小池真理子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
秘密がテーマの物語。
秘密は秘すもの。なので物語に描かれている秘密は最早秘密ではない。
読後、作者が描かなかった意図して秘したものを想像してみた。
静子さんと俊輔さんを別れさせ、時期を見て俊輔さんと野々宮さんを出会わせ、野々宮さんと彩和さんの想いを利用して俊輔さんを追い詰めていく。
影山さんと長谷部さん。長谷部さんは同業者だら俊輔さんに対するジェラシーはあっただろうし、影山さんは惚れたのは丘太郎さんであって息子の俊輔さんではないし服従は本当は辛かったのかもしれないし、もしかしたらふたりは恋愛関係?にあったのかもしれない…なんて我ながら妄想甚だしい。
妄想をもうひとつ。
俊輔さんは最初の遺言状は本当は破棄したのではないか…。ふたりには秘密にしておこうと考えて新しい遺言状を作ったのでは?
彩和さんをにたかしなアンティークの相続をさせたのだって彩和さんのセンスを認めていたから(青磁の器にコーヒーを入れた)
俊輔さんてそんなに悪人ではないような…。
こんな妄想しなくても、彩和さんと野々宮さんのは想いは胸を打ちます。
野々宮さんはもしかしたら離れた後も時々は遠くから彩和さんを見ていたのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
朝日新聞「be」で連載していた(2020~2021年頃)のを途中から読むようになって以来、いつか全編読みたいと思っていたのをようやく読んだ。しっとりと落ち着いたところで読みたいと思い、小池さんと夫の藤田宜永さんが暮らしていた軽井沢ではないけど、奥日光のホテルに泊まった冬の夜から翌朝にかけて読んだ。
自分は伴侶をなくした経験はないしこのままだと今後もそんなことなさそうだけど、親や友人とは違う存在で長いこと人生をともにした存在が亡くなったときの悲嘆や戸惑いなど心のもちようが静かに伝わってくる文章だとあらためて思った。小池さんと藤田さんがかたちだけの夫婦として長く暮らしてきたのではなく事実婚の期間も長く文学を巡って論争したり音楽や映画や生活のこまごまとしたことでたくさん会話を交わしてきた積み重ねが生む小池さんの思いであり、それをまた物書きの技として静謐な筆致に落とし込むことができたのだろうと思う。感傷的にならず努めてかわいた感じでありながら、それでもにじみ出てくる哀しみ……というか懐かしさ、恋しさのようなものが漂っているような気がする。
小池さんは常に最悪のことを考えてしまったり、幼い頃から欲しいものをねだるようなこともしない子だったとか。おとなびて考え過ぎてしまう人でありそれにあまのじゃくが絡んでいるような人ではないかなと思う。自分もそんな自分を自覚しているのでこの本はあまのじゃくな気持ちにならず素直な気持ちで染みてきたように思う。
夫婦を表す言葉って「伴侶」とか「つれ合い」というのがいいなと思っていて、そういう類の存在をもつ人たちが主人とかかみさんとか相方とかしょうもない呼称をつかうもんだなと常々思っているんだけど、小池さんはこの本の最後のところで「かたわれ」という言葉で表していてこれもいいなと思った。夫婦的な関係以上に結びつきの強さを感じさせる。この本のなかで書かれている部分を読みながら「かたわれ」のイメージしたとき浮かんだのがオスカルとアンドレだった。読むなかで二人の思い出や関係性についていくつも書かれていてそれを思い返すと「かたわれ」どうしというのがぴったりであり、そういう存在が消えた思いはいかばかりかと。一方で、人生のなかでそういう存在と出会えることそれだけでも幸いなことではないかとも思ったり。 -
Posted by ブクログ
角川ホラーアンソロジーの「堕ちる」です。
コンセプトが割としっかりしている短編って「長編で読みたいなぁ」と思うことが良くある。
