あらすじ
横浜で探偵業を営む遠刈田蘭平のもとに、一風変わった依頼が舞い込んだ。九州を中心にデパートで財をなした有名一族の三代目・豊大から、ある宝石を探してほしいという。宝石の名は「一万年愛す」。ボナパルト王女も身に着けた25カラット以上のルビーで、時価35億円ともいわれる。蘭平は長崎の九十九島の一つでおこなわれる、創業者・梅田壮吾の米寿の祝いに訪れることになった。豊大の両親などの梅田家一族と、元警部の坂巻といった面々と梅田翁を祝うため、豪邸で一夜を過ごすことになった蘭平。だがその夜、梅田翁は失踪してしまう……。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
多少突拍子もないストーリーではあるもののテンポ良く話が展開されてエンタメとして楽しめる。適度な長さで気晴らしにGood!
戦後の時代を生き抜いた貧しい子供達の経験を踏まえて教育への投資が常に必要であるとのメッセージがさりげなく残されている。
Posted by ブクログ
映画『国宝』が大ヒットロングラン上映。大注目の作家、吉田修一さんが昨年上梓された小説。昨年、産経新聞に連載されていたようだ。
長崎の九十九島(くじゅうくしま)が舞台の梅田一族の話だ。百貨店を経営し財を築いた創業者。その米寿のお祝いに一族が集まる。翌朝その創業者が姿を消す。
ここからはネタバレ。
『砂の器』『飢餓海峡』『人間の証明』…いずれも日本映画の名作だが、この映画のDVDを疾走する前に創業者が見ていたという。これがヒントとなる。
戦争で孤児になった子供の残酷な運命。そして創業者の過去の事実に目頭を熱くした。
これもきっと来年あたり映画化されそうだなあ。それぞれのシーンの絵がすでに何だか浮かんでくる。
最後の最後にこの話を小説に書いてもらう作家として、何故か『吉田修一』の名が出てくるのは、ちょっと悪ノリかそれとも作者の思い入れが深いということか。吉田修一が実際にこの小説を書いたことが、この話がリアルだと訴えていることなのか、ちょっと賛否が分かれるところかなあ。
Posted by ブクログ
孤島を舞台にしたミステリーであり、戦災孤児など歴史の重みがにじむ人間ドラマでもあった。時々クスッと笑える描写もあり、気づけば結末が気になって一気読み。作中で触れられる「砂の器」など昭和の名作とは異なる予想外のラストに驚かされた。初読みの作家さん。引き込まれる作品で、とても面白かった。
Posted by ブクログ
面白かった。まさかそんな方向に行くのかと先が気になって急いで読んでしまい,二度読みした。真相というか過去の経過はすごく辛くて,実際を知っている人にとって虎に翼はきれいすぎただろうなと思う。最後のファンタジー的な結末はちょっと,と思うけど,全体が面白かったので気にならない。
話は面白かったけど,砂の器とかのネタバレになっているのはどうなのか,「砂の器等のネタバレをされたくない人は先にそっちを読んで・見てください」と注意喚起すべきでは,でもそうするとこっちのネタバレになってしまうし難しい,と思う。先に知っておいて良かった。
映像化は難しいだろうなと思うけど,そう思った国宝も映像化されてるし,されるかな。梅田翁はイッセー尾形さんあたりでどうか。豊大と三上も絶妙な俳優さんを選んでもらえることを期待。
Posted by ブクログ
なんか凄い小説だった。漫画みたいなオチには驚いたけど。
産経新聞に連載してたんだね。
こんな奇想天外な小説が新聞に載るんだ。
ちょっと吃驚。でも夕刊だろうな。
本の帯だけ読むと長編ミステリーなんだけど、中身は戦後から今に続く狂おしいほどの恋愛話。
このあからさまなギャップが面白い。
意外性はそんなにないけどSFっぽいオチでカバー。
一読の価値あり。
Posted by ブクログ
久しぶりの吉田修一。
前作は何を読んだっけ?
