司馬遼太郎のレビュー一覧
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家康は信玄・謙信・信長・秀吉のような合戦の天才ではなかった。戦に負けること多数、三方原では脱糞しながら敗走。ただ、自分が凡庸とわかっていたから、敗戦から多くを学び、天才にはわからない凡庸な人間の気持ちもよくわかったのではないか。だからこそ凡庸な世継ぎが生まれた場合の世襲対策を強固に構築したのではないか。
家康は忍耐の天才であった。大国に挟まれた彼は幼少期から人質生活、合戦では今川・織田の最前線における酷使に耐えた。
人生の前半は愚直さと朴訥さが印象的であった。織田家の東方の壁として武田を抑え続け、織田の西方進出を助けた。調略を覚える後半・第二巻が楽しみだ。
家康でさえ、何度となく錯乱して我を失うことがあるんだ。 -
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明治は明るい。
「明るさは滅びの姿であろうか。
人と家も暗いうちは滅亡せぬ」
とは、右大臣実朝の言葉だ。
いや、正確には、源実朝にそう語らせた太宰治の言葉だ。
太宰であれば、明治の明るさは滅びの姿だと言ったはずだ。
三四郎に電車で出会った東大教授の広田先生に日本は「亡びるね」と言わせたのは、漱石だ。
漱石、太宰の予言とその成就を知っている司馬遼太郎は、本書で坂の上の雲を目指して歩む近代日本の姿を生き生きと描いている。
当然、坂を上ったら転げ落ちるしかない。
だが、坂を上っている時、それは苦難に満ちたものだが、希望にも満ちている。
だが必ず亡びると分かっている者には、その輝かしき希望は哀しい。
日本国の「滅び」「亡び」を切迫感を以て語るのが、日露戦争における日本海海戦の場面だ。
歴史の教科書では、東郷平八郎率いる帝国艦隊によるバルチック艦隊に対する勝利は、あたかも必然のような語られている。
しかし、本書を読むと、日本は敗北の瀬戸際ギリギリにいたことが分かる。
日本の敗北は、ロシア帝国による日本併合を意味する。
天皇制は廃され、皇居には赤の広場のような宮殿が建てられ、その中央にある金の玉座には、ツァーリが(ときたま)座る。
そして、ロシア帝国臣民となった元日本人は、当然、ロシア語を強制されて、「ダー、ダー」言っている。
数十年も経つと、日本語は廃れ、日本文学は忘れ去られ、漱石を読む者は(読める者)はほとんど居なくなる。
その代わり、ドストエフスキーをロシア語で読むようになり、作家たちは、ロシア語で小説を書くようになる。。。
そんな世界が現実となる一歩手前に日本はあった。
そんなはずはない。
いや、日本政府の高官たちは、その危機を現実のものとして考えていた。
大国ロシアは、総力を挙げて日本を滅亡させるつもりだった。
旅順を鉄壁の要塞として、そこに、日本艦隊に匹敵するロシア艦隊を温存した。
そして、黒海から、旅順にある艦隊と同規模のバルチック艦隊を極東に派遣する。
旅順艦隊とバルチック艦隊が合流したら、その規模は日本艦隊の2倍。
日本艦隊の壊滅は避けられない。
そして、日本艦隊の滅亡は、中国に派遣された日本陸軍の破滅を意味した。
日本陸軍は補給路を失い、孤立するからだ。
放っておいても壊滅する。
秋山兄弟の兄、好古は騎兵隊を率いてロシア陸軍と対峙していたが、戦況は膠着状態。
乃木希典は旅順の艦隊を攻撃すべく旅順のロシア要塞を攻めていたが、徒に戦死者を増やすだけだった。
そこに、バルチック艦隊が着々と迫ってくる。
バルチック艦隊と日本艦隊は勢力は互角。
上手くいけば勝利出来る。
だが、その最中に旅順艦隊に背後を襲われたら万事休す。
九分九厘日本は、ロシア帝国の植民地となることが決まっていた。
帝国日本の置かれた状況は、かくも薄氷を踏む状態だったのを、本書は教えてくれる。
乃木希典が人海戦術で、多くの死傷者を出してまでも、203高地奪取に努めたのは、それが大日本帝国を守るほとんど唯一の希望であり、方途だったからだ。
203高地を押さえれば、そこからは旅順港を一望出来、そこに温存されているロシア艦隊を高地から容易に攻撃することが出来るのだ。
それが叶わなければ、日本艦隊は全滅して、大陸に残されて補給路を断たれ日本陸軍は全滅する。
それは日本の滅亡を意味した。
それを痛いほど分かっていた乃木の心痛やいかばかりであったろう。
あれだけの犠牲を出しながらも、愚直に203高地を攻める乃木を愚将と呼ぶ者は多い。
だが、日本が生き延びるチャンスがそこにしかなかったとしたらどうか?
明治天皇も夏目漱石もそれは分かっていた。
だから、明治天皇は乃木を信じ、乃木は明治大帝が崩御するとそれに殉じた。
「こころ」の先生が、その乃木の殉死に倣って死を選んだのは、「明治」に対する鎮魂歌だった。
明治という近代日本の青春期を描いて、誰もがその輝かしさに眩しさを感じるだろう。
だが、その輝かしさは、薄氷の上のものであったことも明晰に語っている。
このバランスが司馬遼太郎をして、信頼しうる著者としている。 -
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・信長(革新派)→秀吉(承継者)→家康(保守派)この流れが旧体制における利権構造を修正し、新しい社会構造を作るために必要であったと感じる。
・現代における自民党・官僚の利権構造の瓦解のため、7月の選挙は大きな意味があると思う。信長に変わるツールが国民民主党とSNSか。
明智光秀が本能寺の変を起こした時点で、深刻な精神病にあったのではないかという考察は納得が行く。国替えを命じられ、1万の一族郎党を養えないと危惧し、このままでは荒木村重同様に一門の破滅を危惧していたとしても、冷静な判断ができる光秀が信長暗殺後の展開を想定できなかったとは思えない。細川幽斎同様の生き方で一族を存続させる方法は、正常な光秀であればいくらでも考えられる。
「狡兎死して走狗烹らる」とはよく言ったものだ。
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まるで戦場にいるかのようで、人物の心理にまで食い込んだ描写は、この巻だけではないがすごい!筆者の研究心、情熱はハンパないんだと思うこと、しきり。
日露戦争は日本の勝利、とだけ暗記していた学生時代の知識が、多いにアップデートされた。本当に際どい戦いだったんだなあ。
秋山真之が正岡子規の墓を訪れる場面。しみじみと心に残った。戦争に関する記述が多い中で、人が人を思う気持ちも描かれ、筆者の思いが感じとれた。
たくさんの、ブク友の皆さんの感想を読ませていただき勉強になりました。自分の歴史観の低さを痛感しました。歴史に興味がなく、日本史や世界史の授業は居眠りばかり。歴史を知らずして、今は語れない!学び直します。ありがとうございました。