柴崎友香のレビュー一覧
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確かに、ここには私がいる。
しかしそれは、共感という名の、自己愛に満ちた思いの表明ではない。
自画像を突きつけられたときの少しばかりの居心地悪さに近いだろうか。
深煎りのコーヒーを口に運び、苦味と共に微かにざらつきが舌に残る。
声高な社会への違和感と、それに目を伏せるだけの日々。
空き地を見ても何が建っていたかすら思い出せない不安。
まだ恵まれている方だよなと、いう思いが浮かんでしまう自己嫌悪。
真っ当に生きていると思う一方で、社会の“普通”の枠から疎外され、帰属感を持てないこと。
誰かを傷つけた罪悪感を、誰かに癒して欲しいこと。
「終わり」も「始まり」も掴めないまま、続きを生きることしか -
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こんな心地よい平熱があるのかー
自分の人生において、覚えていようがいまいが1ミリも支障のない些細なシーンなのに、なぜか何年たっても頭から離れないことや、自分以外は誰も覚えていないけど自分だけがひっそりと覚えている友達とのやりとり、みたいなもの。そんな場面を詰め込んだような短編集です。
基本は平熱です。ずっと平熱。最後の一行でどんでん返しがある?ある?ある?、、、やっぱない、みたいな。あえてラストの数行を手で隠しながら読んだりしましたが、そこには常に平熱しかありませんでした。これはけして「つまらない」と言っているのではありません。こんなに心地良い平熱があるのかと不思議な読後感です。派手な盛り -
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気づかずに忘れていたあの日々のこと、空気と、少しずつ降り積もっていった気持ちたち。
楽しいことはすべて制限されるのに仕事だけが通常モードになろうとする、働くだけの存在になれってこと?
とか、
まんぼう
とか、
⚫︎度目の緊急事態宣言
とか、
また営業時間が変わるだけ
とか、
え、これでもやるの?なオリンピック
とか、
自宅待機
とか、
Go travelとか。
いくつかの並行世界が、なんとなく同じところで繰り広げられてるように見えていた世界が、
やっぱり並行世界は並行世界だったんだと気付かされるような出来事の数々。
もっとさかのぼって、東日本だったり阪神淡路だったり
でもこの後だってたく -
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20代、30代の頃はミナミでよく遊んだ。ホームグラウンドだった。梅田にはないバタ臭さとごった煮感が自分の肌感覚に合っていた。あらゆる道を歩いて知らない路地はなかった。働いたお金は大体洋服か友人、彼女とのご飯代に変わっていった。居酒屋、バー、カフェ、立ち飲み、レストランが好きで新しいお店を開拓しては仲間と語らいバカみたいに飲んで朝方始発で帰るような生活をよくしていた。大阪を読んでいるとまんま自分と同じ生活を感じて同じような感覚で街を捉えている2人の体験が綴られていて夢中で一気に読んでしまった。自分があの頃に感じていたミナミと今のミナミは同じで違う存在なんだなと改めて突きつけられた。
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岸政彦さんと柴崎友香さんによる、大阪に纏わるエッセイが交互に展開される。岸さんは上新庄に住まわれていて淀川河川敷の話などあり、私も淀川沿いの大学で、社会人になってから1年半ほど上新庄に住んでいたので同意するエピソードが多々あった。柴崎さんは1973年生まれということで、私は1972年なのでほぼ同世代。中学校の頃の「4時ですよーだ」など2丁目劇場や、ミニシアター系、音楽の話題など同じような感じ。最近の小中高生がどんな感じかよくわからないけど、昔の方が無駄があったというか、時間がゆっくりだったような気はする。そんな以前の大阪をロマンティックに書かれていないところが、貴重な記録というか自分にも近い当
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上京物語は掃いて棄てる程あるが、下阪(なんて表現はないが都に住む以外が全て下るのであるならば)物語は中々ない。大阪ですらそうなのだから他の各地では尚更だろう。
最近の「移住しました」系のYouTubeともどこか似て非なる、進学就職を機に移り住み、そのまま居着いてしまった人達の中の一定数には、その居着いた土地に対して染まらない染めれない感情と、一方で愛したい愛されたい感情が相反して内在している。
他所から大阪に移り住んだ、という点では岸氏と立場を同じくするが、自分は故郷を棄ててしまった訳ではない。故郷忘れじ、という点では柴崎氏と同じである。愛惜ある土地が複数ある事は幸せな事、と思う。
「大 -
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石原優子、小坂圭太郎、柳本れい。
この3人の2020年から2022年までの日々や思いがそれぞれ記された小説。1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東北大震災、そして2020年からのコロナ禍。生活も考え方も変わらざるをえない出来事のなかで、どう生活をしなにを考えてきたのか。三人三様なのだけれど、細かく表現されていて、読みごたえがあった。共感することも多かった。「じわじわと。自分が削り取られていく感じ」とか。深く考えてしまうと、人と話すのは本当に難しく思えた。「わたしは、なにを言って、なにをしてきたか。わかっているのだろうか。」ということも、自分に当てはめて考えた。捉え方は人それぞれだから、普 -
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ネタバレ主人公の置かれているその瞬間の情景と空気感を文章で伝えられる珍しいタイプの作家だと思います。
主人公が若い時は「若い」と分かる空気感と情景の表現であるため、昔を思い出し郷愁にかられる描写がいくつもありました。(当方トシなので)
しかしこれは甘い恋愛小説ではない!
主人公は(おそらく)守ってあげたいタイプの可愛い女の子で、自己中な性格でも友だちがいて男性にも好意を持ってもらえて…
若い女性特有の「根拠のない無敵感」が分かる描写が中盤まで続き、後半で30歳を超えた主人公を取り巻く現実が徐々に読者に開示されます。
これまでやってきた事のツケが回ってきており、職や友達を失い、貯金もない。
「根拠 -
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誰もが大きな物語の主人公になろうと成功を求め必死に努力するけれど、所詮ひとは時の流れの中に儚く溶け消えてしまうような存在なのかもしれない。けれど、この作品の一つ一つのエピソードに出てくる名もなき登場人物のような、小さな物語の地味な端役だったとしても、誰かと出会い関わり合いそして別れていくなかで、時の流れは確かに組み替えられ、新しい時の流れが作り出されている。時の流れは人を簡単に分解するけれど、他方で、人は時の流れを新たな方向へと導いている。人間と時間の奇妙な関係。時間が主役のこの不思議な物語は、自分のかけがえなさとか個性とかそういうものに執着する人生の虚しさを教えてくれると共に、小さくても豊か
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日日是好日。上がりも下がりもない 劇的に事件もない 何かが起こって起承転結もない、んー凄く良い感じの柴崎友香さんだった。良太郎とベタベタの飲み会の次の日にお互い酔ってたと言いズバッと闇金と聞く あー友達になるんだろうなと 友人から恋愛の仕方が間違っているのではと疑問を投げかけられ、なるほどと付き合うことを意識すればいいのにせずに ラスト良太郎の家に行きランチの約束をするが、幕ですか、気になる人と何かある訳でもない 嫌な気持ちにならない平坦な気持ちのまま幕でした。これ気になってて取り寄せて読んだ、通ってる本屋にはこういう本を並べて欲しいものだ、本棚減らすとか意味がわからない。悲しいかな本屋がどん