あらすじ
夫との別居を機に、幼いころから慣れ親しんだ実家へひとり移り住んだわたし。すでに他界している両親や猫との思い出を慈いつくしみながら暮らしていたある日の夜、やわらかな温もりの気配を感じる。そしてわたしの前に現れたのは…(「懐かしい家」より)。生者と死者、現実と幻想の間で繰り広げられる世界を描く7つの短編に、表題の新作短編を加えた全8編を収録。妖しくも切なく美しい、珠玉の作品集・第1弾。
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全編好きだったことに読み終わってから気づいて驚いた。どこか寂しくて怖い短編集。主人公たちは皆いき詰まっていたり孤独だったりして、その心の隙間につけ入るように怪異がやってくる。全部好きだけど一番を訊かれたら孤独の形が似ている子どもの怪異に好かれてしまう『ミミ』が一番好きと答えるかも。
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小池真理子さんの小説は、読んでいてとても心地よく、癒される。上品で、自然に流れる文章に引き込まれ、気付くと物語の世界に自分が居る感覚・・何度も味わっている。大好きな作家さん。
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異形……読んでいる途中からザワリ、ザワリと異形の存在を感じる。だけど読むのをやめられない!!
「ミミ」「神かくし」「車影」がお気に入り!
「康平の背中」の『まんじゅう、くれい』は強烈キャラ!
夜中暗い部屋で読むのがオススメ。
ぜひ〜
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切ない話とホラーのバランスがとても良かったです。
世にも奇妙な物語で放映された話もあって、懐かしい気持ちになった。康平の背中が不気味で好き。全体的に妖気じみていていいですね。楽しんで読ませていただきました!
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小池真理子さんのホラー短編小説アンソロジー。初出誌は巻末に記載されているが、年代が全部は載っていない。「1991年」と「2011年」のものがあることだけは分かるので、その辺りの頃、と推測するしかない。
とても良い作品集だった。抑制された堅実な文体で淡々と醸し出される「恐怖の」イメージが、美しい。もう少し文章が磨かれれば、泉鏡花とまでは行かないまでも彫琢されれば、これは立派な芸術作品になると思う。
ただ一つ、「蛇口」だけは、ストーリーは悪くないが文章が良くなくて、1991年の作だからもしかしたら作者のごく初期のものなのかもしれない。
「ミミ」のような、一種の詩情さえ湛える形象の美しさを、更に「言葉」それ自体の輝きと共に構築できれば、それは素晴らしい芸術になるだろう。
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読書会で小池真理子ぜひ読んでみて!と強くお勧めされたことがあり、初めて読んでみました。ものすごくよかった。どの作品も引き込まれた。ひとつ読み終えると、すぐ次のを読みたくなったけど、夜寝る前に読むのは、怖くて無理Σ(゚д゚lll)怖いけど、憧れる場面ばかりでした。懐かしい家は、映画異人たちの夏を彷彿させられた。あれもすごくよかったな。怖いけど、そっちに行ってしまう感じ、切ない。哀しく愛しい。
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怪奇幻想傑作選1
日常の隣に異形や幻想がひそむ―小池真理子さんらしさが詰まった短編集。
死者との再会、過去の記憶、愛と恐怖の同居といったテーマが、静かな筆致で描かれる。
『ミミ』 (集英社文庫『命日』初出)
両親と婚約者を同時に事故で失った女性。絶望から立ち上がるために開いたピアノ教室に、一人の少女が通い始める。
少女との交流は、主人公にとって救いであり、同時に過去と死者との境界を揺るがすような出来事を招いていく。
「神かくし」 (新潮文庫『水無月の墓』初出)
神隠しの能力を持ってしまった少女の物語。
一見すると怪異譚だが、それはむしろ少女が生き延びるために編み出した「生き方の術」なのかもしれない。
「首」 (ハヤカワ文庫『薔薇船』初出)
兄に「この世は常世だ」と教えられた少女。やがて兄は亡くなり、首だけの姿となって現世に現れる。
現世で再び亡くなった兄は、今度は「この世の常世」に生まれ変わっていく。
「蛇口」 (『コットン』1991年8月号初出)
