あらすじ
両親の事故死を機に東京を引き払い、信州で暮らす病弱な姉・椿のそばへ越してきた妹・杏とその夫・迅人。両親の気配があちこちに残るペンションを引きついで、3人のおだやかな日常が始まった。椿にはやさしい男友達・新渡戸さんがおり、ある日働きはじめたゾクアガリの青年・翼もペンションに新風を吹き込んでくれる。しかし、そこでは優しさに搦めとられた、残酷な裏切りが進行していた。精緻な描写と乾いた文章が綴るいびつな幸福。うつくしくて痛い愛の行方は……。
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Posted by ブクログ
知らないのは当人ばかりだよね。
男ってやつは調子良いなぁ。
女ってのも怖いね。
ドロドロしたような内容だけど、何故かさわやかな印象が残ってます。
Posted by ブクログ
妻の姉と浮気がやめられず、姉妹両方愛しているし愛されていると思っているどうしようもないダメ男の話なのだが、物語としてなぜか美しくまとまっている。
一目惚れした同僚と結婚し、幸せな夫婦生活を送っていた杏は、両親の死をきっかけに夫の迅人とともに長野へ移住する。
両親の経営していたペンション・だりや荘を継いだふたりは、病弱で美しい杏の姉・椿と三人で穏やかな生活をはじめる。
だが迅人は椿と不倫関係にあって、杏は長野に来る前からふたりのことを気づいているが知らないふりをしている。杏は迅人を愛しているのである。
椿はふたりの関係が露呈することを恐れているものの、不思議と杏への申し訳無さのようなものを感じられない。
杏、椿、迅人それぞれの視点で夏から冬にかけて三人の関係が変化していく様子が描かれる。
椿の恋人である新渡戸や、ペンションでアルバイトをはじめた旅人の翼などが絡んでくるが、基本的に三人の関係性が中心となっている。
杏は姉も夫も大切だからふたりの関係を黙殺し、迅人はふたりを愛することが自分の役目だと信じている。そして椿は迅人への思いに傾きだんだんと壊れていく。
スローな展開と緩慢な語り口なのだが不思議とだるさがない。
物語の起承転結はあるものの、結局なにも解決していないというところがもやっとするか、風情に思えるかで読後感が変わるだろう。
個人的には迅人痛い目に遭えと思っていた。
Posted by ブクログ
この本好き。
「切羽へ」の影響で、井上荒野は全部読んだけど、これが一番好きだなー。
だりや荘はペンション。はかなげでおとなしい姉と、気の回る明るい妹、そして妹の優しい夫とで営んでいる。
当然、それだけじゃない。
不倫も性愛もなんでこの人はこんなに透明に書けるんでしょうか。「筋だけとったら昼ドラ」 と言った知人の意見に賛成です。
誰が繊細で誰が無神経か。何が善くて何が誤りか。
登場人物の内面を見つめる過程で、自分の美しいところ、汚いところを少し見つけた気がします。
救いがあるとか新しい道を見つけるとかではなく、そういう話。
2009年12月09日 13:46
Posted by ブクログ
ふぅ。重たい(笑)
すっきりしないし、気分が悪いし、
雪の中に閉じ込められた気分になる。
というのも、いちいちシンクロしてしまうからだ。
椿も杏も迅人も翼もなんなら新渡戸さんの心情が、
読んでいるうちにすっと浸透してくる。
文章となって書かれていない、自分の想像の中だけの
気持ちであるにも関わらず、確信を持って流れ込んでくる。
人間の身勝手さ、そのことを十分理解できるほど
無駄に神経が細やかで、無駄に頭がよくて。
それゆえに、罪悪感は倍増する。
しかしそれでも手放せない何かのために、
知らないふりをし続ける奇妙な人間関係。
すっかりじとっとした世界に引きずられた作品。
いちばん好きな作品になりそうだ。
Posted by ブクログ
この小説を好きか嫌いかの二者選択を迫られたら、
好きと答える。
姉妹で一人の男を共有しているわけで、
公然の秘密とはいえ、
本来なら倫理に反する物語。
妹が知っているかもしれないと思いつつ、
妹の夫と逢瀬を続ける姉。
知ってしまっているのに、
知らないふりをしている妹。
どちらも痛々しい。
修羅場の起きない三角関係(大きく言えば五角)が、
ただ淡々と静かに綴られている。
終わり方は曖昧で、
その後の展開を想像するしかない。
Posted by ブクログ