横道世之介かな??
わりと好きなストーリー。
途中で「方舟」を想像した方は、
私以外にもいたはず。
もう一度手に取りたいと思い4点。
Posted by ブクログ
遠刈田(とおがった)と言う私立探偵の元に風変わりな依頼がくる。一代で財成し遂げたデパート王の祖父が夜な夜な著名な宝石を探していると言う。今は引退してプライベートアイランドの豪邸で暮らしている祖父の米寿の祝いに遠刈田も駆けつける、と言う所から物語は始まる。大嵐の無人島で失踪した祖父を探していくのだが、吉田ワールドに引き込まれて一気読み。最後のシーンはご愛嬌ととれば良いのか、意図が不明で残念。
Posted by ブクログ
個人所有の小さな孤島から、1人の老人が忽然と姿を消した。
老人の名は梅田壮吾。九州の富豪で島の持ち主だ。壮吾氏がいなくなったのは、氏の米寿を祝う内輪のパーティーが開かれた翌朝のことだった。
台風が間近に迫っており、本土に帰るのは不可能だ。島にはパーティー会場となった別荘が1棟あるだけで他に身を隠すところはない。ならば壮吾氏はどこに消えたのか?
氏のベッドにあった「遺言書」に書かれていた謎めいたことば。そして氏がパーティー当日に見せた不自然な言動。
残された手がかりをもとに、懸命の捜索が始まった。
謎が謎を呼ぶヒューマンミステリー。
◇
長崎県北西部の北松浦半島。半島の西には九十九島と呼ばれる 200を超える群島が連なっている。島の大半は岩礁や無人島だが、個人所有の別荘島も多い。
野良島は、そんな別荘島の1つだ。
野良島の持ち主は梅田壮吾。高度経済成長期に九州を中心にデパート事業を展開し、一代で財を成した立志伝中の人である。
現在、事業は息子から孫へと引き継がれていて、すでに経営から退いている壮吾氏は、この野良島で隠居生活を送っていた。
今回、米寿を迎えた壮吾氏を祝おうと、内輪で野良島に集うことになった。
横浜で探偵事務所を営む遠刈田蘭平は、梅田豊大 ( 壮吾氏の孫です ) からある依頼を請け、豊大の招待客としてパーティーに出席したのだが……。 (「プロローグ」) ※全18話とプロローグ及びエピローグからなる。
* * * * *
吉田修一さんの探偵小説。しかもクローズドサークルで始まるコテコテ謎解きミステリーとは!? ということで、意外の感に駆られつつも、ワクワクしながら読み進めました。
物語の謎は3つあります。
1つ目は、梅田壮吾氏の行方です。
米寿のお祝いパーティーで少々はしゃぎすぎの感があった壮吾氏。翌朝、「遺言書」を残して姿を消しました。
けれど普段の壮吾氏を知る息子夫婦や孫たちは、壮吾氏が自殺するとは考えられないと言います。
別荘内にはいない。狭い島内に身を隠す場所はない。台風接近で本土には帰れない。
いったい壮吾氏はどこへ消えたのか?
