あらすじ
開明論者であり、封建制度の崩壊を見通しながら、継之助が長岡藩をひきいて官軍と戦ったという矛盾した行動は、長岡藩士として生きなければならないという強烈な自己規律によって武士道に生きたからであった。西郷・大久保や勝海舟らのような大衆の英雄の蔭にあって、一般にはあまり知られていない幕末の英傑、維新史上最も壮烈な北越戦争に散った最後の武士の生涯を描く力作長編。
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江戸を脱出してから北越戦争に投じて、激戦の中で被弾による戦傷死までを辿る。
継之助は誰よりも時代の流れを見通し、可能な限りの戦備も整えたが、歴史の皮肉はその継之助が幕藩時代の譜代大名家の士分に生まれたことだろう。全て見通しているものの、長岡藩執政という立場に全てを規定されてしまう。武装中立するという立場も元々無理筋ではあったが、裏で会津藩が自分側に引き入れようと策を練り(基本的に失敗続きの会津藩が自分と長岡藩が裏取引しているとの印象を官軍に抱かせる謀略だけは成功)、検察官的性格の官軍軍監岩村精一郎に塩対応をされ戦う決意を決めてしまう。
軍備もあって戦術眼もあったからこそ彼我に多くの戦死者を出す戦いとなるが、結局、戦略的には負けており、最後はそうなってしまった。藩の立場で美学を追求するとこういうことになってしまう。残るは大量の戦傷者、戦災、そして多くの住民の生命・財産の毀損である。この美学と損失の関係は後の日本軍にも通ずるところがある。
司馬遼太郎は後書きにて、侍とは何かということを考えたとあるが、陽明学に基づく美学は個人としては完結し美しいが、全体を考えて動かないといけないと思う。
非常に侍とは、美学とは、藩の枠とは、政治の役割とは、戦略眼とは、と様々考えさせられる良著だった。
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幕末の時代。
誰もが、長いものに巻かれ、右往左往していた時代に、これだけの自己規律と信念を持ち、ブレずに生きた男がいた。
そのことが衝撃だったなぁ。
思想や自己規律、信念が、ここまで生き様を描くことができる。それが人間が、他の動物とは一線を画す生き物である、ことの証左だとも思う。
武士って、スゴイや。
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誰よりも早く洋式を取り入れた継之助。
一方、志や思考・思想は誰よりも武士だった継之助。特にこの下巻ではその色が濃くなる。
継之助は完璧主義でもなければ適当主義でもない人なのだろうと思う。あえていうなら最適主義といった人物。
複数の方が書いているが、幕末や明治維新の時代、学校の勉強ベースや歴史の書籍ベースだと、殆どといってよいほど、倒幕側の目線、あるいは幕府側の目線で書かれている。それがこの『峠』では長岡がとった『中立の立場』として描かれており、同じ時代でも全く違った世界を知ることが出来る。
峠の主人公である河合継之助、同じ時代を生きた坂本竜馬、うつけと言われた信長、皆若い頃は総じて周囲から『変わり者』と思われる人間だったと思う。つまり天才とはそういう者だ!
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北越戦争、こんな歴史があったとは。
戊辰戦争、無血開城以降は函館までほぼ素通りしてたけど、こんな人が長岡にいたんですね。
結果的に批判されるのはやむなしとしても、その粋は美しいし、結果については運の巡り合わせにもよるのかなと思う。
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以前読んだ戊辰戦争関連の書籍で強烈なインパクトを残した、河井継之助を主人公に据えた名作
彼の壮大な夢、長岡藩の武装中立に向けて藩屋敷を売り払ったり、為替で儲けたり、ガトリング砲を買ったりとまさに破天荒な男
誰よりも封建体制の崩壊を分かっていながらも、長岡藩士として必死に生きた河井がカッコいい
またその影で、作中には出てこないが民に恨まれていたのもまた事実
河井継之助について、もっともっと知りたくなりました
幸い夏に長岡に行く予定があるので記念館に行こうかな
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この時代に米の差益を発見し、儲けたお金で軍備を整ええた天才。先見の眼やがありながら、境遇に恵まれず北越戦争で亡くなってしまった。
この時に亡くならず、日本のために活躍してくれていたなら…。と思わずにいられない。
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下巻は戦争を避けるべく動いてきたが、小千谷談判が決裂、北越戦争へといった流れ。会津の立場もあるとは言え、小千谷談判を崩すために長岡藩と一緒に暴れたように見せたという件が印象に残った。談判が成功していても継之助の思うように展開したかは別であるが。いずれにしても時代や立場が違えば活躍したかもしれない人物だけに勿体無く思えた。
