吉田修一のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
吉田修一の小説を読むのは4冊目くらいですが、かつて読んだ「最後の息子」の主人公の10年後という設定で書かれたのがこの連作短編小説です。
「最後の息子」は、新宿二丁目で働くオカマのヒモをしている若い男の話。
その男が30代になり、子持ちの女性と結婚して4歳になる血のつながらない息子の父親になっている、という設定。
男が家族3人で新宿のバーニーズ・ニューヨークで買い物をしているとき、偶然にかつて一緒に暮らしていたオカマと会ってしまう…というのが表題作にもなっている「春、バーニーズで」。
設定だけ聞くと突拍子もないコメディを連想してしまいますが、いたって静かで細やかな小説です。
吉田修一は、平和で平穏で平凡な日常が、ふとしたタイミングで綻びをみせ突如として非日常が人生に入り込む、その瞬間を描くのがとても巧い。
「夫婦の悪戯」における「狼少年ごっこ」で夫婦が狼狽する場面なんてまさにそう(ただ、その狼狽ぶりを「う、嘘でしょ」「そ、そうだよ」みたいなドモリ科白で表現するのはイマイチのように思えたけど)。
「パーキングエリア」なんて、小説丸ごとが「突発的な日常の崩壊」を表現している。
あと、女性の描写がところどころ佳いですね。
「夫婦の悪戯」で、先に一人で部屋に帰ったはずの妻が実はドレスのまま一人でバーに行ったことを話す場面が妙に気に入った。
現実世界にある固有名詞がためらいなく登場するのも特徴的。
「バーニーズ」がまさにそうだし、「聖蹟桜ヶ丘」「日光金谷ホテル」なんかも。
そういうリアルな固有名詞が出てくるだけで小説全体が親しみやすいものになるような気がする。
もちろん固有名詞のセレクションにセンスが必要だとは思うけど。
ちなみに200頁近くある文庫ですが、文字がゆったりと配置され、しかもモノクロのイメージ写真が多数挟まれているので、思ったよりも分量はありません。
紙も上質なものが使われていて、自分は本屋で実物を手にすることなくネットで注文して買ったので、最初に本を開いたときはちょっとびっくりしました。 -
Posted by ブクログ
「Water」が3つの短編の最後でよかった。清涼感で読み終えることができたから。「最後の息子」と「破片」は薄暗いところがあってちょっと苦手。でも、現実の青春はドロドロ、ギトギトもしている。「Water」はそういったものを泣き笑いで跳ね返す勇気と希望を感じる。凌雲にとって水泳部でキャプテンをしたことがきっとその後の人生でも何かの役に立つだろう。省吾に対する優しい想いは大人になっても忘れないと思う。凌雲は兄の雄大が言うように、人生の最高の時を何度も塗り変えていくのだろう。最高記録は破るためにあるのだから。そして、そのために全力を尽くすだろう。若い頃を懐かしんで『あの頃はよかった』なんてi言うのはずっとずっと先でいい。全力で生きていれば、いまが最高の時だと思う。10代や20代が人生の最高の時と決め込むのは本人だ。その後の人生のほうが長いのに。歳相応の全力で生きていこう。出し惜しみなんかしていたら、思い出にしがみついているみたいな生き方になっちゃうもの。元気出していこう!オレ!
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Posted by ブクログ
朝の種類
(P81より)
朝の歌舞伎町というのはどこかぽかんと気が抜けている。
街全体が大欠伸をしているような感じで、
どういう思考の流れからなのかは自分でも説明できないが、「なんか人間っていいなー」と素直に思える。
浪速の従姉妹漫才
(P142より)
こうやって大阪の親戚たちと会った時というのは、
その代わりに誰かを亡くした時でもある。
祖母、伯母、伯父・・・。
そんな時、彼女たちといると、人間というのは可笑しいから笑うのではなく、
悲しい時にも笑うことがあると教えられる。
いや、本来、笑いというものが人生の可笑しみからではなく、悲しみの底から立ち上がろうとして生まれたものではないのかとさえ思われてくる。
吉田修一さんの素直な気持ちを綴っている印象。
カッコ付けず、それでも洗練された言葉が並べられている。
単行本で読める日を待って待って
読むことができて良かった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ好きだ!
(P105より)
ぜひ自分が好きなものを「好きだ!」と堂々と口にしてみてほしい。
大切なものを、「大切だ!」と叫んでみてほしい。
新しい一年が始まる四月でもあることだし。
(P106より)
望みを手にするために、誰かの承認を求める必要なんてない。
誰かを羨んだりせず、今の自分自身に満足する。
ユニークで、レアで、大胆な自分自身に。
『怒り』完成
(P167より)
(映画『怒り』の話)今回、この映画のポスターを、
篠山紀信さんが担当されている。
森山未來さん、宮﨑あおいさん、妻夫木聡さんの三人は、笑っているように見えなくもない。
だが、その顔をじっと見つめているうちに、
泣いているようにも、怒っているようにも見えてくる。
逆に、渡辺謙さん、松山ケンイチさん、綾野剛さん、広瀬すずさんたちは、一見、憤怒の表情を浮かべているように見える。
だが、こちらも同じで、しばらく見つめていると、
その目の奥に安堵や安らぎ、希望のようなものが見えてくるのだ。
たった一つの動かぬ表情で、彼らはいくつもの感情を見せる。
高揚感がジワジワと伝わってきて
一緒に旅行をしている気分になれました。