2つ目は、壮吾氏が別荘内で紛失した時価35億円の宝石の行方です。
この宝石は、かつて壮吾氏がオークションで落札した25カラットはあるルビーで、「一万年愛す」という名がつけられています。
遠刈田が別荘を訪れたのは、宝石を探してほしいという豊大の依頼を請けてのことでした。
そして3つ目は、45年前に東京で起きた主婦失踪事件の真相です。
状況から見て自発的に失踪したのではないと判断した警察は捜査を開始。その途上で、容疑者として浮上したのが壮吾氏でした。
ただ確証がなかったことと壮吾氏が九州の名士だったことで、壮吾氏の身柄が拘束されることはなく事件は迷宮入りとなりました。
捜査を担当したのが坂巻丈一郎という警部だったのですが、捜査打ち切り後も坂巻と壮吾氏はときおり連絡を取り合うようになり、その関係は互いに高齢となってからも続くことになります。
坂巻は今回も壮吾氏から招待されて、野良島を訪れていたのでした。
ということで、壮吾氏の身内以外でパーティーに招待されたゲスト2人、探偵・遠刈田蘭平と元刑事・坂巻丈一郎の主導によって真相が明らかになっていくプロセスが描かれます。
謎解き中心に展開する前半は古典的なミステリーのようなテイストで、過去の回想中心に展開する終盤は歴史問題や社会問題に目を向けさせられるような内容で、非常に奥行きが感じられる作品に仕上がっていたと思います。
新聞小説らしくメリハリを効かせた書き方がされていましたが、ただのエンタメ要素の強いミステリーで終わらせないのは、さすが吉田さんだと感心しました。
Posted by ブクログ
45年前の主婦失踪事件の容疑者でもあった富豪の米寿の祝いの最中、その富豪が姿を消し彼を見つけようとする祝い参加者と45年前の主婦失踪事件の謎に迫る物語。
読むにつれて次はどのような展開になるのかと興味を持って読み進むことが出来たが、当初は風雨の中、決して島からは出れないと言っておきながら、クルーザーでもやっとたどり着けた離島に88歳の富豪が一人でボートに乗って離島に行ったことになっているのはどう考えても???。せめて、離島への秘密の地下道でもあったとなれば何とか納得は出来るのだけれど。
このことが頭から離れずすっきりとしない読後感だった。
Posted by ブクログ
ドタバタミステリーというカテゴリーはないけれど、なかなかのぶっ飛び展開が面白くてあっという間に読み終わる。
戦後の浮浪児の話は、ちゃんと知っておきたいと思い、次の一冊は「浮浪児1945-―戦争が生んだ子供たち―」に決まり。
Posted by ブクログ
3.5 謎解きが始まるまで読むのに苦戦した。後半の回収は日本の忘れてはならない歴史を絡めてくる展開。伏線がなさすぎて、後半の流れは意外ではあった。戦争の記憶は忘れてはならない。男にとっての初恋の重要性も入れ込んで来ている話。
Posted by ブクログ
もっと陰鬱なものを書く作者という印象だった(が、実はほとんど読んだことがなかった)ので、序盤の軽妙でポップでロックなノリになんだ読みやすいじゃんと思いっきり油断させられたところ、突然の戦後要素をねじ込まれてそこまで乗り切れなかった。初出が新聞連載小説だったということで、読みやすさにも乗り切れなさにも納得はいく。しかしいつ見ても顔面のいい作者だなあ。
Posted by ブクログ
孤島で一族が集った翌日、主催者が失踪…とミステリのような展開だが、どこか現実離れした展開で、どことなく軽さと胡散臭さが漂う。
セリフが「」書きでないのが慣れず、読みづらかった。
戦争孤児という実際にあったであろう社会問題を扱っており、そのあたりは興味深く読めたが、後半の宝石の話や冷凍人間といったSF要素はいまいちしっくりこなかった。
急にSF展開になって、ん?何これ?という感じで終わってしまって自分の中でいまいち消化しきれなかった。
Posted by ブクログ
一代で財産を築き上げた老人がパーティーのさ中孤島から失踪し~で始まる作品。
展開は現実味にかけているし、登場人物のキャラが薄く、今一つ入り込めないなあと感じ始めたら、終盤、一気に読ませる展開になってくる。