同じシリーズのアンソロジーで「潰える」「慄く」では、短編だからこそできる潔さがあったけれど、「堕ちる」に収録されている作品は、後を引く感覚があった。その後の出来事、前日、話が飛んだ間には何があったのだろうかと。
怖さで言えば「潰える」が1番だったけど、読後の感覚だと今作が1番だと言える。
なお、以下に個人的なランキングを書きました。
『怖さ』ランキング
1位 潰える
2位 慄く
3位 堕ちる
『読み応え』ランキング
1位 慄く
2位 堕ちる
3位 潰える
『コンセプト』ランキング
1位 堕ちる
2位 潰える
3位 慄く -
Posted by ブクログ
小池真理子さん大好きです。
三章構成、大きな事件があり、手紙のやり取り、最後へ。
小池真理子先生の巧みな表現方法で世界観にどっぷり浸かることができる。軽井沢の住み心地を体感できる。
人間の心情の浮き沈みに相乗りさせられ、作品の感情と自分と感情がシンクロしてくる。そしてそのまま結末へ。心拍数も上がるし上気してくる。
以下は好きなところを引用。
"「夏だった。よく覚えてる。忘れたこと、ない」
悠子はそう言った。
ふいに弾けるようにして二人の間で笑い声が途絶え、後には暖炉の中で薪が爆ぜる音だけが残された。"
悠子の確かな気持ちが漏れ出てきたところ。漏れたからこそその強さを感じることができる。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ小池真理子読むのが多分初めてで、濃厚でちょっとずつ読んだ。怖かった。もっとドロドロした人間模様かと思ったら、こまやかな、小さな幸せや重たくない親しみの表現が好ましいだけに、それがブツッと切られていくのが穏やかに怖かった…。
著者が意識したという「黒衣の女」が、もともと一番好きな小説のひとつなので、たしかに、
全て終わった後・取り返しのつかないことが起きた後の回想、
幽霊はただ姿を現して人が死ぬだけ、というのが作中で物凄く怖いことである、
なぜなら主人公の人生をひたすら歪めていくから、かけがえのないものを失わせるから、
というの、似てる気がする。じゃあ好きなわけだ…となった。
ホラーだとお化けが出てぎゃーという話が好みなので、それが起きて全部変わってしまった後の長い人生の話は本当に怖くて、予想外に良かった。
「なつかれた」という表現の、あくまで些細さと、結果の重大さとどうにもならなさ、
そういう愛に付きまとわれて受け入れざるを得ない話だった(実際に何が起きてたかはともかく、主人公はその見方を受け入れざるを得なくなった)というの好きだった。
-
Posted by ブクログ
大変深く心に響く小説でした。
パーキンソン病を患った父、認知症で施設に入った母、ひとり娘である主人公は家族を持つ事なく離婚している。
父が不倫の末に母と離婚して新しい妻との間に娘が2人生まれた。
父の遺品整理の中から心情を知り想いを巡らす日々、母の心情を想像しながらかつての平和だった家族風景を風景画を見つめるように思い出す。
自分には家族がいない経済的には自立していて晩年の暮らしの保証もある、それが何だと言うのだ。長く走り続けてきて自分がいかに独りであったのか悟る、誰も追いかけて来ない静寂に満ち音もせず目を惹かれるものもない長く果てしなく伸びる道があるだけ。失望、絶望、うめき声をあげても誰も聞いていない誰も気づきはしない、私はまた走り始める、それが私だと思う。
自分にも母のように愛した男から指輪を贈られ老いても決して外さない、奈落の底と天国を繰り返し味わう別の人生があったかもしれないと夢想する。
人は孤独と絶望の中で悟りを開き最後には受け入れるのかもしれない。
主人公の父のワープロ修理を引き受けてくれた男性に感謝の葉書と娘をよろしくと頼むところ、父親としての誠実さ娘に対する感謝と謝罪を感じた。良い小説でした。