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河井継之助は評価が難しい人物であると思う。
彼の政治のスタンスとしては、本書の中で官軍にも東軍にも味方しないという風に書かれていた。
それが結果的に初動の遅れとなり長岡藩の敗因に繋がったことは否めない。
しかし河井はあくまで戦争はしないに越したことはないという理想を強く保持したこと、幕府や武士が今後は衰退する世の中で(外国との貿易を含めて)長岡を単独で活発化させることを望んでいたこと、などを構想していた。そのプロセスを上巻から読んで頭に入っていると河井のクライマックスが多少理解できるだろう。
せめて戊辰戦争が彼が生きているうちに起こらなければ全然別の展開になっただろう。確実に長岡の未来を変えていたと思う。彼は、長岡に収まる器ではなかったのだと思う。
あと些細は点では、長岡で官軍との戦争中に奥羽から軍が全く来なかったのが不思議に思った。奥羽越列藩同盟を結ぶ関係である割には軽薄ではないか。会津藩はどこよりも働き者だとも思う。
Posted by ブクログ
【2022年の読書振り返り】
自分の愉しみとして10作選びます。
■実書籍■誰がために鐘は鳴る(ヘミングウェイ)
■実書籍■ドクトル・ジバゴ(パステルナーク)
この2作が頭一つ抜けて圧巻でした。パチパチ。
■実書籍■ロバート・キャパ写真集
正直、「誰がために鐘は鳴る」「ちょっとピンぼけ ローバト・キャパ自伝」との3点セットの味わいなんですが、やっぱりこの人の写真は魅力が尽きないなと思いました。
これは岩波文庫が素敵な仕事をしていくれていると思いました。
■実書籍■マノン・レスコー(プレヴォ)
■実書籍■郵便配達は二度ベルを鳴らす(ケイン)
今年は海外古典がマイブームだった気がします。光文社古典新訳文庫、素晴らしいですね。
●電子書籍●街道をゆく・オホーツク街道(司馬遼太郎)
今更な司馬遼太郎さんなんですが…。面白いものは面白い。
数十年ぶり再読の「峠」、「播磨灘物語」、それから「人間の集団について」「街道をゆく・陸奥のみち」も併せて、脱帽ものでした。
■実書籍■すみだ川(永井荷風)
やはり数十年ぶりの再読なんですが、今回は復刻シリーズで旧かなを堪能。
打ち震えるくらいの快楽でした。旧かなマニアなので…。
■実書籍■「細雪」とその時代(小林信彦)
小林信彦さんの新作を愉しむというのが歳月を考えると感無量。
そして「細雪ファン」としてはこれまた鳥肌モノ。
関西が懐かしくなりました。
●電子書籍●人生が変わる55のジャズ名盤入門(鈴木良雄)
失礼ながら大きな期待なく読んだんですが、鮮烈に愉しみました。
数年ぶりに「猛烈にジャズが聴きたいっ!」と思わせてくれました。
現役のジャズ巨匠、それも日本人の、という視点がこれほど興味深いとは。
名盤入門なんですけど、鈴木良雄さんの半自伝という楽しみですね。
●電子書籍●ジャック・リーチャー・シリーズ(リー・チャイルド)
村上春樹さんが「このシリーズは好き」と言っていただけで読んでみたんですが、
いろいろ突っ込みどころも満載だけどとにかく楽しめてしまいました。
「奪還」「パーソナル」「宿敵」「ミッドナイトライン」「葬られた勲章」の5作。
敢えてひとつなら「パーソナル」がラストまで楽しめて印象的。
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以上で10作になります。
上記で言及していない、次点みたいな心残りを挙げると
・新宿鮫Ⅻ 黒石(大沢在昌)
なんだかんだ、また全作再読してまった挙句の新作は痺れました。
・世界の歴史23・ロシアの革命(上山春平)
このシリーズは好きなんですが、特にこれは夢中になって読みました。
かなりエンタメでのめりこめました。
・ヨギ・ガンジーの妖術(泡坂妻夫)
とぼけた味わいとひねった仕掛け。脱力感溢れるキャラクター世界が秀逸。
あたりでしょうか。「失敗の本質」もこれまで何度も読み切れなかった(読み始めるタイミングが無かった)んですが、面白かったですね。
来年も、愉しみです。
Posted by ブクログ
映画公開までに読み終えたかったのですが、公開2週間たってやっと読み終えました。
地元の話なので、地理的なことがよく分かるし、幕末に活躍した全国の偉人の動きもつながって、10代の時に読んどくべきだったなぁと思いました。
司馬遼太郎作品はあんまり読んだことがないので分からないのですが(『梟の城』くらい)、時折作者の解説文みたいのが入るのが理解を深めて面白かったです。
ただ、地元では長岡を焼け野原にしたヤバい奴っていう評価を、子供の頃に自分のジジババ世代に聞いたのですが、そういう表現は本文には出て来なかったです。
