井上荒野のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ猛獣ども
著者:井上荒野
発行:2024年8月8日
春陽堂
初出:「WEB新小説」(春陽堂書店)連載
ある別荘地が舞台。リタイアして永住している人、結婚1年ちょっとで永住している人などがいる。そういう人たちと2人の管理人が中心で、通っているだけの別荘族は話には登場しない。別荘地の下には月見町という町があって、住民はそこに買い物や外食に行き、管理人の一人もそこのアパートに住む。
ある時、別荘地で男女が熊に襲われて死んだ。第一発見者はリタイア後に永住している住民。管理人は、管理事務所と兼用の建物に住み込みで働いている小松原慎一と、前任者が辞めて新しく東京から転勤になって来たばかりの小林七帆。小松原は別荘地の管理をしている不動産会社の社員ではなく、住み込み管理人として雇われている。東京の出版社で働いていたが、女性と別れて東京を出たくなってこちらに移住。小林は不動産会社の社員で、上司と不倫をしてここへ飛ばされてきた。
13章立ての小説だが、小松原の視点と小林の視点で書かれた地の文が7章あり、残りの6章は住民夫婦の視点で書かれた地の文。つまり、全部で14人の視点で書かれた長編小説ということになる。ただ、主人公は小松原のように思える。
熊に襲われた男女は、別荘地の住民ではないとすぐに噂が流れる。誰から聞いたのか?と管理人が問うても、○○さんが言っていた、と人から聞いた話だった。そうしていると、管理室に怪文書がポスティングされていた。
熊に殺された人々=
二十代くらいの男性と、二十代くらいの女性
月見町在住。この二人は姦通していた。
誰がこれを書いて投げ入れたのか?どうして姦通しているなどという事情を知っているのか?というミステリー作品のような展開に見せかけつつ、全然ミステリーにはならない。13章の話の中で、別荘地の住民夫婦のそれぞれの事情が語られていく中で、これを書いた人物や「姦通」に関しての事情が分かってくる。
住民それぞれについても、他の人が見ているのと実は心の中身が全然違ったり、他の人が噂しているのとは違っていい状態だったり。いろんな事情が見えてくる。中には、最近、癌が見つかって家族と急に隔たりができたように感じるシニアもいたりする。
そして、管理人2人は、それぞれ相手と別れた身同士。どうなっていくのか。あまり平凡な恋愛小説にはならない。しかし、劇的な展開もない。大人の、男女経験もそれなりに豊富な、機微に溢れつつも、幼い男女の心持ち。男女の駆け引きを見せつける小説でないところが、大人の小説でなかなかよい。さすがは井上荒野。
タイトルの「猛獣ども」は、この別荘地に来て、熊事件をからかうような歌を池のほとりで歌い、動画を作成してYouTubeで公開した2人組による、その動画タイトルでもある。もちろん、別荘地の男女それぞれにも当てはめている。
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小松原慎一:別荘地の住み込み管理人、180センチ
小林七帆:東京の不動産会社から転勤してきた管理人、上司と不倫し飛ばされた
伽椰子:慎一が別れた女(相手から別れ話が出た)
美雪:慎一が若い頃に結婚した妻で、伽椰子のことで別れた
日向友郎:七帆と不倫していた、7歳年上の上司だった
勇:七帆の高校時代の同級生、初体験相手、庭師、移住を検討中、結局やめる
扇田充琉:新参ものでクレーマー、妊娠が判明
扇田圭:夫、別荘地隣町の造り酒屋で広報、結婚1年3ヶ月
東雲萌子:小説家
井口文平:夫、売れていない作家
小副川孝太郎:元製薬会社の営業、リタイア後に定住、クマ事件の直前ぐらいに膵臓癌が見つかる(余命1年)、クマに殺された2人の関係を暴く怪文書を作成
小早川小百合:妻、夫と散歩中にクマ被害者の逢い引き(立ったままセックス)を見かけて覗くのが趣味に
*2人は蜜月期間が長かった、娘や息子は60歳近い、孫の最年長は30歳
神戸(ごうど)みどり:クマに襲われた被害者を発見、元高校教師、染色
神戸武生:夫、元高校教師(同僚)、油絵、妻の誕生日に肖像画を描いて贈る
透:教え子
果林:教え子
翔太:教え子、真央の夫
真央:教え子、翔太の妻
金沢道尚:クマで死んだ男の方、月見町に在住
柊レイコ:70前後、夫の提案により別荘地で鍼灸院経営、夫が鍼灸院も家庭のことも何もしないので限界を感じていた、わざと万引きした
柊恭一:夫、夫婦仲は悪い、娘夫婦と孫がパリにいる