かなり、重いテーマを扱っているために敢えて軽めの作風にしているのかもしれない。
日本に戦争があって被害にあった無名の人々に光をあてた作品。
Posted by ブクログ
探偵の遠苅田に、九州の小さな島で隠居生活を送る高齢の祖父がある宝石を探し始め、その謎を解き明かしてほしいと依頼が来て、その島で起こる出来事や祖父の出自など明らかになっていく話。ネタバレになるのであまり言えないが、『砂の器』や『飢餓海峡』、『人間の証明』に通じる戦後を生き延びる厳しさや哀しみが描かれている。そういう世の中だったことが忘れ去られていくのは亡くなっていった人たちに申し訳なく、作品としても引き継がれていくのは良いことだなと思った。
Posted by ブクログ
これは推理小説?ミステリー?と思わせておいての、ちょっとした変化球な小説でした。
現実的かと言えば、むしろおとぎ話的な色合いが濃く、それだけに絶海の孤島での事件発生時にも、割合と気軽に読むことができました。
読後感は極めて良いです。
心に残るのはやはり「今からそう遠くもない昔」の幸次とケロとみっちゃんの物語。
大切な人を想う気持ちはやはり尊い。
Posted by ブクログ
探偵の遠刈田は「一万年愛す」という宝石を探してほしいと依頼をうけ、依頼者の豊大とともに孤島、野良島を訪れる。そこでは豊大の祖父、壮吾の米寿をお祝いするため息子家族、そして元刑事の坂巻が待っていた。
その次の日、「一万年愛すは、わたしの過去に置いてある。」という遺言書をのこし壮吾は消えてしまう。台風の影響で本土から警察も呼べないなか、彼らは壮吾を探し始めるが……。
この本のほとんどが会話文で成り立っており、その9割が「」の外にあるため、それがセリフなのか、それとも状況説明なのかを確認しながら読まなければならない。
最初はものすごく読みづらかったが、中盤あたりもすぎるとそれにも慣れ、気にならなくなってくる。
ミステリとしては話が薄いし、途中なかなか進まない展開にやきもきさせられたものの、話がたくみに進んでいくからだろうか。しだいに物語に引き込まれていった。
雪島に到達してからは、それまでが嘘のように目まぐるしい速さで物語が進んでいく。壮吾が語るむかし話に涙し、45年前の真実には驚き、文章の稚拙さが気にならなくなるほど面白い作品だと思った。ここまでは。
冷凍保存というSF展開までは良かった。ありえる話だし、そこに到達するまでの話にも納得ができる。技術的な話も小説ということで許容できる、のだが……。
その後 がやばかった。急に投げたのか? となるくらい唐突すぎて、時代背景も世界観もまったく合わない展開に思考が追いつかない。しかもなんとも陳腐な展開。
正直、評価を下げようかとも思ったんだけど、予想できなかった展開と、最終章で明かされた真実を見てとどまりました。
Posted by ブクログ
どんな作品かも全く知らずなんの事前情報もないまま、好きな吉田修一の作品というだけの理由で読んだ。
だから読みながら「え?島田荘司でも乗り移った?」とちょっと思うくらい、よもやのストーリー展開だったけれど、終盤になって、ああこの感じは『悪人』とかそっちっぽいのかな、とも。
正直荒唐無稽とも言っていいかもしれないけれども、読みやすくてほぼ一気読みだったし、著者が描く人物像は相変わらず嫌いじゃない。
うーん、でもやっぱりちょっと突っ込みどころ満載な感じは否めず。最後の最後のオチも、これ必要?と思わないでもない。
まあいわゆるエンタテイメントとして受けとめとくのが正解かなー。
ほんとは、著者のリアリティ満載の小説が一番好きなんだけどな。
Posted by ブクログ
吉田修一さんの作品はけっこう読んでます。
わりと普通な感じのミステリという印象でしたが、
結末はややSFというかファンタジー的なものになったのが、
この著者にしては意外でした。
でも、落としどころというか真相としてはわるくないものでした。
最後に著者が登場してきて、ちょっと混乱しました。
登場人物のキャラもわかりやすかったりして、
映画にはしやすそうなので、映像化にも期待します。
Posted by ブクログ
ミステリーでもない…し…。
ジャンル何?
