柴崎友香のレビュー一覧
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ネタバレ主人公の春子さんとかその同期の友達が、いろいろなことを代弁しているように感じ、なんだか友達と会っていろいろ話したような気持になる本だった。
読む前は、お話の中だけでも、なんか待ち遠しいことがあるといいなーと思っていたんだけど、最後の方になって、ああ、この主人公もそう思って過ごしてる感じやなーと気付いた。結婚とか、子どもとか、大人になること当たり前にできると思ってたことがぜんぜん自動的には進まなくて、でも歳だけはとっていく。
歳を重ねることが怖くなる。
引け目を感じる現状に対して、自分の育ってきた環境とか、子どものときに親から受けた影響とか、分かってるけどいろいろと過去に原因を求めてしまう。
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この小説(『小説』という鋳型に嵌め込むのもどうかと思う、解説も言っていたように連作散文詩という方が妥当)は、あえてジャンル分けをするとすればそれは心境小説という事になるかと思う。
古いカテゴライズで、有名所で言うと志賀直哉の『城の崎にて』、芥川龍之介の『蜃気楼』等々が挙げられると思うが本作はこれらをすべて千切り捨てている。柴崎友香のセンスが段違いなのだ。
同様に同世代作家も確実に差をつけられていて、保坂和志なんぞが待ってくれと言った所で、一生追いつけない位置まで柴崎友香は来たのだな、と再認識させられる傑作、怪作。
この頃で言う、心に〈刺さる、差さる〉表現がこれでもかとてんこ盛りで、文庫本でせ -
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ネタバレ幻想小説は好きだが、怪談には手を出さずにきた(たとえば平山夢明の小説は好きだが、彼の実話怪談ものには手を出していない)。
そうして読んだ本作。
筆のすさびに怪談専門誌「冥 Mei」に書いたんだろうなと少し侮っていたが、いやいや、怖い怖いマジで。
ただしおそらく実話怪談的な怖さではない。
柴崎友香がずっと書き続けてきた、記憶の不思議さ、忘却と抑圧、目の前にいない人が気になるとはどういうことか、といった事柄が、すべていちいち怪談と親和性が高いのだろう。
というか認知の曖昧さと記憶の不確かさはそのまま怪談。
語り手の体験を細切れに書くが、その感覚した事柄ひとつひとつが、認知や記憶のフィルターを通すと -
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男やから、女やから、結婚してるから、結婚してへんから、子どもいてるから、子どもいてへんから、仕事してるから、仕事してへんから…
◯◯やから××なんやろ?って決めつけられたり、自分も無意識に決めつけてしまっていたり、そんなことから自由になれたらきっとすごい楽なんやろな。
昔と比べれば多様な生き方が認められていることは確かなのかもしれへんけど、でも物心つく前から刷り込まれているものは頑固に根深い。
決めつけられたり、自分で自分を決めつけながらも、自分が自分でいられる暮らしをひっそり守って生きている春子がとても愛おしかった。
そして、登場する人たちの関西弁がはんなりしてて気持ちよかった。 -
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『まだ夜にはなりきっていなくて、空は薄紫色が残っていた。高速道路やビルがひしめいて見通しがいいわけではないが、地上に出てすぐ川の上を走る』
柴崎友香の描く主人公はいつも、積極的に決断をすることがない。もちろん何も決めなかったとしたら日常生活は儘ならない。そういう意味ではなく、人生の中で何か転機になるような時や分岐点に差し掛かった時に、この作家の主人公は簡単に選択肢を選ばないということ。それがきっとこの作家の信条のようなものなのだと、デビュー以来読み継いで来た中で改めて認識する。その信条とは、世の中を日常的に観察し得る以上に脚色しない、ということかと想像する。それは「きようのできごと」からずっ -
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柴崎友香さんを初めて知ったのは2015年の7月@国際ブックフェアのトークイベント。その時の対談相手、西加奈子さんとの間で交わされた(力不足で要約できないけど)その日の、降りそうで降らないお天気にちなんだ作家ならではの観察眼の話は今も覚えている。
本書はその翌年(大統領選の年のアメリカで)著者がインターナショナル・ライターズ・プログラムに参加した時のお話。
外国で、(本人いわく)参加者の中で一番英語が苦手だと言う著者が、様々な国から来た作家達と三ヶ月に渡り生活を共にすることでそれぞれの文化を学んだり、心を寄せたり。アメリカ、オハイオ州の広大さシカゴカブスの優勝の瞬間も追体験させてもらえてお得でし -
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『幽霊が現れたり消えたりするように、わたしにもほかの人間が見えたり見えなかったりする。人々だけでなく、世界の全体が遠のいて、虚空に投げ出されたような心地になる』
夢十夜の第一夜を彷彿とさせるような味わい。柴崎友香が踏み出した新しい境地を伺う思いがする。如何にも主人公の男性であるような男優の写真が少しうるさいような気にもなるけれど、写真が伝えるものは文章が描き出そうとするものを邪魔する訳ではない。一瞬でもなく永遠でもない。そんなふうに写真のフレームに封じ込められたものは、短篇小説の言葉の世界と良く共鳴している。
デビュー以来、作家自身と同じような世代の等身大の主人公を描くことの多かった作家が -
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『それを知っているというだけで、なにかが通じたように感じる。共通の背景を確認できれば、わかることがふえる。それはコミュニケーションの重要な要素だと思うと同時に、それはコミュニケーションなのだろうか、とも思っていた』―『It would be great』
この疑問の在り方は、とても柴崎友香らしいと思うと当時に、この作家の少し引いた立ち位置から静かに主張する様に(あるいはそれを謙虚さと呼ぶのが適切なのかも知れないが「よう知らんけど日記」から受ける印象からはそれも少し違うと思う)安心感を覚える。
海外に行くと妙に自分たちの国や文化のことが見えたような気になる。時にそれが災いして、だから○○はだ -
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私小説に当たると思うこの小説集を読んで良かった。IWPに参加した世界じゅうから集まった小説家や詩人たちと、英語が不十分な主人公こと柴崎友香氏がそれでも世界を日本を違ったかたちでとらえる心の動き方は、ワタシをドキドキさせた。文体が好きだ。直接心に響く様に思う。あと、新しい場所で自分以外のみんなが仲良くなって一人に何となくなってしまうところ、めちゃくちゃ共感してしまった。居酒屋に、いったら何となく端っこに座ってしまってはみ出てしまうとかそんな感じ。自分から掴みに行かないといけない、人間関係にめっちゃ疲れててあー柴崎さんも同じように感じているかもしれないなーとか勝手に思ってちょっと嬉しくなったりとか