やっと文庫化されたので、読んでみました。杏と姉の椿、夫の迅人、バイトの翼君が集まって、山深いところにあるペンション「だりや荘」を営んでいる。それぞれ、皆んな秘密を持っていくことになって、町の噂になりつつあっても、嘘をつくことをやめられない。噂をけすように町には雪が降り積もっても、不適切といわれる関係をやめられない。雪が全てを隠してくれればいいのに。全てを終わりにしてくれたらいいのに。たぶん、杏と椿の関係は一生変わらなく仲がいいのだろう、例え、静かな嘘がそこにはあっても。
Posted by ブクログ
んーー、とにかく姉が嫌。
か弱い格好して妹の夫とできてるあたり、本当嫌。
言い訳めいた自分の自信のなさとかかえってすごく自分が好きで自分勝手。
自分が杏だったら姉とも夫とも他人になる。
Posted by ブクログ
姉妹と妹の旦那さんと、それを取り巻く人間関係をゆるりとした時間軸で描いています。
設定は、まぁ不倫ってことになるんだろうね。
迅人は杏の旦那であり、椿は杏の姉であり。
椿は繊細に見えて、実は肝がすわっている。
杏子はがさつに見えて、実は誰よりも繊細。
迅人はまっとうな人間に見えて、不倫をしている(それが悪いことだという認識は欠落しているようだけど)
長野のペンションで、感情と自然が織りなすストーリーは切なく、それぞれの視点で書かれる話は説得力はある。
なんとなく、椿の弱さがずるく見えてしまうけど。
迅人の悪気のなさが、無邪気すぎてイラつくけど。
人間関係なんてこんなものだよね。
誰だって弱くて、なにかに頼りたくて、ドロドロしてしまう。その人間臭い部分と自然(長野の田舎)との対比がきれいです。
最期は椿の妊娠で終わるけど(杏は子供が産めない身体)、それまた自然の摂理ですからね。あー、こういうことになるんだね。と割り切れない部分がリアルでした。
現実はここからがまた大変ですからね!
Posted by ブクログ
まったく共感できない部分とできる部分の混在感がすごかったなぁ。
大人のおとぎ話と言いますか。
最後の展開はどうかと思ったけど、この話の面白さや機微がまっったくわからない、という人とは仲良くできない気がする。
Posted by ブクログ
どろっどろである。
七角形ぐらいになってて、しかも親子二世代にわたっててもうぐちゃぐちゃ。
どちらかというと静謐とした文章の中にそういったどろどろが描かれており、そのギャップがなんだかはらはらする。大変なことが起こりそうで。
まぁでも、リスクとか背徳感に裏打ちされた恋愛って魅力的なのかもなぁ。
人間は禁忌を破りたい生き物なんだろうな。
Posted by ブクログ
これが、姉妹でなかったとしたら平凡な話なのだろう。いや、姉妹であっても平凡なのかもしれない。「姉と、妹夫婦。残酷なかたちしかしれない幸福がある」と、帯には書いてある。残酷なのに幸福なわけは、たぶん姉妹の隣、すぐ隣にある死。だとしたら、幸福は生そのものなのだろう。
姉の椿の狂おしいほどの愛情はなんだろう。迅人への愛ではない。妹・杏への愛情だ。椿は、杏の半身であることをやめない。杏の半身としてしか生きられない。椿が愛してやまないのは杏その人であって、杏もきっとそうなのだろうと思う。迅人はあくまで、姉妹の愛情をつなぐだけの役割にしか過ぎない。男の身勝手さを描いているようで、彼は彼である必要はない。杏を深く愛するからこそ、椿を愛する。椿が杏の姉だから、と迅人はいう。まるで迅人がふたりの女を動かしているかのように見えるが、最後に疲れ果ててしまう迅人は、姉妹にすべてのパワーを吸い取られてしまったのだ。姉妹の愛を完結させるだけの迅人。
親の血が流れている、と椿は自分を醜く思う。そうであれば、杏だって醜いはずだ。だけれど、杏こそが神聖化されている。つまりは、椿は自分を愛する手段が杏を愛することであり、杏を愛する迅人を愛することなのだ。すこしずつでも、外へ気持ちを向けようとしたってうまくいかない。一方、杏は外に気持ちを向けられるのに、うまくいかない。
結局、男は消費される。それがわかっている男はどれだけいるのだろうか。いや、迅人のようにわかっていない男ばかりだろう。男は女を消費しているように思っているかもしれないけれど、真に消費されるのは男なのだ。
Posted by ブクログ
荒野 なんて名前に惹かれて買ったのです。今年の直木賞作家ですし。
内容は意に反して(笑)、完璧な恋愛小説。
美しく神秘的な姉、可愛くて活動的な妹、妹の旦那の三角関係+α。なんだか昼メロ的なドロドロしたストーリーのようですが、静謐で抑制された語り口のせいで綺麗な物語に収まっています。
そこに疑念は有っても、憎しみ合いが無いせいもあるのでしょうが。
悪くは無いですが、私の守備範囲の外のようです。