と、いうのが、まず感想。
不思議な読後感。
ファンタジー⁉︎かも⁉︎
いや、駅の子のお話。
そう、きたか…。
エピローグが、なんとも、で…。
でも、じんわりとは。
アタシに届きました。
そして、サクッと読めたから。
Posted by ブクログ
新聞でいちおしミステリーとして紹介されていて、面白そうだったので吉田修一作品を初読み。
物語の舞台は絶海の孤島。そこに集まっているのが金持ちの一族と招かれた元警部に私立探偵。こんな状況で、殺人事件が起こらないなんてことがありますか?と一族の当主が言っていた翌朝、当の本人の姿が見当たらず謎めいた遺言書が発見される…
こんな感じで始まるが、私立探偵の遠刈田がなかなか優秀で、物語はサクサク進んでいく。冒険や恋愛小説の要素なんかも盛り込まれていたけど、全体的にはあっさりした印象。でも、ラストは意外だったかな。
『罪名、一万年愛す』のタイトルは素敵。自分だったらどんな罪名にするかな〜
Posted by ブクログ
タイトルが良すぎる。
やっぱり人生は、その人にとって忘れられない大切なものを死ぬまで大切にするのが人生だよね、と思う。
吉田修一氏の作品を読むのが随分久しぶりで、読み始めて早々に、こんな文体の方だったかしら……と思ったが、ラストにネタバラシがあった。
急なSF展開もあったが、ルビーを持たせた理由が時代の厳しさをよく表してつらかった。
どんな富豪も成功者も立派な人も、たった一人のために全てを費やしてしまうただの人間なのだと。
Posted by ブクログ
嵐の夜,米寿を祝った後で梅田翁が姿を消す.彼を探す一族の心優しき人たちと元刑事と探偵.砂の器や飢餓海峡などが出てくるから諏訪殺人事件かと早とちり.ラストはSFもどきの微妙な展開.善き人ばかりのお話でした.
Posted by ブクログ
罪名、一万年愛す
著者:吉田修一
発行:2024年10月18日
角川書店
初出:「産経新聞」2024年4月~9月連載
タイトルから、恋愛小説か青春小説だと思っていた。横道世之介シリーズみたいな。読んでみると全然違っていた。ミステリーというか、ファンタジーだった。『さよなら渓谷』という著者のミステリー系小説を読んだが、性犯罪の被害者と加害者が同棲をしているというシチュエーションに驚いたけれど、そこまでの話で、中身は期待したほど面白くなかった。だから、どうなんだろうと思いつつ読み進んだ。文章は素晴らしいし。
結果だけど、この小説は面白い。さすがは吉田修一作品!楽しく、細切れに謎が出てきて、これは新連載で読んでいたら毎日が楽しみだっただろうなあ、と想像する。連載のコツを知っているなあって敬服する。それだけじゃなく、なによりちゃんとしたテーマがある。イマドキの小説(吉田氏が評価して芥川賞を受賞したような作品)とはモノが違う。
読み切って気が付いたが、この小説には主人公が設定されていない。梅田荘吾という老齢の実業家を巡る謎を解いていくミステリーだが、私立探偵と元警部の2人が中心になって謎解きをするのかと思いきや、孫や息子なども同じぐらい秘密を明かしたり推測したりと、誰がキーパーソンというわけでもない。しかも、最後は著者、吉田修一自身が登場してくるという奇想天外な結末。なんじゃ、こりゃ?でも、面白かったし、楽しかった。
梅田荘吾は戦争孤児で、上野駅で他人の物を盗ったりしてなんとか生きてきた。知り合った(というより上野駅暮らしの先輩浮浪児)少年ケロと、少し年上の少女みっちゃんと一緒に眠り、彼らに闇市でのモノの盗り方や、食べ物が捨ててあるところなどを習い、協力しあって生きていった。2人に何度も助けられ、辛いとみっちゃんに頭をなぜられて慰められた。
