井上荒野のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
結婚後夫に関心を持たれない女性と、夫を亡くした女性。
空いた心の穴と同じかそれより大きな物で埋めてくれる人と出会えるように自分が変わっていくしか方法はなくて、その過程の物語を2組の女性の主人公と比較しなが進んでいった物語だった。
私はより悲しい方は死別した方だと思う。
相手がまだ生きていたら、最後の望みにかけて行動する事ができるし、それが自分の理想通りに進まなくてもやれるだけやったと納得できる気がする。
相手がこの世にいなければ、まず自分から行動する事も無意味になるし行動出来ない事で諦めがつかない。
亡くなった夫の両親と会う機会がありまた思い出してしまったり、ふとした瞬間に亡くなった夫の記憶が蘇ったり、そこにはいないのにずっといる。これがとても辛いことなんだと感じた。 -
Posted by ブクログ
トンネルを掘っっていくいちばん先を切羽と言う。
日本の離島、作中の方言から九州方面でしょうか。
島出身の主人公のセイは、島内の小さな小学校で養護教員として生活している。夫は、幼児期島で暮らし本土へ渡った、画家。島の丘の上のセイの父親の残した診療所後で、豊かな自然と濃密な人間関係の中、穏やかな日常。そこへ新任教師の男性が本土から、転任してくる。偶然が二人を呼び寄せ、恋に落ちる様に出会ってしまう。セイは、夫を確実に愛していると同時にこの男性にどうしようもなく惹かれていく。彼からも確かにセイと気持ちを絡ませる刹那がある。
切羽に向かおうとした二人の情愛は、踏み留まる。
そんなこともあるだろうなあ、と思うけれど、謎めいた新任教師へ傾倒するほど、セイが渇望しているものが何かわかりにくい。 -
Posted by ブクログ
めちゃくちゃ面白かった。
ふたりの対照的な女の話。
どっちの方が可哀想なのか?
2人とも自分だと思っている。
そこにはいない男との
夫婦生活の詳細が語られる。
ひとりは全てが眩しい程の
思い出として語られ
もうひとりは、嫌いなのだからと
距離を置いて暮らす理由と詳細が。
女々しさ満載のあるあるな女。
女ってこうゆう生き物かもな。
鎧で隠したい内面が語られて
ザワザワするのがわかる【解説】
2人ともそこにはいない男のために
手間ひまかけて作る料理の数々。
どれもめちゃくちゃ美味しそうで
完璧な献立の組み合わせ。
想いがなければ、たった1人の男のために
こんな料理は作れないだろ。
人には見せない女々しさが
詳細に描かれていて、ちょっとの笑いと
刹那さが残る一冊。
女による女のための話。 -
Posted by ブクログ
結婚15年、冷え切った関係に悲しみを感じることすらなくなった夫婦と、それぞれの公認の恋人。妻の発案で四人はキャンプに行き、一夜を共に過ごす。異様な空間で否応なく見つめ直すことになった互いの進むべき道。一体なにがしたいのか・・・
不思議な雰囲気が漂う小説だった。誰一人、相手を直視していない関係。目を合わせようとすれば逸らされ、後ろめたさから手を伸ばせば払い除けられる。長い結婚生活を経てもう為す術のなくなった夫婦のどん詰まり感、突破口と呼ぶには弱すぎる不倫相手。みんながみんなふわふわ、ゆらゆらしていて、キャンプに行く前も後も、進む方角が一向に定まらない。こんな夫婦になりたい、こんな家庭を築きたい、そういう明確な夢の一つや二つ持っていたはずなのに、いつの間にか擦り切れて、ぼやけて、でも時間だけ経ってしまって、もう元には戻れなくて。そしてまたふわふわ、ゆらゆら、生きていく。
馴染みの喫茶店でこれを書いていたら、キッチンの中から強いニンニクの香りが漂ってきた。何を食べたい?と聞かれても特に何も思いつかないここ数日だったのに、いま猛烈にこの香りの源になっている何らかの料理が食べたいと思った。なんだろう。ペペロンチーノ?アサリのガーリック蒸し?ベーコンも入っているかも。もしかしたらブロッコリーも。食べたいなあ。隣にスーパーがある。ニンニクを買って帰ろう。鬼のようにオリーブオイルを敷いて鬼のようにニンニクを刻んで鬼のような何かを炒めるか蒸すかして、モリモリ食べよう。これで目的ができた。寝る前に、今日も少なくとも何かをしたぞと自分に言い聞かせるための目的。そうやって日々を重ねる。 -
Posted by ブクログ
短編集。
井上荒野さんの小説には冷たい男が出てくる。本作の冷たい男1位は「つまらない湖」の男と決めた。
一見、付き合いやすいし優しそうに見えるが、「今夜ぼくはあなたと寝た方がいいのかな」とサラッと問うてくるし、「どちらでも対応できる」と本心で言っているのも冷たい。しかし、私はこの冷たさが好きなのである。本心を隠してあれこれ画策する男より余程素直ではないだろうか。すぐ傍にいるのに遠い存在の男は貴重な存在だ。
最低な男も決めたい。
栄えある1位は、「緑の象のような山々」の男。
妊娠した不倫相手に甘言を囁き、いざ自分が追い込まれると手のひら返したように堕胎の説得を始める。この短編は、男と女がSNSで会話しているのだが、「w」の多用がここまで不快とは思わなかった。こちらは何も面白くないのだが?これも筆者の策なのだろう。段々話が深刻になるにつれて「w」が登場しなくなるのも良い。
全てを理解した訳ではないが、どこか空虚さと清々しさが残る読後感。 -
Posted by ブクログ
装丁に惹かれて借りた一冊。しみじみと面白い一冊でした。
初・井上荒野さんでもあるけど、どうやら今作は井上さんの作風としては少し異色なのかな?
主人公の静子さんは、御年75歳。息子夫婦と女子高生の孫と同居しています。
この本はそんな静子さんと周りの人たちのほのぼのとした日々…というにはちょびっと生々しい、あれやこれやのお話。
静子さんめっちゃ好きだ〜。何が素敵って、考え方がとても柔らかい。
世間では年を取るにつれて頭が固くなる、なんてよく言われますが、酸いも甘いも十分すぎるほどに噛み分けてきた年齢になると、自分の考え方や感覚に経験上の自信を持つので違った考えをなかなか受け入れられない。それはある意味仕方のないことですよね。
でも、静子さんはそうじゃない。
しっかりと自分の感覚を確立した上で、あ、こんな考えもあるのね、と人の感覚もふんわり柔軟に受け入れられる人なのです。
年を重ねてこんな風になれたらいいな、と素直に思える。
余談ですが、私の職場には仕事が大好きで、奥さんとすごく仲良しで、趣味もたくさんあって、毎日楽しそうに過ごされている70歳の男性がいます。
そういう理想的なお手本が身近にいると、年を取るのも悪くないもんだな〜と思えてきて心強いのです。
この本を読んで、また静子さんという素敵な、心のお師匠にしたいひとができました。