人が死ぬとき、必ず「蛇口」が見えるという男。その異能がもたらす不可思議な運命。
やがて彼自身が最後に目にすることになる「蛇口」とは――。これは 世にも奇妙な物語でドラマ化されたのを観た記憶があります。
「車影」 (中央公論『見えない情事』初出)
不可思議な「よみ交通」の車影。
「貴方様を無事にお運びすることを使命としています」という言葉のもと、どこへ向かうのかも知れぬ旅が始まる。これもドラマ化された記憶。
「康平の背中」 (新潮文庫『夜は満ちる』初出)
望まぬ求婚を受ける女性の前に、4年前に事故死した愛する男が現れる。
目の前にいるのは、果たして彼なのか―それとも異形の何かか。
実はこれが一番怖い。ラストの一言をそこに持っていくセンス。
「くちづけ」 (祥伝社文庫『午後のロマネスク』初出)
わずか5ページほどの小品。
罪を積み重ねながらも、どうしても結ばれたいと願う二人。
果てしなく続くような長い旅路の先にあるのは。
「懐かしい家」 (『デジタル野性時代』2011年初出)
生まれ育った懐かしい家に、一人戻った女性。
そこに広がるのは、かつての楽しかった記憶
しかしそれは、幻想に過ぎないのかもしれない。
山田太一『異人たちとの夏』を思わせるような、過去の幸福な時間との邂逅。懐かしさと幻想が溶け合う。表題作らしく、小池真理子の「記憶と死者の交錯」というテーマが凝縮されている。
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ホラー作品の路線は大別すると、絶叫系のテンションの高いホラーか、秘めやかに忍びよるような静かなホラーに分かれると思うのですが、この『懐かしい家』に収録されている短編たちは概ね後者の印象。怖さ・不気味さの中にどこか格式高さというか、上品な怖さや哀しさ、憂いや寂しさを感じた気がします。
ピアノ教室の先生である語り手と、老婆とその孫を描いた「ミミ」
夫と別居し、かつて住んでいた家に一人暮らしすることになる女性を描いた表題作の「懐かしい家」
設定は違えど、生者と死者の距離が曖昧になり、そして生死の概念を超えた人の孤独を浮き彫りにします。
周囲の人間が死に瀕した時にだけ現れる蛇口。その蛇口が見えてしまう男を描いた「蛇口」は、描写の不気味さが見事だったなあ。この蛇口をひねると流れてくる水は、その人間が死ぬか、それとも生き延びるか教えてくれるのですが、蛇口から流れる水の描写の不気味さがたまらない……。
タクシーに乗った人物をどこかへ連れて行ってしまう「車影」
ふとした瞬間に生に疲れ、死に誘い込まれそうになる怖さを、一つの物語として上手く昇華されていると感じました。語り手の涙が話に、また一つ情緒を与えてくれているように思います。
「くちづけ」は夏目漱石の『夢十夜』を読んだときのようなイメージ。物語のイメージはところどころでしか掴めないのですが、そのイメージと繊細で美しい文章にわけが分からないながらも引き込まれます。
そして語り手の目覚めと共にその夢の儚い美しさと、人を愛してしまったゆえの哀しさの対比が心に残る。
この短編集の中でも特に短い短編なのですが、美しくも切ない幻想的なイメージが、強く印象に残りました。
別段派手な話という感じではないのですが、いずれの短編も切り取り方、見せ方、そして文章の技巧が光った短編集だったと思います。
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突然、壁に現れる蛇口をひねるとおどろおどろしい液体がほとばしり、身近な人の死を伝える「蛇口」
これが一番、怖かった。小池真理子ってこんな作品もあるのね。
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小池真理子さん、初読み!
ホラー短編集ですが、全くグロい描写もキモイ描写も突然何かが襲ってくることもなく、じんわりと怖い。映像は静かで薄暗くてノイズが入っている感じ、BGMは無い。おお、これぞジャパニーズ・ホラーなのか。『ミミ』,『神かくし』,『首』,『蛇口』,『車影』,『康平の背中』,『くちづけ』,『懐かしい家』の8編収録。
『神かくし』と『蛇口』は途中でオチが見え始めてしまったけれど、文体とじめっとした雰囲気が嫌いじゃない。純粋に面白いと思って読んだのは、不思議な少女がピアノ教室にやってくる『ミミ』、死別した愛する人がやってきたのにこちらを向いてくれない『康平の背中』。
そして『くちづけ』は大変短いのになんだか美しくて声に出して静かに読みたくなります。絵を描きたくなります。夢十夜を思い出すのは私だけではないはず。
続編も読もう。