こうした戦争孤児を、GHQからなんとかせえと言われた日本の政府。その結果、彼は警察に捕まった。ケロは死んでいて、警察が来た時にみっちゃんだけ逃がして、彼は自分だけが捕まるように行動した。捕まり、殴られた揚げ句、施設送りかと思いきや過酷な強制労働をさせられることになった。それがあまりに辛く、逃げ出した。そして、運良く呉服問屋の下働きとして住まわせてもらえることになり、そこから自分の店を持ち、ついには福岡で梅田丸百貨店を開業、一時は大変な勢いでのビジネスとなったが、その後は規模を縮小しつつも手堅く続けることに。引退した今は、九州に買った島(野良島)で悠々自適な生活を楽しんでいる。
ところが、そんな荘吾に、夜になると宝石はどこだと探す奇行が始まったという。「一万年愛す」という宝石。認知症かとも心配されるが、本人はそう言われて怒っている。しかし、詳しい事情を言わない。孫で跡を継ぐことを辞退して教員をしている豊大(とよひろ)が、私立探偵の遠刈田に調査を依頼した。手始めに、こんど島で開催される荘吾の米寿の誕生日パーティへの参加を頼んだ。
パーティには、荘吾の子である一雄(養子)、その妻の葉子、孫で跡を継ぐことになっている乃々華、豊大、遠刈田に加え、坂巻丈一郎という荘吾と親しい老齢の元警部も招かれた。そこに、家政婦の清子、看護師の宗方(男性)、島の管理を任されている三上などが絡む。
パーティの翌朝、荘吾は忽然と姿を消した。島の中を探してもいない。折からの台風接近で船なんか出せない。警察に通報したが来ることができない。自分たちで手がかりを探していると遺書が2通みつかる。かつ、地下のシアタールームではDVDがつけっぱなしになっていて、懐かしい映画のDVDが3本出しっぱなしになっていた。普段の荘吾がしないことだった。
『人間の証明』『砂の器』『飢餓海峡』
ここから、謎解きが始まっていく。
*******************
(以下、ネタ割れ)
「一万年愛す」という宝石については、遠刈田が調べていた。25.59カラットのルビーであり、1940年にロシア人がオークションで落札していて、値は150万円ほどだったが、現在なら35-36億円ほどになっているという。荘吾はそれを手に入れていたということか?
元警部の坂巻がパーティに招かれたのは、荘吾と親しかったからだった。どういう関係かといえば、1974年に起きた「多摩ニュータウン主婦失踪事件」で、荘吾は事情聴取を受けていた。相手は、現役警察官時代の坂巻だった。その頃、荘吾は事業に成功したそこそこの有名人だったが、2度ほど失踪した主婦と会っているのを目撃されていた。それはもちろん東京での話だが、どちらの日も九州でのアリバイがあり、彼は失踪事件には関係していないとされた。もちろん、失踪した主婦のことも知らないと彼は答えていた。荘吾は彼が事件に関わっていると報じた新聞や週刊誌などを相手に、名誉毀損での訴訟も起こした。なお、その主婦は吉原で体を売っていた経験があることが分かっていた。
ともあれ、それ以来、歳の近い2人は交流が始まったのだった。
2通の遺書、意図的にヒントとして残していったと思われる3本の映画から、一同はいろいろと解釈をした。やはり荘吾は失踪事件に関わっていて、主婦を殺したのではないか、その罪に苛まれ、みんなを集めた上で自ら死を選んだのではないか、荘吾の何らかの過去を知った主婦に脅されたために殺したのではないか、など、各人が想像を張り巡らす。