その辺も含めて調べてみたいので、改めて河井継之助記念館に行って調べてみようかと思います。
北越戊辰戦争がどうして起こったのか。
この小説を読むと、地元の郷土学習で分からなかった部分が補完されるようで、フィクションの部分もあるでしょうが、幕末という特殊な時代背景と長岡の置かれた立ち位置、何より河井継之助の武士としてという考え方が複数重なった上に、情報伝達がうまく行かない時代背景や相手側の心情などまでが悪い方に進んでいく様子がよく分かります。
戦争をギリギリまで避ける方法(やり方はどうあれ)を探る事は、後の同じ長岡の偉人、山本五十六にも通じていて、郷土史をもう一度学び直そうかなと思い始めています。
幕末の混乱期は、色んな視点の本があると思いますが、官軍側、幕府側を行ったり来たりして読むとより理解が深まるのかなと思いました。
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上中下まとめての感想と評価。
幕末の長岡藩、河井継之助のお話。
司馬遼太郎さんの小説は恥ずかしながらあまり読んでこなかったが、歴史的な事実と人物像を形作る空想の世界のバランスが絶妙。流石は司馬さん。
個人的にはこの歳(おじさん)になってからよんだからこそ感じられた面白さもあるかなと思う。
自分の経験、知識に基づいて考えた結果の士農工商がなくなる未来の形と、小藩の武士という自分自身の境遇に板挟みされながらも必死に足掻いて生き抜く様がかっこいい。
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河井継之助の夢が実現していれば、と考える。
手向かう時勢にあって、これほど大きな、きわどい夢を描き実現すべく、動けるとは。
交渉の道が閉ざされた後の彼の行動は、涙を呼ぶ。
○人間、煮つめてみれば立場だけが残るものらしい(旧399頁)
彼らの時代は、生まれが立場になる時代。そうではない時代には何が残るのか。
話の中、継之助が感じる様々な人間のえらさの基準(病翁(旧280頁)、おすが(旧289頁))
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戊辰戦争は西軍が優勢のまま、ついに越後にも恭順か抗戦かという決断が迫られる。その中で武装中立という、あくまで長岡藩を独立させつつ西軍と東軍の橋渡し役を担うべく奔走する河井継之助は、やがて自らの運命を悟るようになる。
題名の「峠」とは、実際の戦場となった榎峠のことを指すとともに、幕末から維新へと向かう日本社会にとっての転換点でもあることを示している。とくに北越戦争および会津戦争は、必ずしも優勢ではなかった西軍がその後の維新へと向かうための重要な戦略的転換点であり、ここでの勝利が決定的だった。
継之助にとって不幸だったのは、西軍との交渉役が岩村精一郎だったことだろう。歴史にタラレバは禁物だが、もし戦略的思考を持つ黒田清隆や山県狂介が相手であれば、重武装の長岡藩と事を構えずに会津藩との交渉役に抜擢するといった判断もあり得ただろうし、もしかしたら戦後も生き残って維新政府で重要な役割を担ったかもしれない。
2027年の大河ドラマに小栗上野介忠順が決まったように、近年では賊軍とされてきた幕府方の英雄たちを見直す動きが広まってきている。河井継之助も長岡という地に譜代大名の家臣として生まれていなければ、もしかしたら維新志士として名を馳せていたかもしれない。そして困窮にまみれることとなった長岡では、小林虎三郎による米百俵の精神が説かれ、そこから家老の名家を受け継いだ山本五十六が出てくるといった形で、歴史は紡がれていく。
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継ノ助は新しい時代の視点と純粋な忠義心、そして実行力を兼ね備えていたという点で大半の薩長や公家、譜代の面々より遥かに優れた人物であったと思うものの、では何故彼の本懐が遂げられなかったのか。
あまりに周囲の人との違いが大きいため、結局のところ自分の主張が受け入れられることに慣れ過ぎていたおかげで、肝心の西軍との談判を強引に進めて破れ去ったのが大きな理由の一つだったのかな。
とは言うものの、大した人物がいたものだ。
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河合継之助との長い旅が終わった。
長かったが、充実した旅であった。
継之助の真っ直ぐな生き方に感銘を受け、武士の矜恃を見せつけられた。
司馬遼太郎、流石である。
Posted by ブクログ
『最後のサムライ』という映画の副題がしっくりくる良い作品。ただ、主人公に目を向けると、結局は領民の命より武士としての生き様を重視した人物だという印象。おそらく司馬さんのフォローだろうが、個人的には彼に長岡藩が小さ過ぎたとは思えない。