木下:患者の一人
野々山純一:ペンションオーナー「むささび荘」→「愛と山」、犬レノンの飼い主、医療施設用家具の営業マンだった
野々山愛:妻、夫の定年で移住、別荘族としては古株
風太:息子、東京の大学生
五味:月見町でトルコ料理店kokkaiを経営、妻が不倫してクマに襲われ死亡
美絽:出会い系で五味と知り合う、kokkaiでバイトすることに、すぐに辞める
暁子:七帆の東京時代の同僚、LINE仲間
美来:同上、LINE仲間 -
Posted by ブクログ
佐野洋子さんの『100万回生きたねこ』。インパクトの強い緑色の瞳をしたオスのトラ猫が表紙の絵本です。おそらく子どもの頃にも読んだことがあったと思うんですが内容はほとんど記憶になく、大人になって改めて読んでグッときました。
1977年に発売されて以来、今なお多くの人に読まれ続けている大ロングセラーであるこの絵本への、13人の作家によるトリビュート短篇集です。
佐野洋子さんの息子さんで絵本作家の広瀬弦さんや元旦那さまの谷川俊太郎さんも執筆されています。結構著名な作家陣ばかりですが、私は読むのは初めましてな作家さんが多かったですね。
どういうこと?と理解が追いつかないお話もあれば、ちょっと不思議なお話もあり、せつなかったりしんどかったりおもしろかったりこわかったり、猫がまったく出てこなかったり、13人それぞれ個性豊かなお話でした。ただ、私が期待していたものとはどれも「なんか違った」なぁ、という感じ。
でも江國香織さん、角田光代さん、山田詠美さんのお話がおもしろかったかな。 -
Posted by ブクログ
微妙な、はっきりしているわけじゃないできごとの違和感や困った感や距離感を描くのがうまいなぁと思う。
男女のあれこれはあまり興味が持てないため、なんかめんどくさそう…としか思えないのだけど、、
でも老年期の人間を描いている作品も数あって、これからの私には助かる。
井上荒野さんは、読む時にちょっと力が要るというか、覚悟がいるというか…、「井上荒野を読むぞ!」と思わないと読めない。
うかつに手にとってやっぱりうかつだった、となることが多いので、気をつけて慎重に読む作家だ。
新しく追いかける作家を見つけられて嬉しい。これからも少しずつ読んでいきたい。
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Posted by ブクログ
ネタバレ心がざわざわする。結婚をしたけれど夫のことが嫌いで、「いない」ようなものとして生活するまりと、
夫を突然亡くしてしまい、文字通り夫が「いない」実日子の2人のストーリが軸で進んでいく。
女だから共感できるのか分からないけど、短い文章で的確に女性の気持ちを表現されていて、ものすごく心がざわざわした。
だいきらいだったはずの夫から離婚を切り出されて、
だいきらいだったのではなく、ずっとだいきらいでいたかったのだと気づく場面なんて、、、
なんだか心当たりがある感情で本当に参る。
あと、解説にもあったけど、本当に料理のセンスが良くて美味しそうで。
作中のレシピ公開してほしいです。笑 -
Posted by ブクログ
ネタバレ公私共にずっと夫と過ごしており、夫が嫌いなまり。
突然夫が亡くなった料理家の実日子。
まりが実日子の料理教室に行くことから話ははじまる。
ひどく食欲を掻き立てられる一冊だった。
食べたい料理がたくさん。
イメージが浮かぶような料理なのに、少し手が込んでいるから誰かが作ったこの料理を食べたい気持ち。
夫が存在しているけど、自分の中ではいないものとして考えているまりと、夫はいなくなってしまったけど、自分の生活の中で夫を感じる機会の多い実日子が対象的に描かれている中、エンディングでは二人の立場がクロスするというのが面白かった。
解説にある「きれいな大人の女性の前に立った、無粋な女の子のような気持ち」がしっくりきた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ突然同僚が貸してくれたのですが、そういえば井上荒野さんの作品は読んだことがなかったなと思って、ありがたく読んでみました。
なんだか不思議なお話でした。SFとかファンタジーという意味ではなくて。なのに、すごく地に足の着いたというか、ちゃんと人生を感じられる小説でした。