彼らの結論は、荘吾は生きていてこの野良島を出て、隣の島にいるのではないかとのことだった。祠を建てている信仰するための島に。調べると、モーターボートがなかった。危険を覚悟の上、一人で乗って行ったのだろうと。自分たちも行こうということになり、危険を承知でクルーザーを出した。途中で海に投げ出される者もいたが、なんとかたどり着く。すると、祠へと上る階段の一部がスライドでき、そこに秘密の地下室があることが分かった。きっとここに荘吾はいるはずだとみんなは思う。
戸籍の写しが見つかる。一つは、梅田家のもの、もう一つは松田家のものだった。
果たして、荘吾は現れた。そして、これが「一万年愛す」だとみんなに見せたのは、なんと液体に入った女性だった。長髪を靡かせ、目を見開いた女性、その人こそ半世紀前に失踪した主婦・藤谷詩子だった。そして、上野駅で生きる気力をつなぎとめてくれた少女、みっちゃんだった。2人は失踪事件前に再会していた。詩子は病気で余命宣告を受けていた。誰よりも愛おしい彼女を死なせたくはないと思い、荘吾は彼女を冷凍保存することにした。仮死状態で保存し、いつかは甦らせたいという気持ちからだった。
ただ、1974年当時にその技術はなく、荘吾はまだ公には認められていない技術でそうすることにした。ソ連からフランスに亡命した科学者が開発した、-196度で保存する技術。体から血液を抜いて、換わりに不凍液を入れる。
みんなの前でその巨大な容器を壊すと、彼女が外に出て来たが、その場で崩れ、熔けるように消えていった。
荘吾は本当の自分の正体も明かした。自分は梅田荘吾ではなく、松田孝次という少年だった。強制労働の時に梅田家のことを聞き、逃げ出した後に役所で自分は梅田荘吾だと名乗って戸籍に入り込んだ。梅田家も家族全員が戦争で死んでいた。
さらに、藤谷詩子と会っていたと目撃者から証言されたもののアリバイがあったことについても、2度目のアリバイは工作した結果だったことも告白。孫の豊大とキャンプに行っていたのだが、実は夜中に抜け出して上京していたのだった。豊大も口止めされていた。
それから少しして、荘吾も世を去った。
荘吾は死ぬ直前、遠刈田に二つ頼みごとをしていったが、その一つが自分の人生を小説にして欲しいということだった。遠刈田が探し出した小説家が、芥川賞作家である吉田修一だった。
***
遠刈田(とおがつた)蘭平:横浜の野毛地区の私立探偵
梅田豊大(とよひろ):依頼人、小学校教師、30歳
梅田荘吾:梅田一族の祖、依頼人の祖父、梅田丸百貨店創業者
梅田乃々華:豊大の双子の妹、荘吾の跡を継ぐ三代目
梅田一雄:豊大たちの父
梅田葉子:その妻
清子:家政婦
宗方遼:看護師
坂巻丈一郎:老齢の男、元警部、荘吾と親しい
操縦士:元部下
貴子:操縦士の妻
三上譲治:野良島の管理を任されている
藤谷詩子(うたこ):1978年の多摩ニュータウン主婦失踪事件で失踪、40代だった、吉原のソープ「花籠」、日本料理屋店員→結婚
藤谷浩太郎:夫、布団問屋勤め、酒癖が悪くてDV
M:隣の主婦、夫からDV被害
砂田伊助:
砂田ウメ:妻
砂田勝一:長男、1歳で病死
砂田孝次:次男、東京大空襲で死亡、本当は梅田荘吾?
ケロ:上野駅、膝枕の少年
みっちゃん:上野駅、少し年上の少女、後の藤谷詩子
Posted by ブクログ
不思議な語り口で、途中、何を読まされてるんだろうと思った。ミステリなのだけれども……
孤島もの、大富豪の遺言もの……というテンプレがはまらない。登場人物たちは癖はあるもののおしなべて「いい人」(金持ち喧嘩せず系の)で、なんだこりゃと思っていたら。探偵も、元容疑者と親しく付き合っている元警部も、なんとも調子が狂う。
書きたかったのは、終戦直後の風景や、戦争孤児の話だったのか。