柴崎友香のレビュー一覧
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あなたは彼と二人でドライブを計画しています。しかし、そんな車に男性の友人二人が強引に同乗することになりました。そして、スタートしたそのドライブの中に友人の一人は後席に座ってこんなことを言い出しました。
『高速降りようや。もう飽きたわ、おれ。下走ったらええやん』
大阪から東京までの長距離ドライブで、運転もしないくせに勝手なことを言う友人は、さらにこんなことも言い出します。
『鰻食いたい…鰻でも食べて気分転換したい』
さて、あなたの心中や如何に?
なんだか、なさそうでありそうなシチュエーションです。友人と一緒にワイワイ!ガヤガヤ!としたお出かけ、気心知った仲間ならではのひと時 -
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『私は幽霊を見たことがあります』。
(*˙ᵕ˙*)え?
この世には不思議な事ごとがたくさんあります。そして、人は理屈で説明できないことに恐怖もします。しかし、科学技術の進歩によって、かつて不思議とされてきた事ごとも、その多くが科学的に納得できる説明がなされるようになってきました。このペースが続くと、やがてこの世のあらゆることは科学の力で説明できる、この世から不思議という言葉は無くなってしまう、そんな未来もやがて訪れるのかもしれません。
ただ、それはまだまだ遠い未来のことだとも思います。少なくとも私たちが生きているこの世界は、不思議な事ごとに満ち溢れています。例えば、『お湯が沸いた -
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ネタバレ時間や距離が隔たった場所の戦争によく思いを馳せる女性がいる。
なぜこの今が、ああではなくてこうなのか。あのとき少し駆け足をして電話に間に合っていたら、違う物語が展開していたのか。はたまたなぜ自分は他人ではなくて自分の中から世界を見ているのか。そんなこともよく考えている。
この砂羽という女性は人とのコミュニケーションは苦手なようで、生き辛さを抱えているように見える。この辺は非常によく分かる。
せっかくなので、引用してみる。
”複数の人間が関わって、二重三重に暗黙の了解みたいなもので囲われた状況が苦手だ。それは三十六歳にもなって人の気持ちを考えられない、もしくは人づきあいのルールがわからない未熟な -
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柴崎友香「青空感傷ツアー」
河出の文庫版。
素晴らしいクライマックス。なにより海なのがいい。クライマックスの海、言えば浅学の私は脊髄反射で保坂和志!「プレーンソング」!と言うだろう、ラストが海なのはいい。「陽の名残り」の海もいい。
これは全体を通して言える事だが、地の文でその景色の奥にある土地の営みを予感しながらも、次の行で始まるそれらと一切関係のない会話。これが良い。
そこで交わされた会話は後に感傷を生むのかもしれないと言うと大げさだけれど、その感傷の目の前には営みをたたえた風景もあるよね、と自然に思った。そりゃ素晴らしいやんけ。
ツアーとは移動で、感傷とは後ろへ消えていった景色に覚える -
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そろそろ三十メートル上方に浮かぶ会社に戻らないといけないと思いながら〔34:ハイポジション〕
「東京とパリとバンクーバーってなんか違うと思う?」「なんかって」「わからないけど。今までこんなすごいことなんで誰も教えてくれなかったの、って思うような決定的な違い」「なにそれ」
〔56:クラップ・ユア・ハンズ!〕
たぶん今のわたしよりも小さかった小学生のころの幸太郎の後ろ姿が、うちの近所の建て売りが並ぶあたりをうろうろしているのが思い浮かんだ。でも、それと、幸太郎が思い出しているのとは、全然違う景色だと思う。〔86:夢見がち〕
「焼肉屋ってどのへんにあるの?」
鶴橋の駅を出て右。〔95〕
だ -
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ネタバレ主人公の砂羽は色々考えすぎて、人の目を気にしすぎて、まわりにうまく溶け込めない。あと、色々心配性すぎる。いざという場面でコミュニケーションを失敗する。脳内会議の感じ、私も同じようになってることよくあって、共感した。
砂羽は、戦時中の作家の日記を読んで同じ場所にいったり、戦争のドキュメンタリーを見たり、戦争を体験した祖父に思いをはせたりしながら、今の自分に起きてることは(どんな出来事も)場所とか時間とかいろんな無数の条件の組み合わせでできているんだ、という普遍的事実を再確認してるようにみえた。
そこまで達観してるから無感動なのかな…?(いいのか悪いのかわからないけど)と思った。
砂羽は、理 -
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L字型のアパートに住んでいる主人公(30代男)とそのアパートの住人2人の女性と3人の話と、そのアパートから見える水色の家。水色の家は昔アーティストが住んでいて、それが"春の庭"という写真集にもなっている。それを高校時代に読んだ1人がその家の人と仲良くなり、家の中を見せてもらい、どうしても風呂場を見たいがために…ある事件になってしまう。
主人公はベランダから見えるその家のステンドグラスが気になり、そして庭を掘り返している写真が気になる。
自分の家に父親の骨を砕いて埋めたことがあるから。
最後に主人公の姉が出てくるんだけれど、ここで姉=私 になる
なぜ⁇ -
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『失恋したら、この本持って旅に出よう』
この紹介文で、私はこれを手にした。まあでも、旅って言ったって、失恋した相手くらいしか一緒に行く人がいないんだけど。……って、どんだけ寂しい人間なんだ自分は。別に寂しいと思ったことはないけれど。なんて思いつつ、ページを捲る。
果たしてこの本に、大きな意味があるのだろうか。恐らく、何か重要すぎるメッセージなんてどこにもない。ゆるゆると、時に激しく時間が過ぎていくような本だ。それが良いなと感じた。
これが本当の失恋旅行なのかはわからない。そもそも、失恋しているらしいのは語り手ではなく、その友人……美しすぎる、ネオという名前の少女だけだ。だが、この世に「本 -
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時間を辿って砂羽の行動と心の動きを追う、それは自身の思い出に浸ったり、見聞きしたドキュメンタリのなかのことでもあったりする。
近代文学(大正末や昭和の初め)の私小説が戻ってきたのか、と読み始めは思う。語り手平尾砂羽の日常生活が事細かに描写してあり、特に戦争や紛争のドキュメンタリーのビデオを見るのが好きという語りは、なんだかくらい特殊な趣味のようで、鬱屈している昔の文士のようかと、つまり暗らーくて欝々がメインのようなのだ。
たしかに現代のある女性の孤独な生きづらさがよくわかるようにうまく描かれている。時々クスリとさせられるユーモアをまじえた、数少ない関わりの人(有子やその父親富士男さんや中井 -