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精神的な美しさを体現した幕末の武士、河井継之助は公益のためにのみ自信を操り正義を貫く。新政府側と佐幕派が和解に漕ぎ着けていたら、歴史は少し変わったのかもしれない。
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幕末の戊辰戦争で活躍した河合継之助を描いた歴史小説の最終章。いよいよ官軍に攻め込まれて、長岡藩でそれに立ち向かう。ギリギリまで長岡藩の中立を保つべく奔走をするが、どうしてそれがうまくいかず、勝てることはないだろうを分かっていながら大義のために降伏することはせずに北越戦争に突入してゆく。 かっこいい生き様を貫いているようにも見えるが、どうしてもなかなかその立場を十分に理解することが難しいし、郷土では悪者として認識されることも多いというのもわかる気がする。でも魅力的な人物を描いたこの小説は面白かった。
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とうとう官軍との戦いに巻き込まれていく。本来は戦いたくなかっただろうに、ボタンのかけ違いから戦わざるを得なくなってしまう。
この小説を読むまでは、幕軍の方が戦力あるのに何故官軍が圧倒したのか理解出来ていなかったが、時代の変革の流れには逆らえないものだと理解出来た。
河井継之助が、もし違う藩に生まれていたらとか、明治維新を生き延びていたらとか考えると、惜しい人を無くしたものだと残念に思う。
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幕末から明治初期の混乱期、貨幣経済の発達につれて、武士の世が終わり、商人の世になることにいち早く気づきながら、自分は譜代大名家臣として、藩を守り、官軍への服従を拒否した。彼にそうさせたのは、武士としての美学か。
薩長と佐幕派の視点で論じられる時代を、鳥羽伏見の戦い、大政奉還後の混沌とした動きの中で生き残ろうとする各藩の姿も、とても興味深く読めた。
Posted by ブクログ
下巻一気読み。
戦国時代モノや、幕末あたりの読み物好きだなーー。
最初に買ってもらった本が織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の伝記だからかなー??
河井継之助、惚れるなぁー。
映画の公開が楽しみです。
Posted by ブクログ
p.444
そして作者は、河合が死後にまで自藩の者にうらまれた話ははぶいてしまっている。
どんな恨まれることをしたのかを楽しみにしていたので、ちょっと残念でした。
Posted by ブクログ
この下巻は、読んでいてとても辛かったです。
継之助は、あくまでも中立を目指して動いていたけれど、世の中の戦いの渦が強く大きく渦巻いて、結局戦わざるを得なくなってしまい、本意ではない思いが伝わってくるようでした。
本当に中立が出来ると思っていたのか、ちょっと疑問が残りました。
先を見る目があり、侍の世は無くなるとも思っていたけれど、侍として戦う道へ行くしかない。
長岡藩という中での自分であり、武士だったのかなと思いました。
Posted by ブクログ
戊辰戦争といえば八重の桜や白虎隊で有名な会津藩がメジャーだったが、北越戦争が最も苛烈と言われていたのは恥ずかしながら知らなかった。
最後まで武士道を貫いたということなのだろうが、後半は古い考え方に固執してしまった感を得ない。一方、著者が書いている通り現代に生きる我々は当時の人物からすれば神のような視座で見ているので、このような指摘は適切ではないのは理解している。それにしても、このような人材が…というのは悔やまれてならない。
明治維新と言えば新政府側がヒューチャーされがちだが、別の側面からものを見る視点は歴史のみならず何事においても大切だと痛感
Posted by ブクログ
下巻、ついに官軍との北越戦争が始まる。あくまでギリギリまで戦争を回避しようとする河井継之助ではあるが、時代の流れが、それを許さず、結果として熾烈な戦となってしまう。
士農工商や幕府が瓦解することを見通し、長岡藩も無論なくなることが分かっていた河井継之助だけに、滅びの美しさや悲哀さが特に下巻には立ち込めており、所々描写される戦争に巻き込まれる一般人に対しては、何処かに矛盾した心情が隠しきれない。それはこの本を読む多くの人が思うことであろう。「早く降伏をすれば良かったのではないか?」と。
しかしその考えはあくまで現代的なものであり、降伏した者が、次の戦争の先兵として使われるだけでなく、河井継之助は長岡藩の武士であり、全巻を通して描かれるのは立場を通した身の処し方、それは河井継之助にとって、単なる藩の武士から、武士という希少な生き物として昇華され、時代の流れに上手く乗れない、理解できない(河井自身は理解を十二分にしていたのだが)人たちの代表としても存在することとなった。
それ故にもし官軍側に生まれていたなら、どういう活躍をしていたのかが惜しまれる人物ではある。