たぶん不思議な感じがしたのは、ストーリーに対する主要人物三人の年齢のせい。東京のとある町でお惣菜屋さんを営む江子と従業員の麻津子、郁子ともに60歳前後のいわゆるおばさんである。それなのに、江子は「きゃはは」と笑い、麻津子はダーリンとうまくいくことを望み、郁子は「いやーん」と色っぽい声をだしたりする。3人とも年齢が年齢だけにこれまでの人生ままならずにここまできている。江子は意気投合して一緒にお惣菜屋を始めた友人と自分の夫ができててしまい、離婚され、今も夫から精神的に自立できず、たまに二人を訪れたりする。なんだか、痛すぎて「あちゃー」と思うのだけど、人生そんなことになったりもするのかも、なんて思ったりして心の底から江子を「痛い人」とは思えない。麻津子のダーリンはかつて麻津子と婚約しながらも他の女と結婚、そして離婚したような男である。そんなやつを今でも麻津子は待っているようでこれまた「あちゃー」となる。個人的には江子より麻津子が痛いかなぁ。そして、郁子の事情は一番辛い。息子を二歳で亡くしており、そのことで夫を憎みつつ、本当には憎んではいなかったと思うけれど、その夫も前年に亡くしている。人生ままならないもの。本当にそうだとしても特に郁子の場合そう思えるまでどれくらいの時間が必要だっただろうと思いをはせてしまう。
そんなこんなで歳を重ねてきた三人が一緒に働く総菜屋はなんだかんだうまくいっていて、何より美味しそうな料理の数々に、なんだかホッとする。色々な食材と次々に出てくるお惣菜に、地に足の着いた生活を感じるのである。
いい歳した三人のおばさんが米屋の配達の若い進くんを気に入って、なんやかんやと彼を誘ったり、どこまでいっても「あちゃー」なんだけど、やはり憎めない。読んでいてい途中で三人の年齢がわからなくなるようなあれこれがある小説で、不思議な感じがしつつも、なんだか元気がもらえた気がします。
「人生はままならないもの」。
三人三様の中高年の孤独をただの淋しいものとしてだけでなく、噛みしめ受け容れながら、元気にお惣菜屋をやりくりする三人に、こんな人がたくさんいたらいいなと純粋に思いました。三人が元気なのは、美味しいものを美味しいと食べることができるからなのだと思います。恥ずかしながらここに出てくるお惣菜の数々、作ったこともなければ食べたこともないものもたくさんありました。ひとつの食材を前にしたときに三人からポンポン出てくるお料理のアイデアに、これまでの人生きちんと食事をしてきた人たちだとわかります。バタバタの毎日で、凝ったものは作れないけれど、それでも何とか「食」が生活の土台となるようきちんと気を配ろうと思いました。 -
Posted by ブクログ
映画「朽ちない桜」つながりで、この作品に。
短編集の中で、気に入ったのはふたつ。
・泣く猫 柚月裕子
17年音信不通であった母が死んで、真紀は母の住処に訪れる。母の同僚サオリが弔問に訪れる。
母が大切にしていた猫・マキは母のために泣いたという。
P.76
(中略) あっけらかんとした人生じゃなかったと思うよい サオリは俯いたまま、自分のことのように語る。
「男に夢中になると、ほかが見えなくなっちゃう。男と別れたあと、自分がしでかしたことを後悔する。そんときは、もう男なんかいらないって思うけど、好きなやつができ ると、また突っ走る。そして別れて悔いての繰り返し、心底、自分で自分がいやになる。 だから、悪い酒を呑む。そりゃあ身体もダメになるよね」 サオリは顔をあげると、真紀を見た。
「別にあんたに、母親を許せ、なんて 言ってるんじゃないよ。ただ、猫が泣くんだから、あんたが泣いてもおかしくないって言いたいだけ」 じゃあ、そう言って、サオリは部屋を出て行った。
真紀はしばらく、その場から動けずにいた。 やり場のない怒りと、悔しさが胸に渦巻いている。それはサオリに向けられたものではない。自分に対してだった。
テーブルの下で泣く猫を怒鳴った理由は、自分でもわかっていた。あんな母親のため に、泣きたい自分がいることに、気づきたくなかったからだ。 耳の奥で、忘れかけていた母の声がした。ひとつの布団に一緒に入り、後ろから抱き しめられたときの声だ。
「お前は優しいね。ほんとにいい子。」
その声を吹っ切るように頭を振ると、部屋に戻って窓を開けた。忍っぱい風が、頬にあたる。
下を見ると、空き地にマキがいた。前で顔を洗っている。真紀の視線に気づくと、 二階の窓を見上げながら、ひと声ないた。 マキが、ビルの隙間に姿を消す。
真紀は猫が消えた先を、見つめた。 マキが本当に泣いたのかはわからない。だが、真記の頬は濡れていた。
(後略)
猫は人の感情がわかるという。犬もそうだと思うが( 私は今は、とりあえず 犬派)。
・「黒い白猫」 東山彰良
異世界の話のようだ。強烈。