柴崎友香のレビュー一覧
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すごくよかった。読み終わりたくなかったくらい。
柴崎友香さんが実際に、アイオア大学の、世界各国の作家が集まるライティング・プログラムに参加したときの話。(「小説集」って帯に書いてあったけど、エッセイだよね。エッセイって言っちゃNGなのかな? 小説よりエッセイっていったほうが手に取りやすい気もするけど。わたしも読むまで、小説仕立てになってるのかな?って思ってたけど、エッセイだと思う)
世界各国の作家や詩人が集まって、合宿みたいに大学内に宿泊して朗読会や翻訳会を行ったり、週末には旅行したりするプログラムそのものも興味深く、「留学生活」っぽい話も楽しく、それぞれ話す言葉も境遇も違う作家たちと親しくな -
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『ソーセージマフィンは、予期したとおりの味だった。ハッシュポテトもミルクも、過剰でもなく不足でもなく、それは快適ということだと、わたしは思った』―『出かける準備』
柴崎友香の作品で一番好きな作品はやはり「きょうのできごと」ということになるのだけれど、これはジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」という映画を彷彿とさせる設定のオムニバス的作品だ。但しジャームッシュの映画には必ず出てくるとても個性的な人物が登場したりはしない。ただゆるゆると過ぎてゆく一日の中に流れる輻輳的な物語(それは毎朝の混み合った電車の中にもあるに違いない物語)の描き方が似ていると思うのだ。そんな非日常ではない日常を -
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言葉にしなきゃ伝えられないのに、言葉にすると実感から離れていく。そのジレンマを乗り越えようと努力してもたいてい無駄に終わるのに、なんてことないきっかけで言葉を越えて分かり合っている瞬間がやってきたりする。この小説ではそのジレンマのもやもや感と感覚レベルで分かり合う瞬間の行来が自然に描かれていて、読んでいるととても安心した気持ちになる。感じていることが完全に一致しているわけではないのは分かっているけど、確かに気持ちを共有できている感覚があって、それでいいやと思える。気持ちが通じ合うときの言葉にできないその感覚が確かによみがえってきた。
主人公のものの見方・感じ方にも共感する部分が多くあった。街 -
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想像だが、何かの節目に主人公は我が身を振り返ろうと思い、何気なく思い出した記憶をその都度書き留めていったのだろう。その主人公の「記憶日記」とでもいうようなものがそのまま小説になっている。
現在の時点から過去を回想する物語はたくさんある。さらに、そのような小説では冒頭かどこかで回想行為の動機なり理由が語られることが多い。しかし、本書はそういう形式を取らない。回想される過去は断片的で順不同だし、過去を語る理由が述べられることもない。その意図は、本書の狙いが「自分を確認する行為そのもの」にあるからではないかと思う。すでに確立した自己や自分の哲学を語るために過去を持ち出しているのではない。考えてみれ -
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そうか、こんなもんなのか。なにかを実行ふると、なにかが変わる。いい方向なのかどうかは、わからないけど。とりあえず、お母さんに無理しなくていいって言わないと。
もし、だめだったら、悲しめばいいんだ。きっと、それでいい。
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30代女子三人の一年。
なんかよかったなー。
だめもとでりゅうさんにぶつかっていこうと思っちゃった。
親にも話そう。
いつか家を出る決心もついちゃった。
やってみて、だめだったら、その時だ。
なんも全力でやってない、ふつうの女の人が、ただ仕事をしているだけで、ただ恋愛をしているだけで、ただ親と話しているだけで、励まされる時もある。 -
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平尾砂羽がめんどくさい。人に期待してない感じでめちゃめちゃしてる。口を開けば余計なことを言う。社会に適応してるようで、微妙。なかちゃんと連絡してるのも自分になかちゃんが興味ないからのように見える。夫と別れたこともそれほどダメージうけているようには見えない。でも、それなりに傷をうけていて、戦争や紛争のドキュメンタリーを視ながらなぜ自分がここにいるのか、それをぐにぐに考えている。あの人たちはあそこにいるのに、わたしはここにいて、生きている。死んだ人と生きている人との違いとか。めちゃめちゃめんどくさいけど、すごく、共感できるところもある。子供の頃、核戦争が怖かったとか。葛井夏は若くて、なかちゃんに影
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ディズニーランドに行く恵太とルリ子に便乗して、一緒に東京までドライブすることになった小川望とコロ助。真夜中のSAでの望のルリ子への告白、長年思い続けた東京に住む清水さんへのコロ助の告白、4人内部のそれぞれの関係性による様々な会話。たった3日の、それもほとんどが車中での会話なのに、4人それぞれの世界観がよく分かるのが面白い。
この作品は時間の描き方がとっても上手。気の置けない仲間と過ごす夜の、なんだかフワフワして現実世界から浮遊したような感覚、その後に迎える朝の、紛れもない現実とある種の残酷さ、昼間の地に足の着いた面白みのない、けれどもありのままの時間の流れ。それぞれの時間にそれぞれの過ごし方が