)、より深みがあり、充実した幸せな人生だったと最後の瞬間に思える様、今何を選択していくかは、自分次第だ。

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Posted by ブクログ 2023年04月23日

難しいテーマを平易に描いてる。はずだがそれでも私には難しい。
統計学的人間観はとても大切。だが取り扱い方が上手い人は少ない。長生きすれば幸せなのか、には答えられないので。
正しく恐れる、って時に弊害生むのね
自分らしさ、は周囲の環境があって初めて決まる。観測するから、何が他者に比べユニークかがわかる...続きを読む

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Posted by ブクログ 2022年10月23日

第一部のリスクの手ざわりは、非常にわかりやすく、少数民族の長年培われてきたリスクの伝え方や、予防医学の中の抗血栓療法で多用されている元巨人の長嶋さんのレトリック。HIV,BSE、新型コロナでの志村けんさんや岡江久美子さんの報道とどんどん腹落ちする内容。一方、第二部の狩猟採集民、自分らしさの後からは一...続きを読む気に難しかった。統計学的人間観、関係論的人間観あたり。読み返し要。

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Posted by ブクログ 2022年05月05日

第一部、第二部、そして終章と続く。最初の二部は全て終章のためにある。難解なテーマを平易な言葉で紡ぎ、一気に最終章まで引き込まれてしまった。前著の「急に具合が悪くなる」は未読であるが、もしかしたらそれに続くものかもしれないと思いながら終章を読んだ。「私たちが生の実感を感じる時はいかなる時か。それは少な...続きを読むくとも関係論的時間においては、相互作用の中で他者と時間を生成している局面のことであり、その時、時間の曲線は統計学的時間を凌駕する」。著者は終末期の人との対話で考察された。私自身は、読みながら、自助グループにおけるハイヤーパワーを連想した。「唯一の生への畏怖を宿した慎み深さ」による他者との関係で、人は生まれ変わる。

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Posted by ブクログ 2022年05月02日

ちょっと不思議な構成の本だった。

第一部は病気のリスクの話。

統計的なリスクと個人に降りかかることとの落差。こういうことをしたらしなかった場合と比べてこうなる人の割合は◯%アップする、とか。いや、だけどこうなるかどうかは、個人にとっては一かゼロでしょ、というのはいつもわたしが思ってることだし、対...続きを読む策を講じても確率的に何割かの人はそうなるわけで。平均値というのは平均でしかなくて、わたしのことじゃない。…わたしの視点に落とし込めば、そういう話が書いてある。

が、筆者が何を言いたいのかはいまいち判然としない。

第二部は自分らしさとはどんなことなのかについて。

ここでもやはり統計上の平均人と個人とは別物であるという下敷きの上で、自分らしい、その人らしいというのは一体何なのかが探られていく。
自分らしさというものは、大勢の人とは違う自分らしいものでなくてはならないと同時に、大勢の人に認められる必要があるのだ、と筆者は言う。この辺り、自分らしいとは自分が定義するものではなく他者によって定義されるものであるという筆者の立ち位置が透けて見える部分である。
そしてやはり筆者によって取り上げられる人類学者の観察した文化の異なった人たちの行動のパターンがいかに私たちとは違っているかという例、それは筆者の持つ文化パターンを浮き彫りにする。

が、第二部でも筆者が何を言いたいのか全く判然としない。

この辺りでわたしは「もしかしてこの人、めっちゃ若いんちゃう?少なくとも氷河期世代以降の人やな」との思いが強くなり、思わず略歴なんかを見てしまう

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年04月03日

なんかとても時期を選んで出てきた感じ。先は見えない。落ち着いては来ている。いろいろと面白かった。深い時間というのがわかったようなわからないような。

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Posted by ブクログ 2022年03月21日

大事なことが書かれていることは分かるが、きちんと理解したのかと言われるとうまく説明できない。再読してみたい。

医学的なエビデンスに基づいている風に書かれている生き方、健康に関する情報が巷にはあふれている。それらの情報発信者に騙そうという意志はないと思うけれど、踊らされているのかもしれない。私たちが...続きを読む踊らされる前提として、統計学的人間観があるのかもしれない。そんな新しい視点が得られた。「スマホ脳」などのベストセラー本に感心し影響を受けつつも、そこはかとなく感じる違和感の正体が少し見えた気がした。

