司馬遼太郎のレビュー一覧
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征韓論から西南戦争までを書いたもの。当初「時代小説」だったものが著者の興味が膨らみ方向転換したことで、最終的には「歴史伝」になった不思議な書。
歴史は、歴史学のように資料に残る事実のみで「科学的風」に分析、解釈することが正解とされる。しかしこの著者は、資料を「詩的」と評される歴史人物への共感と、自らが生きる現代社会への経路の想像によって、歴史を紡ぐ。これは小説というジャンルでは許される技法であるが、歴史書としては「違法行為」とされる。しかし本書を読み感じたのは、「歴史の事実など、本当にとらえられるのか」「人間にとって『歴史』とは何か」である。この大長編でありながら夢中で読める本書は、現在「司馬 -
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西南戦争が遂に始まったが、作戦といったものも特に無く、その内実は実にお粗末であったという事は意外だった。薩摩士族は、当時最強の武士、まさにラストサムライ達、というイメージがあったので本当に意外だ。
佐賀の乱など、その前の諸々の内乱こそ早々に新政府軍に鎮圧されたが、今回は西郷さんを中心に一枚板で政府軍と死闘を繰り広げる…という展開にはならないのだ。
戦場には煮え切らない何かがあり、西郷さんのやる気の無さが見え、両者銃器の差があり、両者不慣れがあり、官軍に対する農民の不満もありと…複雑な状況。士族の反乱、と一言で言えない部分が非常に細かく描かれている。
余談として。詳しくは知らないが乃木希典が旗を -
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▼はじめに読んだのは恐らく中高生の頃。その後の30年間くらいの間に少なくとも1度は再読しているはず。ただ、確実にこの10年は読んでいなかったので、軽い気持ちで再読。
▼やはり、面白い。幕末の、長州藩の、吉田松陰と高杉晋作が主な題材で、第1巻は全部、吉田松陰。ものすごく頭が良くて真面目で憂国の志士。だが同時に底抜けに明るくて礼儀正しくて、あんぽんたんのように人をすぐに信じて騙されて、歩くコメディのようにやることなすこと詰めが甘く不運でことごとく失敗する世間知らずのお坊っちゃんでもある。
▼司馬さんは証言や手紙から、その「明るく礼儀正しく騙されやすく不器用」というところに愛を感じたんだろう -
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ネタバレ関ケ原の戦い。その結末を知っていても、細かいことは知らずにいた。実は戦をする前に勝敗は決していたともいえる。
幼いころからテレビで見ていた時代劇はたいていが潔癖な正直者正義漢が勝つものだった。しかし、この戦国時代はもっともっとどろどろの義や恩よりも利や保身を探って動く実に腹黒い政治力によって生き抜き合戦があったようだ。
そんな中で西軍の大谷吉嗣や島左近たちの命を惜しまない男気のある戦いぶりは実に爽快だった。その家来たちも負けるとわかっていながら大将の「逃げよ」という勧めにも従わず、堂々と死地に赴いていく。この潔さは胸をうたれ、深く余韻が残った。
一度は逃げた石田三成もかくまってくれた