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Posted by ブクログ 2022年03月14日

自分とは。そもそも人とは。他者との関係性の中で生じるということについて捉え直すきっかけになった。本著後半、特に、「自分らしさ」の孕む矛盾について記述した章と、「他者の生き方を評価することの慎み深さ」について記述した章は感銘を受けた。
全体を通して、難しい言葉が多かった。

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Posted by ブクログ 2022年02月05日

リスク認知から異なる人間観のモデル、そして他者と共に時間を生成すること。
関係論的人間観に基づく考え方が新鮮。個人という観念が実は自明ではないのではということ。
そして自他が生成される過程。
最後の偶然と必然の時間感覚の提唱はおもしろかったが、理論を俯瞰して本の最後でにわかに景色が開けたような、そん...続きを読むな読み口。
応用を考えてみたいところ。

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Posted by ブクログ 2023年01月22日

ここでは「医療」をテーマに論じられているけれど、
この「医療」を「心理学」に置き換えても本書の議論は通じる。

著者とは近い問題意識を持っているように思える。

人を「数」で捉えることはどこまで可能なのか、
他から切り離された個人は存在し得るのか、

人類学的な視点からの考察、大変勉強になりました。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年11月29日

自動車事故を恐れるからといって自動車を禁止しない。
アルコール依存症が問題になるからといって禁止しない。
何をリスクとみるのかは何を基準にするべきか。

心房細動と抗血栓療法。出血のリスクを引き受けても抗血栓薬を飲み続けるべきである。飲まなければ必ず心房細動を起こすわけではない。皮下出血を起こしやす...続きを読むくなる。しかし血液サラサラの言葉に惹かれて薬を飲む。血液サラサラは、試してガッテンが最初に使った。

HIVやBSEは、合理性を欠いたパニックがみられた。
ゴンドラ猫の実験=自由に動けない猫は、ゴンドラを降りた後あちこちにぶつかる。=身体体験がないまま情報体験に反応して生きることは生命たりうる所以を骨抜きにする。情報発信者の意図のままに想像力が操作される。

震災時には、仮葬として土葬し、2週間後に掘り起こして火葬にした。冷たい土の中に閉じ込めておくことが耐え難かった。遺体を運ぶ車はトラックではなく、新車を含む10台の霊柩車らしく改造された車をつかった。
コロナのときは、有名人の死が、恐怖をあおるために報道された。
万が一、という留保が過剰反応を作り出している。万が一の連鎖が痛ましい死を作り出す。
大衆は、暴力的な事件を記号として喜んで消費する=ほどよい室温になったワインのように供されるのなら、大衆はそれを好んで飲む。

スマホ脳とファクトフルネス。どちらも狩猟採集民族である人類が今でも残っていることを主張の根拠としている。糖質制限食も同じ。=石器時代への幻想。パレオファンタジー。
農耕開始から1万年は十分な時間であるという主張もある。高地で生活したり、乳製品を効率よく消化する能力はここ数千年である。『私たちは今でも進化しているのか』マーリーン・ズック

平均人の病いの語り。=一般化可能性がある、が客観的事実として認識されやすい。
どんなときも。世界に一つだけの花、=自分らしく、自分らしさ、が強調された。
自分らしさ、を説明するとトートロジーになりやすい。
=大勢がそのようなもの、に対して抵抗すること。内発的に動機づけられていること。しかし、社会の規範を超えない範囲であること。
自殺は、自分らしいとは言われない。死ぬことは、家族との関係性の中で起こること。

統計学的人間観=平均人という概念を支える。
個人主義的人間観と関係論的人間観。

宇宙人と交流することは可能か。関係性をもつことができるか。
共存の枠=互いの間に規則性が生成される。挨拶はその規則性にはめるためのきっかけになる。

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Posted by ブクログ 2022年04月14日

なかなか難解
人生は長さではなく、どう生きたかである。
人生は長さではなく、深さである。
などについて説明してくれる。

共在を作るために挨拶はある。など目から鱗のはなしもたくさんあり

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